事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

岸田総理、旧統一教会=家庭連合への解散命令「判例を踏まえ慎重に判断」:判例をみると厳しいか

判例からしたら厳しそう

岸田総理、旧統一教会=家庭連合への解散命令「判例を踏まえ慎重に判断」

衆議院 本会議 2022年10月5日

10月5日の衆院本会議において岸田総理大臣は、旧統一教会=家庭連合への解散命令に関して「判例を踏まえ慎重に判断」と答弁しました。

立憲民主党の西村智奈美議員からの質疑に対する答弁。

岸田総理 また、社会的に問題が指摘されている団体に対して、政府としては関係法令との関係を改めて確認しながら厳正に対応していくこととしております。その際、信教の自由を保障する観点から、宗教法人の法人格を剥奪するという極めて重い対応である解散命令の請求については、判例も踏まえて慎重に判断する必要があると考えております。

では、判例とはどういうものでしょうか。

過去の宗教法人への解散命令:オウム真理教と明覚寺の裁判例

現在までにオウム真理教以外に宗教法人法上の解散命令(宗教法人法81条1項1号)が為されたのは、霊視商法を行っていた明覚寺だけです。
※勘違いが多いが、「法の華」は破産手続開始決定(43条2項3号)が理由であり、解散命令ではない。

オウム真理教の解散命令に関しては以下の判決文が公開されています。

平成8年1月30日 最高裁平成8(ク)8 宗教法人解散命令に対する抗告棄却決定に対する特別抗告

オウムがやったことは他と比較できないほど悪質なので、旧統一教会=家庭連合の場合に考えるべきは明覚寺の事案でしょう。

解散命令が出された明覚寺の「組織的犯行」はどう認定されたのか:統一教会=家庭連合との異同

和歌山地方裁判所決定平成14年1月24日(平成11年(チ)4号)

原因は名古屋地方裁判所平成7年(わ)1912号、2121号、同8年(わ)126号事件とその控訴審である名古屋高等裁判所判決平成14年4月8日(平成11年(う)295号)で認定された通り、詐欺罪にあたる行為が信者によって行われ、懲役刑の実刑判決が下っています。

それが解散命令請求に関する上掲訴訟では、犯罪行為が組織的に行われ、宗教法人本人が主体となって行ったものと判断されたために解散命令が裁判所によってなされました(最高裁まで争ったが棄却されて解散)。

「宗教法人本体の組織的犯行」は認定されていない旧統一教会

明覚寺の事案は、系列の「満願寺」の僧侶によって為されたのですが、それでも宗教法人明覚寺本体が「主体」とまで認定されました。

具体的には宗教法人トップの指示で別組織に人を送り込み、トップが作成したマニュアル実行させることで詐欺行為が行われていたことが認定されています。

対して、旧統一教会に関しては「宗教法人本体の組織的犯行」は認定されていません。

ここが一つ大きな違いです。

裁判で認定された「組織的犯行」は統一教会信者が作った別組織内の話

よく統一教会に関して「組織的犯行が認定された」と言われたりすることがありますが、裁判で認定された「組織的犯行」は、統一教会信者が作った別組織内部における話です。

統一教会に関して刑事事件は多数ありますが、ほぼすべてが罰金刑に留まり、唯一、懲役刑(執行猶予付き)が出たのが「新世事件」と呼ばれる事件の2009年の判決です。

東京地方裁判所判決平成21年11月10日では、有限会社新世に罰金800万円の刑事罰、代表取締役と営業部長に懲役刑と罰金刑が科されています。

この時期は民主党政権であり有田芳生氏も国会議員の立場でしたが、何ら解散命令に関して動いた形跡がありません。

この際に「組織的犯行」と書かれていますが、そこで認められている「組織的犯行」は、有限会社新世という組織におけるものであり、統一教会が組織的に犯行に関与していただとか、共謀に及んでいただとかいった認定は為されていません。

「信仰と混然一体となっているマニュアル」も、有限会社新世という組織において統一教会信者に勧誘するために作成されたものと認定されているに過ぎません。

なんちゃら弁護士などが誘導的な言葉遣いをしているということです。

民事訴訟で大量に敗訴して法人本体の責任も認められているから解散?

さて、「いや、統一教会は民事訴訟で大量に敗訴してるから異常な団体であり、解散命令されるべきだ、解散命令はなにも刑事事件が認められないとできないとは書いてないではないか」というような主張が来ると思います。
※立法時の想定は基本的に刑事事件があることが標準と考えられていた。

で、実際に以下のような主張をして訴えられた弁護士もいるわけですが…

この例は使用者責任が認定されたケース。

実は家庭連合に名称変更してから少なくとも2件、使用者責任を超えて宗教法人本体が本人としての責任を負った事案があります。

東京地方裁判所平成28年1月13日判決(平成24年(ワ)32969号)とその控訴審の東京高等裁判所平成28年6月28日判決(平成28年(ネ)1042号)、東京地方裁判所平成29年2月6日(平成24年(ワ)19029号)で旧統一教会=家庭連合に使用者責任を認めたがその控訴審である東京高等裁判所平成29年12月26日判決(平成29年(ネ)870号)において法人本人としての不法行為責任を認めたものがそれです。
※「統一教会」名称時の地裁判決でも一件だけ本人としての責任が認定されたケースがあるが高裁で使用者責任に格下げされている

これらは夫の意思に反して夫の相続財産や給与・退職金等を献金させたとか、献金・物品購入・受講等による金員支出させた行為が対象でした。

※追記:「霊感商法でもありません」と書いていましたが、消費者契約法改正によって新たに新設された規定の要件から考えた書き方であり、一般的な霊感商法に当てはまると言える余地が大きいため当該記述部分を削除します。

それでも「いや、他にも信者が大量に違法行為を行っているから危険な組織だ!解散命令しろ!」という人がいると思います。

たしかに使用者責任すら認められない事案であっても「信者が勝手にやったことだ」ということになるように対策をしているのではないか?ということなのかもしれません。

その理屈だと信者の立場を利用して違法行為をするような者が出た場合に、宗教法人側が不法行為責任をおっかぶせされる、ということになりかねません。

オウム真理教への破防法適用による解散指定処分にすら反対していた者らはどうするのか

過去にはオウム真理教への破防法適用による解散指定処分にすら反対していた者らがこの問題では宗教法人法による解散命令をしろだとか言っています。

従前までの言論状況では法的な側面以外にも、事実上の障害がマスメディア等によって作られていた面があったのではないでしょうか?

ましてや今は昔よりも不法行為は減っているわけですから、解散命令請求をしても棄却される可能性は高いでしょう。

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