事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

青木理、韓国での女性暴行事件を「ニュースに値しない」菅野朋子「この程度」

8月27日の羽鳥慎一モーニングショーにおける青木理・菅野朋子両氏の発言が問題視されています。韓国での日本人女性暴行事件についての話ですが、報道番組としてこんな発言が許されるのか?みたいな話にもなっているのでちょっと気になりました。

菅野朋子弁護士「この程度」

菅野朋子弁護士「正直言ってこのくらいっていうのはそんなに珍しい話ではないと思う。この程度のことはありがちで、それで2500人(の厳罰を求める署名が韓国で集まってる)というのは今だからこそ

ちょっとこの発言は「嫌な感じ」になってしまっていると思います

菅野氏は「暴行の程度」に着目

菅野氏はたぶん、「暴行の程度」と「怪我の具合」に着目して、同程度の事案は沢山あるだろう、という法的な世界の視点からの分析をしてしまったんだろうと思うんです。

彼女の中では多くの暴行事件における暴行の程度と怪我の具合と比較すれば「単なる暴行事件」という評価になったんだろうと。

一般的な事件の捉え方をしてれば、ああいう発言は出てこなかったんじゃないかと。

生身の被害者が居るリアルタイムの話において、統計的・マクロな視点からの分析結果を発言する事の危険というのを目の当たりにした気がします。

韓国での日本人女性暴行事件の内容

世の中の人は本件を「単なる暴行事件」とは思ってなくて

  • 韓国の都市において
  • 白昼堂々と
  • 日本人女性に対して韓国人男性が
  • 執拗に絡んだ挙句女性に何ら落ち度が無いのに
  • 日本人差別用語を浴びせながら
  • 暴行を加え
  • 助けを呼んでも誰も来ず
  • その場面の動画がSNSで拡散され
  • 韓国では厳罰を求める署名運動まで起こっており
  • 被害者は後に、後遺症が残る傷害の可能性があると指摘された

以上のような要素が詰まった事件だと思ってるハズです。

刑法の世界の法的な事案分析をしてしまったのでは

「ナンパを無視したら暴行を受けた」

という事案だけでも暴行事件の中では変わった類型だと思われるのに、単に暴行の程度(加えられた力と怪我の度合い)に着目して「この程度」と言ってしまったのはまずかったと思います。

これは、彼女が事案の刑法判断を無意識にやってしまったのだろうと思うのです。

この発言時の彼女の頭の中では本件は

  1. 女性に何ら落ち度が無いのに
  2. 男性が暴行を加え
  3. 女性が軽い傷害を負った(或いは傷害は負っていない)

という事になってると思われます。「この程度」の対象は上記の2と3の事情に限定されると思います。

3は後遺症の可能性を伝えられたツイートを知らないだろうから仕方ないとして、他の事情は刑法の構成要件判断としては無視されます。量刑判断の事情も捨象してたんだろうと思われます。

これは普通の人が聞いたら無機質或いは不見識に映るでしょうね。

そして、彼女がこういう発言をしたのは、青木氏が「ニュースに値しない」と言っており、ニュースバリューの観点から本件を捉えようとしたためである可能性もあります。

青木理「ニュースに値しない」「自分なら書かない」

>青木理氏、邦人暴行事件を「取り扱うに値しない」 ネットで猛批判 - ライブドアニュース

青木理「邦人保護の対象となるような人が、怪我をしたとか行方不明になったというならわかるけど、はっきり言えば今回のケース、僕がソウル特派員で普段の時にいたら多分書かないですよ。つまり、書かないようなニュースが大きく報じられて、今の時期だからってことで、ある種悪循環になっちゃってるんで。これをもとにして、日本でもそうだけど、韓国の人だと、まだこの一部のテレビなんかでコメンテーターが喧嘩を増幅するようなことを言うと、またそれで燃え広がっていっていう、悪循環に入っている局面の1つ。本来なら、ニュースにならないニュースがこういう形で大きく注目されるって言うことが、今の日韓関係をさらにまた悪化させていく原因」

