事実を整える

Nathan(ねーさん) ほぼオープンソースをベースに法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

女性皇族と婚姻する者と子の身分を皇室会議で決定する案の問題点

論理的整合性も歴史的正当性も無い。

女性皇族と婚姻する者と子の身分を皇室会議で決定する案

女性皇族の夫と子の身分、皇室会議で決定する案 正副議長調整 毎日新聞
2025/4/26 01:00(最終更新 4/26 11:50)

安定的な皇位継承に向けた皇族数確保を巡る協議に関し、女性皇族と婚姻する者と子の身分を皇室会議で決定する案が立憲民主党の野田佳彦代表から持ち出されたという報道がありました。共同通信も報じていますが、毎日新聞の方が先で文量も多いです。

他の報道機関は報じていませんので、本稿ではこの事の事実関係には留保を付けますが、この案の妥当性について論じていきます。

皇室会議とは?全10名で皇族方は2名のみ。他、三権からの者が規定

皇室典範28条において皇室会議の議員が定められています。

議員は全10名で、そのうち皇族方は2名のみです。

他は内閣総理大臣・衆参の議長と副議長、最高裁の裁判長とその他の判事、そして宮内庁長官が議員です。

男性皇族が構成員だった旧典範上の【皇族会議】とはその構成する議員の身分が大きく異なり、役割にも違いがあります。

「皇室外の誰に皇族の身分を付与するのか?」ということにつき旧11宮家という限定無く、時の皇室会議の構成員がその都度決めるということになり、選挙の結果に左右されかねない。

皇室会議の議事は、一定の場合には出席議員の三分の二以上の多数で決することとされ、その他の場合には過半数でこれを決するとされています。

三分の二ではなく過半数だとしたら、内閣総理大臣と衆参の議長副議長、宮内庁長官といった、「政治側」の人間の意思の力によって誰を皇族とするのかについて決まってしまう可能性が生まれることになります。

※宮内庁長官は選挙では選ばれないが、宮内庁次長から任命されるのが通例。次長の就任には政治の影響があると思われる経歴の者が指摘されることがある。

それに、現行皇室典範での皇室会議の役割は皇室内の皇族に関する意思決定に介入するものですが、その矩を超えている。

戦前の皇族会議ならともかく、皇族の身分付与について、相手方に旧皇族という枠もなく、制度に基づく自動決定でもなく、時の選挙の趨勢が影響する者が半数居る会議体が決めるというのは、安定性が全く無いと言わざるを得ません。

法律での枠づけをすれば憲法14条の平等の問題は生じない解釈と背理

さらに言えば、旧皇族という枠づけが無いのならば、従来の政府の論理とも矛盾する。

旧皇族の養子縁組に際する皇籍復帰に関して、旧皇族等の一定の範囲の者に限っては憲法14条の平等に反することは無いとする解釈が内閣法制局から示されていましたが、この論理は女性皇族と婚姻する男性に関しても適用可能でしょう。

となれば、皇室会議という「臣下」も含む会議体で個々の人間の意思決定によって皇族の身分を付与するか否かをその都度判断するというのは、背理でしょう。

そうした背理状況を発生させるものに、皇族を巻き込むべきではない。

なお、養子縁組だろうが婚姻だろうが、旧皇族に限って皇族の身分を付与するというのは歴史的な先例と整合性があり、現行憲法上で皇族だった家系に関するものなので、それを制度で決めること自体は「臣下による意思決定」ではありません。

そもそも、具体的な養子や婚姻の相手方となるかどうかは、皇族方と旧皇族の内のどなたかの自由意思の合致の問題ですから、「臣下が決めた」ことにはなりません。意思の働きの話で言えば、「皇族となる養子や婚姻の相手方を旧皇族に限定する」という制度は皇族方の意思の限定であり、旧皇族の意思には介入していません。

婚姻の場合、皇族とならない相手方を選ぶ途も残されているため、女性皇族の側の婚姻意思への介入はないことになります。

「皇族になるべきではない」とされた配偶者が被る扱いと評判の問題

「皇族になるべきか否か」を皇室会議にゆだねた場合、皇族となるべきではないとされた配偶者が生じる可能性が生まれます。もし、そうなった場合、女性皇族や当該配偶者は世間からどう見られてしまうでしょうか?

こうした観点からも、無用な喧噪を発生させる方策でしかないと言えるでしょう。

旧皇族が婚姻すればその者に皇族身分を付与する案の方が正統性がある

旧皇族という限定を付すならば、同時期の別の報道において旧皇族との婚姻であればその者に対して皇族の身分を付与するという案が出たとされていますが、そちらの方がまだ正統性がある余地があります。

女性皇族確保へ修正案 旧11宮家配偶者に身分 2025年4月24日 06時00分(共同通信)
※これもNHKでは報じられず、同時期のNHK報道では「会談の内容は明らかになってい」ないとある

歴史的にも、在位の天皇の系譜と血縁が遠い者が皇位継承をする際には、その系譜の皇女との婚姻が行われてきたということがありますから。
(第26代継体天皇は仁賢天皇の皇女である手白香皇女と、第119代光格天皇は後桃園天皇の皇女である欣子内親王と婚姻している。なお、光格天皇(祐宮)は後桃園天皇の養子となっている)

婚姻のみでの皇籍復帰ということを認めるということなのか、それとも婚姻と養子と込みでの皇籍復帰なのか?*1については分かりませんが、詳細が不明なのでそこには踏み込みません。

この論は(それがあったかは留保しますが本項ではそれを前提として)、最大野党である立憲民主党が、「女性皇族と配偶者との間に身分の違いがあるのは問題だ!」と言ってるので、『これなら問題ないでしょ?』という提案の形になっています。

今般の皇位継承施策の話は、旧典範下とは異なり皇室典範が憲法下の法律であることや、皇族方に皇室に関するイニシアティブとプレゼンスが少ない現行法体系のせいで、政治的なプロセスが必要になってしまってる話です。

なので、こうした「綱引き」が出てくるのは想定されていました。

政治的な解決の手法に数の力は影響する。
論理を理解しない者には政治的に対応するほかないですからね。

ちなみにこれに関して「婚姻相手の強制だ!」というのは的外れ。

先述の通り、婚姻相手は自由意思で決められる。
その相手方の身分をどうするか?についての話なので。

『事実上の』を問題視するのは無理。何故なら既に皇族である事から事実上、相手方の候補は絞られているので。それを今更問題視するのは意味不明。事実上の婚姻相手の制限なら、一般人でもよくある話。

さて、女系天皇積極推奨論者は、「女性皇族との婚姻をした男性が皇籍を取得すること」に、何ら疑義を呈さないはずです。旧皇族の男性との婚姻だからといって反対する合理的理由は、彼らにはありません。

その観点からは、共産党系の者らがどう反応するのか?についても、見ものだと言っておきます。

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*1:国民感情や政党の考え方としても、婚姻が許されるなら、当該婚姻をした者を他の皇族の養子とすることも反対する意義が乏しいと言える。それに、養子縁組が禁止されている理由とされた「宗系紊乱のおそれ」も、この場合には生じないため、皇籍復帰のための養子とは別個に皇族の養子を可能にする案はあり得ることになる。