事実を整える

Nathan(ねーさん) ほぼオープンソースをベースに法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

西村康稔大臣「金融機関から要請徹底の依頼」撤回事件の真実

西村康稔大臣「金融機関から要請徹底の依頼」撤回事件の真実

西村大臣「金融機関から要請徹底の依頼」撤回事件まとめ

  1. 7月8日:西村大臣が記者会見で「要請」の語を飲食店の酒類提供禁止に関し言及
  2. が、「金融機関への依頼に関するもの」でありそれが「法律に基づく要請」であるかのような印象を与えてしまった
  3. メディアはその誤解を拡散
  4. 7月9日:西村大臣が記者会見で明確化
  5. 9日午後:加藤官房長官記者会見で「金融機関への依頼」政策の撤回を表明

まとめるとこういうことになります。

「法律に基づかないor基づく要請」による融資停止の法的問題ではない

したがって

法律に基づかないor基づく要請による融資停止の法的問題

こういう風に捉えて論じた全ての論説は無駄に終わりました。

本件は、そういう事案ではないという事実認定問題でした。

この誤解の責任は第一義的には政府・西村大臣にあります。

しかし、二次的には取材によって明確化できず、報道で更に誤解を国民に拡散したメディアの問題でもあります。後者の点が無視されているのが現状です。

以上の実態が分かるように、以下、関連資料を整理していきます。

7月8日:西村大臣が記者会見で「要請」、圧力を否定せず

7月8日の西村大臣と尾身会長が会見をした際に、問題の説明が為されました。

金融機関から飲食店への要請遵守依頼の依頼など

西村大臣が金融機関に要請遵守依頼の依頼

https://corona.go.jp/minister/pdf/kishakaiken_shiryo_20210708.pdf魚拓

この日、西村大臣から発表された新たな政策で問題視されたのは上掲スライドのうち、飲食店対策のための依頼。前掲動画で言えば8分25秒あたりから。

  • 金融機関に対して、融資先の飲食店への特措法に基づく要請・命令の遵守等の働きかけを依頼。
  • 飲食店をメディアや広告で扱う際、飲食店の遵守状況に留意するよう依頼を検討。
  • 酒類販売事業者に対して、酒類の提供停止を伴う休業要請等に応じない飲食店との取引を停止するよう依頼。

さらに、この中で情報が錯綜し、最終的に撤回に至ったのが一番上の「金融機関から飲食店への要請・命令遵守等の働きかけの依頼」。

「金融機関から飲食店への要請・命令遵守等の働きかけの依頼」

金融機関から飲食店への「要請・命令遵守等の働きかけの依頼」です。

「要請」ではなく、「依頼の依頼」という位置づけ。

「要請」というのは、新型インフル特措法で新型コロナに準用されることになっている24条9項と45条2項がありますが、ここでは細かい話は省略。

前掲動画で言えば58分あたりからの質疑応答。

記者 それは金融機関が、その店に対する融資の引き揚げや貸付、そういった資金面での圧力をかけて欲しいという風にお考えなのでしょうか

西村 金融機関、様々、日常的にやり取りを行っていますので、法律に基づく要請あるいは命令でございますから、しっかり遵守していただけるよう金融機関からも働きかけを行なって頂きたい、という風に考えています

「資金面での圧力」を否定せず・「要請」 の語を使った誤解を招く説明

記者とのやりとりの中で、「資金面での圧力」を否定せず、「要請」 の語を使ったということが原因だというのがわかります。

後述のように、「法律に基づく要請あるいは命令」というのは、従来の飲食店への酒類提供の禁止についての話です。

これが、【政府が金融機関に対して飲食店の情報提供をし、金融機関から飲食店に対して要請等遵守の(法律に基づく)要請をすること+(法律に基づく)圧力をかけること】のような意味であるとしてメディアに報道されました。

さて、ちょっと考えて頂きたいのですが…

スライドを再掲しましたが、この中では「要請」「命令」「働きかけ」「依頼」といった語は分けて書かれているのが分かります。

先述の西村大臣の記者への応答も…

「法律に基づく要請あるいは命令でございますから」とあります。

流石に、今回の金融機関に対する依頼を「命令」と理解するのは飛躍があります。

メディアの国民の知る権利に奉仕する取材の自由の行使が不十分

報道機関の報道の自由は国民の知る権利に奉仕するものです。

取材の自由も、報道に先立って必要な取材行為を保障するものです。

政府側が不十分な・誤解を招く説明をした、ということを免罪符にしてはいけない。

もちろん、第一義的な誤解の責任は西村大臣の説明にあるのですが、この点をメディアが記者会見で質問するなどして明確にするべきであったと言えます。

それは十分可能だったはずです。
(もっとも、同一メディアによる再質問が制限されている場合にはその制度の問題でもあるが)

今回の事案は、他面においてはそういう要素があるということです。

それが如実に現れたのが、菅総理大臣の発言に関する誤解の拡散です。

メディアによる誤解の拡散と悪質な行為

ロイター通信がタイトル詐欺で読者の認識を誤導していた問題。

ハフポストがこれに乗っかって再拡散。

西村大臣発言にまつわる言説の傍流にはこういう動きがありました。

メディアがこういう態度なので、本来の西村発言も誤解されたまま広がりました。

7月9日:西村大臣が記者会見で法律に基づく要請ではないと明確化

https://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye4311181.html

西村大臣記者会見(令和3年7月9日)|政府インターネットテレビ

7月9日:西村大臣が記者会見で法律に基づく要請ではないと明確化しました。

貸付の停止を求める趣旨ではないという旨も明示。

関係部分は15分あたりの質問から。西村大臣の発言は18分あたり。

これは「撤回」ではなく「明確化」です。

関係省庁と認識は共有、としているので「大臣が暴走した」類のものではありません。

7月9日午後:加藤官房長官記者会見で「金融機関への依頼」の撤回

令和3年7月9日(金)午後 | 令和3年 | 官房長官記者会見 | ニュース | 首相官邸ホームページ

7月9日午後:加藤官房長官記者会見で個別の金融機関への働きかけ・お願いはしないように方針転換。

これは「撤回」。

事実上の悪影響が大きい等の指摘があり、得策ではないと判断したんでしょう。

加藤官房長官は加えて、大臣に対して「発言の趣旨を明確にして頂きたい」と申し入れしたことも説明してます。

つまり、そういう事案でしたという話。

「西村大臣が矛盾・支離滅裂な発言をしていた」は事実に反する

「西村大臣が矛盾・支離滅裂なことを言っていた」という言説は、事実に反する、ということになります。

SNSではそういう感じで扱われていたりしていますが、そういうことです。

さて、以下の政策については何ら撤回はされてません。

  • 飲食店をメディアや広告で扱う際、飲食店の遵守状況に留意するよう依頼を検討。
  • 酒類販売事業者に対して、酒類の提供停止を伴う休業要請等に応じない飲食店との取引を停止するよう依頼。

この点についても問題点を指摘する向きがあります。

他方で、協力金の先渡しなど、支援事務についても強化しているのですが、この点があまり報道ではフォーカスされていません(報じてはいる)。

https://corona.go.jp/minister/pdf/kishakaiken_shiryo_20210708.pdf魚拓

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