事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

北村紗衣は呉座勇一に「奴隷契約」をさせたと思ってるのか?和解と公序良俗違反

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一定の予測を含む考察になります。

北村紗衣は呉座勇一に和解で奴隷契約をさせたと思ってる?

北村紗衣さんインタビュー② 被害のそのあと - Don't overlook harassment at university 2022年1月29日にて発言された以下の内容…

北村 謝罪文を頂いた時にはこれですっきり終わりにしようと思っていたのですが、謝罪文では「わたしの投稿をご覧になった方、またこの謝罪文をご覧になった方が今後も決して北村様に対して誹謗中傷を行うようなことのないよう、ご覧になった皆様にも申し入れます」ということを約束してくださったのに、それが守られていないと感じています。二次加害は全くやんでいません。先日、シラスというプラットフォームで呉座さんが歴史に関するイベントを行うという告知があり、イベントのメンバーが今回の出来事に関して呉座さんを庇う発言を続けている方々でしたので、謝罪文での約束に反した行動、つまり視聴者の二次加害を誘発するような行動をとらないでくださいという要請の文書を送りましたが、これを呉座さんは勝手に公開しました。送付した文書を勝手に公開するというのは信義にもとる行いですし、また事情を知らない人たちからの二次加害を誘発する行動で明らかに謝罪文の趣旨に反しています。この二次加害がひどすぎてわたしはまた仕事ができなくなりました。

【ヤバすぎ】北村紗衣インタビューに見る矛盾:大学のハラスメントを看過しない会 では、北村氏が「信義にもとる」と発言したことの矛盾に絞り、通知書公開はむしろ和解の趣旨や要請の趣旨に沿った対応であるはずだと論述しました。

が、ここではそれをベースにしながら、北村氏による呉座氏への要求のおそろしさについて指摘します。というのは、北村氏の論法では呉座氏に【奴隷契約】を結ばせたという理解にしかならないからです。

二次加害を誘発させるおそれがある行為をしない義務?

まず、両者の和解内容の全体像は不明です。単に謝罪文掲載にとどまるか、それ以外に呉座氏に一定の義務を負わせる内容があったのか。呉座氏の消されたブログによれば「和解時の合意事項」が存在しているようだが…一般に、和解時の詳細な合意内容は外部へ口外しないという守秘義務が課せられていることが多い。

そのうえで、謝罪文中の「ご覧になった皆様にも申し入れます」というのは、それを見た者に対するその場限りの要請であり、その後のあらゆる場面での注意喚起をする趣旨とは解されない。仮にそうであるなら、それらによって①期間が永続的で②対象が不明確で③範囲が広汎な義務を呉座氏に負わせることになる。

また、謝罪文から「二次加害を誘発する行動を取らない約束」が導けるのか?そうだとしても、いったい何が「二次加害を誘発させるおそれがある行為」なのか、このレベル(通知書の公開とその意に沿う行動をする旨の宣言)でそうだと言うならもはや何も発言できなくなる。

そもそも「二次加害」とは何か?彼女が「呉座氏の言動の影響を受けて第三者から北村氏に対して、北村氏が考える所の誹謗中傷が発生する事」と考えていることは分かるが、この口ぶりだと「一次加害」が無くても成立するようです。

では、彼女が考える誹謗中傷とはどういうものか?

魚拓

さえぼう先生も専門のことだけつぶやいていれば良いのにな。何も小田嶋隆の真似をすることはない。

この発言が誹謗中傷であると考える者はオープンレターの差出人と賛同者以外にはほとんど居ないだろう。「専門外の事をよく知らないのにいっちょ噛みするな」、という含意があったとしても、である。「小田嶋隆の真似」が何かは明らかではないが、ツイートを見ていると大体そんなような意味合いだろう。そして、「誹謗中傷」かどうかは表現の違いだとしても、誹謗中傷が直ちに違法とはならないことは自明です。もちろん、違法でなければ何も問題がない言動だ、という事ではない。

なお、これはほんの一例です。他にも不合理な誹謗中傷認定は多数存在するし、この界隈では「言葉の意味のインフレ化」が頻繁に行われている。
参考:オープンレターの表向きのキレイな趣旨・目的が嘘だった傍証:「状態=文化」?

通知書の公開で発生する可能性のある北村氏への否定的な言説としては「和解して違反の兆候も無いのに弁護士からさらなる要請をさせるとはどういうことか」「口をふさごうとしているのか」といったもので、この場合の誹謗中傷(一般的標準的な用語法のそれ)とは、これに関する侮蔑的な言葉が考えられるが、過去に呉座氏が北村氏に対して行い謝罪し改めるとした誹謗中傷というのはこのような性質の言動ではない。

このような有様なので(というか、そうでなくとも)北村氏がどのようなものを誹謗中傷と叙述するか、なんて、分かりっこない。その場に居ない人の心を読めというのか?それは不可能だから北村氏にほんのちょっとでも関係がある話は全てするな、という圧力・表現への委縮が働く。しかも、第三者がどのような言動をするのかは呉座氏にはコントロール不可能な事象です。これを有効に回避するには、自身が行おうとしている言論活動について逐一事前に北村氏にチェックしてもらわないといけない。そのような対象不明確・広範囲な義務が長期間にわたって続く和解が成立しているのならば、それは「奴隷契約」と言う他ない。

奴隷契約は公序良俗違反(民法90条)で無効

そのような契約が仮に成立していたとしても、それは公序良俗違反では?

