事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します

【余命不当懲戒請求】懲戒請求者への請求額・和解額は高額か?:佐々木・北・小倉弁護士の主張の是非

f:id:Nathannate:20180614091112j:plain

懲戒請求者に対して懲戒請求そのものが不法行為であるとして訴訟を提起したのが東京弁護士会では佐々木・北弁護士の2人、及び小倉弁護士、神奈川県弁護士会の神原弁護士です。

彼らは懲戒請求者1人あたり30万円以上の請求額を予定しており、和解金額も5万円以上を提示しています。これが過大な要求であり、それこそ弁護士の品位を失うべき非行ではないか?と言われています。

今回は請求額ついて各所の見解を紹介しつつ、「殺到型不法行為」(命名は風の精ルーラ氏)の場合の損害賠償額について考えていきます。

なお、この点を考えるにあたっては懲戒請求があった場合の弁護士会の手続の流れや弁護士にかかる負担を理解しなければ始まらないので、先にこちらを見ておくことをお勧めします。

佐々木・北・小倉弁護士の損害賠償の対象

本件では「大量の」懲戒請求がなされたことが注目されています。

しかし、各弁護士は共同不法行為として訴訟提起することは考えていません。

したがって、損害賠償の対象はあくまで1件1件の不当懲戒請求書が送られた事で発生した事務負担や精神的苦痛となるハズです。「大量」となったのは結果論でしかなく、1件1件の懲戒請求者は他の懲戒請求者と歩調を合わせることを考えていたという情報は今のところ無いですし、実態として歩調を合わせたものではなさそうであることが弁護士の発信からうかがえます。

そういうわけですから、弁護士は損害額についても1件の懲戒請求によってどのような負担が発生したのかという点を考えていることになります。

なお、共同不法行為の法的構成を被告側=懲戒請求者側が抗弁として主張できるか、裁判所が職権でそのような構成を取るのか、訴訟指揮するのかは議論がありますので、可能であればこの点も後日検討したいと思います。

損害額についての考え方

懲戒請求の損害額は慰謝料が認定されてきたということと、懲戒請求の数が増える毎に損害額はどのように算定されると考えるべきなのかを整理します。

1:実損と慰謝料

東京地方裁判所 平成28年(ワ)第1665号 損害賠償請求事件 平成28年11月15日の判示では、精神的苦痛に加えて、不当な懲戒請求に対応するためにとられた時間負担を慰謝料として損害額を算出して損害を認定しました。本件でも精神的苦痛と時間負担による慰謝料という請求がなされる可能性があります。 

上記判例では事件処理の過程の行為が「地上げ屋である」「詐欺・横領である」という主張が懲戒請求者から行われました。また、懲戒請求にかかった時間負担は概ね12時間でした。

認定された賠償額は140万円。このうちの多くは慰謝料であると思われます。

 

ちなみに、「第二弾」の懲戒請求も着々となされているようです。懲戒事由は「懲戒請求者に対して訴訟予告ないし訴訟提起をしたこと自体が弁護士の品位を失する非行である」とするものです。

「第一弾」のときには聞かなかった時間負担が第二弾では発生しているようです。

おそらく第二弾では「それなりの根拠」があるような体裁だったために反論をしっかりとしないといけなかったのではないでしょうか?

2:懲戒請求の数と損害額の算定方法

本件では被害法益は弁護士一人の精神であり、1件の懲戒請求による損害と960件の懲戒請求による損害は単純に数に比例して損害が発生すると考えてしまってよいのでしょうか?

※ここでは960件の懲戒請求について同時に訴訟開始して同時に審理し、1つの社会的事実として把握した場合の一応の思考を記載してみます。

懲戒請求の数毎に新たに損害が発生するという立場

このような場合とパラレルに考えるのは無理がありますが、一定の考慮は必要でしょう。たしかに、2人目以降の損害が全く0になるというのもおかしな話です。

ただ、懲戒事由が被るものについては全く別個のものと捉えるのはなんだかおかしいという感覚は多くの人が持つのではないでしょうか?

