事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

「イタリアでは医療従事者の20%が感染したという論文がある」は間違いです

「イタリアで医療従事者の20%が新型コロナウイルスに感染」は間違いです。

木村正人の「イタリアでは医療従事者の2割が感染」記事

問題の記事は木村正人氏によってBlogosで2020年03月16日 17:40にUPされた「新型コロナウイルス、イタリアでは医療従事者の2割が感染 医師も人工呼吸器も足りなくなる」というタイトルの記事です。

序文には医学論文誌のLancet=ランセットの論文を引用して以下書かれています。

新型コロナウイルス、イタリアでは医療従事者の2割が感染 医師も人工呼吸器も足りなくなる(記事の魚拓です)

[ロンドン発]新型コロナウイルスの津波にのみ込まれたイタリアでは治療に当たった医療従事者の2割が感染。4月中旬には最大4000人の集中治療室(ICU)収容が必要になる――。

医学雑誌ランセットに13日、イタリアの国民医療サービス(SSN)が新型コロナウイルスの大流行に対応できるかを分析した伊ベルガモ大学教授らの論文が掲載されました。

https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(20)30627-9/fulltext

これは「イタリア全土における医療従事者の(治療に当たった)2割が感染した」と読むほかないのですが、このような理解は明らかに間違いです。

イタリアの人口あたり医師は日本の2倍近い数

イタリアの医師の数、医療従事者の2割が感染というデマ

https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000111914.pdf

2015年の数値ですが、イタリアの人口1000人あたり臨床医数は3.9人と、日本の2.3人の1.7倍です。イタリアの人口が約6000万人なので、医師の数はイタリア全土で23万4000人居る計算になります。

そして、「医療従事者」とは何も医師だけを指すのではなく、看護師・薬剤師etc…を指す総称ですので、これに留まりません。

仮に医師の20%だとしても4万6800人ですし、ロンバルディア州(人口1000万人)に限っても7800人もの医師が感染していることになります。これが医療従事者を母数にしたらとんでもない数になります。

ランセットの論文は3月13日にUPされていますが、当時のイタリア全土の感染者数は約1万5000人であり、半数が医師の感染ということになり、ありえません。

13日時点のイタリア全土の感染者数から計算すると、その2割は3000人になりますが、これは8万人以上の感染者を出した中国の医療従事者の感染者数と同程度であり、にわかには信じがたいと言えます。

参考:中国 医療従事者の感染3000人超 院内感染相次ぐ | NHKニュース

問題の記事のタイトルではなく本文では「治療に当たった医療従事者」という限定付きですが、こちらも後述するように、単にこれだけではおかしな話です。

元ソースのLancet論文の記述

では、元ソースのランセット論文ではどう書いていたのか?

COVID-19 and Italy: what next?

Health-care professionals have been working day and night since Feb 20, and in doing so around 20% (n=350) of them have become infected, and some have died.

医療従事者らは2月20日以来、昼夜問わず働いており、それによって約20%(350人)が感染し、何人かが亡くなっています。

ここだけだと「母集団」が何かはわかりません。

「イタリア全土で」とは言っていません。

「治療に当たっている」という限定もありません。

もう少し広く文を拾い、同じパラグラフの文を全部掲載します。

ランセット論文はICU=集中治療室の医療従事者について

COVID-19 and Italy: what next?

In Italy, we have approximately 5200 beds in intensive care units. Of those, as of March 11, 1028 are already devoted to patients with SARS-CoV-2 infection, and in the near future this number will progressively increase to the point that thousands of beds will soon be occupied by patients with COVID-19. Given that the mortality of patients who are critically ill with SARS-CoV-2 pneumonia is high and that the survival time of non-survivors is 1–2 weeks, the number of people infected in Italy will probably impose a major strain on critical care facilities in our hospitals, some of which do not have adequate resources or staff to deal with this emergency. In the Lombardy region, despite extraordinary efforts to restrict the movement of people at the expense of the Italian economy, we are dealing with an even greater fear—that the number of patients who present to the emergency room will become much greater than the system can cope with. The number of intensive care beds necessary to give the maximum number of patients the chance to be treated will reach several thousand, but the exact number is still a matter of discussion among experts. Health-care professionals have been working day and night since Feb 20, and in doing so around 20% (n=350) of them have become infected, and some have died. Lombardy is responding to the lack of beds for patients with COVID-19 by sending patients who need intensive care but are not infected with COVID-19 to hospitals outside of the region to contain the virus.

