事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

韓国徴用工:日韓請求権協定の個人の請求権に関する河野太郎外務大臣の解説の解説

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衆議院議員河野太郎公式サイト:https://www.taro.org/

河野太郎外務大臣が、日韓請求権協定において「個人の請求権は消滅していない」ということの意味を詳細にかつ端的に説明しました。

ただ、この話は一般国民、特に韓国側から「要求」される可能性のある企業の従業員・役員・株主の方々の認識が重要であるため、より詳細に説明しようと思います。

説明の説明なのでくどいと思われますが、これくらい念入りにやらないと親北勢力や弁護士連中に誘導されてしまいますからね。

「徴用工」という用語法も一種の誘導になってしまいます。

正しくは「朝鮮人戦時労働者」(当時日本国民であったことも考えると「朝鮮半島出身戦時労働者」が良い)です。

韓国「徴用工」判決についての河野太郎外務大臣の解説

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衆議院議員河野太郎公式サイト 日韓請求権・経済協力協定 2018.11.21

衆議院議員河野太郎公式サイト 日韓請求権・経済協力協定 2018.11.21では、上図のように説明されていますが、各用語の概念が同じものを同じ色で表しました。

まず、赤色の「日韓間の財産・請求権」というのが「全て」だと思って下さい。

その中で橙色「財産権」「個人の財産」「権利及び利益」と表記されている「実体的権利」があります。

そして、もう一つ緑色の「個人の請求権」=「クレームを提起する地位」があります。

河野大臣の説明では言及は無いですが、実は国家の「外交保護権も「日韓間の財産・請求権」に含まれており、これは相互放棄されています。

 

日韓請求権協定「個人の請求権は消滅していない」の意味

日韓請求権協定の個人の請求権と実体的権利

日韓請求権協定でそれぞれの権利がどのように扱われたかの図式が上図です。

財産権措置法とは河野大臣の説明にもあるように【財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定第二条の実施に伴う大韓民国等の財産権に対する措置に関する法律】のことです。

では、「財産的価値が認められる実体的権利」とそうではない「請求権」とはどういう意味内容なのでしょうか?

日韓請求権協定における「請求権」「実体的権利」の意味

これは重要なことですが、ここでの説明は日韓請求権協定における請求権」「実体的権利」の用語法の話であるということです。

一般的な法律用語の使用場面で「請求権」「実体的権利」と言う場合とは異なる意味で使われています。過去の政府答弁を確認しましょう。

126 衆議院 予算委員会 26号 平成05年05月26日

○宇都宮委員 次に、この協定第二条第一項の「財産、権利及び利益」と「請求権」との関係についてお聞きしたいと思うんです。
 それはどうしてかといいますと、この当時の合意議事録によりますと、ここで言う「「財産、権利及び利益」とは、法律上の根拠に基づき財産的価値を認められるすべての種類の実体的権利をいうことが了解された。」というふうに書かれております。そしてまた、今までの外務委員会とか予算委員会での議事録を見ますと、「財産、権利及び利益」というのは法律上の根拠のある請求権である、そして「請求権」というのは法律上の根拠のない請求権であるというふうな説明がなされております。このような両方の説明からしますと、ほとんどの権利は「財産、権利及び利益」の中に入って、いわゆる何というか全く根拠のない、言いがかりをつけるようなものだけが「請求権」の中に入るというふうな感じにちょっと感じられるのです。
 そこで、もう少しわかりやすく、「財産、権利及び利益」の中にはどういう権利が入って、「請求権」の中にはどういう権利が入るのか、具体例を挙げて、かつ簡単に御説明いただきたいと思うのですけれども。

○丹波政府委員 いわゆる財産、権利、利益と請求権との区別でございますけれども、「財産、権利及び利益」という言葉につきましては、日韓請求権協定の合意議事録の中で、ここで言いますところの「財産、権利及び利益」というのは、合意議事録の2の(a)ございますけれども、「法律上の根拠に基づき財産的価値を認められるすべての種類の実体的権利」を意味するということになっておりまして、他方、先生御自身今おっしゃいましたとおり、この協定に言いますところの「請求権」といいますのは、このような「財産、権利及び利益」に該当しないような、法律的根拠の有無自体が問題になっているというクレームを提起する地位を意味するということになろうかと思います。

省略

例えばAとBとの間に争いがあって、AがBに殴られた、したがってAがBに対して賠償しろと言っている、そういう間は、それはAのBに対する請求権であろうと思うのです。しかし、いよいよ裁判所に行って、裁判所の判決として、やはりBはAに対して債務を持っておるという確定判決が出たときに、その請求権は初めて実体的な権利になる、こういう関係でございます。

河野外務大臣の説明にあった「法律的根拠の有無自体が問題になっているというクレームを提起する地位」というのはここからきています。

質疑をしている宇都宮真由美議員は弁護士ですので、それでも疑問に思っていたというのが分かります。

一般的な法律用語としての「請求権」

  • 所有権に基づく目的物返還請求権
  • 消費貸借契約に基づく貸金返還請求権
  • 不法行為に基づく損害賠償請求権

一般的にはこれらのような意味の請求権を導く私権(物権や債権)が「実体法上の権利」と言われます。

法律上の根拠があるものとして一応は扱われるものです。財産的価値もあると考えられる場面があります。

「実体法上の権利」は「実体的権利」という言い方をする場合もあるので紛らわしいのですが、日韓請求権協定における「実体的権利」とはまったく種類が異なるものです。場面が異なります。

