事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。リンク切れに備えて魚拓を活用しています。

パチンコは賭博罪ではないが賭博であり遊技である、という議論

f:id:Nathannate:20200429135104j:plain

「パチンコは賭博なのか?」という議論の現在地を整理します。

ここではパチンコ屋の運営形態を分解して法的評価を加えるなどの細かい話は捨象します。

いわゆるパチンコは風営法の範囲内であれば賭博罪ではないという政府答弁

法務省刑事局長の政府参考人が解釈を示しています。

第196回国会 参議院 法務委員会 第17号 平成30年6月14日

○政府参考人(辻裕教君) パチンコにつきまして、個別の事案におきまして、犯罪の成否は個別の事案において収集された証拠に基づいて判断すべきものでありますし、パチンコと一口に申しましてもいろんな形態があるものと思いますので、必ずしも一概にお答えすることは難しい面もございますけれども、いわゆるパチンコ営業につきましては、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律の範囲内で適法に行われているというものにつきましては、刑法第百八十五条の賭博に該当する場合であっても、同条ただし書の一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときに該当し、賭博罪には当たらないというふうに理解しております。

政府は「いわゆるパチンコ営業」については「風営法の範囲内」なら「賭博に該当したとしても」「一時の娯楽に供する物を賭けた」にとどまるときに該当するので「賭博罪ではない」という立場です。

この解釈は政府の従来の認識通りであることは以下の答弁書などからも分かります。

答弁書第四五号 内閣参質一八七第四五号 平成二十六年十一月四日 浜田和幸君提出

答弁第一二三号 内閣衆質一九二第一二三号 平成二十八年十一月十八日 緒方林太郎君提出

答弁書第一三号 内閣参質一九六第一三号 平成三十年二月二十日 真山勇一君提出

金銭はその性質上「一時の娯楽に供する物」ではないという判例があります(大審院大正13・2・9)から、いかに少額であっても金銭を対象にした時点で「賭博」になります。

木曽崇氏の「パチンコはグレーでも違法でもない」という指摘について

パチンコは「グレー」ではないし「違法」でもない(木曽崇)

パチンコは法律的にいえば「賭博であり、同時に遊技である」んですよ。

省略

風営法上で定められた「パチンコ遊技」は賭博ではあるけれども、刑法の但書きの規定に則って罰されないサービスであるという事。すなわち、パチンコは賭博であり同時に遊技であるわけです。

国際カジノ研究所所長の木曽崇氏が「パチンコはグレーでも違法でもない」「パチンコは法律的にいえば「賭博であり、同時に遊技である」」という指摘をしていますが、これは現在営業されているような、風営法に適合した大多数のパチンコ屋を念頭に置いた発言であると考えるべきでしょう。

「風営法に適合した」という限定が無い言い方をする場合、実は政府答弁よりは少し踏み込んだ理解になっているのです。

前掲の政府答弁には続きがあるので見ていきましょう。

パチンコは本当に賭博なのか

○櫻井充君 そうすると、この行為そのものは賭博かもしれないと、一般的な国語の辞典に書いてあるような賭博に当たるかもしれないけれど、風営法上認められてきているので賭博罪の適用にはならないと、そういう整理でよろしいんでしょうか。

○政府参考人(辻裕教君) 申し上げましたように、パチンコというのはいろんな形態がございますけれども、賭博罪に該当するということがあるとしても、いわゆる風営法、ただいま申し上げました風営法等の範囲内で適法に行われているものはただし書の阻却事由に該当して賭博罪には当たらないと、こういうふうに解しているところでございます。

○櫻井充君 あの行為そのものは、繰り返しになりますが、この行為そのものは賭博なんでしょうか。

○政府参考人(辻裕教君) 繰り返して恐縮でございますが、パチンコと広くいうものにはいろんな形態があり得るということでありますので、刑法百八十五条の賭博という構成要件に該当し得るものはあるということではないかというふうに考えてございます。

賭博罪に該当するということがあるとしても」という部分は「賭博に該当するということがあるとしても」の言い間違えだというのは後の発言から分かります。

で、政府答弁を見ると分かりますが、パチンコと称されるものの中にも賭博に該当するものと賭博に該当しないものが含まれ得る、という慎重な言い回しをしているのが分かります。

そういう言い方をしている理由として「パチンコというのはいろんな形態」があることを取り上げていますが、実はそうした「事実面」の影響以外に、「法の解釈面」の影響があるのです。

刑法185条但書は構成要件限定なのか可罰的違法性阻却なのか

刑法(賭博)

