皇位継承問題に関連して「Y染色体理論」なるものを持ち出す者が居ます。
科学的にも誤りであることを指摘します。
- 皇位継承問題におけるY染色体遺伝子理論というエセ科学
- Y染色体理論が誤り・間違いである一般論理による説明
- Y染色体の回文配列は組換えを起こす
- 男系継承者は神武天皇の実在性を実証しなければならなくなる
- Y染色体に突然変異が発生したら男系男子による皇統断絶
- まとめ:劣化保守擬きの印象操作に加担するな
皇位継承問題におけるY染色体遺伝子理論というエセ科学
皇位継承問題におけるY染色体理論とは
- 父親が持っているY染色体遺伝子は神武天皇から代々受け継いだものである
- Y染色体は息子にしか受け継がれない
- 娘と神武天皇のYを持っていない男性(民間人を想定)との子には神武天皇のYは受け継がれないから皇統断絶である
というものです。このうち2番目は科学的な根拠はあります。
しかし、このような方法での正統性の説明は、破綻しています。
Y染色体理論が誤り・間違いである一般論理による説明
【男系カルト】「神武天皇のY染色体」理論はなぜトンデモなのか
既に、科学を用いずとも論理的にY染色体理論がおかしいということは説明済みです。
- Yが大切なら女性天皇は正統性がないのか
- 遺伝子の継承が正統性の根拠だとすれば女子のXXに祖父のXが受け継がれている限り正統と言えてしまうのでは
- 神武天皇のYが重要なら、臣籍降下していった者の子孫たる多数の民間人男性も正統だということに
- 科学の論理を持ち出すと別の科学による物語や説明、反論の俎上に乗っかることに
女性天皇については「中継ぎだからなくても良い」と言い張る者が居るようです。
「歴代天皇がYを持っていること」ではなく、「Yが継承されてきたこと」が重要だというのです。
ただ、そうすると「君臣の別」として皇族と民間人男性を峻別してきたことが説明できません。女性天皇を即位させるくらいなら、神武天皇のYを持つ(であろう)臣籍降下した元皇族の民間人男性を探し出して即位させていたハズからです。
更に、今回はダイレクトに科学的にも誤りであることを説明します。
Y染色体の回文配列は組換えを起こす
科学雑誌"Nature" 関連のNature JapanというWEBページで以下の指摘があります。
X染色体とY染色体では全域にわたる生産的な「交換」すなわち「組換え」は起こらなくなっているが、Y染色体は、その大部分を占める回文配列(左右対称な鏡像配列)中に多くの遺伝子を配置することによって、遺伝子の完全性を保ってきた。この回文配列は、男性の一世代あたり600塩基対という高い頻度で互いに組換えを起こすらしい。
回文配列がどういうものかはさておき、一世代あたり600塩基対が組換えを起こすということが分かっています。
つまり、父親と息子のY染色体遺伝子すら、まったくの同じものではないのであって、「Y染色体の継承」なるものが同一性を保ったモノの継承を意味するとは到底言えません。
ゲノム研究で判明した男性染色体の奇妙な特徴|WIRED.jp
研究者たちは、予期しなかった特徴も発見した。以前、科学者たちはY染色体中のDNAが不活発なものだと考えていた。受精の間、母親と父親からの他のすべての染色体が遺伝子を交換し、胚の新しい遺伝子情報を作り出す。Y染色体は、受精中の遺伝子交換に参加しない。このため、Y染色体の不活発なDNAは、世代を経ても取り除けないような有害な突然変異につながると考えられていた。
しかし新しい研究で研究者たちは、Y染色体が自身の中で、DNAを高い頻度で入れ替えていることを発見した。このメカニズムは、突然変異が発生したときに、Y染色体自身を修復するのを助けている。
しかし、ワシントン大学医学部の『ゲノム・シークエンシング・センター』(ミズーリ州セントルイス)の所長で、ヒトゲノム計画にも参加したリチャード・ウィルソン氏は、このような自身の中で起きるDNAの入れ替えは諸刃の剣かもしれない、と述べている。このプロセスによって、有用な遺伝子の一部が欠失する場合も出てくる。このような欠失が、不妊をはじめとする種々の問題につながるのだとウィルソン氏は説明している。
また、組換えどころか欠損が生じる可能性も指摘されています。
この回文配列の組換えは突然変異とは別個の話です。
男系継承者は神武天皇の実在性を実証しなければならなくなる
ここで、「ある種類としてのY染色体が継承されていれば良く、回文配列内の組換えないし欠損は、先祖の同定に影響しない」という反論が考えられます。
ちょっと何言ってるか分からないかもしれません。
たとえばとあるY染色体の遺伝子がA+B+Cでできているとして、回文配列がBの中で(abcdabcdabcd…)ってなってるもののかっこ内がいくら変わったり欠損しても、A+B'+Cが維持できていれば同じ種類のY染色体であり、D+E+FのY染色体とは別個である、という見方もできます。
しかし、そうすると、そのような種のYを持つ男系男子は日本中に居るはずです。
神武天皇の祖先から枝分かれした人もいる可能性があるからです。
え?神武天皇の祖先は神話の神々だしそこもずっと一つの系統だから関係ない?
Y染色体を持ち出した時点で、神話の話を持ち出すことはできませんよ。
Y染色体を有する人間である以上、祖先がいるはずですからね。
そして、科学を持ち出した以上、「神武天皇の実在性」も問題になります。
天皇陵を暴いて神武天皇の実在を証明しない限り、「天皇の正統性は神武天皇のY染色体遺伝子を継承してきたことにある」などとは言えなくなります。
天皇の正統性について、科学そのもので説明するにしろ、科学で「補強」するにしろ、科学を持ち出すということは、そういうことです。
Y染色体に突然変異が発生したら男系男子による皇統断絶
その上、Y染色体が突然変異を起こしたら、たとえ男系男子による継承が行われていたとしても、同一のY遺伝子と言えるものが継承されないということになります。
「男系男子による継承が正統性を持つ」という主張よりも、遥かに脆弱な説明であるということに気付かないのでしょうか?
ここで論じたことは、既に物理学者の菊池誠さんのブログ(今は無い)のコメント欄の議論で指摘され尽くされています。⇒⇒⇒え、ついにY染色体が主役に?
まとめ:劣化保守擬きの印象操作に加担するな
「Y染色体理論は分かりやすい説明」 と言って完全には否定しない人が居ます。
それは一応の説明としてはわかりやすい、という意味であって、厳密な検証に耐えられるものではないというのが分かるでしょう。
或いは、それはとある界隈の人に配慮したギリギリの物言いなのかもしれません。
私の印象としては、Y染色体理論を積極的に主張する者は、もはや「男系男子による継承を提唱する者がうさんくさいと思われるように、女系推進派が劣化保守を偽装してワザと主張している」としか思えません。
そうやって、「男系維持派はヤバい。こんな奴らが言ってるんだから男系を維持するのはおかしいんだろう。女系・女性宮家に変えるべき」という印象を、この問題に関心の無い(しかし大多数の者が居る)者に植え付けようとしているのでしょう。
もしも「善意」でY染色体理論を主張しているのならば、劣化保守擬きの印象操作に加担するなと言いたいです。
以上