皇位継承問題で男系男子による継承を維持する理由として「神武天皇のY染色体を継承しているから」というトンデモ説を言う人が居ます。
なぜこれがトンデモなのか、あまりにも当たり前過ぎて明確に説明されることがないため、あらためてここで指摘します。
「神武天皇のY染色体」理論とは
いわゆる「Y染色体理論」とは、『「父親のY染色体を受け継ぐのは息子だけであり、母親の父親のY染色体が受け継がれるということはない」という前提のもと、歴代の天皇は代々、初代神武天皇のY染色体を継承してきた、だから正統性がある、「女系」継承をすると神武天皇のY染色体は受け継がなくなるから、それは皇統の破壊である』
概ね、このような主張を指します。
さて、この論理は、まったく生物の知識などなくとも破綻していることがわかります。
Y染色体理論に基づくと大量の皇位継承権者が居ることに
神武天皇以来、数多の男性皇族が臣籍降下(民間人になること)していきました。
皇籍復帰をしない限り、その者は元皇族であろうとも民間人です。
Y染色体が必ず父親からしか受け継がれないとして、彼らがもしも男系のまま系統を維持してきたとすると、その子孫も神武天皇のY染色体を持つということになります。
その子孫も正統な皇位継承権者であるとでも言うのでしょうか?
「君臣の分義(君臣の別)」によって皇族とそれ以外の地位の者を明確に区別していた歴史を無視していることになります。世襲親王家以外は、一定の世数が離れた皇族は臣籍に下って行ったわけですから。
Y染色体理論に対する想定問答
Q:Y染色体が大切ならXXである男系の女性天皇には正統性が無いのでは?
A:そうではない。一代限りに着目してるのではなく後代で染色体の継承が途切れることに主眼がある。
Q:では、次代の女系の女性皇族のXXに祖父のXが入ってれば正統性がありますよね。今の遺伝科学なら、判別可能じゃないですか。女性宮家を創設しても、そういう人だけは皇族として扱えばいいじゃないですか。
こうなってしまいますよね。
Y染色体理論という現代科学を持ち出すと、別の現代科学による反論が可能になる
Y染色体理論という現代科学?を持ち出すと、別の現代科学による反論を喰らいます。
多くの方が指摘することとして「ミトコンドリアDNA」の例があります。
曰く「ミトコンドリアDNAは母親のものしか受け継がないので、それを辿るとイブが祖先ということになる、よって皇室の祖先はイブである」或いは「よって皇室の祖先は人類発祥の地であるアフリカの類人猿である」
このような主張が出てきます。
この説に妥当性があるかどうかはともかく、現代科学で説明しようとすることは、こういう議論の俎上に乗っかるということを意味します。
後付けの論理を持ち出すことの愚
Y染色体にしろミトコンドリアDNAにしろ、太古の昔にそのようなことを意識していたことはありません。それは現代から「後付け」した「理論」に過ぎません。
後付けの理論で説明可能なものであれば良い、ということであれば、「女系天皇」も現代に生きる者が後付けで編み出した「理論」によって、過去に存在していたと説明することが可能になる余地が出てきます。
女系推進派が言うのは「元明天皇から元正天皇への譲位が女系継承だ」というもの。
これは破たんしているのですが、後付けの理論で説明するとなんでも言えてしまうということの例として秀逸です。「女系」の定義をいじってしまえば何とでもなってしまいます。
詳しくは以下の記事で触れています。
女系天皇容認派撃退マニュアル2:高森明勅、小林よしのりの論理破綻
男系継承のための積極的根拠を提示する必然性はない
男系維持派がY染色体理論のような後付けの理論を持ち出してしまうのは「何かが正当であるためには、積極的根拠が常になければならない」 というドグマに陥っているからであると思われます。
「男系継承によって何か悪い事が起きているわけでもない。むしろ、歴史の淘汰に耐えてきたことそれ自体に価値がある。それを女系も良いという事にするのは不可逆的変更であり、間違いであった場合に取り返しがつかないから避けるべきである」
このような消極的な根拠だけで、何ら問題はありません。
「消極的」という言葉が、何かマイナスの物事を想起してしまう現代の風潮ですが、論理の文脈においては「消極的」という語は価値中立的なものです。
全ての物事に積極的根拠を見出そうとすると、淘汰の過程で残ったモノや、特定の人ではない多数人の営為によって醸成されてきたモノが排除されてしまいます。
そのような考え方は人間の「理性」を重視し過ぎた危険な思想に繋がっています。
積極的根拠が求められるべきことと、そうではないことがあります。
天皇の御存在というものは、誰かの意思によって根拠づけられて成立し、継続してきたものではありません。そこにはただ、歴史的事実の積み重ねがあるだけです。
現状変更を求める者に「主張立証責任」がある
女系天皇・女性宮家創設派の側が、現状変更をしようとしているのです。
現状変更をしようとする側に主張立証責任があるというのが原則です(例外もあるが)
そして、それは51:49であればよいという「証拠の優越」のようなものであってはならないでしょう。少なくとも民事訴訟で求められる「高度の蓋然性」を要するでしょう。これは敢えて数値化すると80%以上の確信などと言われることもあります。
歴史の重みを感じるならば刑事訴訟で求められる「合理的疑いを入れる余地がない程度の証明」のような基準を要するでしょう。これも敢えて数値化すると95%以上の確信などと言われることもあります。
この前提を無視してはいけませんしましてや主張立証責任を逆転させてはなりません。
どうも、この点についても工作が行われていたようですが。
まとめ:「男系カルト」に成り下がるな
皇統を護る側が主張しなければならないのは、なぜ男系継承なのか?の根拠ではなく、安定的な皇統維持のための方法論です。
積極的に正統性を説明しなければならないと思うから、トンデモ論に飛びつき、左派から「男系カルト」などと言われてしまうのです。
その必要はありません。
それは女系天皇・女性宮家創設派の術中にはまっているということに気付くべきです。
※科学的にも誤りであることについては以下
以上