毎日新聞が4日連続で1面トップで報じている「特区ビジネス・特区審査隠し」
特区ワーキンググループの原英史氏が反論してもなお報じる毎日新聞ですが、14日に特区WGが「選定」をしていたとする根拠を示しました。
それについても原氏が反論していますが、美容系法人の件に関して、特区WGや特区諮問会議の議事録等を調べた結果を指摘します。
- 原英史の反論「提案を受けるのはアイディアを広く求める目的」
- 毎日新聞の再反論
- 原英史の再々反論「ワーキンググループは規制改革プロセスにおいて審査・選定するものではない」
- 国家戦略特区ワーキンググループの役割
- 当初のWGの活動方針は「選定」も含まれていた
- 区域指定等の「絞り込み」「選定」は諮問会議の役割に
- 毎日新聞の根拠は集中受付期間のもの
- WGの「選定」はせいぜい特区の第一次指定まで
- まとめ:特区審査隠し・特区ビジネスという実態は疑わしい
原英史の反論「提案を受けるのはアイディアを広く求める目的」
「虚偽」「根本的な間違い」の『毎日新聞』記事に強く抗議する:原英史 | 記事 | 新潮社 Foresight(フォーサイト) | 会員制国際情報サイト
補助金申請などのプロセスの場合、受け手と申請者は、「試験官と受験生」の関係だ。受け手は、申請を受けて厳正に審査し、どれを採択するかを選ばなければならない。だから、両者は遮断されなければならず、受け手が特定の申請者に助言するようなことはあってはならない。
一方、規制改革のプロセスで提案を受けるのは、現行規制の問題や背景事情を理解し、改善のアイディアを広く求める目的だ。規制改革プロセスの本丸はその先にある規制所管省庁との折衝で、提案のヒアリングは折衝の準備のために行う。そして、規制所管省庁との折衝を経て、規制改革が実現すれば、提案者だけではなく、社会全体がその利益を受ける。提案者に限らず、ほかの事業者も新たなルールの適用を受ける。
このことは内閣府のページ等でも確認でき、以下の記事でまとめています。
【毎日新聞の捏造】原英史国家戦略特区ワーキンググループ委員と特区ビズの関係
毎日新聞の再反論
しかし、毎日新聞は原氏の反論を読んだ上で、11日、12日、13日に続き、14日も以下のように報道しています。
毎日新聞 令和元年6月14日 朝刊4面
原氏は「毎日新聞の記事は虚偽で間違い」との見解を示した11日のニュースサイトで、「WGは審査・選定を行っていない」と主張した。しかし、内閣府が公表している特区の提案募集要項には「WGで選定したものについて、委員によるヒアリングを実施する」と明記。原氏も13年11月の衆院経済産業委員会に参考人として呼ばれ「WGで規制改革課題を選定した」とWGの役割を強調していた。
これらは以下のページで確認できます。
国家戦略特区等における新たな措置に係る提案募集について(平成29年10月24日~12月4日)
提案の取扱い提案の取扱い
(1) ご応募いただいた提案は、ワーキンググループ(以下「WG」という。)において選定し、適宜、WG委員によるヒアリングを実施します。ヒアリング対象となる提案者に対しては追って連絡いたします。その上で、WG委員による関係府省庁のヒアリング等を実施し、関係府省庁と折衝を行い、最終的には、国家戦略特別区域諮問会議における調査審議を通じて、提案に係る対応方針を決定します。
第185回 衆議院 経済産業委員会 第5号 平成二十五年十一月十二日
○原参考人 皆様、おはようございます。
政策コンサルティングの会社を運営しております原でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
私は、ことしの五月からは、新藤大臣のもとで、国家戦略特区の制度設計を行うワーキンググループの委員も務めております。この視点も交えて意見を申し上げたいと思います。
ー中略ー
企業実証特例制度では、条文を見る限り、制度の仕組みは、事業所管省庁から規制担当省庁に特例措置の整備を要請するというだけになっているように見えます。それだけで規制改革が進むのであれば、規制改革会議、過去のこうした会議はとっくに任務完了していたのでないかと言うこともできようかと思います。
第二に、取り扱うべき規制改革課題を適切に選定できるかという問題であります。
従来の取り組みでは、例えば、定期的に集中提案受け付け期間を設けるなど、透明性ある提案募集と選定プロセスを設けていました。
今回の国家戦略特区の場合も、ことし八月から九月にかけて提案を受け付け、ワーキンググループでヒアリングを行い、取り組むべき規制改革課題を選定いたしました。
提案資料などは基本的に公開されています。もちろん、民間企業の提案など、当事者が非公開を希望される場合もありますので、こういった場合は全部または一部を非公開としていますが、それ以外は公開している。