懲戒請求における懲戒事由毎に新たに損害が発生するという見解

この見解が妥当ではないかと思います。

ただ、ここで論じているのは『「新たに」損害が発生すると考えるべきなのはどういう場合か』であり、同じ懲戒事由のものが2つ以上存在する場合に全く0になるというのはやはりおかしい話です。

懲戒請求の事由どころか文面まで一緒であるというのなら、実質的に一つの懲戒請求書と扱うことができます。こういう場合は単純比例は不適切でしょう。

3:私見、懲戒事由毎に損害は新たに発生するが、同種の懲戒事由の場合は2つ目以降の損害は漸減すると考えるべき

f:id:Nathannate:20180613120237j:plain

※懲戒請求による弁護士の精神的ダメージのイメージグラフ

懲戒請求1件目の損害が1.0だとして、同じ内容の懲戒請求が960件なされた場合の損害が960だと言うのは素朴な感覚からしても違和感があります。

1件目の懲戒請求に対しては0から答弁書を書かなければならないし、事案の把握をして反論を考える負担がかかります。しかし、同じ内容の懲戒請求に対しては同じ反論や反証をすれば良いのだから、後の懲戒請求による弁護士の作業負担は必然的に減ります。

世間からの評価も、1度だけの場合と960件起こされているという場合とで違いはありますが、単に「懲戒請求を受けている」という事実は件数とは無関係に評価されるので、社会的信用が単純比例で減少するとは考えられず、精神的損害が単純比例するというのは実態にそぐわない。

懲戒請求手続に付される事での登録替え、登録取消し、転職の制限も、1件の場合と960件の場合とで全く変わらない。

よって、960件からの懲戒請求の損害が960だというのは成り立たない。 

この場合、2人目以降の損害は漸減し、損害は極限値0に無限に近づく(収束する)という計算方法を採れば良いのではないでしょうか? 

ただ、この見解だと、以下の問題があります。

  1. 懲戒事由が同種であるというのはどのような基準で判断するのか
  2. 「1人が複数件の請求」の事案なら良いが、「複数人が1件の請求」の場合には、自らが関知しない別の者の懲戒請求の有無によって損害額が減ったり増えたりするため不自然
  3. 裁判が個別に訴えられた場合には裁判所が「大量事案」と認識できない可能性がある
  4. 「他にも他人から同種の懲戒請求がある」という被告側の主張がまるで損害額減額のための抗弁のように機能する可能性はあるのか?
    ※共同不法行為を被告が抗弁として主張することが可能か?という話とは異なる。

問題点2,3からは「その懲戒請求が何度目か」を知ることができないと事実上使えない手法ということになると言えます。これに対する再反論もできそうですが、苦しいものになりそうです。

余命「大量」不当懲戒請求事案と類似の過去の裁判例

類似の事案から結論の妥当性を探り、ヒントを得ることは重要です。

これをしないで感覚的に良い・悪いを論じる人が多いですが、何らの物差しが無い状態での論述は説得力がありません。

1人が大量に懲戒請求を繰り返した事案

東京地裁 平成25年(ワ)第29832号 損害賠償請求事件 平成26年7月9日

この事案は1人の者が、平成25年9月16日付けから同年10月26日付けまでの合計37次(原告に対するものは34件)138件に及ぶ懲戒請求書を提出し、その他にもファックス送信を弁護士に対して執拗に行うなどの不法行為について精神的苦痛の慰謝料が請求された事案です。

懲戒請求の内容は次のようなものです。

本件懲戒請求は,原告のC及びDに対する送付文書中の文言等が被告の名誉又は信用を毀損すること,原告がCに対しBの株式を放棄するよう脅したこと成年後見人である原告にはBを解散し清算する権限がないにもかかわらず,原告が本件成年後見業務に及んでいること,本件成年後見業務は,成年後見制度を悪用して会社を乗っ取るものであり,原告が嘘を述べていること,被告,C及びDが,原告により,連日「生殺しの生き地獄」に置かれていることなどを申し立てるものである。

原告が認識する被告が懲戒理由として主張する事由も,そのほとんどが,原告について「成年後見制度を悪用して,Bを乗っ取ろうとしている」旨の内容だったものです。

損害額はその他の不法行為も含めて精神的苦痛に対する慰謝料として100万円が認定されました。これをどう考えるか。

34件の同種の懲戒請求+その他の不法行為があって100万円の認容ということは、懲戒請求のみの損害は多く見積もっても50万円でしょう。そして、懲戒請求の数毎に損害が新たに発生するという見解の場合は、これを34で割るということになり、1件あたり1万4000円程度の損害ということになります。

対して、懲戒事由毎に損害が新たに発生するという見解の場合は件数では割らないので、1事由あたりの損害は高くなることになります。 

再掲東京地裁平成28年(ワ)第1665号 平成28年11月15日 

1人の者からの懲戒請求が3回あり、事件処理の過程の行為が「地上げ屋である」「詐欺・横領である」という主張が懲戒請求者から行われました。また、懲戒請求のための弁護士の時間負担は概ね12時間でした。この訴訟の前にも懲戒請求138件がなされて100万円の損害が認定された事案、懲戒請求5件がなされて196万円余の損害が認定された事案がありました。

