事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

原英史はコンサル会社との特区ビジネスで「収賄罪相当」「公平性の逸脱」なのか

国家戦略特区のワーキンググループと特区ビジネスコンサルティング

毎日新聞が国家戦略特区ワーキンググループの原英史(はらえいじ)氏とコンサルティング会社の関係について報じましたが、原氏本人が反論しました。

毎日新聞が特区制度の構造の理解をそもそも誤っていることから虚偽報道であることは確定ですが、原氏とコンサル会社や学校法人との関係についても少し整理した上で見ていきます。

毎日新聞の原英史氏に対する記事

令和元年6月11日火曜日の毎日新聞朝刊東京版の紙面構成は以下になっています

  • 1面:「特区提案者から提案料金」
  • 1面:「公平性を逸脱」
  • 26面:「WG座長代理が特区ビジネス支援」
  • 26面:『「周知活動として当然」原氏一問一答』
  • 26面:『民間委員「利害」規則なし』

ネット記事の魚拓は以下です。

国家戦略特区 政府ワーキンググループ委員関連会社 提案者から指導料200万円、会食も - 毎日新聞

国家戦略特区:WG委員支援会社が提案者から指導料 200万円、会食も - 毎日新聞

国家戦略特区:委員が提案法人を指南 協力会社、コンサル料受領 - 毎日新聞

WG座長代理が特区ビジネス支援 「原さんが見てくれる」 申請者「コンサルの一環」 - 毎日新聞

WG座長代理が特区ビジネス支援 「周知活動として当然」原英史座長代理との一問一答 - 毎日新聞

WG座長代理が特区ビジネス支援 「利益供与みたいな感覚ではやっていない」特区ビズ社長一問一答 - 毎日新聞

WG座長代理が特区ビジネス支援 民間委員「利害」規制なし - 毎日新聞

国家戦略特区:WG委員支援会社が提案者から指導料 特区制度に詳しい恒川隆生・静岡大名誉教授(行政法)の話 - 毎日新聞

一部有料ページがありますが、有料ページと同じ内容と思われる記事が無料で見れたりしています。

他紙は報じず

6月11日時点ですが、他紙はまったく報じていませんでした。

毎日新聞が上記のようなボリュームで報じていることから、独自スクープ扱いだったものと思われ、毎日新聞の「意気込み」が感じられます。

毎日新聞の「特区ビジネス」ストーリー

さて、毎日新聞が考えた独自のストーリー展開は、以下のような論法です。

  1. 原英史が代表を務める政治団体である「土日夜間議会改革」と「特区ビズ」は同じ部屋内にオフィスがある
  2. 上記政治団体の一部の者は特区ビズの社長であり、また、特区ビズの社長は原氏が社長を務める別のコンサルタント会社である政策工房でも名刺を使って仕事をすることもあった
  3. よって、原と特区ビズは実質的に一体のものである
  4. 特区ビズが特区提案希望の学校法人から報酬を受け取っていた
  5. 特区ワーキンググループ(WG)は申請の審査選定を行うところだ
  6. だから原氏が公務員なら実質的に特区WGの原英史が賄賂を受け取っていたことと同質の事情があった
  7. よって、これは国家戦略特区の公平性・中立性を損なう事態だ

1、2、4は事実のようですが、5は虚偽です。

そして、3、6、7それぞれには飛躍があります。

国家戦略特区におけるワーキンググループの役割・位置づけ

【毎日新聞の捏造】原英史国家戦略特区ワーキンググループ委員と特区ビズの関係

既に上記記事で指摘していますが、国家戦略特区WGは、審査・選定を行うような位置づけではなく、民間委員で構成される【申請者側】なのです。

役割は提案のブラッシュアップと関係省庁との折衝であり、特区認可に関する何らかの決定権限があるということはありません。

ですから、毎日新聞が特区WGについて「審査・選定を行う」と報じている時点で、虚偽報道が確定しています。

原英史と土日夜間議会改革と特区ビズとの関係

国家戦略特区のワーキンググループと特区ビジネスコンサルティング

毎日新聞の図では特区ビジネスコンサルティング(特区ビズ)が特区ワーキンググループ側の一員であるかのように描かれていますが、基本的には特区提案を希望している美容系学校法人と組んでいるので上図のような関係になります。