この結果、例えばの話、本来取り扱うべき規制改革課題が何らかの圧力で検討課題として落とされるといったようなことが仮にあれば、公開資料で相当程度明らかになってしまうということになっているわけであります。
こうした一定の透明性あるプロセスが設けられるのかどうか、これも課題であると思います。
これに対して、原氏は以下の再々反論をしています。
原英史の再々反論「ワーキンググループは規制改革プロセスにおいて審査・選定するものではない」
原英史 - 毎日新聞社への内容証明送付、記事への反論3(6月14日) 1、毎日新聞社への内容証明送付... | Facebook
毎日新聞社への内容証明送付、記事への反論3(6月14日)
1、毎日新聞社への内容証明送付
本日6月14日、毎日新聞社あてに、代理人(喜田村洋一弁護士ほか)名で、内容証明を送付しました。配達を確認次第、文面を公表します。2、毎日新聞記事への反論3
毎日新聞は、私の反論(11日)及び反論2(12日)を公表後も、13日・14日に続けて記事を掲載し、その中で「原氏が協力する特区ビジネスコンサルティング」などの不当な記載を続けている。極めて遺憾である。また、14日記事の中では、私が反論で「審査・選定を行っているのではない」と書いたことに対し、「提案募集要項には『WGで選定したものについて、委員によるヒアリングを実施する』と明記」されているなどと、再反論らしき記載がある。全く的外れだ。
繰り返すが、私が言っているのは、規制改革のプロセスでの提案ヒアリングは、「審査・選定」のために行っているのではない、ということだ。提案ヒアリングを経て、この提案は採択する、こちらは採択しない、といったことを決するわけではない。提案を求めるのは、現行規制の問題や背景事情を理解し、改善のアイディアを広く求める目的だ。
一方で、ヒアリングを実施するに先立ち、例えば「規制改革とは無関係の提案につき話を聞く意味が乏しいのでヒアリング対象としない」などといった意味での「選定」があるのは当たり前だ。
私の反論文をまずきちんと読み、記事を書いていただけたらと思う。
要するに、提案内容の中身の実質的な判断はしておらず、そもそも規制改革の提案が含まれて居るか?という形式的な判断をするという意味において「選定」はあったと言える、ということです。
なぜ、原氏と毎日新聞には認識のずれが発生しているのだろうか?
ここが本エントリの検証対象です。
それは、国家戦略特区ワーキンググループが、国家戦略特別区域法の施行や諮問会議の発足に先だってヒアリングを行っていたことが原因と思われます。
国家戦略特区ワーキンググループの役割
これは平成26年2月の閣議決定当初の国家戦略特区基本方針の文章です。
そこでは、「WGが提案募集した提案等を参考に」と、「参考」にとどめています。
実際に指定するのは内閣総理大臣(諮問会議)となっています。
先ほど引用した国会議事録は平成25年(2013)年11月12日の話です。
その時点では、国家戦略特別区域法も成立しておらず、また、国家戦略特区諮問会議も発足していませんでした。
国家戦略特別区域法の成立は平成25年(2013年)の12月7日。
諮問会議の第一回は平成26年(2014年)の1月です。
当時のワーキンググループは、国家戦略特区の制度設計をどうするかについても含めて検討するために、平成25年の8~9月に「ヒアリング」を行っていたのです。
この経緯は【平成25年度ヒアリング】の資料の中で書かれています。
特に【「国家戦略特区」に関する提案募集要項 】と【平成26年閣議決定時:国家戦略特区基本方針】を読めば、WGのスタンスが書かれています。
当初のWGの活動方針は「選定」も含まれていた
平成25年5月10日の第一回ワーキンググループ議事概要の配布資料では、上記のように規制改革項目の選定までワーキンググループの役割であるという「案」が示されています。
また、5月時点でのスケジュールは以下のようなものとなっていました。
上図からも、「ヒアリング実施対象の絞り込み」「プロジェクト候補案の絞り込み」などがWGの役割として明記されています。
この時点では平成25年8、9月に期間を区切って提案募集をする予定であり、実際にそれは実行されました。
8,9月のヒアリングの募集要項には以下の記載があります。
(2)「国家戦略特区ワーキンググループ(WG)」によるヒアリング
提案は順次受け付け、WGにおいて選定したものについて、WG委員によるヒアリングを実施いたします。
詳細については、ヒアリング対象となるプロジェクトの提案者に対して追って連絡いたします。
同様の記述は平成25年6月11日の第四回配布資料にもありました。
「有望と思われる特区プラン(地域・プロジェクト)の候補を、WGにて選定」
とまで書いています。
これを見る限り平成25年中に特別区域の指定が行われる予定で動いていたようです。