本件訴訟における賠償額は140万円と認定されました。

やはり、こうしてみると1人が複数回の懲戒請求を起こした場合(弁護士1人が原告で被告も1人)には、単純に懲戒請求の件数毎に損害が新たに発生するとは考えられていないようです。

多数のメディアが1人に不法行為をした事案:三浦和義氏の複数メディアに対する損害賠償請求額

こちらは懲戒請求ではなく民事訴訟ですが、「原告が1人で被告が多数」という状況は大量懲戒請求事案と同じです。三浦和義氏とは、いわゆる「ロス疑惑」事件において犯人ではないかとマスメディアに報じられた方で、報道が名誉毀損による不法行為であるとして本人訴訟で多数のメディアに不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を提起した方です。

三浦和義氏が勝ち取った損害賠償額の合計は1億数千万円以上とも言われています。

しかし、三浦氏の場合は各事案によって損害の内容が異なる場合が多いと思われます。

三浦氏の提起した訴訟で私が確認できたのは以下です。

  1. 東京地方裁判所 平成4年(ワ)第1718号 損害賠償請求事件 平成5年5月25日⇒刑事被告人の容姿について表現した記事がプライバシー権侵害にあたるとされた事例:金一〇〇万円認容
  2. 東京地方裁判所 平成元年(ワ)第4925号 損害賠償請求事件 平成3年1月29日⇒保険金殺人の被疑者が取調べに対して弱気になっている旨の新聞記事が名誉毀損に当たるとして慰謝料請求が認められた事例:金一〇〇万円認容
  3. 東京地方裁判所 平成元年(ワ)第4775号 損害賠償等請求事件 平成2年12月20日⇒殺人罪で強制捜査下にある者につき、別の殺人を図っていたとの見出しを付したスポーツ新聞の記事が名誉毀損に当たるとして、慰謝料請求が認容された事例:金一〇〇万円認容
  4. 東京地方裁判所 平成元年(ワ)第13692号 損害賠償請求事件 平成2年3月26日⇒係属中の刑事事件に関する週刊誌上の論述が公正な論評に当たらず、被告人に対する不法行為となるとされた事例:金一〇〇万円認容
  5. 東京地方裁判所 昭和61年(ワ)第13561号 損害賠償等請求事件 平成2年3月14日⇒無修正の全裸写真の写真報道誌への掲載が人格的利益の侵害として、雑誌発行元・編集人・発行人に不法行為責任が認められた事例:金一〇〇万円認容

不思議なことに、不法行為の内容が各事案で全く異なるにも関わらず、損害額が全部100万円だということに気づきます。これはどう理解すれば良いでしょうか?確かに事業者に対する名誉毀損は100万円が上限とされていた時代もあり、それに合わせていたと理解することもできますが、全事案でぴったり同じ金額というのはやはりおかしいです。

これらは全ていわゆる「ロス疑惑」事件報道に関するものです。裁判所も全て東京地裁です。ということは、裁判所は「ロス疑惑」にまつわる名誉毀損の不法行為訴訟を社会的事実として1つのものを原因とする名誉毀損と捉えていたと言えないでしょうか?

三浦氏がロス疑惑に関して提訴した事件で、1つの事件で認容される金額を単純に訴訟提起した数だけを合計すると、非常に高額の賠償金額になるということを懸念したために、1件あたりの損害額を平準化したのではないでしょうか?

つまり、既に他の事案と共通する部分については三浦氏が受けた損害は評価されており、改めて損害を填補する必要はないと考えられていたのではないでしょうか?

例えば保守速報の事案では200万円が認定されました。

近年は名誉毀損・侮辱による損害賠償額が高騰しているという傾向があるとはいえ、保守速報の場合は一般人に対する「悪口」程度のものであり(人種差別的文言が賠償額の算定で考慮されたとはいえ)、事業者たる三浦氏の場合には犯罪者とされたり全裸写真まで掲載されているにもかかわらずそれよりも低額な金額であるということからは、上記のような平準化を行っているのではないかと疑問に思います。

仮にそうだとして、本件の場合にも同様の処理はするのでしょうか?

今回は1つのブログによる呼びかけがきっかけで懲戒請求が大量になったという事案ですが、懲戒請求の内容が同じものと、そうでないものが混在している例があります。三浦氏のケースとの平仄では、そのような懲戒請求も社会的事実として1つの現象から発生したと考えるということになるはずです。

もしもそう考えないとしても、実質的に同じ懲戒事由を主張していると思われる場合には、損害は全く別個のものとは考えられないのではないでしょうか?

