事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

黒川氏の訓告処分に官邸の関与とする共同通信記事への菅官房長官の回答

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黒川氏の訓告処分に官邸が関与したとする共同通信記事への菅官房長官の回答とその理解について予測します。

首相官邸が実質的に決定し、法務省は懲戒と考えていたとする報道

黒川氏処分、首相官邸が実質決定 法務省は懲戒と判断、軽い訓告に | 共同通信魚拓

首相官邸に報告した法務省は、国家公務員法に基づく懲戒が相当と判断していたが、官邸が懲戒にはしないと結論付け、法務省の内規に基づく「訓告」となったことが24日、分かった。複数の法務・検察関係者が共同通信の取材に証言した。

安倍首相は5月22日の国会で「検事総長が事案の内容など、諸般の事情を考慮し、適切に処分を行ったと承知している」と発言

他方で森法相は「法務省、任命権者の内閣と様々な協議を行った。最終的に内閣で決定されたものを私から検事総長にこういった処分が相当ではないかと申し上げ、検事総長から訓告処分にするという知らせを受けた」と同日の記者会見で説明していました。

菅官房長官会見では経緯があいまい

記者 (共同通信の報道内容)

菅 黒川氏の処分については法務省において令和2年5月21日、検事総長に対し、訓告が相当と考える旨を伝え、検事総長においても訓告が相当と判断して処分をしたところです。 なお、当日法務省から任命権者である内閣に報告があり、法務省としての決定につき 異論が無い旨回答したところであります。

記者 森大臣は会見の中で最終的には任命権者である内閣において決定されたところでありますと言っていますが、これと食い違うのではないですか?

菅 法務省の調査結果や黒川氏の処分内容についてはあくまでも法務省および検事総長において決定したものと承知しております。その後法務省から総理や私に対して報告があったものであります。

記者 そのあと官邸側は処分の訂正にはまったく関与していないのか?

菅 今申し上げた通りです。

菅官房長官会見では5月21日の判断経過についてのみ言及されています。

それ以前の経過についてはまったく触れていません。

矛盾の無い実態説明の予想

21日の菅官房長官の言うところの報告前の動きについて、以下のようであればどうでしょうか?

・検事総長が戒告相当と報告⇒法務大臣⇒内閣(首相官邸)⇒内閣が差し戻し⇒法務大臣から検事総長に説明⇒検事総長が訓告と決定(検事総長が検討したという部分)⇒法務大臣⇒内閣で異論が無い旨回答(内閣で最終的に判断)

安倍総理・森法務相・菅官房長官・共同通信の記事を矛盾なく説明できるとすれば、こういうことかなと思います。

要するに菅官房長官は最終的な手続の流れ(上のチャートで言えば差し戻し後)を指摘したに過ぎない、という可能性が残っているわけです。

安倍総理の説明は一部の事象について、森法相はこれらを網羅的に説明したものと考えれば辻褄が合います。

戒告処分・訓告についての協議や差し戻しがあったのか?

ということで、論理的に考えれば共同通信の記事が否定されたわけではないです。

今後は戒告処分が検討・報告されたことがなかったのか、内閣の方で差し戻しをしたことは無かったのか?など、詳細を詰める必要があるでしょう。

戒告処分は妥当なのか?

しかし、検事総長が国公法上の懲戒処分である戒告処分にしようとしていたとしても、それもちょっと妥当性に疑問です。

人事院の指針では常習賭博は「停職」処分が標準例であるし、標準例よりも重い処分が考えられる事情に黒川氏は複数該当する一方、標準例より軽い処分が考えられる事情は存在していないからです。

さらに、東京高検自身が人事院の指針を具体化した「品位と誇りを胸に」という内部の指針では懲戒免職となる典型例として常習賭博が挙げられていました。

これらを考えると、共同通信の記事で検事総長から「戒告」処分が検討されていたという点も問題視されるべきではないかと思うのです。

以上