実はこの一つ前のパラグラフでもICU=Intensive care unit=集中治療室における状況について語っているので、どうやら "20% (n=350)" という部分は【集中治療室に関わる医療従事者で感染した者の数】を表しているようです。
(パラグラフが "In Italy" で始まっているため注意を要するが、ロンバルディア州のベルガモ大学の教授の論文であることや前後の文はロンバルディア州に関することがらなので、ロンバルディア州に関するものである可能性が高い。)

ランセット論文は数字の根拠も母集団の明示もない不親切

これで分かるように、元ソースのランセット論文自体が、そもそも "20% (n=350)" という数字の根拠も示しておらず(出典なし)、母集団が何であるかの明示もない不親切な記述だったということが言えます。

ただ、常識から考えると、それはロンバルディア州におけるICU=Intensive care unit=集中治療室に関するものではないかと推測されます。

"N"と"n"の誤解

細かい事ですが、木村正人氏の記事(修正前)では以下記述してありました。

新型コロナウイルス、イタリアでは医療従事者の2割が感染 医師も人工呼吸器も足りなくなる(記事の魚拓です)

医師や看護師は2月20日以降、昼夜を問わず働いており、350人中70人(20%)が感染し、数人が死亡しました。

なぜか「70人」が付け足されています。

論文を忠実に理解するならば、これは間違いです。

N=350なら正しいですが、n=350なので。

統計などでは "N" は母集団の数、"n" は標本数を指しますから、「20%」という数字の後に"n=350" とあればそれは母集団は1750と理解することになります。

ICUベッド数と医療従事者数の関係から考える

彼の記事では「治療に当たった医療従事者」と限定していますが、イタリアで新型コロナの治療に当たった医療従事者はたった350人しかいないとでも言うのでしょうか?

ランセット論文では"In Italy, we have approximately 5200 beds in intensive care units.  Of those, as of March 11, 1028 are already devoted to patients with SARS-CoV-2 infection,"とあるように、イタリア全土で5200のICUベッドがある中、1028床が新型コロナウイルスのために稼働状態とのことですが、これに対して350人の医療従事者しかいないというのは日本のICUの運用方針からは到底考えられません。

1750人であれば1028床に対する数字としてまだわかりますが、母数350人を前提とするならロンバルディア州(人口で単純計算すると172床だが、感染拡大の中心地であるロンバルディア州はもっと多い利用者のハズ)に関するものと理解しないと辻褄が合いません。

これが正当化できるのは、論文著者に問い合わせたりその他情報から数字の中身を確定したという場合のみですが、だとすると論文の記述が間違いになります。流石にそのようなミスをするとは思えません。

※本エントリ執筆中に木村氏の記事に修正が為されたようで、この部分は現在は「2割が感染し」という表現に変わりました。

まとめ:「イタリアの医療従事者の2割が新型コロナウイルスに感染」は間違い

  1. ランセット論文では"20% (n=350)" という表記
  2. 数字の出典も母集団の明示も無い不親切な記述
  3. イタリアの「医師」の数は20万人以上、「医療従事者」は遥かに多い
  4. 論文がUPされた3月13日当時のイタリアの感染者数は1万5000人
  5. よって、「イタリアの医療従事者の2割が感染」は考えられない
  6. 文脈からして「ICUを担当する医療従事者」が母集団と考えるのが最も穏当
  7. ただ、イタリア全土なのかロンバルディア州のみの話なのかは不明(おそらく後者)
  8. 木村氏の記事本文では「治療に当たった医療従事者」とあり、その意味が「ICUにおける治療」を意味するとすれば間違いとも言い切れない

何をどうまとめても、「イタリアの医療従事者の2割が新型コロナウイルスに感染」という表記から受け取る内容は間違いでしょう。

以上

さいたま市が朝鮮学校幼稚部・初等部にもマスク配布:他に対象外となった施設はなぜなのか?

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さいたま市が朝鮮学校幼稚部・初等部にもマスク配布する方針を取りました。

他に対象外となった施設もありますが、それはなぜなのでしょうか?

