事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

霊感商法が不当勧誘行為として取消し対象となる2018年改正消費者契約法の議論経過まとめ

消費者委員会の当初から霊感商法は取り消し対象と認識されていた

まとめ:霊感商法が消費者契約法の不当勧誘行為となる議論経過

霊感商法に関連する議論という観点からまとめると以下の経緯がありました。

  1. 平成26年5月5日の内閣総理大臣安倍晋三から消費者委員会に対して諮問された内容には「…高齢化の進展を始めとした社会経済状況の変化への対応等の観点から」消費者契約法について規律等の在り方を検討することとされていた
  2. 平成28年(2016年)の国会で成立した消費者契約法改正法案の附帯決議において「消費者契約に係る裁判例や消費生活相談事例等の更なる調査・分析、検
    討を行い、その結果を踏まえ、本法成立後三年以内に必要な措置を講ずること」とされた
  3. 消費者契約法専門調査会では取消し可能類型として「霊感商法」も俎上に乗り、「経験」要件は別途の要件として検討の対象となっていたが、若年者や高齢者とで保護の手厚さを分けるという考え方ではなかった。議事録を見る限り、霊感商法も対象になるという当然の共通認識があったとみられる。
  4. 平成29年8月の消費者契約法専門調査会報告書では、合理的な判断をすることができない事情を利用して契約を締結させる類型として消費者の不安を煽る告知も対象とすべきとなっており、これが霊感商法も視野に入れた内容と考えられる。
  5. ただし、高齢者等の判断力の不足等を不当に利用する類型については結論は出なかったことが書かれている
  6. 平成30年2月2日に自民党消費者問題調査会において、「消費者契約法の一部を改正する法律案の骨子」が示されたが、そこでは「社会生活上の経験が乏しく」という要件が他の要件に付加的に追加された。
  7. 消費者庁からは、これは若年者の保護を重視するという名目のもと行われたと説明されるが、高齢者等の判断力の不足等を不当利用する類型が捕捉されない懸念が多方面から指摘された
  8. 「消費者契約法の一部を改正する法律案」が3月2日に閣議決定されたが、当該部分に本質的変更は無かった
  9. 3月18日の消費者委員会本会議でも法律案の「社会生活上の経験が乏しく」要件によって高齢者保護が損なわれることの懸念とその解消が求められていた
  10. 5月11日の衆議院本会議で「社会生活上の経験が乏しいことから」という要件の問題点を問われた消費者及び食品安全担当大臣の福井照議員は、霊感商法について通常の社会生活上の経験を積んできた消費者≒高齢者であっても「一般的に」本要件に該当すると答弁
  11. しかし、5月21日の質疑において消費者庁の説明を受けて答弁を修正。高齢者は例外的な場合に取消し可能になり得るにとどまる解釈が示されたが、答弁の修正案が質疑する野党議員に事前に手渡されていたなどの問題があり質疑が打ち切られた
  12. 5月23日、永岡桂子君外六名から、自由民主党、立憲民主党・市民クラブ、国民民主党・無所属クラブ、公明党、無所属の会、日本共産党及び日本維新の会の七派共同提案による修正案が提出、この案が大枠となり可決成立に至る

以下、時系列に沿って具体的に見ていきます。

内閣総理大臣安倍晋三から消費者委員会に対して諮問

霊感商法が消費者契約法の不当勧誘行為となる検討の安倍総理による諮問

第1回 消費者契約法専門調査会 : 消費者委員会 - 内閣府

平成26年8月5日 "消制度第137号" 消費者委員会委員長 河上正二 殿 内閣総理大臣安倍晋三

消費者契約法(平成12年法律第61号)について、施行後の消費者契約に係る苦情相談の処理例及び裁判例等の情報の蓄積を踏まえ、情報通信技術の発達や高齢化の進展を始めとした社会経済状況の変化への対応等の観点から、契約締結過程及び契約条項の内容に係る規律等の在り方を検討すること。

内閣総理大臣安倍晋三から消費者委員会に対して諮問があり、「高齢化の進展を始めとした社会経済状況の変化への対応等の観点から、契約締結過程及び契約条項の内容に係る規律等の在り方を検討すること」とされました。

