天皇の譲位・改元に伴う即位礼正殿の儀に際して恩赦が行われます。
恩赦制度と今後の見通しについて簡単にまとめてみました。
- 国立国会図書館:恩赦制度の概要
- 恩赦とは:存在理由と法務省の定義
- 恩赦法と大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除、復権の対象
- カルロス・ゴーンなどの事被告人・未決拘留者は対象になるか
- 天皇の崩御・譲位・即位・改元にともなう恩赦とは別個の「常時恩赦」
- 天皇「退位」等に伴う公務員等の懲戒免除等に関する法律
- まとめ:皇位継承に伴う恩赦は即位礼正殿の儀に際して
国立国会図書館:恩赦制度の概要
恩赦制度については、こちらのページが最も網羅的にまとまっています。
正直、これを見るだけですべてが終わる話なんですが、文量が多いので、上記を参考にしつつここでも恩赦制度等について簡単に紹介します。
恩赦とは:存在理由と法務省の定義
第七条 天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。
六 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を認証すること。
法務省によると、恩赦とは「行政権によって、①国の刑罰権を消滅させ、②裁判の内容を変更し、又は③裁判の効力を変更若しくは消滅させること」であると定義されています。
恩赦の存在理由について、昭和 22 年に内閣に設置された恩赦制度審議会が昭和 23 年に答申した最終意見書においては以下が挙げられています。
- 法の画一性に基づく具体的不妥当の矯正
- 事情の変更による裁判の事後的変更
- 他の方法をもってしては救い得ない誤判の救済
- 有罪の言渡しを受けた者の事後の行状等に基づく、刑事政策的な裁判の変更又は資格回復
4番目に関連して後述の「常時恩赦」の制度があります。
個人的には恩赦が行政権の作用であるという説明には納得できませんが、現行憲法のもと、行政権に関する控除説が通説である現状においてはそう考えざるを得ないのでしょう。
恩赦法と大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除、復権の対象
「恩赦」には、「大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除、復権」があります。
第一条 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権については、この法律の定めるところによる。
第二条 大赦は、政令で罪の種類を定めてこれを行う。
第三条 大赦は、前条の政令に特別の定のある場合を除いては、大赦のあつた罪について、左の効力を有する。
一 有罪の言渡を受けた者については、その言渡は、効力を失う。
二 まだ有罪の言渡を受けない者については、公訴権は、消滅する。
第四条 特赦は、有罪の言渡を受けた特定の者に対してこれを行う。
第六条 減刑は、刑の言渡を受けた者に対して政令で罪若しくは刑の種類を定めてこれを行い、又は刑の言渡を受けた特定の者に対してこれを行う。
第八条 刑の執行の免除は、刑の言渡しを受けた特定の者に対してこれを行う。省略
第九条 復権は、有罪の言渡を受けたため法令の定めるところにより資格を喪失し、又は停止された者に対して政令で要件を定めてこれを行い、又は特定の者に対してこれを行う。省略
第十条 復権は、資格を回復する。
○2 復権は、特定の資格についてこれを行うことができる。
恩赦は基本的には「刑の言渡を受けた者に対して」「有罪の言渡を受けた特定の者に対して」行われ、大赦のみが有罪の言渡しを受けない者についても対象であるのが分かります。
大赦、減刑、復権については「政令で」対象が決められますから、これから政府が閣議決定することになります。
カルロス・ゴーンなどの事被告人・未決拘留者は対象になるか
よく話題に上がるカルロスゴーン氏について。
彼は未だ刑事被告人の身分であり、刑の言渡しを受けていないので、新天皇即位・改元に際する恩赦の対象になり得るとすれば大赦ですが、対象外でしょう。
なぜなら、大赦が行われる場合は非常に限定されており、その対象もかなり限られた者にしか適用されないからです。
