単なる無理強いであり、嫌がらせ
- 郷原信郎「高市早苗は虚偽公文書作成罪で告発が当然」
- 「公務員の告発義務」の話が無い郷原記事:作成者の調査は総務省権限
- 文書作成者不明の段階,相当性の調査が不足した段階での告発のリスク
- 「高市は捏造を不正確な文書作成の意味にすり替えた」郷原の印象操作
- 加計学園問題の国家戦略特区の挙証責任論で終わっていた人物
郷原信郎「高市早苗は虚偽公文書作成罪で告発が当然」
高市氏には、虚偽公文書作成罪で告発する「覚悟」はあるのか ~加計学園問題と共通する構図(郷原信郎)#Yahooニュースhttps://t.co/5WEtYVKzKB
— 郷原信郎【長いものには巻かれない・権力と戦う弁護士】 (@nobuogohara) 2023年3月8日
追い詰められた高市氏。「意図的に不正確」「捏造」と言い続けるのであれば、刑事告発するのが当然ということになる。虚偽告訴罪のリスクを負う覚悟は?
高市氏には、虚偽公文書作成罪で告発する「覚悟」はあるのか?~加計学園問題と共通する構図 郷原信郎 3/8(水) 10:48
郷原信郎弁護士が「虚偽公文書作成罪で告発する「覚悟」はあるのか」「刑事告発するのが当然」などとyahooニュース等で発信していますが、無理筋です。
この記事、「ある点」を書いてません。
「公務員の告発義務」の話が無い郷原記事:作成者の調査は総務省権限
郷原記事には、「公務員の告発義務」について触れるところがありません。
刑事訴訟法
第二百三十九条 何人でも、犯罪があると思料するときは、告発をすることができる。
② 官吏又は公吏は、その職務を行うことにより犯罪があると思料するときは、告発をしなければならない。
内閣参質二〇一第一三八号 令和二年六月十六日
参議院議員浜田聡君提出刑法上の犯罪と行政処分上の事実認定に関する質問に対する答弁書刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)第二百三十九条第二項に規定する「官吏又は公吏」は、捜査機関を除く国家公務員又は地方公務員を意味するところ、検事は、国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)第二条第二項に規定する一般職の国家公務員であるものの、捜査機関であることから、当該「官吏又は公吏」に含まれないと考えている。
もしも高市大臣に「告発しろ」と求めるのならば「告発が当然」どころではなく「公務員としての告発義務があるからやれ」と言う道が一見するとありそうな気がします。
しかし、それを言わないのはなぜでしょうか?
法的な義務を負わせるのは難しいからです。もっと適任者が居るからです。
はい、現在の総務省側の人間ですね。本件について一番、調査をするにふさわしい機関。本件について一番、告発のための情報が収集できるはずの組織。
虚偽公文書作成罪が疑われる総務省文書の事案について告発するべきとするならば、それは総務省側でしょう。
本件は既にTV等でも大々的に報道されているわけで、それを見た全ての公務員が告発義務を負うでしょうか?無理ですよね。
「当時は高市氏が総務大臣だったのだから」という理由で「高市が告発しろ・高市が捏造の立証責任を負え」などと言ってる人が居ますが、当時総務省に居た側の人間だからといってそういう適任性を与えたら、既に退職してる人とかどうするんでしょうか?そうでなくても情報等に「外部」から安易にアクセスできることになります。意味不明です。
ですから、告発義務のある者を差し置いて他の者が先行して告発すべき、などと第三者が迫る道理は無いです。
なお、告発義務は「公務員が国ないし公共団体に対して負担するものであって,各公務員において告発を行うことが個別の国民との関係で法的に義務付けられるものではないので,告発義務の不作為が国家賠償法1条1項の適用上違法と評価される余地はない」とする裁判例があります:京都地方裁判所 平成22年9月15日 平成20年(ワ)第3967号
文書作成者不明の段階,相当性の調査が不足した段階での告発のリスク
そもそも現段階では「誰が文書を作成したのか」すら不明です。
もちろん、犯人不明の段階で告発をすることも可能で、組織によってはその旨を明文化しているところもあります。参考:告訴・告発事件取扱要綱の制定 平成元年3月31日 刑総発甲第17号
郷原氏は「高市氏が検察に告発を行えば、検察が捜査に乗り出し、文書の作成者を特定して、その内容の正確性について捜査することになる」と書いてます。