さいたま市の備蓄用マスクの配布先の考え方

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3月6日さいたま市新型コロナウイルス危機対策本部員会議
  1. 低年齢・高齢者・医療関係施設の3つを当初から配布の対象と考えていた
  2. 6日の時点では低年齢・高齢者施設の配布先を決定・公表した
  3. 13日の時点で医療関係施設への配布が決定された
  4. 同時に低年齢者を対象とする施設で配布対象外になっていた場所にも配布決定
  5. これは新たにマスクが確保できたということではなく、元々備蓄していたマスクの振り分け等の整理がついたため

医療関係施設への配布決定については、13日の第8回新型コロナウイルス危機対策本部員会議で確認できます。

6日時点での配布方針については以下の記事でも紹介しましたが、「マスクが不足しているため配布の要望が多かった低年齢層を対象とする施設と、重症化しやすい高齢者を対象とする施設に対して優先的に配布」する方針でした。

新たに配布対象となった施設

さいたま市の各種学校:朝鮮学校にマスク配布決定、そのほかの施設

第8回新型コロナウイルス危機対策本部員会議の資料に加え、危機管理課に確認した事項は以下。

  1. 当初から検討されていた医療機関が加わった
  2. 私立・国立の小学校や県の特別支援学校も配布対象に加わった
  3. 放課後児童クラブの中でも市の委託を受けていないが届出をしている所も対象に
  4. 各種学校で配布対象になったのは朝鮮学校のみ

放課後児童クラブは公設クラブと民設クラブがありますが、民設クラブの中でも市から委託を受けている所と、単に届出をしている所(幼稚園とは所管が異なるので指導監督施設かどうかでは区切っていない)があり、前回(6日)は届出をしている所は対象外だったが、今回(13日)は対象に含めたとしています。

各種学校については、各種学校(小)となっていることから朝鮮学校初等部も対象になっています。

各種学校で配布対象になったのは朝鮮学校のみ

今回、各種学校で配布対象になったのは朝鮮学校のみということも確認しました。

埼玉県の各種学校一覧はこちら

朝鮮学校が対象になった理由としては、感染拡大防止という観点から、他の幼稚園・小学校年代対象施設と実質的に変わりがない場所は配布するべきと判断した、ということでした。

ちなみに、各種学校のうち大宮珠算学校は幼児も対象にしているが、今回の配布対象外なので聞きました。

朝鮮学校は幼稚部として課程が制度的に組み込まれているが大宮珠算学校はそうではない、という説明でした。

これをかみ砕くと、大宮珠算学校はHP上で「幼児からも対象」と謳っているものの、制度的に恒常的に幼児年齢層が利用することが予定されている場所ではないために対象外にされたと考える他ないでしょう。

もっとも、珠算学校は、実態として幼児年齢の子が利用していることも考えられます。

しかし、幼稚園と異なり、相当数の幼児年齢層の集団が毎日利用するような場所ではない(多くは週一回の利用だろうし、人数は不定形で、幼稚園年代の利用者はせいぜい数人程度と思われる)です。

珠算学校は小学校年代が最も利用するでしょうが、週一利用などの形態は同様なため、配布対象外となっても不当ではないと私は考えます。

子育て支援センターは対象外

子育て支援センターという、0~3歳児までを対象とする施設がありますが、こちらは現在もマスクの配布対象外となっています。

保育施設は0歳から受け入れるところがあり、場所によっては1歳児から最長でも3歳児まで、という所もあるが、そこにはマスク配布対象になっています。

これはどう説明がつくのでしょうか?

さいたま市/単独型子育て支援センター

子育て支援センターは、親子同士のふれあいの場として、子育て中の方との出会いの場として、0~3歳未満のお子さんとその保護者の方が利用できる施設です。

保育所に併設されているものは保育所と同じと見れば良いですが、単独型子育て支援センターは、保護者の方がそのお子さんの面倒を見ることが前提です。

職員が不特定多数の子供の面倒を見るという仕組みではないのです。

ですから、この施設の利用にあたってはその家庭が責任を持つことになるので、マスクを配布しないという判断は適切だと思います。

准看護学校は医療機関ではないため年齢層で外れた

各種学校の中に「准看護学校」ありますが、こちらは医療機関ではないため年齢層によって今回の配布対象から外れました。

同様の理由で他の各種学校の施設も対象外です。

「朝鮮幼稚園は配布対象外なのは人種差別」はおかしい

13日の配布対象拡大方針の前の6日の配布対象には、私立・国立の小学校や県の特別支援学校、届出放課後児童クラブも対象外だったということが分かりました。

ここから、「朝鮮幼稚園はマスクの配布対象外になったのは人種差別だ」などという主張はおかしいということが分かります。

朝鮮学校に配布するのに他の場所は非配布なのは逆差別?

