NHKから国民を守る党の立花孝志が東京MXとマツコデラックスに対して原告1万人による集団訴訟を提起することを提案しました。
これは不法行為になるでしょうか?
- N国立花 MXとマツコに原告1万人集団訴訟:本人は原告に加わらず
- 侮辱の対象の特定性・具体性
- 民事訴訟の提起が違法になる場合
- 余命ブログを発端とした弁護士への大量不当懲戒請求事件
- NHKや朝日新聞の1万人集団訴訟は単なる視聴者・読者
- まとめ:N国支持者は全力で逃げて
N国立花 MXとマツコに原告1万人集団訴訟:本人は原告に加わらず
MXとマツコさん相手に原告1万人の集団訴訟提訴へ 「N国支持の有権者侮辱」理由に - 毎日新聞
立花氏はMXの番組でマツコがN国の支持者に対して「気持ち悪い人たち」「ふざけて(票を)入れている人もいる」「宗教的な感じもある」などと言ったことについて、N国の支持者に対する侮辱であるとして、原告を募って訴訟提起することを提案しています。
注意すべきは【立花氏本人は原告団に加わらない】ということ。
上記のマツコの発言は立花氏に対するものでもないし、公人であるためにある程度の批判は受け入れるということのようです。
このような訴訟は認められるのでしょうか?
侮辱の対象の特定性・具体性
刑事の話になってしまいますが、名誉毀損罪や侮辱罪(刑法230条、231条)は、特定の保護法益の帰属主体に対するものである場合に成立します。
たとえば具体的な個人や法人に対する言動の場合には特定性・具体性が欠けることはありませんが、「日本人」全体に対して何か憎悪的な文言を投げかけても、日本国においては刑事罰には相当しません。
このように、誰の権利が侵害されたのか?が訴訟では重要なので、対象の特定性・具体性が必要になってきます。
この考え方は民事も同じです。
今回は「N国の支持者」が侮辱対象として特定性があるか?が最初の争点になります。
「NHKから国民を守る党」としても「同党代表たる立花孝志」としても訴訟提起をする気が無いようなので、単にN国の構成員・一般会員・一般の支持者らが訴訟提起することになります。
一般に、「あの会社の社員は気持ち悪い」などと個人ではなく集団を指して侮辱的な文言を投げかけたとしても、その会社の社員個人が侮辱の被害者として訴訟提起することは考えられない上に、単なる一般会員や一般の支持者らが侮辱を受けたと主張して通ることは無いでしょう。常識的に。
特に一般の支持者はどうやってN国の支持者であるということを証明するのか?という話になってきますから、そもそも無理な話です。
民事訴訟の提起が違法になる場合
立花氏が提案する請求額の総額は1億円(1万円×1万人)を予定とのことです。
よって、この集団訴訟は東京MXとマツコデラックスに金銭的ダメージを与える目的でなされるものであるとされる可能性があるため、最悪の場合には訴訟提起そのものが不法行為になる可能性があります。
最高裁判所第3小法廷 昭和60年(オ)第122号 損害賠償請求事件 昭和63年1月26日
民事訴訟を提起した者が敗訴の確定判決を受けた場合において、右訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは、当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係(以下「権利等」という。)が事実的、法律的根拠を欠くものであるうえ、提訴者が、そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知りえたといえるのにあえて訴えを提起したなど、訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるものと解するのが相当である。
- 原告敗訴の確定判決
- 訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠く
判例によれば、この場合に訴訟提起そのものが不法行為として違法になります。
さて、今回の事案で、もしも会員でも何でもない一般の支持者であると主張するものが侮辱を受けたとして原告として名を連ねた場合、東京MX及びマツコから反訴で訴訟提起自体が不法行為であるとされる可能性があります。
これって何かと似てませんか?
余命ブログを発端とした弁護士への大量不当懲戒請求事件
つい昨年の話ですが、「余命ブログ」(一度閉鎖後復活)の信者らがブログ主の呼びかけに応答して弁護士への懲戒請求をしたところ、まったく事実的法律的根拠を欠いていたために逆に不法行為訴訟を提起され、敗訴したという事件がありました。最も多く懲戒請求を受けた弁護士で3000件以上だったので大量懲戒請求事件などと呼ばれています(全員まとめて訴訟提起したわけではないので、現在も提訴は継続中らしい)。
この事件、ブログ主の「余命」は懲戒請求をしていないことが後に判明しました。
N国の場合は【立花氏本人は原告団に加わらない】ということが事前に明示されているものの、「呼びかけた者が争いに加わらない」という状況としては似通っています。
不当訴訟であるとされた場合には、呼びかけた者は民事不法行為ないし業務妨害罪になるのか?という事も争点になってくると思います。
大量懲戒請求事件の顛末は、1人当たり30万円(+弁護士費用)くらいの賠償が認められたことで既に提訴された分について一応の決着が付いています。
遠隔地の裁判所への出廷も必要になり、勝訴側の訴訟費用は敗訴者負担なので、トータルで見たらバカにならない金額が飛んでいきます。
MXとマツコ側にとっては旨味があるのか分かりませんので、不法行為訴訟は提起されないかもしれませんが。
NHKや朝日新聞の1万人集団訴訟は単なる視聴者・読者
なお、別の事案ですが、「1万人集団訴訟」として有名な事件との関係でN国の問題を論じている人が居るので、確認的な意味で紹介します。
平成21年4月5日,「NHKスペシャル『シリーズJAPANデビュー』」と題するシリーズ番組の第1回目として「アジアの“一等国”」と題する番組のテレビジョン放送をしたNHKに対して、本件番組中の台湾人及びその父親に関連する内容を含む放送により名誉やプライバシーが毀損されたなどと主張した台湾人数十人が不法行為に基づく損害賠償を求め、また、偏向番組によって知る権利を毀損されたと主張する視聴者1万0335名が不法行為に基づく損害賠償を求めた事案がありました。
チャンネル桜が主導した訴訟で「NHK1万人訴訟」などと言われることもあります。
最判平成28年1月21日 平成26年(受)547号、東京高判平成25年(ネ)666号を読むと分かる通り、高裁では台湾人の一部原告による一部請求は認められましたが最高裁で棄却されており、それ以前に、単なる視聴者らは具体的にどのような根拠に基づいて権利が侵害されたのかを明確にしていないとして請求棄却となりました。
N国の事案は侮辱による人格権侵害の主張と思われるので、NHK1万人訴訟とは事案が異なります。あまり参考にはならないでしょう。
また、もう一つの「1万人訴訟」としては、朝日新聞が慰安婦問題など虚偽の報道を行ったことについて日本人の人格権(その内容は結局のところ名誉権)が侵害されたとして読者らが提訴した事案があります。参考:朝日新聞を糺す国民会議
しかし、控訴審判決でも特定の個々人の社会的評価が低下したかの問題であるとされ、権利侵害は無いとされています。
まとめ:N国支持者は全力で逃げて
このように、仮に東京MXとマツコデラックス側が訴訟提起をしてきたらという前提になりますが、この訴訟の共同原告に名前を連ねることはリスクでしかないのでやめるべきだと思います。
迷ってるならお近くの弁護士に相談してからにした方が良いです。
名前と住所等が全部、東京MXとマツコ側に知れ渡ることになるということも考えてから行動しましょう。余命信者の二の舞になる前に。
以上