- 政教分離の問題ではまったくない
- 組織内ルールに抵触、公私混同かどうかの話
- 陸自幹部官用車での靖国参拝をスクープとする共産党
- 官用車の利用や計画作成:通達で禁止された部隊での参拝?
- 追記:「宗教的活動について」昭和49年の事務次官通達
- 憲法上の政教分離とは:各国政府の教会への援助助長促進の禁止
- 共産党の虚構政教分離論、散る:休暇中の私的参拝
- その他の虚構政教分離論:小西ひろゆき・前川喜平
陸自幹部官用車での靖国参拝をスクープとする共産党
しんぶん赤旗のスクープです。
— 三浦誠・赤旗社会部長 (@redbear2014) 2024年1月9日
陸上自衛隊のナンバー2と幹部が官用車を使い靖国神社に参拝しました。憲法20条が定める政教分離に違反する疑いがあります。現場で幹部に直撃しました。
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1月9日、しんぶん赤旗が「スクープ」と称して陸自幹部が官用車を使って靖国神社に参拝したことについて「憲法20条の政教分離違反の疑い」と報じました。
結論から言うと、参拝の場に行くために官用者車を使ったことは組織のルールの話で、車を使うことはただの移動手段、それが特定の宗教に対する「援助助長促進」の効果は無いので、憲法上の政教分離とは関係ない、ということになります。
現時点では隊員の参加が強制されたという情報は無いですが、その場合はその隊員の信教の自由の侵害の問題であり、やはり政教分離の話ではありません。
後続の報道は、一切政教分離の点を書いていません。
共産党の虚構の政教分離論は、ここに散り去ったわけです。
官用車の利用や計画作成:通達で禁止された部隊での参拝?
この組織ルールは【宗教行為に関する通達 昭和 38 年7月 31 日 陸幕発1第 318 号】であり、「宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に部隊として参加し、又は隊員に参加を強制することはできない。」とあります。
ただ、「地方公共団体その他の公共の機関が主催する慰霊祭又は追悼式であって宗教的色彩がないもの」や「忠魂碑又は忠霊塔」については、部隊参拝を行うことは差し支えないとされています。
また、「戦没者の慰霊祭を民間の団体において行うに際し、部隊等の長、駐屯地司令等がこれに公の資格において列席し、又はこれに香華、花環、香華料などを贈ること」についても、差し支えないとされています。
追記:「宗教的活動について」昭和49年の事務次官通達
組織ルールや官用車の利用については、NHK*1・朝日新聞*2・毎日新聞*3・産経新聞*4も報じ、防衛省が参拝の事実は認めて組織ルールの抵触が無いか調査を始めました。
報道で言われている昭和49年の事務次官通達というのは【昭和49年11月19日の「宗教的活動について(通達)」】を指すようです。
「神祠、仏堂、その他宗教上の礼拝所に対して部隊参拝すること及び隊員に参加を強制
することは厳に慎むべきである。 」とある点が関係してきます。
憲法上の政教分離とは:各国政府の教会への援助助長促進の禁止
憲法上の政教分離とは国家が宗教とのかかわり合いをもつことを全く許さないとするものではなく、「宗教に対する援助、助長、促進又は圧迫、干渉等」*5*6*7になるような実態が作出されているかどうかの話であるとするのが最高裁判例です。
まるで「行為に宗教的な意義があったらアウト」かのように書くメディアが居ますが(しかも憲法学者の論を引いている)、現実はそういうことはありません。
他国も「援助助長促進圧迫干渉等の禁止」という考え方ですが、日本の政教分離は講学上は「厳格な分離」とカテゴライズされています。
なお、欧州で生まれた政教分離原則ですが、世界各国の政教分離の実態の下では、共産党のような見解は否定されます。
共産党の虚構政教分離論、散る:休暇中の私的参拝
- 参拝にあたって実施計画が作成されていた
- 「年頭航空安全祈願」と称して計画、実行されていた
- 目的は「安全祈願のため」
- 参加者はこの日の午後、時間休を取得していた
- 玉串料は各部担当を通じて1人あたり2000円を徴収していた
- 小林氏が参拝に公用車を使用したことについて「(能登半島地震で)災害派遣中であり、状況の変化に応じて、速やかに職務に戻るため必要と判断した」とした
現時点で報道されている当時の事実関係はこのようなものです。
公務の時間中ではなく、時間休を取得してその間に参拝し、玉串料は個人の出費であり公費が使われていないので、団体としてまとめて参拝・支払いをしていたとしても私的参拝の域を出ません。部隊の施設や装備などの財産が使用されたわけでもありません。
たとえば、私的に開催する飲み会参加や結婚式の参列で「○○自衛隊○○」という名義があっても、それが公的な活動に当たるわけがありません。
実施計画が作成されていたことから「部隊での参拝」に当たる可能性があったとしても、それは防衛省内の公私混同の話であり、政教分離の話ではありません。
その他の虚構政教分離論:小西ひろゆき・前川喜平
言語道断の暴挙。陸幕副長(陸将)ら幹部が毎年組織的に勤務時間帯に公用車使用等により靖国参拝することは政教分離に反します。実は、沖縄の慰霊の日(6/23)の日本軍牛島司令官の慰霊碑への陸自旅団の組織的参拝について、私が防衛省に意見し※、陸幕から旅団に指示をして止めさせたことがあります。… https://t.co/o1aeyDZvTM
— 小西ひろゆき (参議院議員) (@konishihiroyuki) 2024年1月10日
虚構の政教分離論は度々喧伝されてきました。
立憲民主党の小西ひろゆき議員は「慰霊碑への陸自旅団の組織的参拝についてやめさせた」と語っていますが(※本当にやめたのか、小西議員の発言と因果関係があるのかは措いておきます)、「陸幕から旅団への指示も「沖縄県民に誤解を与える行為は止めるように」というものであったと報告を受けています」とあるように、政教分離違反と言う理由ではありません。
前述の通達では「忠魂碑又は忠霊塔」については、部隊参拝を行うことは差し支えないと明記されているので、小西議員が指摘した当時はともかく、現時点では明確に否定されています。
その他、過去には前川喜平が政教分離に関する無理筋論を展開していました。
法的な話について誤解を拡散するのはやめていただきたいものです。
以上
*1:陸上幕僚監部のナンバー2ら隊員数十人が靖国参拝 防衛省調査へ | NHK | 防衛省・自衛隊
*2:陸幕副長、公用車で防衛省と靖国神社を往復 複数幹部と「私的」参拝 [岸田政権]:朝日新聞デジタル
*3:陸自幹部らが集団で靖国参拝 通達違反の可能性、防衛省が調査開始 | 毎日新聞
*4:陸幕副長、公用車で靖国 「災害派遣に備え」と説明 - 産経ニュース
*5:津地鎮祭訴訟判決:最高裁判所大法廷判決 昭和52年7月13日 昭和46(行ツ)69 民集第31巻4号533頁
*6:目的・行為が不明確な場合につき、空知太神社事件:最高裁判所大法廷判決 平成22年1月20日 平成19(行ツ)260 民集第64巻1号1頁