事実を整える

Nathan(ねーさん) ほぼオープンソースをベースに法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

IOCトーマス・バッハ会長「ぼったくり男爵」の経緯とその禍毒のまとめ:捏造のミルフィーユ

IOCバッハ会長

Ralf Roletschek / roletschek.at CC BY 3.0

捏造のミルフィーユ状態だった。

バッハ会長を「ぼったくり男爵」とする捏造言論空間

https://journals.sagepub.com/doi/full/10.1177/0308518X20958724

この報告書はバッハ氏がIOC会長に就任する2013年より前の五輪大会も含めて1960年のローマオリンピックから2016年のリオオリンピックにおいて、すべての大会で予算を超過しており(実質ベースで平均172%)、これはあらゆるタイプのメガプロジェクトで過去最高の超過であること、今後はより破壊的で計画性が低い大会になる可能性を示唆し、開催都市や開催国が直面するコストリスクを説明した上で、より良いゲーム管理へのステップを提示しています。

論文内には「トーマス・バッハ」の一文字もありません。

※当初稿では「オリンピックの費用や予算超過についてIOCが開催国を騙していた、とする内容です。」と書きましたが、流石に論文の紹介文としては煽り過ぎだと思い、論文内の表現に従いました。

ワシントンポスト紙のスポーツコラムニストであるサリー・ジェンキンス氏

ぼったくり男爵」と評されたのは、ワシントンポスト紙のスポーツコラムニストであるサリー・ジェンキンス氏の2021年5月5日の記事においてです。

Japan should cut its Olympic losses, no matter what the IOC says - The Washington Post

それを、まるでアメリカの有力紙が社説で日本に五輪中止を促していたかのように共同通信等が報道。

当時から以下指摘がありました。

「トーマス・バッハ」は1回だけ登場「ぼったくり男爵」の根拠ゼロ

以下で全文が和訳されています。

米紙「日本政府は損切りし、IOCには『略奪するつもりならよそでやれ』と言うべきだ」 | 日本政府は主権まで放棄したわけではない | クーリエ・ジャポン2021.5.7(魚拓

和訳内容が正しいかはチェックしてませんが、バッハ会長に触れているのは以下。

フォン・ボッタクリ男爵、別名トーマス・バッハIOC会長とそのお供の者たちには悪癖がある。それは自分たちをもてなすホストに大散財をさせることだ。まるで王族が地方にお出ましになったとき、そこの小麦が食べ尽くされ、あとに残るのが刈り株だけになるときのような話だ。

これだけです。

バッハ氏が「ぼったくり男爵」であることの根拠は、何も書かれていません。

その後、ドイツ人の独日翻訳家のマライメントライン氏の記事では以下言及。

2021.06.25 “ぼったくり男爵”バッハ会長に日本在住ドイツ人も「マジ迷惑してます」/マライ・メントライン

バッハ会長の人生アウトラインについては日本語ウィキペディアに簡潔にまとまっています。端的に言えば上昇志向の強い成り上がり系で、そのカテゴリの人間としては文句なしの成功を収めた部類ですね。
 さまざまな情報およびビジュアルから窺(うかが)える印象を総合するに、彼の人生の最大目的は上流階級への仲間入りで、上流といえば欧州の場合、領域によって濃淡があるとはいえ、今なお「伝統社会の貴族ネットワーク」の隠然たる影響力をベースにあれこれ蠢(うごめ)いているのがポイントです。

 家柄的に貴族ではないけど貴族サークルに入りたい! そしてあわよくばその地位を活かして社会でブイブイいわせたい! というのがバッハ氏の人生の前半期のモチベーションであり、ゆえに「ぼったくり男爵」というのは、その内面のイタい虚飾性を見事に突いた表現なわけです

「内面の虚飾性を突いた表現」

つまり、何らの事実関係もなく、単に主観的な評価としてそういう語を当てただけに過ぎない、ということが分かります。

しかも、「ぼったくり」 という日本語の意味は、「法外な料金を取ること・力ずくで奪い取ること」です。そのいずれにも該当しない内面を表す語が用いられたという、何重にも歪曲された言説だったというわけです。

それが明示されてるという意味でマライ氏の記事は有用ですが以下事案がありました。

この話は以下で書いてます。

鴻巣友季子氏による翻訳記事の注意喚起が素晴らしかった|Nathan(ねーさん)|note

「バッハ会長=ぼったくり男爵」を否定していた橋本聖子会長

「ぼったくり男爵」に橋本会長「何を根拠にそのような表現」バッハ氏を擁護 - 東京オリンピック2020 : 日刊スポーツ

東京オリンピック(五輪)・パラリンピック組織委員会の橋本聖子会長が7日、都内で行った定例会見で、米有力紙ワシントン・ポスト(電子版)のコラムで、国際オリンピック委員会(IOC)トーマス・バッハ会長を「ぼったくり男爵」と呼んだことについて「何を根拠にそのような表現されているのか、理解に苦しむところがある」とバッハ氏を擁護した。

ー中略ー

ワシントン・ポストは5日のコラムで、バッハ会長を「ぼったくり男爵」と呼び、新型コロナウイルス禍で開催を強要しているなどと主張。「地方行脚で食料を食い尽くす王族」に例え、「開催国を食い物にする悪癖がある」と非難し、日本政府に対し東京五輪を中止するよう促した。

