事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

埼玉県の水着撮影会禁止の憲法問題と共産党の違法な申入れ:集会の自由・表現の自由・営業の自由

しらこばと水上公園

しらこばと水上公園公式Twitterより

憲法問題だ

埼玉県の水着撮影会禁止の事実関係

あくまで6月10日時点での報道と当事者から発せられる情報を総合すると、ルール=使用許可条件について以下の実態があるとみられます。

  • 埼玉県の認識:過激な露出の水着やポーズを禁止することを条件に許可していた
  • 指定管理者=埼玉県公園緑地協会は、
    ①過激な衣装やポーズを禁止するルールは今年1月に決まり
    ②未成年の水着撮影会出演については、それまでの利用規約に禁止する項目がなく、県民からのメールを受け今年の6月頭に急遽決まったもの、と取材に回答
  • が、実際には埼玉県内の各施設においてルールの基準や周知が一任されていた
  • そのため、埼玉県⇔指定管理者⇔各会場・施設⇔利用者・主催者の4者の間で、ルールに関する認識が一致していない場合があるとみられる
  • 今年度、複数開催されている撮影会の一部の主催者には上掲ルールの違反があった模様
  • しかし、株式会社エーテルが企画・運営する「フレッシュ撮影会」が6月3,4日に川越水上公園プールで開催されていたが、会場側からはルール違反は無いと言われている
  • エーテルの6月10日予定の撮影会について、8日に中止となることに承諾をしたが、10日現在、中止要請の撤回等を求める署名活動を開始
  • また、近代麻雀事務局・株式会社KARINTOWが企画、運営する「近代麻雀水着祭」に至っては6月24,25日に、しらこばと水上公園にて開催予定だったものが中止となったが、昨年の撮影会では上掲のルール自体が無かったので、指定管理者の提示したルールの違反は無いとみられる

なお、近代麻雀水着祭については、日本共産党埼玉県議会議員団が「都市公園法第1条」を根拠に(笑)都市公園の設置目的に反するなどとして「水着撮影会」への、しらこばと水上公園貸し出しは中止することなどを埼玉県に申入れが為されていました。

それにより、政治家からの不当な圧力であるとして政治問題にもなりそうな勢いです。

本件の事実関係については以下の記事や投稿を参照しました。

今後の展開によっては新たな事実関係が判明し、当事者らが認識していたルールとそれに対する実態の合致状況などの評価が変わり得る可能性はあります。

埼玉県行政による集会の自由・表現の自由・営業の自由の侵害

地方自治法

(公の施設)
第二百四十四条 普通地方公共団体は、住民の福祉を増進する目的をもつてその利用に供するための施設(これを公の施設という。)を設けるものとする。
2 普通地方公共団体(次条第三項に規定する指定管理者を含む。次項において同じ。)は、正当な理由がない限り、住民が公の施設を利用することを拒んではならない。
3 普通地方公共団体は、住民が公の施設を利用することについて、不当な差別的取扱いをしてはならない。

本件の中止要請は、少なくとも株式会社エーテルに関しては、実際上は違反が無いにもかかわらず不許可処分=利用許可処分の撤回と同等の効果を発生させており、それについて当事者が撤回を求めていることから、埼玉県行政・地方公共団体による集会の自由・表現の自由・営業の自由の侵害という、憲法問題を論じることが可能です。

近代麻雀水着祭も含めて、埼玉県が本来規定していたと主張するルールについて、指定管理者が利用者に提示していなかったということであれば、それは指定管理者の落ち度であり、県の監督責任が問われるのであって、利用者の負担に帰することは許されません。

また、その他のルール違反だとして中止に追い込まれた主催者においても、過激な衣装やポーズの禁止ルール・未成年の水着撮影会の禁止ルールに基づく利用拒否は地方自治法244条2項の「正当な理由」を構成するものではなく、同じく埼玉県による集会の自由・表現の自由・営業の自由の侵害を論じることもできそうです。

中止に承諾をしているならばその場合は訴訟にはならないですが、抽象的な憲法上の権利・自由に対する危険が発生しているということであり、県が今後の水着撮影会を行わない方針であることも相俟って、上掲ルールの妥当性を考えることは埼玉県民以外の国民の権利利益の観点からも重要な視点だろうと思われます。

