事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します

首相案件とは国家戦略特区の獣医学部新設案件:加計学園問題と行政文書

首相案件とは国家戦略特区の獣医学部新設案件

首相案件」という言葉が書かれた書面が話題です。

これは愛媛県職員が国家戦略特区申請のために官邸を訪問した際の柳瀬唯夫経済産業審議官(当時首相秘書官)との面談結果を報告するための書面であるということがわかりました。

この書面に書かれていた「首相案件」とは何なのか?国家戦略特区や行政文書の基本的な理解と併せて整理していきます。

首相案件の意味=国家戦略特区の獣医学部新設案件

首相案件」とは『国家戦略特区は内閣総理大臣が所管する案件』の意味です。

「首相案件」という言葉を誰がどういう意図で使用したかは謎ですが、普通はこのように考えまられます。なぜなら、加計学園問題は国家戦略特区の獣医学部新設案件であり、国家戦略特区は省庁利益に走った岩盤規制突破を目的として総理大臣権限としたからです。

決して「内閣総理大臣職にある安倍晋三個人が加計学園という個別主体に便宜を図る特定の案件」ではありません。

この点について誤解がまき散らされているので惑わされないように注意しましょう。

国家戦略特区の制度と内閣総理大臣=首相の関係

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国家戦略特区の所管はどこか?という問いに対しては、一応は「内閣府」となります。

しかし、諮問会議の議長は内閣総理大臣が務める事に決まっています。

ここで、「制度によって内閣総理大臣が諮問会議の議長を務めることが予め決まっている」という事が重要です。内閣府の誰かが手を挙げてできるものではありません。

例えば安倍晋三が官房長官だったとして、官房長官が「自分が議長をやります!」って言えばなれるかというとなれません。安倍晋三個人が議長職を担っているのではなく、総理大臣職にある者が議長を担うことが制度として決まっているということです。

それは内閣府の上記図や下図を見れば明らかですし、国家戦略特別区域法の条文を見ても、主語が「内閣総理大臣は」となっていることからわかります。そして、国家戦略特別区域法の32条には明確に「議長は、内閣総理大臣をもって充てる」と規定されています(国家戦略特別区域諮問会議 設置根拠)

国家戦略特区について

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/

国家戦略特別区域法
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/pdf/161001_kokkahou.pdf

国家戦略特別区域諮問会議 設置根拠
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/konkyo.html

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柳瀬唯夫首相秘書官が愛媛県の担当者と会ったか

柳瀬氏は記憶の限りは会っていないと言ってますが、仮に会っていたとしても何も問題ないのでこの点を問題視している者は何が重要かが分かっていないということになります。

柳瀬審議官が「首相案件」と発言したか

仮に会ったとして、読売の報道等では発言したとあり、その信憑性は不明ですが、これも仮に首相案件と発言していたとしても何も問題ではないということです。

なぜなら、加計学園との下交渉は国家戦略特区の獣医学部新設案件において行われたのですから、総理大臣案件=首相案件であることは自明だからです。

もちろん、仮に(二度目)首相案件発言があったとして、それは柳瀬審議官が「話を盛った」可能性はあります。しかし、その可能性は低いので取り上げる意味は薄いです。

 仮に(3度目)話を盛ったとして、それはなぜでしょうか?

要するに加計学園という特定案件で個別に便宜を図る目的ではなく、岩盤規制を突破したという実績を作るために、加計学園を激励するためではないかということです。激励は便宜供与でもなんでもないということは自明です。

以上、「仮に」を3つ挟んだ話をしました。このように、仮定に仮定を重ねた議論をしても無意味どころか有害です。こんな話題に時間を割くべきではないですね。

他の「首相案件」

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区域会議の開催、区域計画の認定状況

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/pdf/jigyou_all.pdf

首相案件」は認定事業数283もあるのです。

今治市の獣医学部新設は総理大臣案件=「首相案件」のうちの一つでしかないのです。

殊更に加計学園だけを取り上げる意味は全くないということがこれでわかります。

なお、制度として内閣総理大臣のみが諮問会議の議長を担当することになっていること自体を問題視する見解もあります。

外形的公正性からの加計学園問題の議論

この点の議論になれば、今よりは遥かに建設的なものになると思うのですが。

そして、この視点なら日本獣医師会から献金を受けている玉木雄一郎が加計問題で質疑をすることの公正性についても触れざるを得なくなるでしょう。

外形的公正性の議論は、例えば国家総合職受験者の官庁職員との接触禁止期間などがいい例です。一般的にも行われている公正性確保のための手続です。

この観点からは、国家戦略特区制度が硬直的であり、内閣総理大臣職の者のみが諮問会議の議長となるという構造になっていることが問題であるということになります。これは立法論ですので、加計学園問題の違法性の話ではありません。