三浦氏の事例は後述する争点である賠償額が過大になる、抑止効果が無い、という問題を捉える上で参考になると言えるでしょう。

懲戒請求者1人に対する請求額・和解額について

佐々木・北弁護士は過去の懲戒請求者に対する不法行為訴訟の事例から、比較的低額である60万円(弁護士1人に対して30万円)を請求しているとしています。

また、和解額も5万円から10万円を提示しています。

何等の面識のない一般人からの懲戒請求に対する不法行為訴訟

上記ブログで紹介されている東京地判平成22年9月8日は、何ら面識のない一般人から懲戒請求を受けたが、インターネット上の新聞記事が添付されたり、記事に手書きで悪口が書いてあったという事案です。こちらは単発の懲戒請求です。

「悪口」があったというのが余命大量懲戒請求事案とは異なりますが、認容された賠償額は150万円です。保守速報の200万円に近い金額であり、三浦氏の金額よりも高い水準です。

悪口があるという部分が賠償額の算定に寄与したとすれば、その分を差し引いた賠償額は100万円を下回るのではないかと思います。

一応、余命大量事案で訴訟を起こした弁護士は全員この金額を下回っています。

その他、懲戒請求に対する不法行為訴訟

広島高等裁判所 平成20年(ネ)第454号、平成20年(ネ)第505号 損害賠償請求控訴,同附帯控訴事件 平成21年7月2日 

こちらは橋下弁護士のTV番組での懲戒請求呼びかけ行為によって約600件の懲戒請求が為されたことが問題となりました。最高裁では賠償を認めてませんが、高裁では懲戒請求にかかる精神的損害として80万円の損害賠償額が認定されました。ちなみに広島地裁では200万円でした。

私見:弁護士会のマッチポンプではないか?

f:id:Nathannate:20180611174722j:plain

過去記事でも乗せたこの図ですが、上記の裁判例は全てレッドゾーンにある「それなりの根拠のある懲戒請求」でした。だからこそ弁護士会としては懲戒請求として扱わざるを得ず、弁護士としても反論のために時間を割いて対応する必要があったので損害額が高くなったのだと言えます。

しかし、余命大量懲戒事案では、弁護士法58条の「その事由の説明を添えて」をみたしていないとみられるものや「主張自体失当」であるなどの「それなりの根拠すら無い」低レベルの「懲戒請求書と題する書面」が送られてきた事案です。いわば怪文書に過ぎないものを、わざわざ弁護士会が「懲戒請求があった」として扱い、弁護士に負担を負わせています。

これは濫用的懲戒請求を防止するために弁護士会が綱紀委員会を設けている趣旨に反する制度運用です。民事裁判では請求の特定がされないまま被告に訴状の副本を送達して手続を進めたような在り得ない状況であり、刑事裁判では犯罪行為の特定がなされないまま検察官が告発を受理して起訴したような在り得ない状況です。

そうした運用によって弁護士に生じた負担を損害賠償として見積もってい良いのでしょうか?猪野弁護士が指摘するように、全く反論などしなくても弁護士会は懲戒委員会にはかけないでしょう。

認容されるべき具体的な数字の言及は差し控えますが、訴訟提起を予定している弁護士らが主張する数十万円以上の請求金額は、高すぎるように思います。請求金額に連動して決められる和解金額も、高過ぎるということになります。

いずれの立場においても発生する不都合

960人からの請求(件ではない)の損害額の算定の考え方には、大きく分けて1人からの損害を単純合計する見解と(個別にみる見解)、弁護士が受けた損害を960人から受けた損害として見積もる見解(総体としてみる見解)があります。

過去に例のない事案のため、弁護士の間でも見解は分かれていますが、これらのいずれの立場をとっても不都合が生じます。

懲戒請求者全員の合計額が5億円を超え過大となることについて

単純に1人上がりの請求額を懲戒請求をした960人全員に対して要求すると、佐々木・北弁護士の場合、5億7600万円にも上ります。

同じく余命信者960人から懲戒請求を受けながら訴訟は提起しない猪野弁護士は、佐々木・北弁護士の主張する損害額は死亡慰謝料で10~15人に匹敵する額と言っています。

一般的な感覚としても、このような損害があったとは考えられません。

各懲戒請求者の負担が軽くなり将来の不法行為の抑止が働かなくなる懸念 

 

 