「昭和天皇御大喪恩赦」による大赦令(平成元年政令第 27 号)の対象になったのは大きく次の種類の罪に分けられます。
- 第 2 次世界大戦中又はその終了直後に制定されたいわゆる経済統制関係法令に違反する罪
- 外国人登録法(昭和27 年法律第 125 号)に違反する罪の一部
- 拘留又は科料のみを法定刑とする罪
カルロスゴーンが(有罪になったとして)対象にならないというのが分かるでしょう。
その他、最近の恩赦は「今上天皇御即位恩赦」(※平成2年に行われた)や、「皇太子殿下(徳仁親王)御結婚恩赦」などがありましたが、いずれも「大赦」は行われていません。歴史上を見ても、大赦は憲法発布や主権回復時など、国家にとって重要な転換点にしか行われていません。
なお、5月の皇位継承に際しては恩赦は行われず、秋の「即位礼正殿の儀」に際して行う方針のようです。
天皇即位、秋に恩赦へ 26年ぶり、退位時は実施せず(朝日新聞デジタル)
天皇の崩御・譲位・即位・改元にともなう恩赦とは別個の「常時恩赦」
恩赦法
第十二条 特赦、特定の者に対する減刑、刑の執行の免除及び特定の者に対する復権は、中央更生保護審査会の申出があつた者に対してこれを行うものとする。
第一条 恩赦法(昭和二十二年法律第二十号)第十二条の規定による中央更生保護審査会の申出は、刑事施設(少年法(昭和二十三年法律第百六十八号)第五十六条第三項の規定により少年院において刑を執行する場合における当該少年院を含む。以下第一条の二、第六条、第八条及び第十一条第三項において同じ。)若しくは保護観察所の長又は検察官の上申があった者に対してこれを行うものとする。
第一条の二 次に掲げる者は、職権で、中央更生保護審査会に特赦、特定の者に対する減刑又は刑の執行の免除の上申をすることができる。
一 刑事施設に収容され、又は労役場若しくは監置場に留置されている者については、その刑事施設の長
二 保護観察に付されている者については、その保護観察をつかさどる保護観察所の長
三 その他の者については、有罪の言渡しをした裁判所に対応する検察庁の検察官
更生保護法 六章 恩赦の申出
(恩赦の申出)
第八十九条 恩赦法(昭和二十二年法律第二十号)第十二条に規定する審査会の申出は、法務大臣に対してするものとする。
法務省の説明では、「個別恩赦の手続は,検察官,刑事施設及び保護観察所の長が職権又は本人からの出願に基づき,中央更生保護審査会に上申をし,審査会が審査の結果,恩赦を実施すべきであると認める場合には,法務大臣に対しその旨の申出を行い,その申出がなされた者について,内閣が閣議により決定し,天皇が認証します。」とあります。
近年では形の執行の免除と復権が毎年20~40人に対して行われているようです。
天皇「退位」等に伴う公務員等の懲戒免除等に関する法律
恩赦とは別の制度として、公務員等の懲戒免除等があります。
第一条 この法律は、大赦又は復権(特定の者に対する復権を除く。以下同じ。)が行われる場合における公務員等に対する懲戒の免除及び公務員等の弁償責任に基く債務の減免について定めることを目的とする。
「大赦又は復権(特定の者に対する復権を除く。以下同じ。)が行われる場合」というのは、タイミングを指しており、大赦・復権の対象となった者という意味ではないことに注意です。ですから、刑の言渡しを受けた者でない者でも対象になります。
昭和天皇の大喪の礼に際しては、この免除等が行われました。
根拠政令は「昭和天皇の崩御に伴う国家公務員等の懲戒免除に関する政令」(平成元年政令第二九号)及び「昭和天皇の崩御に伴う予算執行職員等の弁償責任に基づく債務の免除に関する政令」です。
ただ、平成30年8月7日(火)午前-内閣官房長官記者会見では、公務員等の懲戒免除等を行うことは検討していないとしています。
まとめ:皇位継承に伴う恩赦は即位礼正殿の儀に際して
- 恩赦は5月ではなく秋の「即位礼正殿の儀」に際して行われる
- 常時恩赦は通年で行われている
- 国家公務員等に対する懲戒免除等は今回は行われない見通し
個人的には、司法判断を無効化する恩赦等は限定された対象にのみ適用されるべきであると考えます。ただ、恩赦制度をまったく無くすことは好ましくないと思います。
以上