特区ワーキンググループは特区ビズと学校法人を一体として捉えていたはずです。

そして、原氏の政治団体である土日夜間議会改革はというと…

何も関与していませんね。

単に籍が置いてあるというだけです。

原氏も特区ビズの社長も、別に利害関係人であるという話にはなりません。

物理的な所在が土日夜間議会改革と特区ビジネスコンサルティングとで同一の住所であるというだけで、何か「実質的に一体のもの」として毎日新聞は認識させたいようですが、特区申請に関してそうだと言えるためには更なる事情が必要です。

「公務員なら収賄罪相当」恒川隆生・静岡大名誉教授とは

紙面の1面「公平性を逸脱」において発言が取り上げられている恒川隆生教授。

特区制度に詳しい恒川隆生教授・静岡大名誉教授(行政法)の話

公平性・中立性の確保が重要な国家戦略特区の趣旨を逸脱し、原英史氏が公務員なら収賄罪に問われる可能性もある。特区ワーキンググループは議事要旨の公開など「透明性」をうたうが、反対意見を主張する抵抗勢力へのけん制が狙いで、加計学園問題でも明らかになったように、規制緩和の当否以前に審査の過程が不透明だという疑念を持たざるを得ない。

特区WGについての話題のはずなのに「審査」と言っている時点で「特区制度に詳しい」はずがないのですが、本当にこんなことを言っていたのでしょうか?

受託収賄罪・第三者供賄罪となるか

原氏が申請者である法人に対してヒアリングをし、助言をするのは本来の職務ですから、それだけでは何らかの便宜を図ったということにはなりません。

原氏自身や原氏の政治団体が申請予定の法人から金銭を得た事実はありません。これは毎日新聞の記事においても読み取れることです。法人から報酬を受け取ったのは特区ビズです。

また、特区ビズというコンサル会社と原氏が実質的に同一であるという事情もありません。原氏が特区ビズの構成員であったというならともかく、単に特区ビズの社長が原氏の政治団体の一員であったということと、事務所が同じ部屋だったという事実だけで実質的に同一という判断になるはずがありません。

特区ビズの社長は特区WGの委員ではありませんから、その者の問題でもありませんので、原氏が共犯になる可能性もありません。

よって、特区WGの委員が刑法上の公務員に該当しているとしても、「収賄」の主体となるべき事実がまったく無いので受託収賄罪が成立するはずがありません。

さらに言えば、申請予定の法人は特区ビズを介して原氏と面会したのですから、これまで出てきた事実には第三者供賄罪が想起されるような「請託」を伺わせる事情も見当たりません。

特区申請のために特区WGのお墨付きがないといけないということはありませんし、ヒアリングは受けてくれるのですから、法人側がわざわざ請託をして第三者に報酬を支払う動機がありません。WG側が「そうしないと動いてくれなかった」ことをうかがわせる事情もありません。

以上より、「収賄罪」が成立するとなぜ現段階で言えるのか、全く理解できません

唯一、「食事をしたこと」が利益供与と取られかねない記述がありますが、この点も反論がなされています。

「食事を一緒にしたこと」に職務関連性はあるのか

「虚偽」「根本的な間違い」の『毎日新聞』記事に強く抗議する:原英史 | 記事 | 新潮社 Foresight(フォーサイト) | 会員制国際情報サイト

(2)福岡の学校法人関係者との会食について

 記事では「料理屋で会食し、法人が負担した」と記載されているが、事実と異なる。

 2014年11月29日は、15時まで福岡市中心部で福岡市主催の会議があった。そのあと17:35の福岡空港発のフライトで東京に帰った。同じ行程で出張していた内閣府次長が17:15発の便だったので、それに間に合うよう、遅くとも16時頃には一緒に空港に向かった。その間に会食などしたわけがないことを、記者にも伝えたはずだ。