一般的な法律用語としての実体法上の権利(実体的権利)は、裁判を起こす前でも、自らが権利者であると主張する根拠となる権利のことです。デフォルメして言えば、未だ世の中的には裁判を通した正式なものとは認められていない権利です。

そのような権利を裁判所に認めてもらおうとするのが「法律的根拠の有無自体が問題になっているというクレームを提起する地位」という意味です。

これは訴訟提起がなされない限り(物権のように物理的な存在が確認できるものや契約書が残っている債権でない限り)目に見えるものではない場合が多く含まれます。

日韓請求権協定の文脈においては、このような意味で「個人の請求権」という用語が使われているのです。

実体法上の権利の満足を得るためには裁判を起こさなくても相手方の任意履行を求める方法もあります。権利があるのですから、よほどのことが無い限りは履行を求める行為は恐喝にはなりません。

相手方が任意に履行しない場合に自力で強制すると犯罪になるので、裁判という訴訟手続きを踏みます。

この実体法上の権利が裁判で存在すると確定すれば、それは「債務名義」となって強制力を伴って執行可能な権利になります。

日韓請求権協定における「実体的権利」とは、(債務名義そのものではないですが)債務名義のように権利の存在が証明でき、執行可能な権利のことを指しているのです。

裁判所もそのような権利であることを判断しています。

名古屋地方裁判所 平成11年(ワ)第764号、平成12年(ワ)第5341号、平成16年(ワ)第282号  平成17年2月24日

上記認定の本件協定締結に至るまでの経緯等に照らして考えると,財産権措置法1項1号に規定されている,韓国又はその国民の我が国又はその国民に対する債権であって本件協定2条3項の財産,権利及び利益に該当するものとは,本件協定の署名の日である昭和40年6月22日当時,日韓両国において,事実関係を立証することが容易であり,その事実関係に基づく法律関係が明らかであると判断し得るものとされた債権をいうものと解するのが相当である。

これは一般的な法律用語から外れた用語法なので混乱が生じるのも無理はありません。

※なお、憲法上の概念の性質を表す用語法としても「請求権」が使われることがありますがここでは関係ないので触れません。 

個人の請求権は残り、訴訟提起は一応可能だが救済が受けられない

衆議院議員河野太郎公式サイト 日韓請求権・経済協力協定 2018.11.21

日韓請求権・経済協力協定により、一方の締約国の国民の請求権に基づく請求に応ずるべき他方の締約国及びその国民の法律上の義務が消滅し、その結果、救済は拒否されます。つまり、こうした請求権は権利としては消滅させられてはいないものの、救済されることはないものとなりました。

訴訟を提起できても、救済が拒否される。

このことが「訴権の消滅」や「裁判上の訴求権能の喪失」と呼ばれたりします。

ただ、一般的には「訴権」というと「裁判を受けるための権利」というニュアンスで使われています。「救済可能性がある」というのは当たり前なので、「訴権の消滅」と言った場合には訴訟提起そのものができなくなるという印象になってしまいますが、日韓請求権協定の文脈においては、「訴訟提起は一応可能だが救済が受けられない」という意味になります。

弁護士らは一般人に焦点を当てている

北朝鮮と韓国の肩を持つような弁護士らが強調しているのは「個人の請求権が残っているのだから、企業が任意に補償に応じることは禁止されていない」という点です。

この事自体はその通りで、日韓請求権協定や財産権特措法によっても「任意履行」まで禁止することはできません。

しかし、そのような任意履行がどれだけ日本人の名誉や日本国の地位を貶めることになるのか、分かっているのでしょうか?

彼らはICJ(国際司法裁判所)で裁判になれば必ず敗訴するということが分かっているからこそ、主張の力点を「任意履行」に持って行っています。だからこそ新日鉄の本社に韓国からわざわざ弁護団がやってくるなどというパフォーマンスをしているのです。

そうした韓国弁護士のパフォーマンスや日本の弁護士有志声明の名宛人は日本政府ではありません。

訴訟提起の可能性がある全ての企業の従業員・役員・株主です。

彼らに対して「人道的に…」「可哀想だから…」と思わせて任意履行させるために行動しているのです。

まとめ

  1. 日韓請求権協定の文脈における用語法は、一般的な法律用語の用語法とは異なる
  2. 日韓請求権協定や財産権特措法があっても「個人の請求権」は残っているが、一応提訴可能であっても救済されないものとして合意されている。
  3. 弁護士らは一般人の意識を変えることに焦点をあて、任意履行を目指している

企業人に限らず、一般の日本国民の認識がしっかりしていないと、該当企業の社員、役員、株主が変な気を起こして「補償してもいっか」となってしまいます。

そうさせないためにも、日本政府としては『提訴も辞さない構え』を見せなければならないと思います。

以上