タイトル詐欺で読者を合法的にミスリードする方法をお伝えします。
簡単です。
事実だけを伝えれば良いのです。
- 合法的タイトル詐欺で読者をミスリードする方法
- 「野党が求めていた調査対象の実質賃金」
- 共通事業所の実質賃金
- 事実を伝えるだけでは分からない
- ミスリードしてしまった読者たち
- 他の記事は実質賃金についてどう報じたか
- 「札幌を奥地と発言」報道も事実のみを報道
- 時事通信の「奥地」報道は「事実のみ」ではない
- まとめ:「事実だけを書く」ことで人は騙せる
合法的タイトル詐欺で読者をミスリードする方法
朝日新聞の「実質賃金は当面公表せず」というタイトル部分。
これは広義の見出し(タイトル)詐欺です。
なぜなら、毎月勤労統計における実質賃金は今後も公表されるからです。
毎月勤労統計調査(全国調査・地方調査) 結果の概要|厚生労働省
ただし、「悪いタイトル詐欺」ではありません。なぜなら、リード文にはどういう意味における実質賃金であるかが書いてあるからです。
よって、この記事は誤報なのか?というと、そうは言えません。
リード文を見てみましょう。
「野党が求めていた調査対象の実質賃金」
不正調査が問題となっている「毎月勤労統計」で、野党が求めていた調査対象の実質賃金の変化率の算出・公表について、厚生労働省は26日、当面は行わないとの見解を明らかにした。参院予算委員会の理事会で示した。
「実質賃金」ではなく、「野党が求めていた調査対象の実質賃金」です。
限定がかかっているというのがわかります。
この問題について継続的に情報を見ていた人であれば、これで理解できます。
え?何のことかわからない?
では、続きの文を読んでみましょう。
共通事業所の実質賃金
「実質賃金」は働き手の実質的な購買力を表す。野党は、より賃金変化の実態をつかむために、毎月勤労統計で2017年と18年に続けて対象となった「共通事業所」の実質賃金の変化率の算出・公表を要求。厚労省は3月中に中間的な結論を出すと約束していた。
【毎月勤労統計で2017年と18年に続けて対象となった「共通事業所」の実質賃金】
これが「当面公開しない」とした「実質賃金」の中身です。
『「続けて対象」とは何のことか分からない』
という人も居ると思います。
前提知識として、野党が騒いでいるのは「毎月勤労統計不正問題」とは無関係です。
それは500人以上規模の事業所の話であり、全数調査をします。
野党が騒いでるのは499人以下の中規模事業所についての話です。
それらは数が多すぎるのでサンプル調査をします。
ずっと同じ企業だけ調査すると不具合が生じるので定期的に入れ替えます。
入れ替え方法は総入れ替え方式と部分入れ替え方式があり、これまでは前者でしたが、2018年からは後者の方式になりました。
すると調査対象から外れず継続して調査対象になる企業が存在することになります。
それが「共通事業所」という意味です。
野党側は、そのような企業だけの数値を出すよう要望していたということです。
「毎月勤労統計不正問題」とは何か?については以下で詳述しています。
事実を伝えるだけでは分からない
このように、「事実だけ」を伝えると、前提知識の無い読者にとってはまったく理解できない文章になってしまいます。
しかし、読者の多くは記事を完全に理解しようとは思ってません。
なので、自分の前提知識に基づいて理解できる範囲で記事を理解するのです。
すると「実質賃金は当面公表しない」というのを字義通りに理解する人が出てきます。
実際の例を以下にまとめました。
ミスリードしてしまった読者たち
すげえ。近代国家やめたか。
— 🌻こたつぬこ🌻 (@sangituyama) March 26, 2019
厚労省、実質賃金は当面公表せず 統計不正調査問題:朝日新聞デジタル https://t.co/qUHMZMOF8z
確か実質賃金が公表されなくなったのは、この100年間で大平洋戦争末期だけじゃないかな。 https://t.co/JcfNWwUZiY
— 🌻こたつぬこ🌻 (@sangituyama) March 26, 2019
実質賃金を公表しないことは、不正を隠すことだ。これは、不正の上に更に不正を重ねる行為だ。
— じばおっち (@BhAARZTulP7YzAD) March 26, 2019
「嘘つき安倍晋三・自民党」が又
— 悪人d (@y77k99) March 26, 2019
国民を騙す
アベノミクス失敗の象徴「実質賃金減少」を隠すため、統計公表をやめる?
