事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

町山智浩、愛知県公報ページの情報を不正ツイートでプライバシー侵害か?

町山智浩氏が愛知県公報ページのリコール請求代表者の個人情報含む画像をツイートしましたが、これがなぜ問題視されているのかを解説します。

町山智浩、愛知県公報ページの情報をツイート

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町山智浩氏が、愛知県公報ページの情報をツイートしていました。

ここに張り付けた画像では個人名と住所部分は載せていませんが、ツイートからは確認可能な状況でした。※現在は削除されているようです。
※町山氏は「リコールに参加した人たち」と書いていますが、情報が掲載されているのは高須院長以下37名の「請求代表者」であり、その委任を受ける「受任者」や署名する有権者の情報は掲載されていません。

公報ページなのになぜダメなのか?」という点について次項以降で説明します。

愛知県公報「このページ以外のURLリンクは禁止」

愛知県の公報魚拓

※愛知県公報のウェブページについては、このページ(http://www5.pref.aichi.jp/kofu/以外のページにリンクを設定しないでください。

愛知県公報のHPでは、上記のURL以外のページのリンクは明示的に禁止されています。

要するに「転載禁止」と言っているわけです。

町山氏がやっているのは愛知県公報のHPのうち、【第132別冊1号 令和2年08月25日 選挙管理委員会告示 愛知県知事解職請求代表者証明書の交付】の文書の画像の表示なのですが、当該ページのリンクを貼っているのと同じですし、それ以上に画像に個人の住所が掲載されています。

実は、公的機関がインターネット上で公開した情報であっても、それを再度拡散することが違法になり得るのです。

判決文記載の登記簿上の住所のブログ公開がプライバシー侵害の不法行為になった裁判例

【東京地裁 平成22(ワ)47931号 平成23年8月29日判決】

事案の概要 原告X1は全日本海員組合の組合長であり、被告が原告と被告との訴訟の判決文をインターネット上のブログに掲載した際に原告の住所が公開された(3ヶ月後に削除)。原告はこのことをプライバシー侵害として訴えた。被告は、原告の住所は登記簿や電話帳にも記載されていることからプライバシーの利益として保護されないと主張した。しかし、裁判所は以下判断してプライバシー侵害の不法行為を認め被告に6万円余の支払いを命じた。

登記簿や電話帳への自宅住所の記載は、いずれも一定の目的の下に限定された媒体ないし方法で公開されるもので、同目的に照らし限定的に利用され、同目的と関係ない目的のために利用される危険は少ないものと考えられ、公開する者もそのように期待して公開に係る自宅住所情報の伝搬を上記範囲に制限しているというべきであるから、原告X1が自宅住所情報につきプライバシーの利益として保護されることまで放棄していると評価することはできない

インターネット上でも閲覧できる(できた)登記簿に掲載されている代表者の住所であり、判決文に記載されているものであったとしても、この事案では公開する利益が公開されない利益を上回ることはないとして、プライバシー侵害として不法行為となったということです。

そして、登記簿上の代表者住所についてもネット閲覧が禁止されました。

登記簿上の会社代表者住所もネット閲覧が禁止に

法務省:法制審議会会社法制(企業統治等関係)部会第19回会議(平成31年1月16日)開催

また、以下の内容の附帯決議がされた。

省略

2 省略

 (2) 電気通信回線による登記情報の提供に関する法律に基づく登記情報の提供においては,株式会社の代表者の住所に関する情報を提供しないものとする。

登記簿上の会社代表者住所は、かつてはインターネット閲覧が可能でしたが(自由閲覧ではないが)、過去に法人の代表者の個人住所がみだりに利用される事案が発生したため、ネット上での閲覧のみ規制をかけることが決定されました(紙媒体では見れます。)

実際上も法人の住所だけがあれば良い場合がほとんどであるため、必要な人にとって何ら不都合はないと思います。

町山氏はプライバシー侵害になるのか

インターネット上に掲載された情報を再拡散した事例として、破産者マップやその後継サイトがあります。

このときは破産者情報というものが、債権者に迅速簡便に通知するためという公益目的によって公開されているものであるところ、破産者マップはそのような公益目的が無く時宜に適った利用方法ではないことなどから個人情報保護法違反の可能性もあり、プライバシー侵害に当たると考えられたため、行政指導が行われました。

町山氏の場合は有り得るのはプライバシー侵害の可能性ですが、請求代表者の情報についてツイートをずっと放置していたならともかく、リコール運動期間中に公職者の解職という公的な運動の代表者氏名をツイートに掲示することが直ちに違法になるかというと、よくわかりません。判決文記載の住所は既にその「役割を終えた」情報であるところ、今回のものは役割を終えたものではないと考えられるからです。

いずれにしても掲載期間は1日にも満たず現在は削除しているため、違法となるかというと厳しいのではないかと思われます。

「リコール運動の妨害」は有り得るのか

リコール運動の妨害になるかというと、これも厳しいのではないかと思います。

何か危害を加えるような言動が無い限り、請求代表者の氏名は公表されているのですからリコール運動の期間中であればそれを確認することの意義は失われないはずです。

ただ、愛知県公報が明示的に転載を禁止していることとの関係でどうなるかはよくわかりません。愛知県がワザワザ町山氏を相手取って訴訟をすることは考えにくいですが。

以上