が、それ以前に犯罪があると思料することの相当性の調査が不十分であると、国家賠償法上違法と判断される可能性があります(岐阜地裁平成24年2月1日判タ1375号106頁参照)から、一定の調査を待ってから告発するという考えが排斥されるべきではない。
実務で参照される「条解刑事訴訟法」では、公務員が「告発を行うべきか否かは、犯罪の重大性、犯罪があると思料することの相当性、今後の行政運営に与える影響等の諸点を総合的かつ慎重に検討して判断されることになり、これらの理由に基づいて告発をしないこととしても、直ちに本項に違反するものではない」としています。
同様の考え方は、告発義務とは離れた場面で告発するかどうかの判断をするに際しても考慮されても合理的でしょう。【内閣の側に居る国会議員が官僚を刑事告訴する】ということの国政運営に与える影響は大きい。
刑法
(虚偽公文書作成等)
第百五十六条 公務員が、その職務に関し、行使の目的で、虚偽の文書若しくは図画を作成し、又は文書若しくは図画を変造したときは、印章又は署名の有無により区別して、前二条の例による。
構成要件判断の話をすると、「行使の目的」とか、認定できるんでしょうか?作成者がどういう経緯で作成したかが分からないと、あの文面だけで認定できるのかはかなり留保が必要と思われますが…
もちろん、その点の調査を尽くさずに告発する道も有りと言えば有り。
たとえばですが、総務省に任せていては証拠が隠滅させられるとかそういう状況であると本人含む他の公務員が判断した場合に自分の意思で告発するというのは妨げられるべきではない。
なお、虚偽公文書作成罪の成立においては高市氏の言うような「悪意」があったかは関係ありませんから、高市氏が「捏造」と言ったからといって「事実と異なる公文書が作成された」ことについて優先的に告発をすべき道義上の理由もありません。
ですから、現段階で高市氏に「告発しろ」と迫るのは単なる無理強いであり、嫌がらせに過ぎません。
「高市は捏造を不正確な文書作成の意味にすり替えた」郷原の印象操作
「高市大臣は「捏造」と言っていたが行政文書だと確認された。よってデマだった!」
「高市氏は「捏造」という言葉を「不正確な文書作成」の意味にすり替えた!」
この印象操作に繋がる表現は、既に先週の時点で朝日新聞などで見られていました。
- 文書の成立の真正性の話と、内容の真実性の話を混同させる言説
- その現象の責任を高市大臣に擦り付ける言説
そういう現象が起きることを予期していたので、3月3日の小西洋之議員質疑に対する高市大臣答弁の書き起こしを作って置いていました。
分かりやすい部分を取り出すと…
小西洋之 ~省略~ なぜ総務省の幹部の皆さんが悪意をもってこうした行政記録を作るとお考えになりますか。それを説明してください。
高市国務大臣 私の勝手な推測かもしれませんが、平成26年の9月に総務大臣に就任をいたしまして、以来ですね特に私はNHK改革とにかく受信料引き下げなどに関してですね非常にNHKに対して厳しい姿勢を取っておりました。それに対して省内で大変な反発が私に対してあったことを承知しております。たとえばNHKの理事が大臣室にお菓子を買ってもって来るなんてことを私は突き返しました。返しにいかせました。でもこんなことが私たちの受信料で常時行われているようじゃだめだということ、そういった私の態度が気に食わなかったんだろうと思います。そのころから一部の放送関係の幹部と私の関係がよくなかったのは確かでございます。
高市大臣は、この文書が総務省側で作成されたこと自体は否定しておらず、少なくともそうだとしても書かれている内容は事実と異なる、それは悪意に基づいて作られた、と言っています。
したがって、行政文書であることが判明したからといって高市氏の発言が誤りだとか意味をすり替えたということにはならないのは明らかで、またしても郷原氏の印象操作ということになります。
そんなところよりも、「事実と異なるとしても本当に作成者は悪意だったのか?」という点の方が、作成者は誰だったのか?という点と併せて本件において重要でしょう。
加計学園問題の国家戦略特区の挙証責任論で終わっていた人物
郷原記事では「加計学園問題とも併せて対比」として蒸し返していますが、郷原氏は当時も的を外した見解を述べており、結局は岡山理科大学獣医学部が新設・開校されました。
この時は「石破4条件」と言われてましたね。奇しくも今回も「4文書」(笑)
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