事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

ミヤネ屋本村弁護士「統一教会は布教自体が違法と最高裁で確定・解散命令出せないのは文化庁宗務課の勝手な解釈」

ミヤネ屋本村弁護士

虚偽発言

※追記:この発言で提訴されたので動画と発言の書き起こし。

ミヤネ屋本村弁護士「統一教会は布教自体が違法だと最高裁で確定」

9月2日のミヤネ屋で本村健太郎弁護士が「統一教会は布教自体が違法だと最高裁で確定」「解散命令請求をしないのは行政・政治の怠慢、要件は刑事事件に限られない」などと発言していました。

これは大問題なので検証します。

青春を返せ裁判札幌訴訟の平成13年判決等での行為が違法

本村弁護士は別の場面で「2001年の札幌地裁の判決」と話していました。

つまり、根拠となるのは以下の裁判例です。

統一教会 霊感商法の実態 全国霊感商法対策弁護士連絡会

札幌地方裁判所平成13年6月29日判決(判例タイムズ1121号202頁)
札幌高等裁判所平成15年3月14日判決
最高裁判所平成15年10月10日決定

これは「青春を返せ裁判」と呼ばれる類型の裁判の札幌で提訴された訴訟です(「青春を返せ裁判」は、他にも名古屋訴訟などがある)。

ここで認定されているのは、「当該事件における信者らの勧誘行為が違法」ということであり、統一教会の教義に基づくあらゆる勧誘行為が一般的に違法となった、ということでは決してありません。

他の統一教会に関する裁判例でも勧誘方法について認定されていますが、これらの事案とは異なる方法・態様によって行われているものはいくらでもあります。同じ「青春を返せ裁判」の名古屋訴訟(平成10年3月26日判決)でも、宗教法人の伝道活動と連絡協議会、販社などの伝道活動に差があるという証人の認識を前提としています。

本村弁護士は、番組内で再三「布教そのものが違法」と、方法の限定なしに発言していましたから、不注意を超えて虚偽の事実を述べていたことになります。

統一教会は使用者責任により不法行為責任を負った:組織的違法性の内実

また、この訴訟で統一教会は【使用者責任】により不法行為責任を負っています。

宗教法人本体の本人としての行為が違法とされたのではなく、信者らが行った行為の監督責任を負った、ということです。

そのことをもって「組織的違法性」と書かれることがあるのですが、表現として間違いではないものの、受ける印象は裁判所が認定した事実関係とはまったく異なるものになりがちです。

もちろん証拠が足りずに司法が認定できなかっただけなのかもしれませんが、司法判断を前提に論ずるならば、裁判所が認定したものについて論ずるべきです。

むしろ、宗教法人本体の本人としての責任が認められたケースが他にあります。

東京地方裁判所平成28年1月13日判決(平成24年(ワ)32969号)とその控訴審の東京高等裁判所平成28年6月28日判決(平成28年(ネ)1042号)、東京地方裁判所平成29年2月6日(平成24年(ワ)19029号)で旧統一教会=家庭連合に使用者責任を認めたがその控訴審である東京高等裁判所平成29年12月26日判決(平成29年(ネ)870号)において法人本人としての不法行為責任を認めたものがそれです。
※「統一教会」名称時の地裁判決でも一件だけ本人としての責任が認定されたケースがあるが高裁で使用者責任に格下げされている

前者は婚姻期間中、妻に夫の意思に反して夫の相続財産や給与・退職金などを献金させこれを受領したことの損害賠償請求訴訟。

後者は統一協会であることを伝える前に献金・物品購入・受講等による金員支出させた行為や伝えた後の金員支出を伴わない一定の行為が精神的苦痛を与えたとして不法行為認定されました。

「信教の自由の範囲外」とされたのは勧誘行為について勧誘時に宗教性を秘匿していたから

本村弁護士はさらに他の場面で「統一教会の布教活動は信教の自由の範囲外と裁判所が認定している」と発言していますが、これも特定の事件における勧誘行為の態様について判断したに過ぎません。

これまでに多くの裁判例で統一教会=家庭連合の信者が勧誘行為について勧誘時に宗教性を秘匿していることが認定されていますが、本村弁護士が取り上げた2001年=平成13年の札幌地裁判決の控訴審である札幌高裁例でも以下認定しています。

8 同502頁18行目末尾の次に行を改めて次のとおり加える。
 「控訴人は、いわゆる因縁トークの点を含め、連絡協議会所属の信者らに欺罔行為は存在せず、また、当該宗教において正当と認められている以外のことを説くこと(教義とは直接関係がないことや、教義上根拠がないこと述べること)を虚偽であり違法であるとするのは、裁判による異端審問であって憲法の政教分離原則等に違反する旨主張する。
 しかし、宗教への勧誘に当たって、前述したように宗教の教義とは本来関係がない手法を駆使して、その教義上からも根拠があるとは考えられないような害悪を告知することが、信教の自由によって保護されるとすべき根拠はなく、そのことを裁判所が違法であると判断することが、異端審問であるとか、政教分離の原則に反するとはいえない(政教分離の原則は信教の自由に仕えるものであって、その逆ではない。)ことは明らかである。加えて、控訴人の協会員がその勧誘に当たって用いた姓名判断や家系図鑑定等及びいわゆる因縁トークは、先に見たとおり、組織的体系的目的的な勧誘の方法の一環として、被勧誘者の心理的弱みを突き不安を煽るなどして畏怖困惑させ、宗教的救いを希求させるための手段として用いられているものであって、その真実性の裏付けはないし、それが行われる目的が正当なものであるとは言い難いのであって、上記主張は採用できない。」

このような理由で「信教の自由の範囲外」としたのであって、決して統一教会=家庭連合の教義・布教が「信教の自由の範囲外」としたのではないです。

SNSを見ると、本村弁護士の発言のせいで勘違いをしている者が散見されます。

刑事事件でないと解散命令が出せないのは「文化庁宗務課の勝手な解釈」なのか

本村弁護士は「刑事事件でないと解散命令が出せない(から解散命令請求しない)というのは文化庁宗務課の勝手な解釈」と主張していましたが、果たしてそうなのでしょうか?