また、全体の配布方針や今回の配布対象外となった施設については上述の通りなので、「朝鮮学校に配布しておいて他の場所に配布していないのは逆差別だ」と言えるような事情も見当たりません。少なくとも私はそう理解しています。

まとめ

  1. 指導監督施設か否かで区切ったのは幼児政策課所管の施設
  2. 新たに配布対象となり、現時点では配布対象外となっている施設の考え方は合理的
  3. 朝鮮学校に配布しない判断が「差別」であったり、逆に朝鮮学校に配布することを「逆差別」という主張は不当

資源が限られている中でどうしてもどこかで線引きをしなければならないと考えた場合に、6日時点の判断も、13日の判断も不合理とは言えないと思います。

以上

Twitter「スレッドを続ける」作成途中のツイートを既存スレッドのリプライにする隠しコマンド

Twitterで「スレッドを続ける」という状態になった場合の操作方法について。

2020年2月頃に報告が見られる機能みたいですが、あらためて紹介します。

ツイッター隠しコマンド?「スレッドを続ける」

ツイッター隠しコマンド「スレッドを続ける」

「スレッドを続ける」という項目が出てくるとこのような画面になります。

ツイッターの隠しコマンド?と最初は思いましたが、2020年2月中旬頃に実装されたものと思われます。

左側に灰色の点線が続いているのが分かるように、既存のツイートのリプライとしてツイートを作成する機能です。

デフォルトでは直近のツイートのリプライとして表示されます。

この表示の状態でツイートを作成しても繋がりません。

「スレッドを続ける」を押してからツイートを作成すると繋がります。

「スレッドを続ける」を表示させる方法:下にスワイプ

ツイッター隠しコマンド「スレッドを続ける」

「スレッドを続ける」を表示させる方法は、ツイート作成画面で上から下にスワイプ(指でこする)することです。

上画像のように灰色の領域に「表示中」を意味する表示が出るようにすればOKです。

他のスレッドに紐づける

ツイッター隠しコマンド「スレッドを続ける」

そのままでは一番最近作成したツイートに紐づけられるので、「・・・」となっている部分をタップします。

ツイッター隠しコマンド「スレッドを続ける」

すると、このように過去のツイートが出てくるので、その中からリプライとして紐づけたいツイートを選択します。

まとめ:紐づけたいスレッドを忘れた場合に便利か

「リプライとして作成してる途中で、単独のツイートになっていることに気づいた」

「あのツイートに紐づけたいのだが見つけるのが面倒」

こういう場合には便利なんじゃないですかね。

以上

JBpressの「新型コロナの空気感染を証明」記事が削除

JBPressの新型コロナウイルス空気感染記事が削除

 

JBpressの堀田佳男の記事で「NEJMの論文で空気感染が証明」などというとんでもないデマ記事がありましたが、削除されました。当然でしょう。

削除されたJBpressの記事は論文の掲載誌すら間違っていた

  1. NEJMではなくmedRxiv掲載の論文
  2. medRxivはプレプリントサーバー=査読前の「予稿」
  3. 論文中の"aerosol"の用法は、明らかに「空気感染」を意味しない

JBpressの記事は論文の掲載誌すら間違うデマでした。

論文の中身は上記記事中で紹介しています。

また、JBpressの記事の魚拓を置いてあります。

削除、修正依頼があった

この方だけではないですが、相当数の方からの削除・修正依頼があったのでしょう。

「新型コロナの論文」に注意

元となった論文はこちらです:Aerosol and surface stability of HCoV-19 (SARS-CoV-2) compared to SARS-CoV-1 | medRxiv

JBpressの記事は掲載誌すら間違っていましたが、論文のリンクも貼っていない時点で怪しむべきでしょう。「新型コロナの論文」といっても、どの論文なのか?その中身は何なのか?論者は論文を正しく紹介しているのか?について、いちいち確認しないと、今の言論状況では危険です。

以上

「NEJMの論文で新型コロナウイルスの空気感染が証明」はデマ、medRxivでエアロゾル感染の指摘:JBpress堀田佳男

 

