TBSが「重油流出でモーリシャス政府が日本に請求」というタイトルで報じましたが、これは誤報と言うべきものです。
- 「モーリシャス政府が重油事故で日本に請求」とTBS
- 賠償責任は「わかしお」の所有者=船主である長鋪汽船
- 地元メディア「ル・モーリシアン」は「支援要請」
- ブルームバーグ詳報「漁船100隻の供与を検討頂ければ幸いです」
- 「モーリシャス政府が日本に32億円請求」は誤報
「モーリシャス政府が重油事故で日本に請求」とTBS
重油流出、モーリシャス政府が日本側に32億円請求|TBS NEWS(魚拓)
重油流出、モーリシャス政府が日本側に32億円請求
1日 8時36分
インド洋で座礁した日本の貨物船から大量の重油が流出した事故で、モーリシャス政府は日本側におよそ32億円の支払いを求めました。7月25日にモーリシャス沖で座礁し、1000トン以上の重油が流出した長鋪汽船が所有する貨物船「WAKASHIO」をめぐっては、分断した船体の一部を沖合の海底およそ2000メートルに沈没させるなど、処分が進められています。
ただ、流出した油による漁業や観光業などへの影響は深刻化していて、地元メディアによりますと、モーリシャス政府は、漁業支援費として12億モーリシャスルピー(日本円にしておよそ32億円)の支払いを日本側に求めたことがわかりました。サンゴ礁やビーチ沖合で使う近海漁船およそ100隻を日本やスリランカから調達し、その購入費用などにあてる予定だということです。
この事故をめぐっては、漁業だけでなく、観光業や多くの絶滅危惧種が生存するモーリシャス海域への損害が加わるため、所有会社の長鋪汽船に対する最終的な損害賠償額は確定していません。
TBSは、「モーリシャス政府が重油事故で日本に請求」とタイトルで報じています。
これは誤報と言うべきでしょう。
このタイトルから受け取られる内容は「モーリシャス政府が日本政府に対して、事故の責任を問う形で金銭要求をした」というものであり、本文中に、「漁業支援費として支払いを求めた」とあっても、それを払拭することは難しいと思います。
「日本側」と濁していますが、日本政府を意味すると理解する他はありません。
賠償責任は「わかしお」の所有者=船主である長鋪汽船
モーリシャス政府が賠償請求 座礁事故「わかしお」の長鋪汽船に | ワールド | 最新記事 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト
モーリシャス沖座礁、賠償責任は商船三井ではなく「船主」に - SankeiBiz(サンケイビズ):自分を磨く経済情報サイト
モーリシャス沖での座礁事故による賠償責任は、船主の長鋪汽船が負うことになっているという報道があります。
したがって、日本政府が何らかの賠償請求を受ける立場には無いというのは明らかで、TBSの報道はこの時点で疑わしいということが分かります。
では、TBSが根拠とした「地元メディア」はどう報じていたか?
地元メディア「ル・モーリシアン」は「支援要請」
Marée noire : Maurice sollicite le Japon pour une aide de Rs 1,2 milliard - Le Mauricien
日本メディアが根拠にしている「地元メディア」の報道とは、「ル・モーリシアン」のこの記事ですが、表題では"sollicite"=要請となっています。
本文でも"sollicite"と"approché"となっていて、ニュアンスとしては「請求」とは程遠いものです。
ブルームバーグ詳報「漁船100隻の供与を検討頂ければ幸いです」
ブルームバーグがこの件について詳報しています。
“It would be appreciated if the Government of Japan could consider granting 100 semi-industrial fully-equipped fishing boats to the Mauritian fishers to allow them to operate in off-lagoon,” Financial Secretary Dev Manraj wrote in a letter dated Aug. 21 to Japan’s ambassador in Mauritius, seen by Bloomberg.
ブルームバーグが見たところによると「モーリシャスの漁民がオフラグーンでの操業を可能にするために、日本政府から、完全装備の半産業漁船100隻の供与を検討できれば幸いです」と、Dev Manraj財務長官が、モーリシャスの日本大使に宛てた8月21日付けの書簡に書き込んだ。
"could consider granting"=供与を検討して頂ければ…という、丁重な用語を用いているのが分かります。
「請求」という用語は、何か対価を提供した者が相手方に要求する場合や、不法行為などによる被害を回復するために相手方に要求する場合に用いられます。法的には何らかの法的な地位に基づいて行われる権利主張、というような意味で使われます。
モーリシャス政府は、そのような敵対的な関係に立つような用語法は用いていません。
ブルームバーグはさらに以下指摘します。
The letter doesn’t refer to the oil spill caused by the MV Wakashio
手紙には、MVワカシオによる油流出について言及していない。
つまり、モーリシャス政府の日本政府に対する「要請」は、事故の責任を問うものではないことを明確にしているわけです。事故の責任を問うのであれば、必ず事故の内容について記述します。
「モーリシャス政府が日本に32億円請求」は誤報
したがって、「モーリシャス政府が日本に32億円請求」は誤報です。
TBS以外のメディアも、朝日・日経などは「要求」という用語を使っており、ややミスリーディングですが、誤報と呼ぶべきかというと微妙かなと思います。
きちんと「要請」という語を使っていたのは共同通信や日テレなどでした。
以上