事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

憲法審査会での階猛議員「国民投票の危険性」「予備的国民投票」

憲法審査会・階「国民投票は危険」

11月7日に憲法審査会の実質討議、2年ぶりの自由討議が行われました。

そこでの階猛(しな たけし)議員が「国民投票の危険性」「予備的国民投票」について発言しましたので内容を整理します。

階猛議員「国民投票は危険な場合も」

衆議院インターネット審議中継

階猛議員の発言をまとめると以下です。

  • ドイツでは憲法改正の国民投票制度が無いという報告があった
  • 理由は、ナチスが国民投票で政権を掌握したという苦い経験があるから
  • 国民投票というのはやり方によっては国家を危うい方向に向かわせる
  • 国民投票運動が国民の考えを間違った方向に誘導しないように適正な手続き案を作った、その中でCM規制は不可避ではないかと思った
  • ウクライナでは憲法改正前に改正内容と改正案に至る手続の事前審査を憲法裁判所ができるという報告があった
  • 日本の裁判所には事前審査は無いが、憲法改正案というものが国民が関心のあるもの、必要性が高いと思われるもの、法律を改正すれば済むものではなく真に憲法改正しなければならないものかどうかを国会で議論すべきではないか
  • そのために【予備的国民投票制度】を作るべきでは
  • 国民投票法附則12条には予備的国民投票を検討するべきという規定もある。
  • 憲法改正とは別に一般国民投票は附帯決議で検討すべきとされた
  • 国会議員等は憲法尊重擁護義務があるので国民がイニシアティブと取って憲法改正をするべき

国民投票の危険性」というものをいうためにナチスを持ち出していますね。

以下、私見を述べていきます。

国民投票の危険性とはメディアのフェイクニュースでは?

この日の憲法審査会では「ネット上のフェイクニュースにどう対応するか」という発言をする議員が多数いました。

しかし、大手メディアのフェイクニュースや公共の電波を使った誘導的な番組がすでに存在しており、そちらの悪影響の方が遥かに問題だと思いませんかね?

ネット上のフェイクニュースは常日頃からネット上で検証されて間違いが指摘されていますが、テレビのフェイクニュースや誘導・報道しない自由についてはテレビが指摘することはほぼありませんよね?

「CM規制」と言っても、国民投票が行われることを周知する目的で行われるものまで制限するべきではないと思います。

予備的国民投票とは?

予備的国民投票」とは、どうやら憲法改正の項目を国民に示し、それについて国会で議論すべきかどうかを投票する制度のことを指すようです。現行の制度では存在しません。

これは第180回国会 憲法審査会 第4号平成二十四年四月五日で法制局参事の橘氏が指摘するように公明党の赤松正雄議員が提唱した制度のようです。

法制局参事の橘

赤松先生は次のように言っておられました。
 国会で詳細な憲法改正原案を作成していきなり国民投票に付するというのでは、いささか国民の間に戸惑いもあるだろうし、また、その憲法改正のテーマの選び方や内容に国民の意思が十分に反映しない場合もあるかもしれない、こうされた上で、むしろ、あらかじめ国民の意思を推しはかるという意味で、まずは予備的にアンケート調査的な国民投票を行い、しかる後に、国会は、その全体的な国民の意思を踏まえた憲法改正原案の立案に着手する、それで詳細な条文をつくる、その後に、憲法第九十六条で要求されている正式の国民投票を行うといった慎重な手続が有効な場合もあるのではないのかということを述べられていたと記憶してございます。

国民投票法附則12条

憲法審査会・予備的国民投票制度

第166回国会で成立した【法律第五十一号(平一九・五・一八)】、いわゆる国民投票法の改正において、附則12条に以下の文言が書かれました。

日本国憲法の改正手続に関する法律

第十二条 国は、この規定の施行後速やか に、憲法改正を要する問題及び憲法改正の対象となり得る問題についての国民投票制度に関し、その意義及び必要性の有無について、日本国憲法の採用する間接民主制との整合性 の確保その他の観点から検討を加え、必要な措置を講ずるものとする。

これが予備的国民投票についての議論をするべき根拠とされているものです。

その後、何度か憲法審査会において予備的国民投票制度に触れた発言がありましたが、賛否が問われたことがなく、現在までに至ります。

予備的国民投票は単なる遅延行為では

過去には橋下徹氏も予備的国民投票が必要だと言っていましたが、私は反対です。

単なる遅延行為じゃないですか。

ただでさえ日本国憲法は総議員の3分の2以上の賛成が無いと憲法改正の発議ができず、その後に国民投票が必要であるという「硬性憲法」なのに、さらに国民のエネルギーと予算を使わせるというのは何なんでしょうか?

予備的国民投票をしても国民の多くは理解しない

予備的国民投票をしても「国民の意思」が反映されるとは言えないでしょう。

なぜなら、「予備的国民投票をする!」と決めるのも国会議員だからです。

そして、「どういう内容を憲法改正するのか」を決めるのも国会議員です。

結局、国民投票を二重に行うだけにすぎず、「国民のイニシアティブ」などという空虚なお題目のために予算と国民の時間が浪費させられるだけです。

そして、細かい細かい憲法の仕組みを多くの国民は理解できません。

そのために(多くの国会議員も能力に疑問のある者が居るが)専門家や比較的憲法に詳しい国会議員らで構成される国会の議論に、我々国民は委ねているのです。

国民からの信託に基づいて国民に代わって国会議員が時間とお金と労力を使って立法をする役割を担っているのに、国民の側にいちいち負担を強いることになり「間接民主制」に逆行しているんじゃないでしょうか?

今後は予備的国民投票制度の創設が喧伝される

今後は憲法改正を阻止する勢力が「予備的国民投票制度の創設」を謳い、時間稼ぎに使われることが予想されます。

階猛議員は「国民投票の危険性」と言いますが、その危険性は「予備的国民投票」についても当てはまるのであって、予備的国民投票においてメディア等によるフェイクが横行しては意味がありません。

単なる遅延行為に過ぎない制度を作る憲法改正の妨害行為に対して、政府与党が政治的妥協だとして応じることが無いように監視していかなければならないですね。

以上