それを受けて【第3次消費者委員会】の下で開催された消費者契約法専門調査会において、議論が重ねられ、中間とりまとめが出されました。

中間取りまとめ(案) 平成 27 年8月 消費者委員会 消費者契約法専門調査会

第200回 消費者委員会本会議 : 消費者委員会 - 内閣府

事業者が消費者の判断力の不足等を利用して不必要な契約を締結させるという事例について、一定の手当てを講ずる必要性があることについては特に異論は見られなかった。その一方で、規定を設けるとしても、適用範囲を明確にしなければ、事業者の事業活動を過度に制約したり、事業活動を委縮させたりすることにもなりかねない。そこで、消費者の置かれた状況や契約を締結する必要性について、一般的・平均的な消費者を基準として判断することや、そのような消費者の状況を事業者が不当に利用した場合を規律の対象にすることなど、適用範囲の明確化を図りつつ消費者を保護する観点から規定を設けることについて、引き続き実例を踏まえて検討すべきである。

判断力の不足等を利用する類型について手当を講ずる必要性は共通認識だが、適用範囲の明確化が求められるとして継続的に検討することとなったとあります。

消費者の「経験不足」については、それを考慮するようにとの議論がありました。

また、第3次消費者委員会の下の消費者契約法専門調査会において、取消し可能な類型として霊感商法をも対象にするべきという認識が継続して確認できます。

第4次消費者委員会の下、消費者契約法専門調査会で検討

消費者契約法の一部を改正する法律案に対する附帯決議(抄)

○衆議院消費者問題に関する特別委員会(平成 28 年4月 28 日)
二 情報通信技術の発達や高齢化の進展を始めとした社会経済状況の変化に鑑み、
消費者委員会消費者契約法専門調査会において今後の検討課題とされた、「勧誘」
要件の在り方、不利益事実の不告知、困惑類型の追加、「平均的な損害の額」の立
証責任、条項使用者不利の原則、不当条項の類型の追加その他の事項につき、引
き続き、消費者契約に係る裁判例や消費生活相談事例等の更なる調査・分析、検
討を行い、その結果を踏まえ、本法成立後三年以内に必要な措置を講ずること。

○参議院地方・消費者問題に関する特別委員会(平成 28 年5月 20 日)
二 消費者被害を防止することにより、被害で失われたであろう金額が正当な消費
に向かうことが健全な内需拡大に資することに鑑み、消費者委員会消費者契約法
専門調査会報告書において、今後の検討課題とされた論点については、消費者契
約に係る裁判例、消費生活相談事例、様々な業界における事業者の実務実態等の
調査・分析に基づき、健全な事業活動に支障を来すことのないよう配慮しつつ、
消費者の安全・安心に寄り添って検討を行い、国会における審議も踏まえて、本
法成立後遅くとも三年以内に必要な措置を講ずること。

消費者契約法専門調査会 : 消費者委員会 - 内閣府

消費者契約法改正法案の附帯決議に書かれている必要な措置を講ずるため【第4次消費者委員会】の下で開催された消費者契約法専門調査会で議論が交わされてきました。

同時に第3次消費者委員会でも議論された判断力の不足等を利用する類型についても検討がされ、第4次消費者委員会の下の消費者契約法専門調査会においても、取消し可能な類型として霊感商法をも対象にするべきという認識が継続して確認できます。