青木氏が「本来ならニュースにならない」と判断しているのは、「邦人保護対象」というハードルを設定しているせいだというのが分かります。

邦人保護の対象は全国民

青木氏は「邦人保護の対象」というのが「特別な地位にある者」「特定の事案の場合に指定された者」と考えているようですが、「邦人保護」と言う場合、法的にはそれは全国民を指します。

国際法上、政府には自国民を守る義務があると考えられています。それは重大な事案が発生した場合に問題になりますが、抽象的には全日本国民は国家の一部として保護対象になっています。

青木氏は「邦人保護の対象となるような人が」と言いますが、単に旅行者が行方不明になっただけでもニュースになりますよね?

おそらく後の「ニュースに値しない」という主張のために用意した設定なので、最初からおかしなことになっているんだと思います。

ニュースにならないようなニュース?

その上で、先述の今回の事件の要素がいくつか彼の中で抜け落ちているのではないかと思います。

韓国という異国の地において、白昼堂々と、女性に対して男性が執拗に絡んだ挙句、女性に何ら落ち度が無いのに、日本人差別用語を浴びせながら暴行を加え、女性が助けを呼んでも誰も来ないという場面の動画がSNSで拡散され、韓国では厳罰を求める署名運動まで起こっており、被害者は後に、後遺症が残る傷害の可能性があると指摘された。

こんな事案が「ニュースに値しない」などと思う人はいないでしょう。

仮に青木氏が菅野氏が言ったような、単に暴行の程度と怪我の程度だけを見て「ニュースに値しない」と言っていたのだとすれば、ジャーナリストとしてどうかと思います。

BPO案件ではないか:玉川徹氏がバランスを取るが

青木理氏、邦人暴行事件を「取り扱うに値しない」 ネットで猛批判 - ライブドアニュース

スタジオが黙り込んでしまう中、普段韓国を擁護することが多い玉川徹氏は、憤りを覚えたのか、

「今の状況と無関係じゃないのは、ただ単にあの不埒な男がね、若い女の子をナンパしようとして失敗して暴行したじゃなく、日本人に対して言われる差別的な言葉なんかも投げ掛けながらやってるわけじゃないですか。やっぱり、それは単なる暴行のニュースとは違いますよね。韓国人だろうが日本人だろうが何人だろうが暴行なんてダメなんですよ。それだけじゃなくて、やっぱり背景があるじゃないかと。背景があるんだったら、やっぱり背景をちゃんと考えなきゃいけない」

と話す。

このシーンでは玉川氏が青木氏に一部反論している形になっています。

番組としてはこれで一応はバランスが取れている、という事になるような気がします。

青木氏も菅野氏も、被害者女性にとっては間接的に「嫌な思いをするような」発言になってはいますが、直接攻撃的な発言をしたのでもなく、ましてや暴力行為を肯定したわけではないですし。

ただ、以下の発言は事実誤認かつ韓国人に対する侮辱だと思います。

>青木理氏、邦人暴行事件を「取り扱うに値しない」 ネットで猛批判 - ライブドアニュース

青木氏「よく韓国人が日本人や在日の人なんかにもよく使うような言葉を使ってたらしいんだけども、別にその今の時期じゃなくても日本人の悪感情を呼ぶ時には必ず使うものなんですよ

まとめ

>放送倫理基本綱領 | BPO | 放送倫理・番組向上機構 |

青木氏の発言内容が全く妥当性を欠いている非常識なものであると私も思います。

「ニュース価値がない」は個人の見解で済む話でしょうが、「日本人の悪感情を呼ぶときに必ず使うもの」と言って差別用語をあたかも「アホ」のような通常使われる罵倒語と同視させるような発言をしたことについては、放送局として何らかの対処をしないとダメでしょう。

以上