事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

立憲民主党の女系天皇容認の論点整理は平成17年の有識者会議報告書の焼き直し

 

立憲民主党の論点整理は女系天皇論

立憲民主党が「論点整理」と称して女系天皇容認論を党内で取りまとめました。

【常任幹事会】安定的な皇位継承を考える会から論点整理の報告 - 立憲民主党

ツッコみ所満載なので、指摘していきます。

立憲民主党の論点整理は平成17年の有識者会議報告書の焼き直し

結論から言うと立憲民主党の皇室制度論は

平成17年の皇室典範に関する有識者会議の焼き直しです。

そのデタラメ振りは以下で既に指摘しています。 

【女系天皇・女性天皇・女性宮家】皇室典範に関する有識者会議の報告書のデタラメぶり

なぜ焼き直しなのか?

それは考え方のセッティングにあります。

安定的な制度を第一に持ってくる謎

 

立憲民主党の女系天皇容認案

①制度の安定性、②歴史と伝統、③国民の理解と支持

立憲の基本的な視点はこの順序ですが、平成17年の有識者会議報告書の基本的な視点とは、①と③とで入れ替わっているだけです。

「安定的な制度」をなぜ、歴史の先例よりも上位に持ってくるのか?

その理由づけがまったくないのが立憲民主党らしいですね。

曲がりなりにも平成17年の報告書は、憲法1条の「国民の総意」を根拠にしていましたが、立憲民主党は党名が「憲法に基づく」意味なのに、憲法をガン無視しています。

「今現在困ってることはこれだから、2600年の歴史を持つ皇室についても、今現在の問題意識に引っかけて考えよう」

こういうモノの考え方のようです。

しかし、男系男子による世襲という「不安定な」継承をし続けたのが歴史の先例です。

それを先人たちが一所懸命になって守ろうとしてきたからこそ価値を見出しているのです。それは継体天皇・光仁天皇・後花園天皇、光格天皇御即位の際に検討を重ねた記録があることからも推し量ることができます。

世継の可能性が不安定なものを含むからって女系も含めることで「安定」だと言うのは、話が逆さまですよね?

日本社会の晩婚化という破綻したロジック

それでも立憲はそれなりに考えたのでしょう。

「安定的な制度」が第一だからという理由だけでは男系男子の継承を変更する理由としては弱いと考えたようです。

そこで、「男系男子の継承は難しい」⇒「だから女系」という論法を取っています。

そのために独身で子供がいない者も含めた指数である合計特殊出生率を用いています。

これも、平成17年の有識者会議報告書とまったく同じ手法です。

完結出生児数を用いれば、異なる印象になるでしょう。

完結出生児数、合計特殊出生率

完結出生児数とは、結婚持続期間が15~19年の初婚同士の夫婦の平均出生子供数です。

2015年時点で1.94ですが、生活が比較的安定している皇室においてはこれよりも高い数値になることが見込まれるでしょう。

なぜ、この数値を出さないのでしょうか?

結局、平成17年の有識者会議報告書も、今回の立憲民主党も、「日本社会の晩婚化」という、ほとんど関係ない事象をもってきて男系維持は困難という前提を無理やり作り出しているに過ぎないのです。

女系天皇(雑系天皇)を積極的に容認する立憲民主党

なお、女性天皇のみを認め女系天皇を認めない場合、一代限りの継承が可能になるだけでそもそも永続的安定性の確保につながらない。

直系優先の原則がとられてきたが、女性天皇のみを認め女系天皇を認めないとすれば、傍系の継承により天皇の系統が比較的頻繁に変更される結果となり、望ましくないと考える。

むしろ、女性や女系の皇族にも皇位継承資格を拡大して、皇統に属する皇族による「「世襲」という本質的要請を維持しながら安定的な皇位継承を確保することは、現代の視点から歴史と伝統に厚みを持たせ、その本質的要請に応えるものと考える。

立憲民主党は、要するに歴史の先例よりも、男系・女系がごちゃまぜになった「雑系」を認めた方が、世継ぎの心配をしなくて良いから、という理由を最優先にしています。

「傍系継承が望ましくない」と考える理由も「親子の継承が自然だから」という謎の世界観を持ち出しています。

しかし、これまでの125継承例の内、直系継承は70例、兄・姉・弟間の継承は27例、その他の継承が28例あります。

傍系継承が多数行われてきた歴史を完全に無視しています。

悠仁親王殿下を「後回し」:皇位継承順位を改変する

立憲民主党は皇位継承順位を愛子内親王優先

「天皇の直系子孫を優先し、出生順に皇位継承順位を設定する」と言い切っています。

ですから、この理屈で言えば皇位継承順位は愛子内親王殿下が1位となります。

悠仁親王殿下がいらっしゃるのに「お前は後だ」と言うわけです。

ただ、「現在の皇族女子については配慮」と書いてあります。

そのことの意味は論点整理を読んでも判然としません。

現状では皇統が途絶えることを前提にする不敬な考え

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立憲民主党はなんで今の時点で男系なら皇統が途絶えると断定しているのか?