「首相案件」と書かれた書面は?愛媛県知事の記者会見

中村愛媛県知事の発言の要旨は以下です。

  1. 報道に出ている書面は愛媛県の職員が作成したもの
  2. 書面は職員が口頭報告のために作ったもの
  3. 備忘録として書いたメモ
  4. そのため愛媛県に保管義務はない
  5. 現時点では愛媛県が保管していない
  6. メモの記述内容の真実性については関知していない
  7. 関係省庁への説明の際に用いられた可能性はあるかもしれない

重要なのは「保管義務が生じるような公文書・行政文書ではない」ということ。

要するに単なる個人の手控え、メモ書きに過ぎないということです。

これを「文書」と言う表現をすることはミスリードです。

したがって、以下の記事は説明不足であり、印象操作が疑われます。

魚拓:http://archive.is/qT8Zm

https://www3.nhk.or.jp/news/special/jyuui_gakubu_shinsetsu/

なお、首相案件と書かれていた書面は以下です。

朝日新聞2018年4月10日朝刊

朝日新聞2018年4月10日火曜日朝刊

朝日新聞2018年4月10日火曜日

朝日新聞は首相案件の書面の日付を隠している?

上記は朝日新聞のものですが、毎日新聞のものは以下になります。

ネットではこの書面が虚偽ではないか?と言う意見もありますが、どうでしょうか?

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URLから毎日新聞だということがわかります。

日付が遅い?手書きは問題?

朝日新聞と比べると毎日新聞は「報告・伺」という左側の書面の作成日が明らかになっている点が異なります。日付は平成27年(2015年)4月13日となっています。

愛媛県の職員が官邸で会議をしたのは平成27年4月2日の話です。「それから11日後に報告した」ということがこれで明らかになりますが、ここからこの書面が作成された日付を直ちに判断することはできないと思います。

会見でも作成者は明確に記憶していないということで具体的な作成日は不明でした。確かに本人が作成したと言っているということですから、現時点ではそれを信じるべきでしょう。したがって、この書面自体が虚偽とするのは早計に過ぎると思います。

この書面が存在していても何らおかしい話ではないのですから。

また、報告日が手書きである点についても、報告する日時が近いことは分かっていても決まってなかったためという可能性は残ります。予めメモを早い段階で書いておき、報告日を後で記入することで備忘録として活用する意図だったのかもしれません。

いずれにしても作成者本人に聞かないと分かりませんし、聞いても覚えてるかはわかりません。

字体(フォント)が混ざっている?

太字部分がゴシック体で、通常文字の部分が明朝体であるという指摘があります。

ここで、役所ではゴシック体で書くという噂がありますが、全国どこでも限定されているということはありません。自治体内では同じような設定のPCを使うでしょうから、その自治体の文章においては何らかのフォントに統一されているというだけの話でしょう。

しかも本件では組織として閲覧するものではなく、個人的なメモ書きに過ぎないのですから、フォントが異なっていたとしても別段おかしなことを意味するとはいえません。

それにしても、なぜこの書面がメディアの手に渡ったのか?は気になりますが。

首相案件の書面は行政文書?

愛媛県は当該書面を保管義務がないものと判断したとのことです。

では、保管義務があるものとは何かというと、それは「行政文書」であることが要件です。では、「行政文書」とは何なのか?公文書管理法の規定を確認しましょう。

公文書の管理に関する法律(公文書管理法)
http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=421AC0000000066

行政文書の定義を記述している規定で重要なのは以下の部分です。

公文書管理法2条4項本文

この法律において「行政文書」とは、行政機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書(図画及び電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られた記録をいう。以下同じ。)を含む。第十九条を除き、以下同じ。)であって、当該行政機関の職員が組織的に用いるものとして、当該行政機関が保有しているものをいう。