そして専門調査会から報告書が出されます。

消費者契約法専門調査会報告書

第47回 消費者契約法専門調査会 : 消費者委員会 - 内閣府

消費者契約法専門調査会報告書(案)平成 29 年8月 

(4)なお、合理的な判断をすることができない事情を利用して契約を締結させる
類型の被害事例の中には、必ずしも上記①や②のような事業者の行為はみられ
ないものが存在する。特に高齢者等の判断力の不足等を不当に利用し、不必要
な契約や過大な不利益をもたらす契約の勧誘が行われる場合も存在しており、
これらの事例の救済は、民法上の公序良俗違反による無効等の一般規定に委ね
られたままの状態となっている。
こうした事例への対応策については、消費者の取消権を付与して救済する規
定、具体的には、「消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに
際し、当該消費者の年齢又は障害による判断力の不足に乗じて、当該消費者の
生活に不必要な商品・役務を目的とする契約や当該消費者に過大な不利益をも
たらす契約の勧誘を行い、その勧誘により当該消費者契約の申込み又はその承
諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる」等といった規定を
設けることについての当否が議論され、このような規定を設けることに賛成す
る意見も存在した。しかし、要件の明確化等の課題が解消されていないとの意
見もあり、現時点においては消費者契約法上に新たな類型を設けることについ
てコンセンサスを得るには至らなかった。そこで、判断力の不足等を不当に利
用し、不必要な契約や過大な不利益をもたらす契約の勧誘が行われる場合等の
救済については、重要な課題として、今後も検討を進めていくことが適当であ
る。

ただし、判断力の不足等を利用する類型については、結論が出ませんでした。

それを受けて、消費者委員会の「答申」では早急に検討し明らかにすべき課題として高齢者も含めた判断力の不足を不当に利用した勧誘の場合の取消権を挙げています。

第253回 消費者委員会本会議 : 消費者委員会 - 内閣府

消費者契約法改正答申(案)

なお、当委員会は、専門調査会における報告を受けて、ぜい弱な消費者の保
護の必要性等現下の消費者問題における社会的情勢、民法改正および成年年齢
の引下げ等にかかる立法の動向等を総合的に勘案した結果、特に以下の事項を
早急に検討し明らかにすべき喫緊の課題として付言する。

~省略~

2 合理的な判断をすることができない事情を利用して契約を締結させるいわ
ゆる「つけ込み型」勧誘の類型につき、特に、高齢者・若年成人・障害者等の知識・経験・判断力の不足を不当に利用し過大な不利益をもたらす契約の勧誘が行われた場合における消費者の取消権

なお、ここでも消費者の「経験不足」については、それを考慮するようにとの方針が示されていました。

合理的な判断をすることができない事情を利用して契約を締結させる類型について】などをみると、この類型に霊感商法が含まれることが念頭にあったようです。

野党議員らの国会質疑で初めて出てきたわけではないということです。

弁護士会らが問題視:高齢者無視の「社会生活上の経験が乏しい」要件

翌年の平成30年(2018年)2月2日に自民党消費者問題調査会において「消費者契約法の一部を改正する法律案の骨子」が示されたことを受けて以下の声明が出ています。

「消費者契約法の一部を改正する法律案の骨子」についての会長声明 2018年(平成30年)2月22日 日本弁護士連合会 会長 中本和洋

一方、本骨子が提案する改正項目の中には、本答申の趣旨を十分に踏まえたものとはいえない点も含まれている。今後、同法の改正手続を進めるに当たっては、本骨子から以下のとおり必要な修正がなされることを求める。

1 契約締結過程に関する規律における困惑類型の追加に関して、消費者が抱いている不安や勧誘者に対して恋愛感情等を抱いていることにつけ込んだ勧誘を理由とする取消権の導入が提案されているものの、本答申にはなかった消費者が「社会生活上の経験が乏しいこと」との若年者を主たる対象として念頭に置いているかのような文言が本骨子には加えられている。   

しかし、今回の消費者契約法改正は、本答申の基礎となった内閣総理大臣から消費者委員会に対する諮問でも指摘されていたように、高齢化の進展への対応が重要な課題の一つである。本取消権を含む困惑類型の追加は、このような諮問を踏まえ、消費者委員会消費者契約法専門調査会において、若年者に限らず高齢者など年齢に関係なく、消費者の不安や人間関係等につけ込んだ不当な勧誘による被害の救済を念頭に議論されてきたものである。したがって、同法の改正法案の条文に「社会生活上の経験が乏しいこと」という文言が加えられ、その結果として、とりわけ高齢者に対する霊感商法などがこの取消権の対象から除外されるとの解釈がとられることとなれば、本答申の趣旨を大きく逸脱する。よって、同法の改正法律案を取りまとめるに当たっては、「社会生活上の経験が乏しいこと」との文言は削除されるべきであり、少なくとも、高齢者が取消権の対象から除外されないことを解釈として明確にすべきである。