「大皿が並ぶカウンター席」やら「かっぽう料理屋でふぐ」など、あたかも私が食事の供応を受けたかのような記載があるが、いい加減な記事を書くのはやめてもらいたい。

 私がインタビューで、「食事ぐらいは行ったと思う」と答えたことになっているが、これも事実と違う。私は最初に面談で取材を受けた際、突然数年前の食事の有無を聞かれたので、「記憶にないが、一般論として、食事ぐらい行くことがあったかもしれない」との趣旨の回答をした。そのあとにフライト時間を確認して上記の回答をしたはずだ。誤った引用がなされたことも、極めて遺憾だ。

 また、「提案した人と飯も食うな、金銭関係も一切なしにしろと言われたら、僕は社会で生きていけない」との引用もされている。これは、私は、知り合いであろうとなかろうと、規制改革提案を行うよう広く呼び掛けてきているので、知人に提案を行ったことのある人は多く、そうした人と食事ぐらいはするし、全く関係のない取引をしていることもある、と説明しただけだ。提案の対価として食事や金銭授受がありうるようなことは言っていない。

2014年11月については毎日新聞の1面で

「法人などによると14年11月以降、原氏らは法人側と福岡市内でたびたび面会。法人副理事長(当時) は原氏と市内の料理やで会食し、費用は法人が負担した。」

とありますから、この点について明確に反論しています。

2015年2月17日の会食について

他方、26面では別の日付を挙げています。

原氏はその後、社長の仲介で法人理事長と面会。15年2月17日には、特区ビジネス社長も交え、同区(※福岡市中央区)六本松地区のかっぽう料理屋で副理事長と会食した。副理事長は「ふぐがおいしい季節だったので、お誘いした。

この日付について原氏の反論記事では「食事の供応を受けていない」という旨は書いてましたが、具体的な動きを示していたわけではありません。

一般的な話として以下の記述があります。

金銭の代わりに食事の接待などを受けることもない。もちろん、知人か否かを問わず、私は特区や規制改革制度の活用を推奨してきたから、私の周囲にも規制改革提案を過去にしたことのある人は数多くいる。そういう人たちと食事ぐらいはするし、その場合、社会常識に従って支払いをする。つまり、割り勘や、交互に負担などだ。

 しかし、情報提供・助言の御礼として食事をご馳走になることは決してない。そもそも、そんなことをしようとする人にこれまで出会った記憶がないが、誤解を受けかねないときには割り勘を徹底するなど、間違っても誤解を招かないよう、私自身、念には念を入れて慎重に対応してきた。

「収賄罪」相当のことをしたなどと記事を書かれて、本当に残念でならない。

仮に割り勘でなかったとしても、既述の通り、特区申請のために特区WGのお墨付きがないといけないということはありませんし、ヒアリングは受けてくれるのですから、「食事の饗応が法人に対して特区WGが便宜を図ることの対価であった」という意味での職務関連性が認められることは現時点では無いでしょう。

便宜を図ってもらうための対価であったということを示す別の事実は、今後出てくるのでしょうか?

まとめ:公平性・中立性の問題も起こり得ない

特区の提案・申請は特区ワーキンググループのお墨付きがなかろうができる訳です。

特区WGを「攻略」しなければ申請すらできない、という制度設計ではありません。

むしろ「獣医学部新設の申請すらできない」という文科省の違法行政を打破して作られたのが岡山理科大学獣医学部であり、それが国家戦略特区の力の源泉でした。

特区ワーキンググループの裁量で提案そのものが出来るできない、申請が通る通らないということであったなら、それこそが国家戦略特区の趣旨を逸脱しています。

それを前提とした「公平性・中立性の問題提起」なるものは、特区制度の認定プロセスを通常の補助金行政等と混同した誤った理解に過ぎません。

以上