共同通信から日本が共同声明の参加を打診されていたが断っていたという報道があり、「欧米の追随をしないことで中国に配慮した」と書かれていますが、時系列からしておかしな記述です。
- 日本は「中国批判声明」を出していた?
- 秋葉剛男外務事務次官から孔鉉佑駐日中国大使への申入れ
- 日本が中国非難声明を出したのは最速、共同の「欧米に追随せず配慮」は成り立たない
- EUの声明は何に違反しているのか具体性がある
- 共同が日本が拒否と言うのはファイブアイズ国(米国・英国・加州・豪州)の声明
- 「当事者ではないから内政干渉」論と国際法
- 国際世論的に日本は声明を出していないことになっている
- アングロサクソンの野蛮な世界とどう対峙するか
日本は「中国批判声明」を出していた?
日本、中国批判声明に参加拒否 香港安全法巡り、欧米は失望も | 2020/6/7 - 共同通信 https://t.co/NqAUSlVHm5
— 山田宏 自民党参議院議員 (@yamazogaikuzo) 2020年6月7日
酷い印象操作記事。当初各国足並みの揃わない時期未定の共同声明ではなく、速やかに明確な形でわが国が独自の声明を出した。後追いでEUが同様の「深い懸念」声明となったというのが事実。
日本は「わが国が独自の声明」を出していたとする自民党の山田宏議員のツイート。
中国批判声明はあったのでしょうか?
秋葉剛男外務事務次官から孔鉉佑駐日中国大使への申入れ
秋葉剛男外務事務次官から孔鉉佑駐日中国大使への申入れ|外務省
1 5月28日,秋葉剛男外務事務次官は,孔鉉佑(こう・げんゆう)駐日中国特命全権大使を召致し,以下を申し入れました。
(1)我が国は,今般,全国人民代表大会において,香港特別行政区に関する議決が,国際社会や香港市民が強く懸念する中でなされたこと及びそれに関連する香港の情勢を深く憂慮していること。
(2)香港は,我が国にとって緊密な経済関係及び人的交流を有する極めて重要なパートナーであり,「一国二制度」の下に,従来の自由で開かれた体制が維持され,民主的,安定的に発展していくことが重要であるというのが我が国の一貫した方針であること。
2 これに対し,孔大使から,本件は中国の国家安全に関わる事項である等,中国側の立場を述べたことを受け,秋葉次官から改めて我が国の懸念を伝達しつつ,中国側の適切な対応を求めました。
どうやら、 5月28日の「秋葉剛男外務事務次官から孔鉉佑駐日中国大使への申入れ」が「日本の中国批判声明」であると言っているようです。
確かに茂木外務大臣や菅官房長官もこの申し入れをベースに「深く憂慮」と記者会見で発言しています。
この点の問題は後述しますが、まずは共同通信の7日の報道の誤りについて指摘します
日本が中国非難声明を出したのは最速、共同の「欧米に追随せず配慮」は成り立たない
チャイナの全人代で香港に対する国家安全法制が成立したのは28日の16時15分前です。日本からの声明はそれから2時間もしないうちに出ています。
ファイブアイズ国のうちニュージーランドを除く4カ国(米英加豪)の声明は同日の20時30分頃、EUは29日になって声明が出ています。
よって、共同通信の問題記事にあるように日本が「欧米に追随せず中国に配慮」というのは時系列的に成り立ちません。
で、この日本の抗議内容はEUによる中国批判声明と、言わんとするところはほぼ同じです。
EUの声明は何に違反しているのか具体性がある
Declaración del Alto Representante en nombre de la Unión Europea sobre Hong Kong - Consilium
The EU expresses its grave concern at the steps taken by China on 28 May, which are not in conformity with its international commitments (Sino-British Joint Declaration of 1984) and the Hong Kong Basic Law. This risks to seriously undermine the 'One Country Two Systems' principle and the high degree of autonomy of the Special Administrative Region of Hong Kong.
EU relations with China are based on mutual respect and trust. This decision further calls into question China’s will to uphold its international commitments. We will raise the issue in our continuing dialogue with China.