ただ、この資料も、「国家戦略特区の制度設計 地域及びプロジェクトの選定に向けた、当面の基本方針(案) 」という名称であり、あくまで「案」に過ぎませんでした。
実際には上図の「2.ヒアリングの実施」のところに関係省庁・有識者・民間事業者等のヒアリングが詰め込まれ、民間事業者等のヒアリングは8,9月に行われています。
区域・プロジェクトの指定も平成25年度内に行う予定となってますが、そのようにはなりませんでした。
区域指定等の「絞り込み」「選定」は諮問会議の役割に
現実には区域の指定は平成26年5月1日に第一次指定が行われています。
区域計画についてのページに、各区域で事業が指定された日付が書かれています。
これらは当初のスケジュールよりもかなり後ろ倒しになっています。
その間に国家戦略特別区域法の施行(平成25年12月)、国家戦略特別区域諮問会議の発足(第一回は平成26年1月)、国家戦略特別区域基本方針の策定(平成26年2月)などが行わました。
議事録を見ると、その後、制度設計のイニシアティブはWGから諮問会議に移ったようです。これ以降のWGの議事録は、ヒアリング以外にはなくなりました。
「絞り込み」も、WGで予め選んでいたものを対象にするということは読み取れず、WGがヒアリングをした民間事業者や自治体の提案を参考に、国家戦略特区諮問会議が絞り込みを行うということが伺えます。
その後、提案募集は広く随時受け付けになり、それとは別に年に2回の「集中受付期間」を設けて「新たな措置」の募集を行っています。
毎日新聞の根拠は集中受付期間のもの
産業競争力の強化と国際ビジネス拠点の整備を目的とする「国家戦略特区」制度につきましては、国家戦略特別区域法(平成25年法律第107号)第5条第7項及び国家戦略特別区域基本方針(平成26年2月25日閣議決定)第六に基づき、民間事業者や地方自治体から広く提案募集を随時行っているところですが、他方、規制改革の実現を加速するため、締切を設け集中的に規制改革事項を受け付ける、いわゆる「集中受付期間」を設けることとしております。
毎日新聞が根拠とした「特区の提案募集要項」とは、この「集中受付期間」に行われるヒアリングについての記述を指していると思われます(文言が完全一致ではないが、随時募集の要項というものは見当たらないため)
特区ビズが200万円を受け取ったとされる「美容系学校法人」は、毎日新聞の6月11日の記事によれば平成27年(2015年)1月に申請をしていると書いてあるところ、当該期間は国家戦略特区の集中受付期間ではありません。
もっとも、規制改革提案の状況のページでは、当該期間に集中募集をしているものとして「近未来技術実証特区におけるプロジェクト」の募集があります。
しかし、「提案は、順次受け付け、「近未来技術実証特区検討会」(以下、検討会)において選定したものについて、適宜、検討会委員によるヒアリングを実施いたします。」とあることから、ワーキンググループは無関係です。
WGの「選定」はせいぜい特区の第一次指定まで
WGが「絞り込み」「選定」を行っていると言うことができても、それはせいぜい平成26年5月の第一次区域指定に関するものまでに限る話であって、それ以降の追加の区域指定や具体的なプロジェクトの対象を選ぶ際には、WGが実質的な審査・選考を行っていたというわけではないでしょう。
今回報道されている「美容系学校法人」は、平成27年(2015年)以降の話ですから、WGの性格が発足当初からは変遷した状況下です。
よって、過去のWGにおいて、区域の「選定」やプロジェクトの「絞り込み」が行われていたとしても、それは制度設計の最中において、後に諮問会議が担った役割をWGが一時的に担っていたに過ぎないと言えそうです。
まとめ:特区審査隠し・特区ビジネスという実態は疑わしい
- 特区WGは特区諮問会議に先だって発足し、制度設計も含めて議論していた
- 特区WGがプロジェクトの選定まで行う「案」は存在した
- 平成26年の特区の第一次指定まではWGが「絞り込み」を行ったと言い得る
- しかし、それ以降は特区諮問会議に主導権が移り、WGが選定・絞り込みを行っているということは基本方針等からは読み取れない
- 今回毎日新聞が問題視しているのは平成27年以降の事業の話なので当初のWGの方針は無関係
- ワーキンググループが「選定」を行うという記述があるのは「集中募集期間」の要項だが、今回問題になっている提案者はこの期間内の特区申請者ではない。
- よって、集中募集期間の要項中の「選定」が規制改革プロセスの実質判断を指していようが、毎日新聞が問題視していることが正しいという根拠にはなり得ない。
今後、仮に毎日新聞が私がここで挙げた制度設計時のWGの運営方針案の図を出してきて、「それが証拠である」と言い張っても、それは「案」に過ぎないし、過去のWGと諮問会議発足後のWGでは役割が異なりますから、証拠には成り得ません。
以上