消費者委員会に寄せられた要望書・意見書・声明文等一覧(1月分~3月分) 

「社会生活上の経験が乏しい」要件が別個の要件ではなく他の要件と一緒に付加的に要求される規定の仕方に対しては、弁護士会など各所の有識者から厳しい意見が寄せられていました。

この指摘は至極当然です。

内閣総理大臣安倍晋三から消費者委員会に対して諮問された趣旨である「高齢化の進展への対応」を無視した解釈適用になりかねないことが懸念されています。

消費者委員会本会議も問題視「社会生活上の経験が乏しく」の付加的追加

「消費者契約法の一部を改正する法律案」が3月2日に閣議決定されたましたが、当該部分に本質的変更はありませんでした。

その後の消費者委員会本会議でも「社会生活上の経験が乏しく」要件の付加的追加について、消費者庁にその趣旨の追及と問題点の指摘、修正の求めがありました。

第269回 消費者委員会本会議 議事録 : 消費者委員会 - 内閣府 (2018年3月18日)

○池本委員長代理 御説明ありがとうございました。

これは昨年8月に、当消費者委員会の専門調査会で報告書を取りまとめ、それを受けて法案化されたものとして、たくさんの項目がありましたが、かなりのところを盛り込んでいただいております。

ただ、ここをどう受け止めて良いのかどうかという点について確認させていただきたいのですが、このペーパーで言いますと4ページで、困惑類型、不安をあおる告知、人間関係の濫用というところに「社会生活上の経験が乏しく」という言葉が入って、不安をあおる、あるいは人間関係を濫用するという要件が更にくっついております。昨年の報告書では「社会生活上の経験が乏しく」という言葉は、報告書の中でも入っていませんでしたし、その不安をあおること、あるいは人間関係を濫用することが困惑の根拠となっていれば取消し対象にして良いということで、調査会の学識、事業者、消費者の委員の中でも一致を見た意見だったはずです。「社会生活上の経験が乏しく」となると、若年者は読み取りやすいのですが、中高年の方はなかなか適用できなくなるのではないか、報告書を取りまとめたところよりもむしろ狭くなってしまうのではないかということが幾つかの団体からもそういう疑問提起が出ております。例えばいわゆる霊感商法という健康や病気、死亡ということに対しての不安を何か抱えている人に、それを殊さらあおって高額のものを買わせるとか、そういうようなものは、この「社会生活上の経験が乏しく」という言葉では漏れてしまうことになるのではないか。

お伺いしたいのは、まず、こういう言葉が入った経緯がどういうところにあるのか。それから、この言葉を入れることによって、昨年の報告書では予定されていたけれども、外れるというようなことをどう考えるのか、あるいは、それは積み残し課題として更に検討することなのか、それとも、それは外れていないという理解になるのか。その辺りの考え方をお伺いしたいと思います。

確認しますと、必要な事項は、まず1番目に、付言の内容ですね。付言事項への対応を引き続き御検討いただきたい。2番目が「平均的な損害の額」の立証について、これは議論が要るということで、精査が必要だとそちらでも述べておられますので、是非、これは迅速に精査・検討を始めていただきたいと思います。3番目、先ほどの「社会生活上の経験が乏しく」という、これは若年層を被害から守るという意味で付けられたのでしょうけれども、これを付けたことで高齢者等の被害というのでしょうか、そこが見えにくくなってしまった。ですから、「困惑類型の追加」については、同じく速やかに検討を進めていただきたいと、消費者委員会としては思っております。

議事録でも法律案に対する意見書でも「社会生活上の経験が乏しく」の付加的追加により救済範囲が非常に狭くなることの問題点、諮問の趣旨との乖離が指摘されました。

消費者契約法の一部を改正する法律案に対する意見(案)