第百八十五条  賭博をした者は、五十万円以下の罰金又は科料に処する。ただし、一時の娯楽に供する物を賭かけたにとどまるときは、この限りでない。

法解釈学の領域では、刑法185条但書の法的性質の解釈に争いがあります。

講義刑法学・各論 / 井田良 (507頁)では、同条項の法的性質について以下の見解があると指摘しています。

  1. 構成要件の範囲を制限したもの
  2. 違法ではあるが可罰的違法性阻却が否定される

井田教授自身は「学説の中には、可罰的違法性を阻却するものという見解もあるが(大塚・530頁、大谷・529頁)、そうすると、一時の娯楽に供する物を賭けたときでも、一般的違法性は具備するということになりかねない。185条ただし書にあたる場合の中には、①およそ行為が適法である場合と、②違法ではあるが可罰的違法性を否定されるにとどまる場合の2つがあるというべきであろう。両者の場合を含めて、構成要件該当性が否定されると理解することが最も簡明である。」と書いています。

つまり、185条但書に該当する場面には「賭博であるが違法ではない」という場合と「賭博ではなく違法ではない」場合、がある・或いは混在しているという見解が分かれているのです。

この点について規範性のある判例はありませんし、政府が公権解釈を示した例を私は知りません。

※「可罰的違法性阻却」は刑法学上一般の「違法性阻却事由」とは異なる概念であり裁判所がこの概念を認めているかは定かではない。学者の中でも可罰的違法性に欠ける場合には構成要件該当性が否定されるとする者や構成要件該当性はあるが可罰的違法性が欠けることで刑罰の対象にならないという見解を取る者もおり、ここで論じるには余りにも力不足なため割愛。

※勘違いしている所も多いが、風営法に適合したパチンコ屋であっても、決して法令又は正当な業務による行為だから違法性阻却される(刑法35条)という解釈が示されたことは無い。カジノの場合にはこの規定の話にするべきという議論は政府内にもあるが。

普通のいわゆるパチンコ屋は「賭博であり遊技」 で良い

再度政府の見解を書きますが、「いわゆるパチンコ営業」については「風営法の範囲内」なら「賭博に該当したとしても」「一時の娯楽の供する物を賭けた」にとどまるときに該当するので「賭博罪ではない」です。

法解釈の見解の相違を見た後にこれを見ると、このような言い回しをしていることの裏にある配慮というか苦慮というものが見え隠れしてきませんか?

要するに政府はパチンコが「賭博」であるかは明言してこなかったわけです。
※パチンコはギャンブル等依存症対策における「ギャンブル等」には該当するとしているが、「ギャンブル」であるとは明言されていない。

そして、185条但書が「賭博」という構成要件に該当しないという意味なのか、違法性阻却なのか、可罰的違法性阻却なのかについては更に不明だというわけです。

別の言い方をすると、政府は風営法に適合するパチンコ屋が「賭博であり遊技であり違法ではない」場合を認めていると言えます。

さて、重箱の隅をつつくようなことを書いてきましたが、 木曽崇氏が言及しているような普通のいわゆるパチンコ屋は「賭博であり遊技」 と言って良いでしょう。

実務者としては法的な性質を意識せず賭博と扱われたとしても風営法に適合した運営をすれば権力側からしょっぴかれることはないという了解のもとでパチンコ屋を運営或いはそれに関与してきたわけですから、それをいまさら否定してどうするのか?と思います。

パチンコをギャンブルと認めるべきという議論

ただ、大阪の松井市長や吉村知事などが「パチンコをギャンブル(賭博と同じ意味)と認めるべきだ」ということに対して「パチンコは既に賭博であり遊技である」と言うのは何だかもにょる、という所です。

しかしまぁ、「何らの規制もない」などはちょっと言い過ぎですね。

この辺りは実務者と法解釈学の側がお互いを傷つけないようにしてる場合もあれば、実務者らが強く主張した内容が法的真実になるかもしれない領域なので、木曽氏が業界を一部背負ってそのような発信をしていることについて否定するのも微妙というか建設的ではないというか。

そもそも「現在の政府の見解は間違いで、パチンコは違法にするべきだ」という現状からすれば過激な議論もあるわけですが、それは法解釈ではなく立法政策の議論なわけで、そういう声に対して法解釈の次元から切って捨てるのもどうなの?というのが私の立場です。

まとめ

  1. 政府はパチンコ一般が「賭博」であるかどうかは明言していない
  2. 政府は風営法に適合するパチンコ屋が賭博且つ遊技であり違法ではない場合があることを認めている
  3. 刑法185条但書の法的性質には見解に争いがある
  4. いわゆるパチンコ屋については「賭博であり遊技である」と言っても差し支えない
  5. 「パチンコをギャンブルと認めるべき」という議論があってもそこまでおかしくないが実態はギャンブルとして扱われているため、界隈の人によってはもにょるかもしれないですよ

「遊技だから賭博ではない」は完璧に間違いなのでやめましょう。

あと、この話で「遊戯」と書くなら意識的にしないとダメですよ。そうでなければタイプ・変換ミスと善意解釈してくれる人なら良いですが厳しい人は嫌な顔するかもしれないです。

以上