事実を整える

Nathan(ねーさん) ほぼオープンソースをベースに法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

害虫被害はデマ? 米産トウモロコシ大量輸入で“へんてこ報道”

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日本がアメリカの余剰とうもろこし(中国向けだったハズのもの)の輸入を決めたと報道されている事について、追加報道がなされていますが、どうも言ってることがおかしいのではないか思うので指摘します。

購入量が決定したわけではない

害虫被害はデマ? 農水省「現時点で影響ない」 米産トウモロコシ大量輸入で“忖度報道”魚拓はこちら 2ページ目魚拓

 菅義偉官房長官は27日午前の会見で、安倍晋三首相が表明した大量輸入について「(日本国内で)供給が不足する可能性がある」と説明した。日本では、7月からガの幼虫である「ツマジロクサヨトウ」の発生が確認されていて、九州地方を中心に11県で被害が出ている。そのため、米国から年間輸入量の3カ月分にあたる275万トン程度が輸入される見込みだという。トランプ米大統領は日本の輸入額について「数億ドル(数百億円)」と述べている。

NHKの報道だと250万トンということですが、この見込みは単なる予想であって、購入が決定しているわけではない数値です。「数億ドル」という金額はいろんなメディアで出ていますが、これも予想です。決して菅官房長官がそう言ったわけではありません。

日米首脳、通商交渉で原則合意 9月下旬に署名へ - ロイター魚拓

トランプ氏はとりわけ、余剰トウモロコシに関する取引で農業従事者を支援する計画に満足を示し、安倍首相が民間セクターが購入に対応すると強調し、購入が絶対的ではないことを示唆したとみられることは気にしない様子だった。

「数億ドル」の範囲で言えば、飼料用とうもろこしは1トンあたり約23000円が現在市場価格ですが、20000円だと仮定すると50万~500万トンと幅のある数字になります。中国が輸入している飼料とうもろこしが500万トンなので、必然的にそれよりも低くなります。

現実的には100万トンではないかとも言われており、日本国内で栽培されている飼料用とうもろこしは約500万トン、輸入している飼料用とうもろこしは約1200万トンなので、世界最大のとうもろこし輸入国である日本としてはそんなに多い数では無く、市場を歪めるなどという効果は無いでしょう。

価格上のメリットはあるはず

今回輸入する分は余ったものなので安く購入できる(はず)という利点はあります。とうもろこしの先物価格が高騰するのではと言われており、その前に買いたたける(そうなるかは未だ不明ですが)のであれば有利です。

鈴木宣弘・東京大教授(農業経済学)のデントコーンとサイレージの説明が

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また、米国から輸入するのは実を使用する「デントコーン」と呼ばれるトウモロコシだ。一方、日本で被害が出ているのは葉や茎を砕いて利用するトウモロコシ(サイレージコーン)で、性質が異なる。鈴木宣弘・東京大教授(農業経済学)は、こう話す。

鈴木教授がデントコーンサイレージコーンが別種のとうもろこしであり、同レベルの切り分けで論じられるとしているように書かれていますが、これは違います。

飼料用とうもろこし(デントコーン)の収穫作業:北海道農政事務所

(注)飼料用とうもろこしは通称「デントコーン」といい、葉茎・子実全てを細断し、数カ月間かけて乳酸発酵をすすめることで乳牛に給与する飼料(サイレージ)になります。

飼料用として使われるとうもろこしは「デント種」という種類です。

つまりコーンサイレージもデント種です。

「サイレージ」と呼ばれるとうもろこしは青刈りとうもろこしを「サイレージ化」したものです。

「サイレージ」とは、本来は「青刈りした飼料作物を乳酸発酵させたエサ」であり、とうもろこしに限りません。

「農業系」が専門といっても「農業経済学」なので、専門外でしょ。

害虫被害はデマで、代替飼料としては不適切?