EUは、5月28日に中国が取った措置に重大な懸念を表明します。これは、国際的な約束(1984年中英共同宣言)および香港基本法に準拠していません。これは、「一国二制度」の原則と香港の特別行政区の高度な自律性を深刻に損なうリスクがあります。
EUと中国との関係は、相互の尊重と信頼に基づいています。この決定はさらに、中国の国際的コミットメントを支持する意志に疑問を投げかけます。中国との継続的な対話で問題を提起します。
EUの声明の文面は日本による中国大使に対する抗議とほぼ同じです。
山田議員が「声明を出している」と言うのも分かる気がします。
しかし、EUの場合は「何に違反しているのか」について具体性があります。
要するに国際法を守れよ、と言っているのです。
それはファイブアイズ国の声明も同様です。
共同が日本が拒否と言うのはファイブアイズ国(米国・英国・加州・豪州)の声明
Joint Statement on Hong Kong - United States Department of State
長いので全文引用はしませんが「法的拘束力のある、国連で登録された中英合同宣言の原則に基づく国際的な義務と直接対立している」「市民的および政治的権利に関する国際規約および経済的、社会的および文化に関する国際規約に定められたものを侵害する」とハッキリと言っています。
日本の場合は、「国際社会の懸念」とだけ言っており、まったく意味不明です。
ファイブアイズ国はUKUSA協定に基づいてイギリス・アメリカ・カナダ・オーストラリア・ニュージーランドで構成される機密情報の相互利用機関です。アングロサクソンの国家同士の連帯ともいえます。
そこに日本が加わるべき必然性はアプリオリには存在しません。
ただ、ファイブアイズ国が声明を出す際に他の国を呼ぶことはあるようです。
「当事者ではないから内政干渉」論と国際法
どうやら「当事者ではないからこれ以上は内政干渉になる」という論があるようです。
たしかに過激な論を振りかざす人に対してはそういうべきでしょう。
しかし、日本もEUもファイブアイズ国も「懸念」の範囲内です。それを超えてなにかチャイナに制裁を科すとか不利益となる法的措置をとるといった内容ではありません。
ファイブアイズ国はイギリス連邦諸国+アメリカであるから当事者として、EU(イギリスは離脱済み)は当事者ではないのに声明を出しているのは、チャイナがやっていることが「国際ルール違反」だからという理屈をかましているからです。それは内政干渉ではあり得ません。
条約法条約(ウイーン条約)にある「約束は守れ」というルールを守れ、という話です。
国際世論的に日本は声明を出していないことになっている
この抗議声明はどの声明かなと思って調べたら、アングロサクソン系諸国の声明なので日本が必ずしも加わる必要はなさそうですが、
— ワタセユウヤ@Drain The Swamp! (@yuyawatase) 2020年6月7日
「では、日本も入った国際共同声明を行うことに、日本政府が動いているのか」
が大事であって、大使を呼んで抗議したとかはどうでも良いですね。 https://t.co/T7LZlPwvH0
共同通信には文句を言う前に、政府として何をしているのかを明らかにすべきです。大使を呼んで抗議と国際共同声明が同列なはずがないので。
— ワタセユウヤ@Drain The Swamp! (@yuyawatase) 2020年6月7日
今日の時点になると、あらゆる媒体で『日本は中国側』という印象操作が行われている。
— Nathan(ねーさん) (@Nathankirinoha) 2020年6月7日
「日本は声明を出してない」が前提になってる。
外務省はオフィシャルだけ相手にしてて、国際世論を無視して自滅してるだけ。これ昨年の韓国との輸出管理でも経産省がやらかしてるよな。 pic.twitter.com/LDNFTa0YbR
ツイッターでdeclaration,statement,demarche+japan+chinaで検索しても、共同通信の記事の英訳や海外メディアによる共同記事の報道が広まる前までは、「日本が声明を出した」という記事はまったくシェアされていませんでした。
つまり、国際世論的には未だ「日本は声明を出していない」となってます。
その代わり、「日本は中国側だ」と印象付けるような情報操作が大量に行われています。
形式的に「声明」を出したとは言えても、その抗議の根拠が「国際社会の懸念」では無いようが薄くて実体として「日本が声明を出した」と言えるものではなかったのでしょう。
アングロサクソンの野蛮な世界とどう対峙するか
日本政府は単なるヘタレと思いますが、欧米列強の植民地支配と戦った日本が、英国+英連邦やEUと一緒に、阿片戦争の結果、南京条約で英国に割譲された香港に関して中英の取り決め守れってのは、法の支配に基づく国際秩序を重んずる日本といえども、抵抗あるんですよ。https://t.co/nU5SrrJwgE
— 木星3 (@tetsulovebird) 2020年6月7日
今日の私はここの視点が欠けていたので、この件は打ち止めにします。
— Nathan(ねーさん) (@Nathankirinoha) 2020年6月7日
少なくとも「声明を出した」と言うなら、国際世論にもっと働きかけて「日本が声明出した」と認知される努力をして欲しかったです。 https://t.co/Agf12Tu52x
もとはと言えば香港のイギリスへの割譲はアングロサクソン諸国による侵略の結果でした。その影響下での共同宣言の効果を守れと言うことは、どうなのか?と言う指摘は重いと思います。
ただ、ならば外務省には「日本は既に批判声明を出した」と国際社会に認知されるような広報活動をしてほしかったです。昨年の韓国に対する輸出管理の問題でも経産省がやらかしてたのを見ているだけに残念です。
※6月8日午前の菅官房長官記者会見で菅官房長官から28日の外務省の抗議について「国際社会に強く発信し、関係国は日本の対応を評価してる」と発言しました。オフィシャルレベルでは理解されているのでしょうが、一般の国際世論は先述の通りです。
以上