公序良俗違反(民法90条)で無効となる行為は大枠で類型化されていますが、個人の自由を過度に制限する行為は公序良俗に反し無効と解されています。

具体例としては芸娼妓契約(AがCから借金するが、この債務はAの娘BがCのもとで酌婦として稼働する報酬から天引きの形で返済することとし、完済前に辞めたり逃げたりすると高額の違約金を課すという仕組み)や、長期間の競業避止義務を課して営業の自由を制限する契約など。

芸娼妓契約は金銭消費貸借契約と酌婦稼働契約の組み合わせ。戦前の標準的な実態としては契約期間中に返済して本来任期より早く辞めたり財産を溜めた状態で実家に帰っていく場合が多かったようです。(無効が確定されたのは戦後の判例)
関連:ラムザイヤー教授の芸娼妓契約論文(1993)と吉見義明氏による「慰安婦契約」論文批判

北村氏の主張するような内容の義務は、「長期間の競業避止義務を課して営業の自由を制限する契約」に近い。

もっとも、そのような契約が成立しているとは俄には信じられない。

12月27日付で北村氏の代理人弁護士から呉座氏へ送付した注意喚起の通知書には「念のため」と書かれており、和解の際の合意事項の履行を求めるものとは解されない上に、仮にそのような契約が成立しているならば、北村氏と呉座氏の代理人弁護士は懲戒処分相当の行為をしていることになるのではないだろうか?北村氏も上掲のインタビューで「謝罪文の趣旨」と言っているし、弁護士の通知書でも「謝罪文の趣旨」という言葉があるように契約内容として明示的に論じているわけではない。つまり法的権利義務が無いということが前提の言動を北村側がしている。もちろん、法的な根拠が無ければ何も要請してはいけないということではない。
(呉座氏の和解当時の代理人は事件終了によって委任事務が終了している)。

北村の代理人弁護士は、オープンレターに言及しただけの高橋雄一郎弁護士に対して(「呉座氏への名誉毀損となると断定してるから」と言っているが、実態としては無関係のツイートまで挙げていた)、「言及継続は職務基本規程違反行為」と告げて懲戒請求を示唆していたが、このような法的義務の無いことを要求する人物による要請だった、という事実は重要だろう。

呉座-北村間の和解契約と紛争終結の合意違反

呉座氏と北村氏の和解がどのような性質のものだったのかは不明です。

訴え提起をしていないことは分かっているが、純粋に民法上695条の典型契約たる和解だったのか、互譲性の無い無名契約としての和解だったのか、訴え提起前の和解(民事訴訟法275条)だったのか、調停による合意だったのか(民事調停法16条)。

裁判所の関与を求めたという事実が見えない以上、私法上の和解契約が行われたとして考えると、互譲性以外に求められるのは「争いを解決する合意をすること(紛争終結の合意)」で、それ以外の内容については取りあえず考えないこととする。

すると、和解内容の趣旨を無限に拡大して呉座氏に不可能な義務を負わせるような発言をし続けることは、この合意に反するおそれがあると言え、そうである場合、和解に反しているのは北村側、ということになる。

呉座が北村に関して積極的に言及しない努力義務はあるかも?

もちろん、現状では呉座氏が北村氏に関して積極的に言及することは避けるべきかもしれない。それは両人の事案の性質上、呉座氏に一定の自制が求められるハズ。そのような努力義務的な合意事項が存在していたとしても、一定の合理性があると思われる。ただし、その期間は合理的なものでなければならない。

しかも日文研との係争がある関係で、「オープンレター」の内容等に関しては触れざるを得ない場面がある。そこにおいて「北村」の名を出さない工夫(名前を出さなくとも言及対象となるような文章展開にならない工夫を含む)は必要かもしれない(北村も差出人となっている)。もしも呉座-北村の和解において「オープンレター」に関する言及についても控えるべきとされていたなら…と思うが、日文研が懲戒処分の一理由として「オープンレター」を持ち出している以上、流石に係争との関係で触れることを制限するというのは不合理だろう。

弁護士は依頼人の【正当な】権利利益を実現するのが職務と言われるのは、たとえ権利を有していたとしてもその行使の仕方によっては不当・違法なものになり得るから。

本件が「事例」とならない事を祈りたい。

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