3 「困惑類型の追加」について

 消費者契約法の一部を改正する法律案に対する附帯決議(衆議院消費者問題に関する特別委員会・平成28年4月28日、参議院地方・消費者問題に関する特別委員会・平成28年5月20日)で措置を講ずることとされていた「困惑類型の追加」についても当委員会において更なる調査・審議を行ったうえで答申した。この「困惑類型の追加」への対応のうち、「不安をあおる告知」と「人間関係の濫用」について、法律案において「社会生活上の経験が乏しいこと」が要件に付加されることによって特に若年層の被害対応に重点が置かれたものとなっている。答申の趣旨を実現するため、高齢者等の被害対応についても今後速やかに検討するべきである。

消費者庁からは「成年年齢の引下げとの関係でも、社会経験不足によって合理的判断ができない若年者の被害は現実に多発」といった事情を考慮した旨が説明されましたが、高齢者の被害も頻発しており、高齢者保護を同時に図ることなく除外されたのはなぜなのかの合理的理由については曖昧でした。

修正前の平成30年の消費者契約法改正案と修正案と現行法4条3項との違い

修正前の平成30年の消費者契約法改正案は以下

第196回国会 議案の一覧

●消費者契約法の一部を改正する法律案 第一九六回 閣第三一号

第四条第二項中「故意に」を「故意又は重大な過失によって」に改め、同条第三項に次の四号を加える。

 三 当該消費者が、社会生活上の経験が乏しいことから、次に掲げる事項に対する願望の実現に過大な不安を抱いていることを知りながら、その不安をあおり、裏付けとなる合理的な根拠がある場合その他の正当な理由がある場合でないのに、物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものが当該願望を実現するために必要である旨を告げること。

  イ 進学、就職、結婚、生計その他の社会生活上の重要な事項

  ロ 容姿、体型その他の身体の特徴又は状況に関する重要な事項

 四 当該消費者が、社会生活上の経験が乏しいことから、当該消費者契約の締結について勧誘を行う者に対して恋愛感情その他の好意の感情を抱き、かつ、当該勧誘を行う者も当該消費者に対して同様の感情を抱いているものと誤信していることを知りながら、これに乗じ、当該消費者契約を締結しなければ当該勧誘を行う者との関係が破綻することになる旨を告げること。

 五 当該消費者が当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をする前に、当該消費者契約を締結したならば負うこととなる義務の内容の全部又は一部を実施し、その実施前の原状の回復を著しく困難にすること。

 六 前号に掲げるもののほか、当該消費者が当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をする前に、当該事業者が調査、情報の提供、物品の調達その他の当該消費者契約の締結を目指した事業活動を実施した場合において、当該事業活動が当該消費者からの特別の求めに応じたものであったことその他の取引上の社会通念に照らして正当な理由がある場合でないのに、当該事業活動が当該消費者のために特に実施したものである旨及び当該事業活動の実施により生じた損失の補償を請求する旨を告げること。

次項で触れますが、修正案は以下となっています。

消費者契約法の一部を改正する法律案に対する修正案
   消費者契約法の一部を改正する法律案に対する修正案
 消費者契約法の一部を改正する法律案の一部を次のように修正する。
 第四条第三項に四号を加える改正規定中「四号」を「六号」に改め、第六号を第八号とし、第五号を第七号とし、第四号の次に次の二号を加える。
 五 当該消費者が、加齢又は心身の故障によりその判断力が著しく低下していることから、生計、健康その他の事項に関しその現在の生活の維持に過大な不安を抱いていることを知りながら、その不安をあおり、裏付けとなる合理的な根拠がある場合その他の正当な理由がある場合でないのに、当該消費者契約を締結しなければその現在の生活の維持が困難となる旨を告げること。
 六 当該消費者に対し、霊感その他の合理的に実証することが困難な特別な能力による知見として、そのままでは当該消費者に重大な不利益を与える事態が生ずる旨を示してその不安をあおり、当該消費者契約を締結することにより確実にその重大な不利益を回避することができる旨を告げること。
 附則第二条第二項中「第六号」を「第八号」に改める。

