事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

【平成30年版】高齢者の交通事故は若者より多いのか?:年齢別統計データ

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高齢者の運転ミスによる痛ましい事故が起こる度に話題になる高齢者の交通事故率。

果たして他の年代よりも多いのでしょうか?

警察庁の交通事故統計表から平成30年度の最新データを抽出していきます。

警察庁の交通事故統計表について

警察庁 統計表のページに交通事故の統計がまとまっています。

この中で、年齢別の事故の傾向を知るには「年報」欄のデータを見ると良いです。

その中でも「事故を引き起こした運転者」に焦点を当てているのが【交通死亡事故の特徴について】と【交通死亡事故の発生状況及び道路交通法違反取締り状況等について】です。

それ以外のデータは「被害者」の視点から論じているものもありますので、今回のように運転者の年齢別によって事故の確率はどう違うのかを調べるには少し手間がかかるものになっています。

また、【交通死亡事故の特徴について】は年度毎にテーマが決まっているのか、年度によって詳細に論じている内容が変化しています。

 

年齢層別の免許保有者の交通事故件数

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平成30年中の交通事故の発生状況

年齢層別、免許保有者10万人当たりの交通事故件数の推移グラフです。

上から16~19歳、20~29歳、80歳以上が事故件数が多いです。

それ以外の年代毎の差異はほとんど無いのが分かります。

このグラフを見ると、「高齢者よりも若者の方が事故を起こしやすい」という結論になるでしょう。少なくとも高齢者の方が事故を起こしやすいという傾向は、このデータからは読み取れません。

ここで疑問に思う人が居るんじゃないでしょうか?

おかしいな?高齢者の事故の方が多く報道されているような気がするぞ?

おそらくこれには理由があると思います。

高齢者が運転する交通死亡事故の特徴

高齢者の運転による交通事故と死亡者

平成29年における交通死亡事故 の特徴等について:https://www.npa.go.jp/toukei/koutuu48/H29siboubunnseki.pdf

現在「交通事故 高齢者」などで検索するとこの図があるページと上記のグラフがあるページがヒットすると思います。

このデータは「死亡事故」に絞ったデータであることに注意です。

これを見ると、免許人口10万人当たりの死亡事故件数は80歳以上と16~19歳の年代が突出して多いのが分かります。

5年ごとに年代を区切ったグラフであり、免許人口について10万人当たりの数値を出していますから、各年代ごとの人口比は無関係に理解できます。

上記グラフは平成29年度のものですが【平成30年中の交通死亡事故の発生状況及び道路交通法違反取締り状況等について】においても折れ線グラフとテーブルデータがあります。

さて、交通事故が起きても大々的に報道されるのは大抵が痛ましい事故」です。

ですから、死亡事故を多く起こす高齢者が運転者である事故が比較的多く報道されているのではないか?という仮説が立てられます。

もちろん、報道各社毎に交通事故の加害者の年齢層毎に報じられた件数を調べる、なんていう面倒なことはできないので確定的なことは言えませんが、可能性としては在り得ると言えるでしょう。

さて、もう一つ思い浮かぶ可能性として「高齢社会だし、高齢者は人口構成比が多いから事故も多いのでは?」というものがありそうですが、そちらはどうでしょうか?

高齢者の交通事故「件数」は若者より多いのか?

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平成30年中の交通事故の発生状況

こちらは「件数」について示したグラフです。

20代から70代までは10年分の年代ですがそれ以外の年代は単純比較できません。

とはいえ、やはり年代別に事故件数が多いのは20代、30代、40代の順になっているので、「高齢者が人口構成比で多いから…」というのは誤りと言えるでしょう。

人口構成については総務省統計局のこちらを参照

さて、高齢者の事故は増えてるのでしょうか?

また、なぜ高齢者は事故を起こすのでしょうか?

高齢者のドライバーが事故を起こす理由・原因

高齢者による事故について集中的に分析を加えている平成29年における交通死亡事故の特徴等についてから抜粋します(平成30年のものは分析が充実していない)。

  1. 75歳以上、80歳以上の高齢運転者ともに、免許人口当たり死亡事故件数は減少傾向にある
  2. 一方、75歳以上、80歳以上の高齢運転者は、75歳未満の運転者と比べて約 2.1倍、約 2.9倍高い水準にあり、高齢運転者ほど死亡事故を起こしやすい傾向が続いている
  3. 高齢運転者による死亡事故件数と全体に占める割合は増加の傾向
  4. 75歳以上の高齢運転者は、操作不適による事故が最も多い
  5. そのうち、ブレーキとアクセルによる踏み間違い事故は、75歳未満が全体の0.8%に過ぎないのに対し、75歳以上の高齢運転者は6.2%

ブレーキとアクセルの踏み間違いが高齢運転者では全体の8倍程度あるということから、死亡事故が多いというのは頷ける結果でしょう。

まとめ:老人と十代、二十代の比較データは複数ある

  1. 交通事故一般については、10代、20代の方が他の年代に比べて事故率が高い
  2. 死亡事故率については、10代と80歳以上の高齢者が突出して高く、75~79歳、20~24歳が続く
  3. 高齢者の免許人口当たり死亡事故は減少傾向にあるが、死亡事故の件数と全体に占める割合は増加傾向
  4. ブレーキとアクセルの踏み間違いによる事故が高齢者は多い

老人の交通事故については「若者よりも多い・若者より少ない」という主張がなされることがありますが、それは見ているデータの対象が違うために認識にずれがある可能性があります。

ネット上では死亡事故と事故一般の両方を比べて検討しているところは少ないと思われますから、ここで認識を合わせてほしいと思います。

以上