事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

斉藤法務大臣、送還忌避者の子どもの在留特別許可:日本社会に定着した者への今回限りの救済措置

送還忌避者の在留特別許可

公明党議員から出て来たということは…

公明党の谷合正明参議院議員が出入国在留管理庁資料を公開

公明党の谷合正明参議院議員が、送還忌避者のうち一定の外国人の子どもについて在留特別許可を出す方針についての出入国在留管理庁資料を公開しました。

これは8月4日に斉藤法務大臣が記者会見を開き、今般の在留特別許可の方針を説明したことを受けてのものです。

ここに書いてある内容に一番近いのは読売新聞の報道でした。

この資料、8月とだけあり日にちがないので、おそらく谷合議員が初めてネット上にUPしたものと思われます。現時点で入管のHPの検索結果では出てきません。

※8月7日追記

7日夜に法務省HPで臨時記者会見要旨がUPされました。

https://www.moj.go.jp/hisho/kouhou/hisho08_00435.html

不法滞在の長期化により日本社会に定着した子どもの今回限りの救済

送還忌避者の在留特別許可

  1. 入管難民法の改正により送還すべき者を迅速に送還できるようになった
  2. その結果、在留の長期化により日本社会に定着した子ども(その結果としての親)が相当数送還されることになるが、その救済のため
    改正法は施行前なので、今回の措置自体はその適用の結果ではない
  3. 今回限りの措置
  4. 改正法施行時までに本邦で出生して小中高校で教育を受けており引き続き本邦での生活を真に希望する子とその家族が対象
  5. 不法入国・不法上陸や偽造在留カード・偽装結婚、薬物使用や売春、懲役1年超の実刑、複数回の前科者は原則対象外

読売新聞記事とは若干異なる部分がありますが、報道された中では最も上掲の説明に近いものでした。

法制度や法務大臣の裁量ガイドライン変更、継続的な措置ではない

他方で、毎日新聞が「在留資格ない子ども、原則滞在許可へ」という見出しで報道したため、「法制度としてそうなっている・今後の対応のガイドラインとしてそうするようにした」といったように、継続的な判断基準を決めた、というように理解する者が出てきていました。

それは実態とはかけ離れています。

  • 「在留資格の無い子供」ではなく…
  • 「現在存在する本邦で生まれ育った在留資格の無い子供200人」という範囲で…
  • 「改正入管法施行前に本邦で生まれ育って就学の140人」が対象
  • 今回限りの措置

※毎日新聞記事本文では「200人について原則として」と書いており間違いは無く、140人という人数の割合を捉えてそのように表現していると言えるが、適切な表現とは思われない。

異例の措置ではありますが、あくまで現行の在留特別許可のガイドライン・法務大臣の裁量の範囲内の措置であり、法的な説明としては「超法規的措置」ではありません。

在留特別許可に係るガイドライン

在留特別許可に係るガイドライン 平成18年10月 平成21年7月改訂 法務省入国管理局

法務大臣の裁量判断に関するガイドラインを見ると、今回の措置が現行のガイドラインに沿ってはいるということが分かります。

入管難民法が改正されたので、その施行に合わせてこのガイドラインも変更されることになると予想されますが、説明に現れた理屈を鑑みると、改正法下では今回のような措置ができないのでしょう。

既に法律レベルで難民申請者には送還停止効があったものが、改正法では2回申請が却下・棄却された者や一定の罪を犯した者、一定の行為者・違反者などが例外として送還されることとなり、一定の場合に限り退去を義務付ける命令制度を創設し、命令に違反した場合の罰則が整備されています。

出入国管理及び難民認定法及び日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法の一部を改正する法律案

不法入国・不法上陸だが難民条約上の保護を受ける場合

難民条約

第31条【避難国に不法にいる難民】
1  締約国は、その生命または自由が第1条の意味において脅威にさらされていた領域から直接来た難民であって許可なく当該締約国の領域に入国しまたは許可なく当該締約国の領域内にいるものに対し、不法に入国しまたは不法にいることを理由として刑罰を科してはならない。ただし、当該難民が遅滞なく当局に出頭し、かつ、不法に入国しまたは不法にいることの相当な理由を示すことを条件とする

直接来た難民に対しては、不法滞在だからといって刑罰を科してはならないとする難民条約の規定があります。退去強制はここで言う刑罰ではありません。

詳細は上掲記事で書いていますが、真に難民である者に対しては、こういう国際慣習法があるという点は留意すべきです。

一回限りでの措置でも妥当なのか?という疑問と現実の対応の問題

今回の措置は、「一回限りでの措置でも妥当なのか?」「これが蟻の一穴・先例となって改正法施行後もなし崩し的に救済措置が行われないか?」「粘り勝ちを許すのか」という疑問を生じさせるものです。

他方で、既に日本社会に定着している子どもが存在するという現実への対応として、あり得るものだと言い得る。

個人的には特に考慮せずに強制送還しても良いと思うし、本来的な筋論はそちらの方が正当性がある。が、今回の措置が理屈として全く通っていないというわけでもない

似たような話として「恩赦・赦免・復権」などがあります。これは制度化しています。

即位恩赦で「犯罪者55万人が野に放たれる」という勘違いが広まる⇒復権のみ - 事実を整える

そうした制度の存在がある中で、現行制度の枠内で、今回のような一定の救済措置が行われることは、一つの別解だと思われます。

ただ、改正前の現在の入管難民法制度では、不法滞在が長期化してる間に子どもが日本社会に定着してしまう状況だったのが、改正により改善されることになったのだから、制度が骨抜き化されないように注視していかなければならないとも思います。

なお、近年の在留特別許可の件数として以下資料をあげておきます。

技能実習生が多いベトナム人がコロナ禍で帰国困難者となった結果増えたという背景が影響しているようです。

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