5月15日の衆議院内閣委員会での後藤祐一議員の質疑(2回目)に関して「森法相が矛盾答弁」「検察庁法改正の立法事実は黒川人事以外にないと言った」などという言説が広まっています。
これは明確にフェイクニュースです。
典型的な手法なので、その手法ごと覚えましょう。
森法務大臣の矛盾答弁と呼ばれる質疑
実際のやりとりは以下です。
後藤 水曜日の議事録、一昨日の武田大臣の答弁です。昨年の10月の段階までの話として、検事長が63歳以降も居座れる規定を作らなくても公務の運営に著しい支障が生じるような事例は見当たらなかったと武田大臣は答弁しています。事例が見当たらなかったと言うことでございますと明確に答弁しています。森大臣、同じことを確認までに同じことを伺います。昨年10月までは、検事長が63歳以降も居座れる規定を作らなくても公務の運営に著しい支障が生じるような事例は見当たらなかったという武田大臣の答弁と同じでいいですか?
森 検察官に勤務延長の適用が無いことにより、公務の運営に著しい支障が生じた特段の事例は見当たりませんでした。
後藤 同じ水曜日の質疑で昨年10月以降、63歳以降も検事長が居座らなければいけないような立法事実がまさに体現化された具体的な人事ケースは、私の承知しているところについていえば黒川さんの件以外にありませんと武田大臣答弁しております。森大臣に伺いますが、63歳以降も検事長が居座らなければいけないような立法事実がまさに体現化された具体的な人事のケースは、黒川さんの人事の件以外にないということでよろしいですか?
森 はい、具体例はございませんでした。
後藤 黒川さんの件はそうだけど、黒川さんの件以外は無いということでよろしいですか?
森 その通りでございます。
後藤 ということは、検察庁法改正案の立法事実は黒川さんの件しかないということをまさに森大臣が認めたと言うことじゃないですか。
(関係ないじゃないかというヤジ・その後別の話に質疑は移っていく)
まず、「昨年10月まで」の話と「昨年10月以降」の話が分かれています。
その上で、後藤祐一議員が質問しているのは「具体的な事例」についてです。
森法相も、「具体的な事例」について答弁をしています。
にもかかわらず、後藤祐一議員は答弁を聞いた後に「立法事実は黒川さんの件しか無いと森大臣が認めた」と勝手に言い換えています。
これが国会で何度も行われてきた典型的な煽動・印象操作の手法です。
「立法事実」は具体的な事実に限らない
「立法事実」は現実社会において発生した具体的な事実とは限りません。
よって、「具体的な事実が無い」からといって、「立法事実」が無いとは言えません。
上掲の記事で詳細に論じたので、意味が分からない人には必ず読んで頂きたいです。
この違いを利用した誤魔化し・印象操作が国会質疑において、そしてそれを報じるマスメディアの側において常態化している、という事に気づくセンサーが身に付きます。
自衛隊関連法やいわゆる共謀罪法案の審議の際にも同じ誘導が行われていることを紹介しています。
これに騙されてしまうようでは、憲法改正の際にも報道によって認識を歪められてしまいます。
「検察庁法改正の立法事実は黒川人事以外にないと森法相が矛盾答弁」はフェイクニュース
私がこの事案を取り上げたのは森法相を擁護するためではありません。
私の検察庁法改正についての立場は以下で述べた通りです(タイトルで判断しないでね)。
森法相は「10日まで」と「10日以降」の違いも明確せず、不用意に「その通りです」などと脳死状態で答えているせいで印象操作に利用されてしまうのです。
こんなことでは他の法案審理の際にも印象操作され放題です。
以上