事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

大阪府青少年条例「18歳未満とは真剣交際以外は処罰対象」は間違い

真剣交際以外は処罰対象という誤解

大阪府青少年保護育成条例の改正案が示されました。

これに関して「18歳未満とは真剣交際以外は処罰対象」という報道がなされました。

これは明確に間違いです。

大阪府青少年保護育成条例の改正案

「大阪府青少年健全育成条例の改正案」の概要

「大阪府青少年健全育成条例の改正案」の概要

大阪府/「大阪府青少年健全育成条例の改正(案)」に対する府民意見等の募集(令和元年12月)について ※終了しました

大阪府青少年保護育成条例の改正案には、改正の狙いとして以下書かれています。

「大阪府青少年健全育成条例の改正案」の概要

近年、スマートフォン等の普及により、青少年がSNS等で知り合った大人に軽い気持ちで会い、誘われる等して性行為又はわいせつな行為に至るケースが増えていますが、こうしたケースでは、行為者の威迫し、欺き、又は困惑させる行為がないまま青少年が被害に遭っている場合があります。こうした現状を踏まえ、青少年保護の観点から規制の対象範囲を見直すものです。

要するに、これまでの大阪府条例では「行為者の威迫し、欺き、又は困惑させる行為」がなければ捕捉できなかったケースを処罰できるように文言を「未成熟に乗じた不当な手段」「青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象としてのみ扱っている性行為・わいせつ行為」をも対象にするよう追加したということです。

改正の経緯と問題意識

青少年を取り巻く有害環境への対応について
~コミュニティサイト等に起因した青少年の性的搾取等への対応~
提 言

⑤府条例第 39 条第 2 号の規定に係る大阪地方検察庁の意見について被害に至る経緯や法令適用の実態等を把握するため、大阪地方検察庁の検事を特別部会に招へいし意見聴取した。

ⅰ 他の都道府県との不均衡
府条例第 39 条第 2 号は昭和 60 年最高裁判決に示された後半部分(青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような性交又は性交類似行為)を対象としていないため、他の都道府県に比べて検挙が少ない。
現在は、近隣府県間の人の移動は極めて容易であり、またインターネットの普及により、他の都道府県の知らない人と知り合うことが極めて容易であることから、他の都道府県では処罰の対象となる行為が大阪府では対象とならない状況は問題があると考えている。

「大阪府が私人の人間関係に踏み込んでる!」

などという印象を持っている人が居ますが、むしろ他の自治体では既に行っていたことを大阪府では不十分だったため追随したという形に過ぎません。

これは最高裁判例の判示が各都道府県の条例の文言に反映されているのです。

「18歳未満とは真剣交際以外は処罰対象」は間違い

大阪府が18歳未満との交際めぐり条例改正案「真剣」以外は違反に - ライブドアニュース

大阪府の条例、18歳未満の「真剣交際」以外は違反(刑罰)のもつ意味 「真剣」ということの胡散臭さ

最高裁判所大法廷 昭和60年10月23日判決 昭和57(あ)621 福岡県青少年保護育成条例違反事件

本条例一〇条一項の規定にいう「淫行」とは、広く青少年に対する性行為一般をいうものと解すべきではなく、青少年を誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為のほか、青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないような性交又は性交類似行為をいうものと解するのが相当である。けだし、右の「淫行」を広く青少年に対する性行為一般を指すものと解するときは、「淫らな」性行為を指す「淫行」の用語自体の意義に添わないばかりでなく、例えば婚約中の青少年又はこれに準ずる真摯な交際関係にある青少年との間で行われる性行為社会通念上およそ処罰の対象として考え難いものをも含むこととなつて、その解釈は広きに失することが明らかであり、また、前記「淫行」を目して単に反倫理的あるいは不純な性行為と解するのでは、犯罪の構成要件として不明確であるとの批判を免れないのであつて、前記の規定の文理から合理的に導き出され得る解釈の範囲内で、前叙のように限定して解するのを相当とする

「真剣交際か否かについて司法が踏み込もうとしてる!」

と言ってる人、もうとっくに「踏み込んで」ますよ。

ただ「真摯な交際関係」はあくまで典型例であり、判示中には「」という文言があることから、真剣交際以外であっても処罰対象外になる余地が残されていると言えます。

真剣交際以外に処罰対象として考え難いもの:二股など

たとえば真剣交際以外でも18歳と17歳の高校生同士の関係で、ある一人に対してはそれなりに上手くやっているが、4股5股をしているような場合など。

これが「真摯な交際」と認められることは無いですよね?

しかし、この場合の性行為も「青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないような」ものと直ちに認定するべきではないということも明らかでしょう。

大阪府が福岡県青少年保護育成条例事件の最高裁判例の判示を条例化して他の都道府県と足並みを揃えようとしていることからは「真剣交際以外は処罰対象」と言うのは実際上は異なります。

「真摯な交際」の定義など存在しないし「証明」不要

真摯な交際」の定義など存在しません。犯罪構成要件じゃないですし。

「真摯な交際」なら処罰しないと言っているだけで、「真摯な交際」であることを「証明」しないといけないわけではありません。刑事裁判における証明責任=挙証責任は検察官にあります。

ただ、被告人側は「真摯な交際」を「立証」すべく証拠を集めて有利になろうとするでしょう。

まとめ:「18歳未満とは真剣交際以外は処罰対象」は誤解

  1. 大阪府は他の都道府県よりも「緩い」条例だったのでそれに合わせただけ
  2. 条例の文言は最高裁判例の判示に合わせて作られている
  3. 「真剣交際以外は処罰対象」は厳密に言えば間違い
  4. 「真剣交際」の証明責任が被告人にあるわけではない

18歳未満とは真剣交際以外は処罰対象ということにしておけば青少年が守られる

こう思っている人が多いのか、これを正しく解説する人は居ないように思います。

それをやろうとすると「真剣な交際以外でもOK」ということを裏側から説明することになるので、特に公的な機関はそれはやらないんだろうと思います。

以上