もはや日本は三流国家
統一地方選挙で「安倍の手下」
自民党議員候補者を落選させ、自民党を国会から退場させなければ、日本は助からない
. pic.twitter.com/MYPbJFg8Rq
実質賃金は当面公表しないとか、もうそれ国民の福祉や知る権利に反して、安倍政権の主張をひたすら忖度するってことじゃないか。
— しんめいかい/M.Kato (@shinmk) March 27, 2019
【悲報】厚生労働省、実質賃金のデータを非公開に・・・ 「実質賃金の算出・公表は当面しない」 https://t.co/TlD7zFkF0P @情報速報ドットコムさんから
— 酔男 (@nomitetsu) March 27, 2019
実際に上記のユーザーがどういう意味において理解していたかはともかく、ツイートの文言から通常の理解において「実質賃金は当面公開しないと字義通りに理解している」と読めるものを挙げました。
これが全てではありません。
他の記事は実質賃金についてどう報じたか
朝日新聞と並び称される毎日新聞の記事です。
(はてなブックマーク・はてなブログをブラウザに組み込んでる場合のみかもしれないが)左下のURLの近くに「〇〇users」という数字がつきますが、朝日新聞と比べるとほとんどないのが分かります。これは「はてなブックマーク」の数のことです。実際、はてなブックマークのサイトに行くと、実質賃金にかんする記事は、朝日新聞のものが上位表示されています。
※一応画像も載せます。
朝日新聞の記事ページに「はてなブックマークボタン」が設置されており、毎日新聞の記事ページはそうではないということが影響していると思いますが、同じ話題でもこれほどまでに読まれる率が異なるのです。
さて、毎日新聞の記事はタイトルで「参考値」と書いてますし、リード文でも共通事業所であることが分かるようになっています。
毎日新聞のタイトルとリード文は「事実だけを記述」してはいますが、別の視点からは、「読者に判断材料を与えている」という性質があります。
それにより、読者がミスリードするということが減るのです。
ただ、一方で読者が冷静な判断をすることになるので、朝日新聞の記事のようにSNS等で大拡散されにくいものになっていると思います。
「札幌を奥地と発言」報道も事実のみを報道
麻生太郎副総理兼財務相は25日の参院予算委員会で、札幌市を「奥地」と表現し、質問した北海道選出の徳永エリ氏=国民民主党=から「適切ではない」と指摘される場面があった。
北海道新幹線の延伸にからみ、麻生氏は「この間函館に行ったが、(札幌の人に)『奥地からようこそ』と言っているのを見て、函館はプライドがあるなと思って聞いていた」と発言。一方で「もう奥地の札幌の方が奥地ではない」とも答弁した。
こうした発言に対し徳永氏は、「北海道の人は本州の人を内地と言うが、奥地という言葉は使わない。適切ではない」と反論した。
短いので全文を載せましたが、この記事は「事実のみ」 を記述しています。
タイトル詐欺でもありません。
徳永エリ氏が麻生大臣の「奥地」発言を問題視したのは事実です。
しかし、この件については「奥地」と表記してもまったく問題が無い上に、実は過去に朝日新聞も「奥地」と記述していたということが判明しています。
問題がないことなのに敢えて記事化して取り上げた上に、『野党「適切ではない」』という文言を載せるだけで、何か悪いことを言っているように見えます。実際、そのように受け取った人も多くいました。
時事通信の「奥地」報道は「事実のみ」ではない
なお、「奥地」報道の初出は時事通信ですが、こちらは以下のように記述しています。
麻生太郎財務相が25日午前の参院予算委員会で、JR北海道に対する国の財政支援をめぐる質疑の中で、札幌市を「奥地」と表現する場面があった。質問した国民民主党の徳永エリ氏(北海道選出)は「適切ではない」と批判。北海道内で反発を呼ぶ可能性もある。
これは時事通信の「主観的評価」が入り込んだ記述になっています。
時事通信は確かに「タイトル詐欺」ではありませんが、その中身は時事通信の「評価」によって読者を誘導しようとしています。
そのせいか否か、はてなブックマークの数は時事通信の方が現時点では多いです。
はてなブックマークについているコメントも、現時点では麻生批判がほとんどです。
まとめ:「事実だけを書く」ことで人は騙せる
いかがわしかったでしょうか?
よく、「メディアは事実だけを報道してればいいんだよ」と言われます。
その結果がコレですよ。
事実は事実だけでは、読者(受け手)の前提知識や感性によって、いくらでも異なる「評価」になり得ます。
事実だけを報道することを全部否定するわけではありません。
しかし、事実に加えて適切な評価を加えたり、そうでなくとも判断材料を提供するということが、凡そ世の中の事実を伝える者には必要ではないでしょうか?
書いてる内容を何も考えずに読み、受け取ればそれでOKという世の中であれば、どんなに楽かと思いますが、そうはメディアが卸さないようです。
追記:事実を伝えているが、重要な事実は伝えない事で読者を騙した例を以下で取り上げています。
以上