本件で言えば、行政機関の職員が職務上作成した文書であることは明らかですから、組織的に用いるものとは何か?が問題になります。行政文書の範囲について示した閣議決定があるので見ていきましょう。

行政文書の範囲
http://www8.cao.go.jp/koubuniinkai/iinkaisai/2015/20151028/20151028haifu1-5.pdf

◎衆議院議員中川秀直君提出仙谷官房長官の「私的メモ」の定義に関する再質問に対する答弁書(平成22年12月7日閣議決定)
一、五及び六(公文書管理法における「組織的に用いるもの」の解釈)について

一般論としては、公文書等の管理に関する法律(中略)において、どのような文書が「組織的に用いるもの」として行政文書に該当するかについては、行政機関の保有する情報の公開に関する法律(中略)の場合と同様に、文書の作成又は取得の状況、当該文書の利用の状況、その保存又は廃棄の状況などを総合的に考慮して実質的に判断する必要があるものと考える

要するに具体的事案毎に判断されるものということです。ただ、このページには事例が書かれているのでそれを見れば本件の場合はどうなのかがわかります。

事例では、検討会の議事録・会議録は作成されていなかったが担当者がメモを取っていたと言う場合に、組織として活用されていなかったために個人的なメモと判断され、行政文書にあたらないとされました。

今回の書面も関係部署内で内々に回し読みできる状態にあった可能性はあるだろうと愛媛県知事は予想してますが、愛媛県の庁舎内・職員間で情報共有するためにシステムを通して閲覧可能であったということは無かったようなので、明らかに個人的なメモの範囲を出ません。ファイル化されていたということも現在のところ事実として出てきていません。よって、「組織的に用いるもの」という行政文書の要件をみたさないことになります。

したがって、当該書面は行政文書ではないので、保管義務はないと判断されたということになります。

※追記:農水省で同様の書面が見つかったようです。ただ、この場合は農水省の判断になるので、愛媛県において行政文書にあたるかという事とは無関係です。

海外での行政文書の扱い

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行政文書の範囲
http://www8.cao.go.jp/koubuniinkai/iinkaisai/2015/20151028/20151028haifu1-5.pdf

「日本の文書保管は諸外国に比べて遅れている」 という論がありますが、そうでしょうか?

上図の※欄には、アメリカにおいては概略メモ等でも「連邦記録」として保管義務があるとされています。これはかなり厳しく管理する規定ですが、2つの要件をみたす場合が明示されています。

1 作成者のみではなく、業務目的のために職員間で回覧したり、又は入手可能な状態にしたりしてある場合

2 貴重な情報が含まれる場合(例えば機関の基本的な方針、意思決定等に関する公式見解等)

今回の件にあてはめると、まず、職員間で回覧していたものではないということは既に述べました。関連部署の職員間で共有していた可能性は残りますが、そうだとしてもどのような用いられ方をしていたかによって結論は異なるきがします。

また、柳瀬審議官との面会の際には何か意思決定をしたわけではないということは愛媛県知事も会見で言っています。※追記:関係省庁での説明の際に利用された可能性はあると中村知事も言っており、農水省での発見によりその可能性は高まったが、メモ自体は意思決定や公式見解を表すものではないためこれには該当しないでしょう。

したがって、アメリカの基準であっても今回の書面は保管義務がないということになります。

日本の文書管理制度をアメリカのように個人的なメモも保管義務が発生し得るようにするべきかは議論があってもいいですが、今回の事案がきっかけにはなり得ないということはわかるでしょう。

まとめ:加計学園問題を長引かせないために

  1. 国家戦略特区の制度上、内閣総理大臣の職にあるものが諮問会議の議長をする
  2. そのため、国家戦略特区はすべて総理大臣案件=首相案件
  3. 加計学園も国家戦略特区の話なので、首相案件と言って問題はない
  4. 首相案件は「内閣総理大臣職にある安倍晋三個人が加計学園という個別主体に便宜を図る特定の案件」では決してない。
  5. 首相案件と書かれた書面は行政文書ではない
  6. 行政文書ではないので保管義務もない
  7. 書面の内容の真実性は未検証だが、仮に事実であっても何も問題はない

国家戦略特区の制度を理解しましょう。

制度の理解を誤魔化すNHKのような記事は解説ではなく「煽動」「印象操作」に過ぎないので、そういうのに騙されないようにしっかりと理解しましょう。

以上