宗教法人法

(解散命令)
第八十一条 裁判所は、宗教法人について左の各号の一に該当する事由があると認めたときは、所轄庁、利害関係人若しくは検察官の請求により又は職権で、その解散を命ずることができる。
一 法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をしたこと。
二 第二条に規定する宗教団体の目的を著しく逸脱した行為をしたこと又は一年以上にわたつてその目的のための行為をしないこと。

~以下略~

確かに文言上、解散命令のための要件は刑事事件に限られません。

しかし、逐条解説宗教法人法 第4次改訂版/ぎょうせい/渡部蓊でも触れられていますが、「著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる」に関しては基本的に刑事事件での有罪判決が出ることを標準と理解しています。

実際、文化庁は以下の認識でした。

第142回国会 衆議院 法務委員会 第11号 平成10年4月28日

前川説明員 

 この統一協会につきましては、マスコミ等でさまざまな問題が指摘されているということは私どもも承知しております。私どもといたしましては、所轄庁の立場で、所轄しております法人ということで、統一協会から任意に事情聴取するということはこれまでもしてきております。また、統一協会をめぐる裁判がたくさん起こされておるということも承知しております。裁判の相手方となっている方々、特に被害弁連の方々からもお話を伺っておるということでございます。
 これまでの裁判例といたしまして、最高裁まで上がったものもございますので、このような裁判例につきましても詳細を検討しておるというところでございますが、私どもに法律上与えられております権限というのは、宗教法人としての法人格を与えるか与えないかということについての権限に限られております。
 具体的に申し上げますと、営利事業、収益事業を行ったような場合につきまして、これが宗教法人としての目的に反するような場合にその収益事業の停止を命ずることができる。また、認証後一年以内に限りましては取り消しができますけれども、統一協会につきましては一年を超えているということで、私どもにできますのは、裁判所に対しまして解散命令の請求をするという手段があるわけでございますけれども、これは法令に違反して著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をしたというようなケースに限られておるわけでございまして、これまでこのケースに当たったというのはオウム真理教一件でございます。
 私どもといたしましては、これまでの統一協会をめぐる訴訟等の動きを見ておりますけれども、この解散命令の請求に当たるようなところまで至っているという判断はしておらないわけでございまして、私どもとしては、今後とも関心を持って見守ってまいりたいと思っておりますけれども、法律上の権限を発動するというところまではまだ至っていないというところが現状でございます。
 以上でございます。

この前川説明員は、前川喜平です。

そして、現在までにオウム真理教以外に宗教法人法上の解散命令が為されたのは、霊視商法を行っていた明覚寺だけです(法の華は破産手続開始決定が理由)。

和歌山地方裁判所決定平成14年1月24日(平成11年(チ)4号)がそれです。

原因は名古屋地方裁判所平成7年(わ)1912号、2121号、同8年(わ)126号事件とその控訴審である名古屋高等裁判所判決平成14年4月8日(平成11年(う)295号)で認定された通り、詐欺罪にあたる行為が信者によって行われ、懲役刑の実刑判決が下っています。

それが解散命令請求に関する上掲訴訟では、犯罪行為が組織的に行われ、宗教法人本人が主体となって行ったものと判断されたために解散命令が裁判所によってなされました(最高裁まで争ったが棄却されて解散)。

明覚寺の事案は、系列の「満願寺」の僧侶によって為されたのですが、それでも宗教法人明覚寺本体が「主体」とまで認定されたということ。

そのような認定が為されている事案と、統一教会が使用者責任を問われたに過ぎない事案とでは、一線を画すべきでしょう。

統一教会に関して刑事事件は多数ありますが、ほぼすべてが罰金刑に留まり、唯一、懲役刑(執行猶予付き)が出たのが「新世事件」と呼ばれる事件の2009年の判決です。

東京地方裁判所判決平成21年11月10日では、有限会社新世に罰金800万円の刑事罰、代表取締役と営業部長に懲役刑と罰金刑が科されています。

解散命令は所轄庁の請求がなければできないのではなく、裁判所が職権で行うこともできますし、検察官や利害関係人も解散命令請求をすることができます。そのいずれもが解散命令請求乃至命令をしてこなかったということです。

弁護士らは解散命令請求をするよう申し入れをしていた上に、前掲東京地裁平成24年(ワ)19029号事件において国(所轄庁)が解散命令請求をしなかったことの違法も問うていましたが、退けられています。

裁判所も、検察官も、利害関係人も、文化庁宗務課に居た前川喜平も、同じ認識だったということです。本村弁護士が「文化庁宗務課の勝手な解釈」と言うなら、これらすべてが同様の評価を受けるということになります。

虚偽の認識に基づいていては有益な政策議論ができない

統一教会にかんする官僚・政権側の対応を非難する目的で為された一連の虚偽発言。

虚偽の認識に基づいていては有益な政策議論ができません。

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