JBpressの堀田佳男の記事で「NEJMの論文で空気感染が証明」などというとんでもないデマを書いているので、元となった論文のソースとその中身を紹介します。

※NEJMにも17日に掲載されましたが、論文の中身は変わってません。

JBpressの堀田佳男による新型コロナウイルスの空気感染デマ

JBpress堀田佳男によるデマ記事(   )の内容は以下です。

  • 3月9日に13人の研究者によって発表された論文では新型コロナウイルスが空気感染することが証明された
  • これは『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン』の論文である
  • 「論文の概要(要旨)の重要部分」として「生きたコロナウイルスはエアロゾル化後、3時間まで生存することを突きとめた。銅(製物質)の表面では4時間、段ボール上では24時間、プラスチックやステンレス・スチールの上では2、3日の間、同ウイルスは生存していた」が紹介

さて、このような情報が記述されている論文は、『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン』=NEJMには存在していません。

※記事執筆時点の話です17日には掲載されました。

「NEJMの論文で空気感染が証明」はデマ

ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンで空気感染の論文というデマ

「NEJMの論文で空気感染が証明」は、論文名すらデマだったということです。

本当はmedRxiv=メドアーカイブというプレプリントサイトに投稿された論文を指します。

medRxiv=メドアーカイブでエアロゾル感染の指摘

medRxivでエアロゾル感染の指摘

Aerosol and surface stability of HCoV-19 (SARS-CoV-2) compared to SARS-CoV-1 | medRxiv

「3月9日に」「13人の研究者によって発表された」「生きたコロナウイルスはエアロゾル化後、3時間まで生存することを突きとめた。」などの内容の論文として一致するのはこの論文しかありません。

medRxivはプレプリントサーバー

プレプリントというのは「論文査読前」、つまりは「予稿」を意味します。

同業者によるクロスチェックが行われておらず、信憑性が定まっていない代物です。

プレプリントサーバーにUPされた論文が騒がれた例が、つい最近もありましたよね。

以下の事例です。 

エアロゾル感染は空気感染とは違う

エアロゾル感染は空気感染は明確に異なります。

日本における「エアロゾル」の用法については以下でまとめています。

また、世界では「エアロゾル伝播」についてどういう用語法があるのかについてまとめた論文があります。

論文中には"airborne infection"=空気感染の語は無い

論文中には"airborne infection"=空気感染の語はありません。

よって、「空気感染が証明」はデマです。

※論文の補足資料のSupplemental dataでは、"generated using a 3-jet Collison nebulizer and fed into a Goldberg drum to create an aerosolized environment."とあるため、「飛沫核」とは明らかに異なる状態。

なお、"Airborne"という用語が使われているグループに分類をされていても、空気感染を直ちに意味しない場合もあります。イギリス政府の公式HPでの分類がいい例です。

COVID-19のSARSと比較した論文の結論

当該論文は新型コロナウイルス=SARS-Cov-2の親戚であるSARS=SARS-Cov-1との比較をしています。

Our results indicate that aerosol and fomite transmission of HCoV-19 are plausible, as the virus can remain viable and infectious in aerosols for multiple hours and on surfaces up to days.

我々の研究結果は、HCoV-19のエアロゾルおよび媒介物による伝播が確からしいことを示しています。すなわち、ウイルスはエアロゾル中で数時間、表面上で最大数日後まで生存し、感染性を保持できます。

この後に"This echoes the experience with SARS-CoV-1,"、つまり、この現象はSARSと似ていると言っているわけです。新型コロナに特異な現象ではないとしています。

「生きたコロナウイルスは…銅(製物質)の表面では4時間、段ボール上では24時間、プラスチックやステンレス・スチールの上では2、3日の間、同ウイルスは生存していた」ということが書いてる内容の原文は

"HCoV-19 was most stable on plastic and stainless steel and viable virus could be detected up to 72 hours post application (Figure 1A), though the virus titer was greatly reduced (plastic from 103.7 to 100.6 TCID50/mL after 72 hours, stainless steel from 103.7 to 100.6 TCID50/mL after 48 hours). SARS-CoV1 had similar stability kinetics (polypropylene from 103.4 to 100.7 TCID50/mL after 72 hours, stainless steel from 103.6 to 100.6 TCID50/mL after 48 hours). No viable virus could be measured after 4 hours on copper for HCoV-19 and 8 hours for SARS-CoV-1, or after 24 hours on cardboard for HCoV-19 and 8 hours for SARS-CoV-1 (Figure 1A)."という部分です。