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また、米国から輸入するのは実を使用する「デントコーン」と呼ばれるトウモロコシだ。一方、日本で被害が出ているのは葉や茎を砕いて利用するトウモロコシ(サイレージコーン)で、性質が異なる。

中略

つまり、今回のトウモロコシ大量輸入は、害虫被害がわずかであるだけではなく、仮にこれからツマジロクサヨトウが大量発生しても簡単に代替の飼料として使用することはできないことになる。

代替性」の意味を間違えてるんじゃないでしょうか?

日本で栽培されている飼料用トウモロコシのほとんどは「サイレージ用」のデント種たる青刈りとうもろこしです。収穫量は約500万トンです。

この青刈りとうもろこしですが、どうも、輸入が困難なようです。

したがって、「虫害被害を受けたから青刈りとうもろこしを輸入して補おう」ということがそもそもできるのか、できたとしても虫害被害が東南アジアで広まっている現状では価格が高いのではないでしょうか?

 

アメリカからの飼料用とうもろこしはどうやら子実タイプのもののようですが、それを配合飼料(粒のとうもろこし+牧草+α)にして家畜に食べさせることでサイレージの代替飼料にする予定なんじゃないでしょうか?

雑飼料のコーンサイレージと同じ効果をもたらすことはありませんが、そうするしか方法はないんじゃないでしょうか?

そもそも「代替」という言葉って「完全に同じ物を用意する」ことではないですよね?

子実タイプの飼料用コーンは備蓄可能

害虫被害によって、日本政府は飼料用とうもろこしの前倒し輸入等の対策を実施しており、その一環でアメリカからの追加輸入を決めたというのが日本政府の説明です。

日本の飼料用とうもろこしの輸入はアメリカ由来が90%以上です。つまり1000万トン規模ということになります。

元々輸入する予定だったものを購入するのですから(量がどうなるかは未知数ですが、100万トンレベルだとすれば)、備蓄としての備えにもなり、特にデメリットは無いでしょう。

害虫被害は限定的?

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すでに供給不足になっているのかと思いきや、農水省に確認したところ「現状で営農活動に影響は出ていません」(植物防疫課)と話す。発生が確認された地域では、大量発生を防ぐために防除や早期の刈り取りを促しているが、作物への影響はわずか。「現時点で被害量はまとめていません」(同)という。

 ツマジロクサヨトウは、アフリカやインドなどで農作物に大きな被害を出した危険な害虫であることはたしかだ。ただ、熱帯・亜熱帯原産であるため寒さに弱く、「気温が10.9度を下回ると成長が止まります。最低気温が10度を下回る日が続く地域では、越冬は難しい」(同)という。

 現在でも発生が確認されているのは西日本以外では茨城だけ。日本での飼料用トウモロコシの生産量(年間約450万トン)の半数以上を占める北海道では発生が確認されていない。

あくまで現時点での被害実態は限定的というのは事実でしょう。

しかし、今後に向けて予断を許さない状況です。 

世界蔓延の厄介害虫が茨城へ到達、全国拡散か(団藤保晴) - 個人 - Yahoo!ニュース

南アジア、東南アジアで被害が広がっているツマジロクサヨトウによる穀物被害ですが、今年8月初頭に南九州に上陸してから5日で鹿児島や高知県に拡大、14日には茨城でも見つかったというのですから、未だ大きな被害が出ていない段階であっても全国的な拡大に備えるのは当然でしょう。

また、「早期の刈り取り」が推奨されているようですが、これは「被害」にはならないので、そのぶん収穫量が減っているというのは事実です。

まとめ

  1. 「デントコーン」や「サイレージ」といった基本用語が怪しい自称専門家が起用されている
  2. 「代替性」という言葉の遣い方が違うのでは?

なんとも奇妙な記事でした。

実際に日本側の損得がどうなるのかは、日米のとうもろこしに関する合意がどんなものであったかが確定しないとわからないのですが、少なくとも現時点での日本政府の説明にそこまで破綻は無いと思います。

以上