橋本聖子会長は「ぼったくり男爵」を否定。

橋本会長自身もネット上ではdisの対象になっていたため、バッハdisはとどまる所を知りませんでした。

日刊スポーツの最後の部分、シレっとワシントンポスト紙が社説で主張したかのようにかかれていますね。

こうした辺りに言論空間の歪曲の証拠が残っています。 

IOC批判のストーリーがバッハ批判にすり替わり

「IOCは開催国に負担を負わせ、それによって得た利益によって(いや、利益が出てなくとも手元に集まったおカネによって)IOC委員を歓待することが常態化した腐敗組織だ」

このようなストーリーが、SNS上に広がっていった。

その中でトーマス・バッハ会長という個人を生贄にし、メディアによって捏造された人物像=ぼったくり男爵という敵を根拠も無く作り出し、メディアとSNS民が"バッハdisの歪曲言論空間"を合作し、それを養分として商売をし或いは心の隙間を埋めていった者が跋扈した。

こうした壮大な倒錯空間が出来上がっていったわけです。

オリンピック否定、日本人の営為を否定する効果のあるバッハdis

"バッハdis"の話は大抵、東京大会の組織委員会やJOCなどの日本側の関係者もdisることになっている。その構造に気付いてる人、どれだけいるんでしょうか?

また、その先には東京オリンピック2020の中止や開催の意義の減殺などを企図した狙いが透けて見えます。

そうした言説をブーストさせるのに作用したのが「バッハ会長=ぼったくり男爵」という捏造された攻撃対象であったと言えるでしょう。

数多のバッハ会長非難の捏造メディアとSNS言説

私が認識してまとめただけでも、バッハ会長非難のメディアとSNS言説は以下のように多岐にわたります。

バッハ会長が広島を訪問した際の警備費用の負担が広島県と広島市の折半で、IOCは負担しなかったという記事が出ましたが、「広島側から訪問するよう要求していた」という重要事実を書かずに報じていたものがありました。

バッハ会長が銀座散策をしたことがプレイブック違反などと言われましたが、その後(8時間ほど後)、ドイツ行きの飛行機で日本を出発して帰国しました。

入国から2週間経過後はプレイブックの行動制限の対象外です。

その後にオリンピック・パラリンピックの関係者に会っていなければバブルの中に持ち込んだりする行為ではない。

集団での飲食をしたという事実が報じられていないため、感染リスクのある行為をしたわけではない(外を出歩いたりマスクをしている人との短時間の写真撮影を禁じるなら、一般人は電車通勤もできないことになる)。

また、バッハ氏が銀座散策をしてから日本を発つまでは8時間程度ですが、仮に銀座で感染したとして、感染者が媒介者(他人に感染させる力のある者)となるまでの時間としては短いため、感染伝播リスクはほとんど心配する意味がないでしょう。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引・第5.1版7ページ伝播様式

潜伏期間は1~14日間であり、曝露から5日程度で発症することが多い

感染可能期間は発症2日前から発症後7~10日間程度…と考えられている

「バッハ会長歓迎パーティー」も、飲食無しでした。

バッハ会長が「スポーツはウイルスと戦える」と発言したことについて医師が「たたかえねぇよ」と短絡的にツイートしたことが発端となって拡散されました。

バッハ会長の趣旨としては、スポーツの一般的な健康増進と社会経済的役割について説明したものであり、スポーツをすることで直接的にウイルスを克服することを企図したものではありませんでした。

バッハ会長が"The Japanese people can appreciate that …"と言ったことで、「日本人は感謝しろと上メセを言ってきた」などと独日翻訳者が騒いだためにSNSで政治思想の左右を問わずバッハ氏に対する憎悪が巻き起こりました。

しかし、本物の英語翻訳者によって、"can appreciate"は「認識することができる」の意味であるとして一蹴されました。私の予想が当たっていました。

IOC会長トーマス・バッハ報道のまとめ:捏造のミルフィーユ

東京オリンピック2020に関するIOC会長トーマス・バッハ氏に対する言説をまとめると、以下のように言えます。

  1. 5月上旬、ワシントンポスト紙のスポーツコラムニストであるサリー・ジェンキンスがバッハ会長を「ぼったくり男爵」と表現したのが"バッハdis"の発端
  2. その記事には「バッハ」は1回しか記述されず、「ぼったくり」の根拠事実無し
  3. 当該記事のベースとなったと言われている論文も「バッハ」の記述は無し。バッハ会長就任以前の大会も含めたIOCの運営批判の内容
  4. 日本で「ぼったくり男爵」という表現の記事が跋扈するも、その根拠となる事実の提示が行われたことは一度たりとも無い
  5. 「バッハ=悪」の図式で様々報道され、事実と異なる記事、誤った認識を流布する記事がメディアによって為され、また、SNSの個人が再拡散した

2021年5月からの3か月間のバッハ氏に関する言論空間は、一言でまとめれば

捏造のミルフィーユ状態

だったと言えます。

「外国の偉い人」だから何を言っても無視され、反撃してこないだろう、名誉毀損訴訟を仕掛けてこないだろう、というような計算があるような気がします。

特に、東京オリンピック関係者に対しては森喜朗元組織委員会会長に対する異常なバッシングがありましたから「五輪関係者」で叩く対象が居なくなったからバッハ氏にターゲットを移したのでしょう。

為末大「沈黙は賛同と同じ 選手に関わることに声を上げる」⇒ウイグル弾圧の中国五輪は無視

ちきりん「森喜朗クラスの男は中国共産党みたいに再教育キャンプに入れるべき」

さて、冬季北京オリンピックが開催されるまで約6ヵ月ですが、その時にも「バッハdis」の捏造・歪曲空間が領域展開されるのでしょうか?

注視しなければならないでしょう。

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