事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

秋篠宮殿下の立皇嗣の礼に反対するキャンペーンという偽装保守

 

現在、以下のようなキャンペーンが貼られています。
※キャンペーンが終了しても、残り臭がSNS上に残ると思われます。

内容は、「秋篠宮の立皇嗣に反対です。」というタイトルからして不敬なもの。

このキャンペーンはフェイクの塊なので、騙されないようにしましょう。

なお、ここで取り上げたところで広告収入は向こうは無いですし、キャンペーンが目標数に達したところで何か変わるわけでもありません。賛同者が目標数に達したら政府宮内庁に送るみたいですが、こんないい加減なものを元にしても政府機関は動きません。

皇嗣とは

皇嗣(こうし)とは、天皇の跡継ぎのことです。

皇位継承順位1位の者とも言い換えられます。

皇室典範

第一章 皇位継承
第一条 皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する。
第二条 皇位は、左の順序により、皇族に、これを伝える。
一 皇長子
二 皇長孫
三 その他の皇長子の子孫
四 皇次子及びその子孫
五 その他の皇子孫
六 皇兄弟及びその子孫
七 皇伯叔父及びその子孫
○2 前項各号の皇族がないときは、皇位は、それ以上で、最近親の系統の皇族に、これを伝える。
○3 前二項の場合においては、長系を先にし、同等内では、長を先にする。
第三条 皇嗣に、精神若しくは身体の不治の重患があり、又は重大な事故があるときは、皇室会議の議により、前条に定める順序に従つて、皇位継承の順序を変えることができる。
第四条 天皇が崩じたときは、皇嗣が、直ちに即位する。

省略

第八条 皇嗣たる皇子を皇太子という。皇太子のないときは、皇嗣たる皇孫を皇太孫という。

譲位が行われ皇太子徳仁親王殿下が天皇に即位されると、秋篠宮文仁親王殿下は「天皇の弟」なので、皇室典範2条1項6号に該当します。

ところで、敬宮愛子内親王殿下は「皇統に属する男系の男子」ではないので、皇位継承権はありません。皇室典範2条1項1号~5号は誰もいないことになります。

したがって、秋篠宮殿下が皇位継承順位1位となられます。つまり、皇嗣になられます。逆に、秋篠宮殿下は徳仁親王殿下の子ではないので、皇太子とはなりません。

以上より、秋篠宮殿下が皇嗣となられることは皇室典範の規定から自動的に決まっていることなのです。ネットを見ていると、この辺りの勘違いが多い気がします。

立太子の礼、立皇嗣の礼とは

立皇嗣の礼閣議決定

「立太子の礼」、「立皇嗣の礼」、いずれも皇室典範上には記述の無い言葉です。

しかし、立太子の礼は国事行為としてその都度行われてきました。明治には大正天皇が10歳のときに立太子の礼が行われましたが、今上陛下の際は昭和27年に18歳、皇太子徳仁殿下の際は平成3年に31歳で立太子の礼が執り行われました。

立太子の礼は、後継指名としての性質がありますが、近年では広く国民にお立場を認識してもらう儀式という意味合いがあると思われています。

立皇嗣の礼も、立太子の礼と同じ意味合いであり、儀式は徳仁親王殿下の立太子の礼を参考に執り行われることになります。

これは閣議決定もされているところです。報道も各社によってなされています。

さて、以上の理解を前提として冒頭のキャンペーンを見ると、フェイクの塊であるということが明確に分かります。

「秋篠宮の立皇嗣に反対です」というフェイクキャンペーン

「秋篠宮の立皇嗣に反対です。」というキャンペーンですが、いきなり事実誤認があります。

「皇嗣は法律上の地位ではない」というフェイク

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はい、皇室典範4条に「天皇が崩じたときは、皇嗣が、直ちに即位する。」とあるので、完全に間違いです。これは書いた本人も他人の指摘によって気づき、『「秋篠宮立皇嗣反対」の署名本文を変更しました。』という別ページを作っていますが、その部分以外の主張内容は前のもののコピペであり、まったく反省していません。