Fomite transmission=媒介物感染=間接接触感染

なお、medRxivの論文では"Fomite transmission"という言葉も出てくるので意味を紹介します。

Fomite transmission、媒介物感染、間接接触感染の意味

https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/iryo/kansen/kansen-manual_2018.files/general_remarks.pdf

東京都が公開しているこちらのページhttps://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/iryo/kansen/kansen-manual_2018.files/general_remarks.pdfでは、Fomite transmissionの意味が書かれています。

Fomite transmission、媒介物感染、間接接触感染の意味

http://www.cfsph.iastate.edu/Infection_Control/Routes/fomite.php

また、Center for Food Secirity & Public Healthでは、Fomite exposure について図であらわしています。

要するにFomite transmission とは、媒介物感染=間接接触感染を意味します。

接触感染の類型です。

だから「〇〇の表面でウイルスが△△時間生存」という事に触れていたわけです。

まとめ:我々の考え方、行動は変える必要が無い

エアロゾル感染(伝播)が事実でも、我々の考え方や行動は変える必要は無いです。

ただ、このように論文の内容どころか出典まで捏造してデマを拡散する人間が世の中にはたくさん存在するんだということを学び、情報を受け取る場合は注意するという意味での考え方、行動は変える必要があるでしょう。

あの記事が論文のリンクを示していない時点で怪しむべきでしょう。

以上

さいたま市のマスク配布方針と新型コロナウイルス対策会議:準看護学校も対象外

さいたま市:朝鮮学校は指導監督施設ではないため配布対象外

https://www.city.saitama.jp/006/014/008/003/008/012/p070846_d/fil/kaigisiryou.pdf

さいたま市のサージカルマスク配布方針について危機管理課に伺いました。

さいたま市のサージカルマスク配布方針と新型コロナウイルス対策会議

さいたま市/(令和2年3月6日記者発表)第6回さいたま市新型コロナウイルス危機対策本部員会議を開催しました。

第6回新型コロナウイルス危機対策本部員会議魚拓

さいたま市のサージカルマスクの配布は、3月6日に行われた新型コロナウイルス危機対策本部員会議で決定されたようです。

危機管理課に伺ったところ、マスクが不足しているため配布の要望が多かった低年齢層を対象とする施設と、重症化しやすい高齢者を対象とする施設に対して優先的に配布することを決定したということでした。

そのため、具体的な配布の基準などは各部局の判断に依っているということでした。

さいたま市の各種学校:準看護学校も対象外

さいたま市の各種学校:朝鮮学校はマスク配布対象外

https://www.pref.saitama.lg.jp/a0204/shiritsuitiran/documents/010501kakusyu.pdf

私立各種学校一覧(令和元年5月1日現在) - 埼玉県いるという

これを見ると【准看護学校】もありますが、こちらは各種学校だからというよりは、「マスク優先配布の対象年齢から外れている」ことから配布対象外になっているということでした。

また、さいたま市の大宮高等珠算学校は幼稚園年代から学習対象になっているようですが、さいたま市の基準からは、これも各種学校であるためにマスクの配布対象外になっていることになります。

マスクの配布対象から朝鮮幼稚園を除外したのは適切か?

報道では指導監督施設を対象にしたため、各種学校である朝鮮幼稚園は配布の対象外となったという旨が説明されていました。

上記表を見ると、さいたま市の各種学校で幼児年代を扱う施設は朝鮮幼稚園しかないのですが、他の低年齢対象・高齢者対象の施設で指導監督施設ではない施設があったのか否か、配布の考え方については気になるところです。

この点については危機管理課ではなく担当課の判断であるということでしたので、後日確認しようと思います。

まとめ:人種差別の前に適切か不適切か

朝鮮学校の関係者らは午後3時から7時過ぎまで4時間以上も抗議をしていたとあり、写真からは職員2~3人に対して20人ほどで対応していたとみられます。

これは威力業務妨害にならないのでしょうか?

人種差別であると言う前に、適切か不適切かの判断をするべきでしょう。

「他の低年齢対象・高齢者対象の施設で指導監督施設ではない施設があり、配布対象外となったところはあったのか」が重要な考慮要素になると思いますが、未だにどのメディアも取材結果として報じていないのはなぜなんでしょうか?

追記:朝鮮幼稚園にも配布することを決めたようです。

さいたま市一転、朝鮮学校にもマスク配布へ - 産経ニュース

以上