事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

共産党の日本人民共和国憲法草案 9条2項が無かった「自衛権放棄は民族独立を危くする」

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国際平和・国際協調を叫びながら集団的自衛権を否定する愚

共産党の日本人民共和国憲法草案 9条2項が無かった

日本共産党の志位和夫委員長がロシアによるウクライナ侵攻後、頻繁に憲法9条を讃える()ツイートを連発していますが、かつて共産党が帝国議会で提案した【日本人民共和国憲法】の草案には、現行憲法の9条2項に相当する文言がありませんでした。

日本共産黨の日本人民共和國憲法(草案)(テキスト) | 日本国憲法の誕生

第五条 日本人民共和国はすべての平和愛好諸国と緊密に協力し、民主主義的国際平和機構に参加し、どんな侵略戦争をも支持せず、またこれに参加しない。

日本国憲法9条2項のような戦力不保持条項がありません。

日本国憲法

第二章 戦争の放棄

第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
② 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

共産党の野坂參三議員「憲法の自衛権放棄は民族独立を危くする」

第90回帝国議会 衆議院 本会議 第35号 昭和21年8月24日

○野坂參三君 私は日本共産黨を代表しまして、今上程されました委員長報告修正案及び之と切離すことの出來ない全憲法草案に付て、私達の所見を述べ、此の修正案及び原案全體に對して反對の意見を述べたいと思ふのであります

ー中略ー

更に當草案は戰爭一般の抛棄を規定して居ります、之に對して共産黨は他國との戰爭の抛棄のみを規定することを要求しました、更に他國間の戰爭に絶對に參加しないことを明記することも要求しましたが、是等の要求は否定されました、此の問題は我が國と民族の將來に取つて極めて重要な問題であります、殊に現在の如き國際的不安定の状態の下に於て特に重要である、芦田委員長及び其の他の委員は、日本が國際平和の爲に積極的に寄與することを要望されましたが、勿論是は宜いことであります、併し現在の日本に取つて是は一個の空文に過ぎない、政治的に經濟的に殆ど無力に近い日本が、國際平和の爲に何が一體出來やうか、此のやうな日本を世界の何處の國が相手にするであらうか、我々は此のやうな平和主義の空文を弄する代りに、今日の日本に取つて相應しい、又實質的な態度を執るべきであると考へるのであります、それはどう云ふことかと言へば、如何なる國際紛爭にも日本は絶對に參加しないと云ふ立場を堅持することである、之に付ては自由黨の北君も本會議の劈頭に於て申されました、中立を絶對に守ると云ふこと、即ち我が政府は一國に偏して他國を拜すると云ふが如き態度を執らず、總ての善隣國と平等に親善關係を結ぶと云ふことであります、若し政府が誤つて一方の國に偏するならば、是は即ち日本を國際紛爭の中に巻込むこととなり、結局は日本の獨立を失ふこととなるに違ひないのであります、我々は我が民族の獨立を飽くまで維持しなければならない、日本共産黨は一切を犧牲にして、我が民族の獨立と繁榮の爲に奮鬪する決意を持つて居るのであります、要するに當憲法第二章は、我が國の自衞權を抛棄して民族の獨立を危くする危險がある、それ故に我が黨は民族獨立の爲に此の憲法に反對しなければならない、是が我々の反對する第四の理由であります

なんと、昭和21年当時の共産党の野坂參三議員は、現行憲法草案の憲法9条の条項に対して「自衛権放棄は民族独立を危くする」と帝国議会で主張して反対していました。

志位委員長を含むこれまでの共産党の議員や党公式の見解として、何度も自衛隊の存在そのものが違憲であるという主張が繰り出されてきたことを思うと不思議です。

参考:憲法改正推進本部 遊説・組織委員会|STUDY 2 自衛隊の違憲論を巡る憲法改正

しかし、同時に「戦争一般の放棄に反対」し、「他国との戦争を行うこと・他国間の戦争に介入することに反対」することも表明していました。

志位委員長が「正義と秩序を基調とする国際平和」を樹立しようという決意が込められていると『註解日本国憲法』を引用してまで主張していることは、これに反するでしょう。

なぜなら、プーチンロシアのような独裁国家が他国を侵攻した場合、被侵攻国を援助できなければ国際平和が保たれないからです。侵攻した国に「やめろ」と言うだけでは実効性がありません。

態度が言ってることと矛盾している。

日本国憲法9条1項の平和主義と2項の戦力不保持と国際法

現行憲法9条の解釈の概要はたとえば以下。

憲法9条解釈のポイント(政府解釈を前提として)

防衛省・自衛隊:憲法と自衛権

「戦力不保持」は、【自衛のための最小限度を超える実力を保持しない】という解釈運用が為されています。

「交戦権」とは国際法上(「交戦権」という用語は存在していないが)交戦国に認められている相手国の領土の占領などの種々の権能を含むという解釈がなされています。相手国が武力攻撃をしてきた際に「戦を交える」という国語的な意味での行為が禁止されているのではありません。

「侵略戦争はアウト」は国際法上の標準なので、憲法9条1項は当然のことを定めただけです。

しかし、憲法9条2項は、その文言上、一見すると軍隊の保有を認めておらず(自衛隊は国際法上は紛れもない軍隊)、自衛隊違憲論などの解釈問題が生じたため、それによって国民生活に著しい障害を生じさせ、一人一人の国民の人生を破壊してきました。

京都大学が自衛官の大学院入学拒否の方針をとった経緯と結果について

北海道大学における自衛官入学拒否について

そして「集団的自衛権」も、国際慣習法を明文化した国連憲章51条で認められているにもかかわらず、第二次安倍政権以前の政府解釈では「保有しているが行使できない」というものでした。

また、現在の日本政府の解釈も、国際法上認められている集団的自衛権をフルスペックで行使できるものではありません。

国際平和・国際協調を維持するためにも被侵略国への支援や集団的自衛権は必要

国是破りウクライナに兵器供与 スウェーデン:時事ドットコム

核保有国による脅迫、エスカレーションリスクをどうコントロールするべきか。

そのための手段として核保有や核シェアリングなどが議論されようとしている中、集団的自衛権は許さないとする共産党界隈の主張は、表面上の平和主義なだけで、実際には非人道的な結果を招くことに加担しているだけです。

プーチンは集団的自衛権の行使として侵攻したかのような表現をしていましたが、そもそもロシアに集団的自衛権が国際法上認められる状況ではないので「集団的自衛権を認めるとプーチンのように侵略が起こる」という論は、この現実を茶化すふざけた発言で、不誠実だと言えます。

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