株式会社エーテルは指定管理者と補償について話し合っているという情報が表に上がってきていますが、他の主催者団体においても同様の状況があり得ると思われます。

ルール違反の無い者や県が設定していたルールには反するが会場から提示されていたルールには反していない者への補償額について県の財政から支出されることとなれば、埼玉県民が県に対して指定管理者に補償額分の金額の返還(賠償?)請求をするよう求める住民訴訟の提起も考えられます。(ルール自体が違憲の場合は無理か)

また、共産党による埼玉県への申入れによって本件の水着撮影会中止判断に繋がったことについて因果関係が認められれば、この申入れについても不法行為となるかもしれません。

「法の遡及適用」の問題ではなく事前規制の問題

情報が錯綜していることから、「埼玉県が過去の撮影会分について法の遡及適用をしているのだ」という評価を加えて批判している者が居ますが、ルールの存在時期や利用者にルールの提示がなされていたかどうかという話を抜きにしても、そういうことにはなりません。

あくまで今後行われる予定だった、既に使用許可を得たイベントの事前規制の問題であり、過去に他の団体でルール違反があったとしても、それ以外の団体のイベントの開催時期が間近になってから中止すべき正当な理由にはならないだろう、といった方向の争点の把握の仕方になります。

集会の自由に関する最高裁判例:泉佐野市民会館事件

最高裁判所第三小法廷判決 平成7年3月7日 平成1(オ)762 民集第49巻3号687頁

埼玉県の水着撮影会一律禁止の事案は、複数の憲法上の権利が問題となる話ですが、ここでは憲法21条の集会の自由の侵害の先例として泉佐野市民会館事件の最高裁判決だけ紹介します。

そして、地方自治法二四四条にいう普通地方公共団体の公の施設として、本件会館のように集会の用に供する施設が設けられている場合、住民は、その施設の設置目的に反しない限りその利用を原則的に認められることになるので、管理者が正当な理由なくその利用を拒否するときは、憲法の保障する集会の自由の不当な制限につながるおそれが生ずることになる。したがって、本件条例七条一号及び三号を解釈適用するに当たっては、本件会館の使用を拒否することによって憲法の保障する集会の自由を実質的に否定することにならないかどうかを検討すべきである。
2 このような観点からすると、集会の用に供される公共施設の管理者は、当該公共施設の種類に応じ、また、その規模、構造、設備等を勘案し、公共施設としての使命を十分達成せしめるよう適正にその管理権を行使すべきであって、これらの点からみて利用を不相当とする事由が認められないにもかかわらずその利用を拒否し得るのは、利用の希望が競合する場合のほかは、施設をその集会のために利用させることによって、他の基本的人権が侵害され、公共の福祉が損なわれる危険がある場合に限られるものというべきであり、このような場合には、その危険を回避し、防止するために、その施設における集会の開催が必要かつ合理的な範囲で制限を受けることがあるといわなければならない。そして、右の制限が必要かつ合理的なものとして肯認されるかどうかは、基本的には、基本的人権としての集会の自由の重要性と、当該集会が開かれることによって侵害されることのある他の基本的人権の内容や侵害の発生の危険性の程度等を較量して決せられるべきものである。

地方自治法244条の公の施設の利用を拒否するには「利用の希望が競合する場合」のほかは「他の基本的人権が侵害され、公共の福祉が損なわれる危険がある場合に限られる」と判示しています。

以下は大阪府泉佐野市の条例にある「公の秩序をみだすおそれがある場合」に関して判示した内容ですが、今日の全国の条例において同様の表現があるため通用する判断基準となっています。

3 本件条例七条一号は、「公の秩序をみだすおそれがある場合」を本件会館の使用を許可してはならない事由として規定しているが、同号は、広義の表現を採っているとはいえ、右のような趣旨からして、本件会館における集会の自由を保障することの重要性よりも、本件会館で集会が開かれることによって、人の生命、身体又は財産が侵害され、公共の安全が損なわれる危険を回避し、防止することの必要性が優越する場合をいうものと限定して解すべきであり、その危険性の程度としては、前記各大法廷判決の趣旨によれば、単に危険な事態を生ずる蓋然性があるというだけでは足りず、明らかな差し迫った危険の発生が具体的に予見されることが必要であると解するのが相当である(最高裁昭和二六年(あ)第三一八八号同二九年一一月二四日大法廷判決・刑集八巻一一号一八六六頁参照)。そう解する限り、このような規制は、他の基本的人権に対する侵害を回避し、防止するために必要かつ合理的なものとして、憲法二一条に違反するものではなく、また、地方自治法二四四条に違反するものでもないというべきである。