現在の不法行為損害賠償の考え方は「損害の填補」による被害者救済ですから、不法行為者への懲罰という観点は入ってません。

ただ、将来の不法行為の抑止という観点は、行為態様の悪質さを考慮している中で読み込まれていると言うことも可能ですから、この観点からの損害額の増加が考えられるかということも被害弁護士からは期待されています。

その他、損害額に影響する論点

後日別稿を書くかもしれない疑問点を軽く記述します。

判決確定後などに従前のものと同じ懲戒事由で懲戒請求された場合

これは別個の損害が発生したとしてよいのではないでしょうか。

いつの時点からそのように考えるのか?基準はどうするのか?という問題が発生しますが、それは訴訟提起の場合は口頭弁論終結時や訴訟提起以後などを基準時点にすればよろしい。

訴訟提起していなければ(或いは訴訟提起したかは無関係に考えるのであれば)、「相当期間」経過後とすれば良い。

ただ、これも「1人が複数回の懲戒請求をした」場合には妥当するかもしれませんが、「多数人が1回の懲戒請求をした」場合には、何らの意思連絡をしていない他人の懲戒請求のタイミングによって自己の懲戒請求による損害額が決定されるという話になってしまうのではないかという疑問があります。

共同不法行為は成立するか

 

共同不法行為とすると、960人からの懲戒請求は総体として扱われ『960人からの大量の不当な懲戒請求によって弁護士に精神的苦痛を与えた』ということが損害賠償の範囲となります。

その金銭的評価がどうなるかはともかく、認定された損害額を960人が連帯して賠償する義務を負うということになります。

これは弁護士にとっては「旨味」がないことになる可能性がありますので、弁護士からは共同不法行為の主張はなされないでしょう。

しかし、裁判所が訴訟指揮で共同不法行為の構成にさせるのか、職権で共同不法行為の構成を認定するということは在り得るのかということは問題になるかもしれません。

訴訟法上の論点について

審理の方法や訴訟指揮はどのようにするべきでしょうか?

今回は共同不法行為が主張されておらず、各人から別個に損害を受けたという法律構成ですから、弁護士としてはそれぞれ別事件として処理することも考えられます。

そうすると、裁判所としては処分権主義の要請があるので、1件1件の個別事案として見るのではないか?という懸念があります(多分それは無いだろうと思いますが)。

仮に弁護士が事件としては同一のものとした場合、被告らの出廷する期日は分けるのでしょうか?

それとも三浦氏の事案のように、別個の事案として960件を処理するとしつつ、損害額の評価において他の訴訟の損害評価を考慮して平準化する対応をするのか?

弁護士からの見立ては以下

 

 

 

まとめ:いずれかに決めるならば

大量懲戒事案の損害額の認定方法においては、懲戒請求者1人による1件の懲戒請求の損害額を個別に把握して認定するのか、それとも事案を総体として捉えて損害額を「現実の損害の填補」に見合うように認定するのか。それとも私見のような手法を取るのか。それとも三浦和義氏の事例にみる東京地裁のような処理をするのか。

損害額の考え方についての私見において示したような方法論は、実体法上も訴訟法上も問題が多く、現実的には採り得ない可能性が大きいです。

三浦氏の事例における裁判所の処理の仮説が当たっているとすればそれによることになるのでしょうが、そうでない場合には個別にみるか総体でみるかの2択になります。

いずれの見解が世の中のためになる、或いは「公平」な事案処理になるでしょうか?

総体として捉えるとすると、安易な懲戒請求の抑止にはなりません。懲戒請求者は「ムーブメント」があれば小さな負担ででいくらでも弁護士に攻撃できます。人数が多ければ多いほど、気に入らない者を安価に叩けるということになります。

他方、個別に把握すると弁護士が金銭的利益を過大に受けます。ただ、この場合はタダで利益を得るのではなく、訴訟を提起するという時間的金銭的負担を負って(金銭負担は一時的と言えるが、時間負担は絶対にある)得た利益であると言えるので、一応の正当性は肯定できます。そして、安易な懲戒請求の抑止にもなります。

したがって、損害額については個別に把握するべき、ということになるでしょう。

ただし、個別に把握するのですから「懲戒請求が大量」であることが損害額の根拠にはなりません。あくまで1件1件の「ダメージ」によって判断されるべきです。
(弁護士の各種対応も「大量だから」という理由を持ち出すのはよろしくないということになります。この点は別稿を書く予定です。)

そうすると、本件は「損害額の計算方法」の問題は争点ではなく、単に1件1件の損害額がどうなのか?という問題に帰着するのではないかと思います。 

以上