「社会生活上の経験が乏しいことから」条項はそのままにして、それとは無関係な規定が新たに加わりました。

現行法4条3項は以下です。

現行法 消費者契約法(令和四年法律第五十九号による改正)

3 消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して次に掲げる行為をしたことにより困惑し、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。
一 当該事業者に対し、当該消費者が、その住居又はその業務を行っている場所から退去すべき旨の意思を示したにもかかわらず、それらの場所から退去しないこと。
二 当該事業者が当該消費者契約の締結について勧誘をしている場所から当該消費者が退去する旨の意思を示したにもかかわらず、その場所から当該消費者を退去させないこと。
三 当該消費者が、社会生活上の経験が乏しいことから、次に掲げる事項に対する願望の実現に過大な不安を抱いていることを知りながら、その不安をあおり、裏付けとなる合理的な根拠がある場合その他の正当な理由がある場合でないのに、物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものが当該願望を実現するために必要である旨を告げること。
イ 進学、就職、結婚、生計その他の社会生活上の重要な事項
ロ 容姿、体型その他の身体の特徴又は状況に関する重要な事項
四 当該消費者が、社会生活上の経験が乏しいことから、当該消費者契約の締結について勧誘を行う者に対して恋愛感情その他の好意の感情を抱き、かつ、当該勧誘を行う者も当該消費者に対して同様の感情を抱いているものと誤信していることを知りながら、これに乗じ、当該消費者契約を締結しなければ当該勧誘を行う者との関係が破綻することになる旨を告げること。
五 当該消費者が、加齢又は心身の故障によりその判断力が著しく低下していることから、生計、健康その他の事項に関しその現在の生活の維持に過大な不安を抱いていることを知りながら、その不安をあおり、裏付けとなる合理的な根拠がある場合その他の正当な理由がある場合でないのに、当該消費者契約を締結しなければその現在の生活の維持が困難となる旨を告げること。
六 当該消費者に対し、霊感その他の合理的に実証することが困難な特別な能力による知見として、そのままでは当該消費者に重大な不利益を与える事態が生ずる旨を示してその不安をあおり、当該消費者契約を締結することにより確実にその重大な不利益を回避することができる旨を告げること。
七 当該消費者が当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をする前に、当該消費者契約を締結したならば負うこととなる義務の内容の全部又は一部を実施し、その実施前の原状の回復を著しく困難にすること。
八 前号に掲げるもののほか、当該消費者が当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をする前に、当該事業者が調査、情報の提供、物品の調達その他の当該消費者契約の締結を目指した事業活動を実施した場合において、当該事業活動が当該消費者からの特別の求めに応じたものであったことその他の取引上の社会通念に照らして正当な理由がある場合でないのに、当該事業活動が当該消費者のために特に実施したものである旨及び当該事業活動の実施により生じた損失の補償を請求する旨を告げること。

修正案が現行法となっているのが分かります。

霊感商法の被害救済に高齢者も一般的対象か?消費者及び食品安全担当大臣の答弁が修正

国会では、閣法の「社会生活上の経験が乏しいことから」という要件が付加的に追加された理由や、高齢者にとっての救済対象として霊感商法による契約が取消し可能になるのかについて、消費者及び食品安全担当大臣・消費者庁に質疑がなされていました。

福井大臣の回答は当初は「一般的に高齢者も対象になる」だったものが「高齢者でも対象になることはある」に修正されました。

そして、5月21日にはさらに答弁が修正、立憲民主党の篠原豪・尾辻かな子・黒岩宇洋議員らから、答申に入っていない「社会生活上の経験が乏しいことから」という要件がなぜ「付加的に」追加されたのかについて集中的に質疑がなされました。

消費者庁が立案を主導した、ということが答弁されていますが、最終的には以下の事件が起こり、質疑が途中で散開しました。

第196回国会 衆議院 消費者問題に関する特別委員会 第7号 平成30年5月21日

○黒岩委員 無所属の会の黒岩宇洋です。
 きょう、消費者庁の方が、きょうの昼ごろ私のもとに、せんだっての五月十一日の衆院本会議、この代表質問での大臣答弁について、答弁を修正したいと、修正案というものを持っていらっしゃいました。(発言する者あり)あれ、僕だけ。
 この内容について何点か確認させていただきたいので