埼玉県都市公園条例の「公共の福祉を阻害するおそれ」と「都市公園の設置の目的に反すると認められるとき」

参考:埼玉県都市公園条例 埼玉県都市公園に関する規則

埼玉県都市公園条例

第九条 都市公園において、次に掲げる行為をしようとする者は、知事の許可を受けなければならない。許可に係る事項を変更しようとするときも、同様とする。
一 物品の販売、興行その他の営業行為をすること。
二 募金、署名運動その他これらに類する行為をすること。
三 業として写真又は映画等を撮影すること。
四 競技会、集会、展示会、博覧会その他これらに類する催しをすること。
五 花火、キャンプファイヤー等火気を使用すること。
六 はり紙、はり札その他の広告物の表示をすること。
2 前項の許可は、当該許可に係る行為が次の各号のいずれかに該当する場合は、これをしてはならない。
一 都市公園の管理上支障があると認められるとき。
二 公共の福祉を阻害するおそれがあると認められるとき。
三 その他都市公園の設置の目的に反すると認められるとき。
知事は、第一項の許可をする場合において、必要があるときは、当該許可に係る行為について条件を付することができる。

(利用の許可)
第十条 別表第一の二に掲げる公園施設で県が設置したものを利用しようとする者は、知事の許可を受けなければならない。許可に係る事項を変更しようとするときも、同様とする。
2 前条第二項及び第三項の規定は、前項の許可について準用する。
3 知事は、第一項に規定する公園施設の供用日及び供用時間を定めることができる。

本件では川越水上公園やしらこばと水上公園の設置目的がどうなのか、主催者に利用許可されていた公園施設の範囲や、その施設の他の空間からの視認性等について具体的に検討されることになりそうです。

要するに埼玉県都市公園条例9条2項3号該当性判断若しくは同条3項の「必要」が問題になると思われ、「公共の福祉を阻害するおそれ」は、単なる水着撮影会程度では発生していないと通常は考えられます。

また、「業として写真…を撮影すること」は許可を得ることが可能だったのであり、単に営利事業であったというだけでは、何か特別に許可の条件が厳しくなるということはあり得ないでしょう。

さらに、仮に水着撮影会で「未成年」が「過激な衣装やポーズ」をして撮影されたとして、設置の目的に反するとまで言えるんでしょうか?

JKビジネスを規制対象にしている埼玉県青少年健全育成条例3条11号「有害役務営業」との関連

なお、埼玉県青少年健全育成条例3条11号に「有害役務営業」が規定されており、ここに「見学・撮影」がありますが…(撮影会反対側が持ち出してきそうなので一応触れておきます)

未成年者が有償で水着撮影会に参加していたとすれば類似状況になるとは言えます。

しかし、当然ですが、水着撮影会の撮影主体や観賞主体には男と限定するものが無いので「専ら客に異性の姿態を見せる役務を提供する営業」には該当しません。実際上はどうであれ、いわゆるJKビジネスを対象とするものであることから、水着撮影会は対象外。

逆に言えば、ここまで条例化して初めて規制できるものを、何らの明示も無く「未成年の水着撮影は禁止」「過激な衣装やポーズは禁止」とだけルールだけ場面場面で付しても、「正当な理由」になるんでしょうか?

プールというのは未成年者だろうが誰でも水着姿で居るのが通常なわけで、そこでの写真撮影自体は異常なものでない限り、何ら禁止されないのが通常のプールの利用。

これが『撮影会だから厳しくなる』というのは、被写体や構図が限定されるからなんでしょうか?その辺りが不明であり、通常の理解では「水着撮影会は全部禁止」という措置は認められないでしょう。

児童ポルノ禁止法の「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するもの」に至らない「未成年者の過激なポーズ」を禁止する正当な理由があるのかどうか、。

2018年からこれまで120回も開催してきた中、本件では市民や議員らからの申入れを受けてから早い時期に「(未成年者の)過激なポーズ」と認定した手続に問題はなかったのか、といったところも気になるところです。

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