悠仁殿下もいらっしゃるのに、こんな失礼極まりないことがあるのでしょうか!

怒りを通り越して呆れを通り越して憤怒の形相になりましたね。

 

過去の政府の認識の引用も不十分

立憲民主党は昭和21年9月10日帝国議会の金森大臣の答弁

男系の男子ということは「(憲法)第2条には限定してありませぬ。その趣旨は根本において異なるものありとは考えませぬけれども、しかし時代時代の研究に応じてあるいは部分的に異なり得る場面があってもいいと申しますか、そういう余地があり得る

を引用し、現在では憲法上の要請としては男系に限らず女系も認められていると主張しています。

しかし、その答弁の後の政府内での議論や答弁を見ると、たとえば帝国議会とは異なる機関ではあるものの、臨時法制調査会では以下のように報告されています。

皇室法概論ー皇室制度の法理と運用ー 332頁

一方、女性天皇を認めるべきでないとする見解は、歴史・伝統を論拠としており、昭和二十一年一〇月二十二日の臨時法制調査会第三回総会において第一部会長代理(関屋貞三郎委員)は、「併しながら我が国肇国以来の万世一系と申しますのは男系に依るものでありまして、此のことは歴史上に於きましても客観的事実でありまして女帝〔「女系」の誤りか…引用者注〕は唯皇位世襲の観念の中には含まれて居ないと云うことも申し得ることと思はれるのであります、斯様な次第で女帝〔「女系」の誤りか…引用者注〕に依る皇位継承は認め難いと云ふことが部会の結論でありました。。…改正憲法の所謂男女同権の原則と云ふものは…日本国の象徴たる地位と云ふ特殊性に依る特例は当然予想し得られるものと解し得るのでありまして、皇統を継承するものは男系の男子に限ると云ふ従来の原則を堅持することの結論に達して居る次第であります」(芦部外『全集1・典範』九一頁)と報告している

昭和21年12月16日には、皇室典範についての議論ではありますが、金森大臣は「男系でなければならぬと云ふことはもう日本國民の確信とも言ふべきものであらうと存じます」と言い切っています。

 

また、立憲は昭和41年3月18日の衆議院内閣委員会で関道雄内閣法制局参事官が「現行憲法は男系に限らない」とした答弁を引用していますが、全体を読めば「女性天皇を認めるか」という文脈であり、「男系」の意味を理解してなかった可能性があります。女系派の園部逸夫が書いた皇室法概論でもこの答弁は引用されていませんでした。

その他の答弁の意味についても、巷で言われているような理解とは異なる可能性を、以下で示しています。

憲法2条「皇位は世襲のもの」と大日本帝国憲法の「万世一系」の定義・意味とは

戦後の帝国議会での男系・女系天皇・女帝の論議

旧皇族の皇籍復帰に関して:民間人から皇籍復帰した先例

立憲は「70年民間人」「600年遡る」ということから国民感情を持ち出して受け入れ困難と言い、民間人が「皇籍取得」した例はないからという理屈で、旧皇族の皇籍復帰は不可能と言っています。

しかし、前者は「五世孫」ルールについての無知がある可能性があり、後者は過去に民間人として生まれた者が「皇籍復帰」をした例があるという情報を意図的に省いています。

この点の詳細は以下参照

【旧皇族・旧宮家】皇籍離脱した者の皇籍復帰の先例:歴史上の臣籍降下と復帰の事例

旧皇族の皇籍復帰:五世の孫の原則の見解の違い

まとめ

政府が掲げている「安定的な皇位継承制度の検討」というのは、皇室の歴史を尊重しつつ、今現在の皇位継承権者が少なくなっている状況を改善するということを意味するはずです。

それを「世継の心配を完璧に無くすことだ」という意味として捉えるのは何なんでしょう?これでは「交通事故を無くすために自動車は生産しないようにしましょう」というのと同じです。

立憲のたった20ページの論点整理の中に、いくつものごまかしが見つかりました。これでは議論が成り立つはずがありません。

やはり「こんなひとたち」に日本国の行く末に影響を与えさせてはいけないでしょう。

以上