「国民に見えない形で行政文書1枚で皇嗣を法律上の身分にした」というフェイク

このキャンペーンは続いて、政府の文書を持ち出して「この文書で皇嗣の身分が法律上変更されるようになった」ということを述べていますが、上述の通り、皇嗣の身分は皇室典範で決まっているので、そんな理解は成り立ちません。

ここで彼らが狙っているのは「国民に見えないようにしている」という部分です。

「政府が法律に基づかず、国民に見えないところで秋篠宮殿下の身分を変更しようとしている」という趣旨の主張をしている部分があるのです。

しかしおかしな話です。皇嗣は法律上の地位ではないなどと勘違いする程度に皇室典範もろくに読み込んでいない輩は、この件について何ら興味も無かったはずです。なのに、なぜか政府と宮内庁が「隠蔽」しているかのように喧伝しています。

もしも「国民に見えないようにしている」のであれば、こうした文書も一切出さないはずなのですが、何を言っているのでしょうか?この部分以外にも、すべてを国会生中継しろといわんばかりの言説がありますが、能力が不足している者に検討させても無意味ですし、時間の無駄です。

このキャンペーンが、単なる情報のかく乱、政府に悪感情を持つように印象操作する目的であるということがこれで明らかです。

儀式の執り行いの手続については、天皇陛下の御退位及び皇太子殿下の御即位に伴う式典準備委員会において議論されています。

「立皇嗣の礼は法律の拡大解釈である」という嘘

「立皇嗣の礼は皇室典範に記載の無いものだから拡大解釈だ」という記述も間違いです。

先に示したように、立太子の礼も立皇嗣の礼も皇室典範に記載はありません。しかし、立太子の礼は伝統的に行われてきました。これの何が問題なのでしょうか?

皇室典範上、そのような行為を禁止する規定はありませんし、何より皇室典範に書いていない行為はやってはいけないという解釈はどう読んでもできません。皇室典範は必要最低限のことを記述したものです。そこに書いていない行為はできないという理解だとすれば、天皇皇后両陛下の巡幸はどう説明するつもりなのでしょうか?

キャンペーンの主張は皇室という御存在を軽視しているし、法解釈上も明確に誤りです。

結局、女性天皇、女系天皇を推進したいだけ

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譲位が行われた場合、秋篠宮親王殿下が皇位継承順位第一位になるのは憲法2条を受けた皇室典範の定めで自動的に決まっているということは既に示しました。

このキャンペーンは「立憲主義」を持ち出していますが、そうすると皇位継承権を持っていない愛子内親王殿下を皇位継承順位1位であると主張しているのは矛盾していることになります。

ツイッター上の工作

「立皇嗣の礼」でツイッター検索をかけると、工作アカウントによる誤解が撒き散らされています。一例を抜粋。

皇室典範をろくに読まない層に向けてこういう工作を行っているということがわかります。こういう、あまりにもバカバカしいのは立場のある者や党、マスメディアから発信するのは憚られるので、こうやって無名アカウントらを使って誤解をまき散らそうとしているのでしょう。

ネットは嘘ばかりですね。 

まとめ:皇室典範をちゃんと読もう

今回の件、皇室典範の規定を読めばフェイクであるとすぐに理解できるものです。

しかし、それすらやらない者は一定数おり、そうした層に対して狙った工作が仕掛けられているのだと思います。

特に、何らかの法の条文を根拠にしているかのような文章は、なんとなく説得力がありそうに思う人は多いので厄介です。また、間違いを指摘する者も少ないので余計に工作がしやすいという状況になっています。

そうした工作に認識を歪められないようにするには、法律の条文を自ら検索して確認するしかありません。中には重要部分を省いて引用する者もいますからね。

これを機会に、天皇陛下の御退位及び皇太子殿下の御即位に伴う式典準備委員会などで議論状況を見たり、天皇、皇室に関連する書物を読むのもいいのではないでしょうか。

以上