「取材」してないんだから、「取材の自由」は無関係だと思いますよ。
- 旭川医大で現行犯逮捕された北海道新聞鳥潟かれん記者
- 取材の自由と違法性阻却:いわゆる西山事件=外務省秘密漏洩事件
- 「取材の自由」は建造物侵入行為には作用しない
- 「取材の自由」の保障を絶対に受けない鳥潟かれん記者の事情
- 鳥潟かれん記者の釈放
旭川医大で現行犯逮捕された北海道新聞鳥潟かれん記者
旭川医大で現行犯逮捕された北海道新聞の鳥潟かれん記者ですが、当の北海道新聞が実名報道をしています。
WEB記事でも掲載していたようですが(有料ページ)、現在は消されています。
旭医大で取材中 本紙記者を逮捕 建造物侵入容疑 06/22 23:34 更新
取材の自由と違法性阻却:いわゆる西山事件=外務省秘密漏洩事件
道新記者の行為について「取材の自由」だとして正当化を試みる記者らが居ます。
たしかに、取材の自由に鑑みて、犯罪構成要件に該当する行為をしても、違法性推定が働かない場合がある、とする判断枠組みが示された判例があります。
いわゆる西山事件=外務省秘密漏洩事件と言われるものです。
北海道新聞記者の建造物侵入と外務省秘密漏洩事件の枠組みと取材行為|Nathan(ねーさん)|note
最高裁判所決定 昭和53年5月31日 昭和51(あ)1581 刑集 第32巻3号457頁
- 「秘密漏示のそそのかし」という構成要件的行為が広い意味での取材行為としてなされた場合、それだけでは違法性推定されない
- この場合、「秘密漏示のそそのかし」という構成要件的行為の具体的な態様=手段・方法が刑罰法令に触れる場合には違法性阻却されない
- 「秘密漏示のそそのかし」の具体的な態様が刑罰法令に触れなくとも、法秩序全体の精神に照らし社会観念上是認することのできない態様のものである場合には違法性阻却されない
逆に、具体的態様が刑罰法令に触れない場合で、法秩序全体の精神に照らし社会通念上是認できる態様の場合には刑法35条の「正当業務行為」として違法性阻却されるとしています。
「取材の自由」は建造物侵入行為には作用しない
しかし、これはこの場合における「そそのかし」行為が、国家公務員法「109条12号、100条1項所定の秘密漏示行為を実行させる目的をもつて、公務員に対し、その行為を実行する決意を新に生じさせるに足りる慫慂行為」であり、【取材による情報収集】の一環として行われたものだったからこそ、報道・取材の自由の保障を受けることで、構成要件の違法性推定機能をストップさせたわけです。
※他の行為の「そそのかし」も法文上規定されているが、一定年限を超えて就任することとなる人事官の罷免をしないなど、取材とはおよそ無関係の行為もあり得る。
他方で、「建造物侵入」行為は、確かに敷地内・建物内に入ることで視覚情報等からとある事実を知覚することは可能で、それを「情報収集」とは呼べるが、【取材による情報収集】とは言わないだろう。
管理権者の許可をとって、とある区画の視覚情報・音声情報を得る場合は「取材」だと思うが、「侵入」ではない。許可が無い場合にはただの無断侵入行為。
建造物侵入行為は、それ自体に取材行為としての機能が予定されていない。
よって、取材の自由の保障を受ける前提に欠けている。
私見ですが、このように整理可能と思われます。
「取材の自由」の保障を絶対に受けない鳥潟かれん記者の事情
さらに、ダメ押し的ですが、鳥潟かれん記者の場合、以下の事情があります。
旭川医大取材の道新記者、建造物侵入疑いで逮捕 - 産経ニュース
選考会議が開かれた部屋の前の廊下にいたのを、出てきた大学職員が見つけた。学生ではないと認めた上で立ち去ろうとしたため、職員が取り押さえた。
一般に、報道の自由・取材の自由の保障を受けるには、少なくとも報道・取材目的で事に当たっていることが前提のはず。
※報道機関の者や記者として振舞うという所属組織・身分の表示は、報道・取材の目的を認定するための主な考慮要素として機能するだろうが、それだけでは認定できないのではないだろうか。
外務省機密漏洩事件は、記者であるという身分は全く隠してない。相手の女性も取材行為として認識していたが、本件ではそれが無い。
鳥潟かれん記者は、自らその保障を受けることを放棄していたとみる他ない。
こう扱わなければ、たとえば迷惑系YouTuberが突然許可なく敷地内に入って動画撮影を始めた場合に、後で「取材だから許される」などと言った際に、外務省秘密漏洩事件の枠組みで判断しなければならない。実際上の問題
まず、大学というのは、不審者がけっこう多い。多くの学生が出入りし毎年メンバーが変わるわけなので。トイレの巡回監視に割ける予算も限られる。それを割けるには、場違いな人を排除するしかない。「記者だ」と名乗りさえすれば徘徊自由なんてルールを設けたら、ストーカー天国、変質者天国になる。
— 玉井克哉(Katsuya TAMAI) (@tamai1961) 2021年6月23日
本件が取材の自由だからといって違法性阻却されてしまうと、実際上の問題として大学の秩序維持や感染症対策が不可能になるという危機感があります。
上掲の玉井教授のツイートのスレッドは必読だと思います。
以下記事でもその行為の悪質性について論じています。
鳥潟かれん記者の釈放
記者であることを名乗らずにいたのだから取材を理由にすることはできない。
— Nathan(ねーさん) (@Nathankirinoha) 2021年6月24日
大学側からすれば産業スパイや生物テロの実行犯の可能性を疑うでしょ。何か盗んだ後だったら「出ていけ!」は取り逃すのと同義。 https://t.co/7Y9gY9HS4n
検察官送致がされなければ24日の16時30分過ぎには身体拘束から48時間経過となるので、留置の必要がないと判断されれば鳥潟かれん記者は釈放されると思われますが、どうなることでしょうか。
18時頃から学長選考会に関する記者会見をすると大学側が言っていたのに、敢えて建造物内に侵入したというのは、何か別の目的があってのことではないか?と疑われても仕方がない。
もしも身体拘束が長引いた場合は、その可能性が残っていると判断された、と考えられても仕方がないと思います。
※追記:釈放されました。
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