事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

「柴山文科相が高校生の政治話に疑問」というフェイク:学校・教員の政治的中立性

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柴山昌彦文部科学大臣がツイッターで、高校生のアカウントが昼食の時間に政治の話をしたことを書いたツイートに対して「こうした行為は適切でしょうか?」と言及しました。

これがメディアに取り上げられて非難されていますが、文脈を切り取ったフェイクが横行しているので気を付けましょう。

柴山大臣の指摘は重要な問題提起を含んでいます。

柴山文科相が高校生の政治話に疑問

非公式RTで、しかも冒頭の文言をはしょっているので元のツイートを示します。

女性自身などではこのツイートだけが取り上げられていますが、実は文脈を見ると違った視点になることが分かります。

柴山文科大臣 Twitterで高校生の政治話に疑問呈し非難殺到 (女性自身[光文社女性週刊誌])

高校教員「安倍政権に絶対投票しないように周囲の高校生の皆さんにご宣伝ください」への返信

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このツイートのリプライで高校教員を自称する者と高校3年生が会話していました。

魚拓: https://web.archive.org/web/20190909045301/https://twitter.com/NI84USx7ecHjMU7/status/1170113361075265537

魚拓:

https://web.archive.org/web/20190909031535/https:/twitter.com/d_ok3a/status/1170294640374767616

つまり、「特定の政党の落選運動をしてください」という高校教員からの呼びかけに「はい。本当に」という文言を使ってる流れで「通っている高校では昼食の時間に~」と言ってるのです。

単に18歳の高校生が学校において昼食の時間に政治的な話題を話すことについて咎めているのではありません。それ自体は何ら問題ないどころか奨励すべきことでしょう。

では、なぜ柴山大臣が問題視しているのか?

それは【学校という場の政治的中立性】を確保する必要があるからです。

選挙権のある18歳高校生に関する文科省通達「学外で」なら容認

教職員等の選挙運動の禁止等について:文部科学省

元々学校の政治的中立性は「教員」の選挙運動の禁止等が専ら問題になっており、通達で禁止・制限されてきました。

「未成年」は選挙運動そのものが禁止されています。

公職選挙法
(年齢満十八年未満の者の選挙運動の禁止)

第百三十七条の二 年齢満十八年未満の者は、選挙運動をすることができない。
2 何人も、年齢満十八年未満の者を使用して選挙運動をすることができない。ただし、選挙運動のための労務に使用する場合は、この限りでない。

そして、18歳選挙権が認められたタイミングで以下のような通達がありました。

高等学校等における政治的教養の教育と高等学校等の生徒による政治的活動等について(通知):文部科学省

第3 高等学校等の生徒の政治的活動等

省略

他方で、1)学校は、教育基本法第14条第2項に基づき、政治的中立性を確保することが求められていること、2)高等学校等は、学校教育法(昭和22年法律第26号)第50条及び第51条並びに学習指導要領に定める目的・目標等を達成するべく生徒を教育する公的な施設であること、3)高等学校等の校長は、各学校の設置目的を達成するために必要な事項について、必要かつ合理的な範囲内で、在学する生徒を規律する包括的な権能を有するとされていることなどに鑑みると、高等学校等の生徒による政治的活動等は、無制限に認められるものではなく、必要かつ合理的な範囲内で制約を受けるものと解される。

 

以下省略

こうして、放課後や休日等であっても、18歳高校生が学内で選挙運動や政治活動をすることは禁止ないし制限されることが明示されました。

18歳高校生を利用した選挙運動の呼びかけに呼応した問題

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さて、改めてこのやりとりの問題点を指摘します。

「安倍政権に絶対投票しないように宣伝する」というのは政治活動ないし落選運動たる選挙運動となる可能性があります。

それを教員(を名乗る者)が選挙権のある高校生に呼びかけ、高校生の側が呼応したようにも見える(本人は「受験勉強への~に対するものだったと指摘」)、という状況です。

これが一般的に認められたらどうなるでしょうか?

仮に教員が(学校外・休日等に)密かに18歳高校生に対して自身の政治的信条を教授し、その高校生が学校内において選挙運動をするよう促したとします。

すると、政治的中立性が保たれるべき学校において、17歳以下の選挙運動が禁止されている者に対してまで影響力を行使することになり、高校生を介して教員が自身の政治的信条を伝播させることが可能になる。

これは、学校・教員に政治的中立性を求める法の潜脱となると言えるでしょう。

教員に限らず、【18歳高校生を利用した政治活動・選挙運動をどう予防するか】という観点からは看過できない事案です。

再掲

柴山大臣は「@」を高校生だけでなく高校教員にもつけていますから、両名とのやりとりの関係でどう考えるかを両名に問いかけていると考えられます。

高校教員「生徒・保護者を洗脳します!」

実際に、この教員を名乗る者は「洗脳していきます!」と高らかに宣言しています。

魚拓:https://web.archive.org/web/20190909023522/https:/twitter.com/NI84USx7ecHjMU7/status/1170312476245680128

柴山大臣のこちらのツイートが、メディア等ではまったく無視されており、単に「高校生の政治話を弾圧した!」という論調なのは、本当にレベルが低いと思います。

柴山文科相は不親切かつ不用意

柴山大臣の高校生に対するツイートは上記の高校生視点からは、他愛もない昼休みの政治的な議論について咎められたように感じたとしてもやむを得ないでしょう。

柴山大臣は、ここで指摘したような文科省の通達の問題意識を提示することなく高校生に対してツイートしたんですから、かなり不親切だと思います。

内容的にもアドバンストなものであり、一般人が直ぐに理解できる訳がない。

しかもツイッターの機能ではなく、いわゆる「非公式リツイート」をしているものですから、第三者が文脈を追えなくなり、誤解されやすい状況を自ら作っていると言えます。

発信の仕方はもう少し考えて頂きたいものです。

以上