~省略~

○黒岩委員 ちょっと、大臣、確認ですけれども、今野党の筆頭にお聞きしたら、このペーパーはもらっていないと。これは、どうなんですか。与野党ともに、大臣答弁修正ですので、これ、私しかもらっていないんですか。
 ちょっと確認ですけれども、大臣、お答えください。これは当然、大臣の指示でやっていると思いますよ。勝手に事務方だけで、他の理事、私だけ渡すとか……
083 櫻田義孝
発言URLを表示
○櫻田委員長 黒岩君、暫時時間をとめています。時間をとめてください。速記をとめてください。
    〔速記中止〕
084 櫻田義孝
発言URLを表示
○櫻田委員長 速記を起こしてください。
 暫時休憩とします。
    午後二時三十六分休憩
     ————◇—————
    午後三時十七分開議
085 櫻田義孝
発言URLを表示
○櫻田委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。
 本日は、これにて散会いたします。
    午後三時十八分散会

そして5月23日に「永岡桂子君外六名から、自由民主党、立憲民主党・市民クラブ、国民民主党・無所属クラブ、公明党、無所属の会、日本共産党及び日本維新の会の七派共同提案による修正案が提出」され、可決成立。

この辺りを先にまとめているのが以下の記事

整理:結局、なぜ消費者庁は消費者契約法に「社会生活上の経験が乏しいこと」を付加的要件にしたのか

経緯を改めて整理すると

  1. 内閣総理大臣安倍晋三の諮問内容には「高齢者救済」の趣旨が含まれていた
  2. 消費者庁の消費者委員会・消費者契約法専門調査会では高齢者救済・霊感商法を取消し対象、とする意識で議論が進んでいった
  3. 高齢者救済につながる「判断力の低下」に関する条項新設は中間まとめや報告書でもペンディングだった
  4. 消費者の「経験」についてはそれを考慮するように規定される方向性はあった
  5. が、消費者庁主導で改正法案を起案した結果、「社会生活上の経験が乏しいことから」という要件が、他の要件の前提条件となるように規定されてしまった
  6. 消費者庁は成人年齢引き下げの事情などを持ち出して若年者保護に重点を置いたと説明するも、内閣総理大臣の諮問の趣旨から明らかに乖離していた
  7. 各所から反対意見が寄せられたのに、本質的修正がなされないまま閣議決定、法案が国会提出となった
  8. 国会で野党から高齢者への適用・霊感商法の対象などが追及、大臣の答弁が二転三転して収拾がつかなくなった
  9. 最終的に七派共同提案による修正案が提出され、現行法の形に収まる

答弁を読むと、消費者契約法専門調査会でも霊感商法が取消し対象となるという認識で議論が進んでいったので、福井大臣もそういう頭だったように受け取れます。

ただ、法文上、そういう解釈をするのは無理筋であるし、消費者庁が3月に消費者委員会に説明した内容とも齟齬があるため、官僚が指摘して答弁修正せざるを得なかった。

なぜこうなったのか?

その理由はまったく明らかではないが、「判断力の低下」に関する条項は報告書では引き続き検討の対象となっていたために盛り込まれなかったことが一つ影響した可能性があります。

その他、「経験不足」を考慮すべきとする見解があり、その他の要因も相まって、消費者庁において「社会生活上の経験が乏しいことから」の要件設定をミスったのではないか、という線が穏当のように思われます。
※消費者委員会では消費者庁は財務省との折衝で力不足だったのでは?という指摘もあった

今のご時世では政治の圧力だのなんだのが想像されてしまいがちですが、すんなりと霊感商法への取消し権が修正案に入り可決成立したことからも、霊感商法を除外させるように政権側が工作していたという筋は薄いと言えます。

他方で、安倍内閣が積極的に霊感商法を取消し対象としようとしていたかというとよくわかりません。表に見える動きとしては単に「邪魔だてしなかった」というあたりが穏当のような気がします。

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