愛知県で新型コロナウイルスへの感染が判明した後に飲食店を訪れていた男性が「ウイルスをばらまいてやる」などと話していたことが分かりました。
これは何らかの犯罪行為になるのでしょうか?
- 自宅待機無視で飲食店訪れた感染男性「ウイルスばらまいてやる」
- 追記:フィリピンパブの動画からは詐欺罪の可能性も?
- 感染症法やその他の感染症に関する法律の罰則規定
- 病毒(ウイルス)に感染させる行為は傷害罪になる判例
- 新型コロナウイルス感染男性は傷害罪になるのか?
- 感染状態を告げる行為は業務妨害罪や軽犯罪法違反になるのか?
- まとめ:男性の行動の態様の詳細によるが基本は犯罪成立は難しいか
自宅待機無視で飲食店訪れた感染男性「ウイルスばらまいてやる」
“自宅待機無視”の感染男性「ウイルスばらまいてやる」 飲食店2軒訪れ「感染してる」と話し騒ぎに - FNN.jpプライムオンライン
愛知県蒲郡市で新型コロナウイルスへの感染が判明した後に飲食店を訪れていた50代の男性が、家族に「ウイルスをばらまいてやる」などと話し、外出したことが新たにわかりました。
自宅待機無視で飲食店訪れた感染男性は、「ウイルスをばらまいてやる」などと話していたので、これが何らかの犯罪行為になるのではないか?犯罪行為にしないといけないのではないか?と思う人が多いようなのでちょっと検討してみました。
追記:フィリピンパブの動画からは詐欺罪の可能性も?
「俺は陽性だ」蒲郡「コロナばらまき男」のフィリピンパブ”犯行現場”動画 | 文春オンライン
男性の来店直後にママがアルコールを男性の手にかけていたことから、感染症に罹患しているか否かはサービス提供を行うかどうかを決める重要な事項であり、それを偽って接客サービスを受けたことから詐欺罪に問われる可能性があります。
感染症法やその他の感染症に関する法律の罰則規定
感染症法やその他の感染症に関する法律において罰則が定められていることがありますが、今回のような場合において罰則が適用できる規定はありません。
病毒(ウイルス)に感染させる行為は傷害罪になる判例
実は、病毒(ウイルス)に感染させる行為は傷害罪になり得ます。
しかし、傷害罪は他人の身体の生理的機能を毀損するものである以上、その手段が何であるかを問はないのであり、本件のごとく暴行によらずに病毒を他人に感染させる場合にも成立するのである。従つて、これと見解を異にする論旨は採用できない(所論引用の判例は暴行を手段とした傷害の案件に関するものであつて、本件には適切でない。)
同第二点について
性病を感染させる懸念あることを認識して本件所為に及び他人に病毒を感染させた以上、当然傷害罪は成立するのであるから論旨は理由なき見解というべく、憲法違反の問題も成立する余地がない。
たったこれだけの判示ですが、2点重要部分があります。
- 傷害罪は他人の身体の生理的機能を毀損する者である以上、病毒を他人に感染させる場合にも成立する
- 性病を感染させる懸念あることを認識して本件所為に及び他人に病毒を感染させた以上、当然傷害罪は成立する
「本件所為」の中身を確認してませんが、性行或いは性向類似行為であれば傷害罪は成立するでしょう。
新型コロナウイルス感染男性は傷害罪になるのか?
新型コロナウイルスに感染したのに飲食店に行った男性は傷害罪になるのか?
実行行為性の問題:無症状の場合は何をしても不能犯?
この男性が発症していたのか、病原体保有が判明しただけだったのか。
報道(コロナ感染者「自分は陽性」、飲食店で吹聴か TBS NEWS)によれば目立った症状は無いということでした。
では、無症状病原体保有者の場合には感染性があるのか?
感染性が示唆されたとする報告もありますが、医学上は未だ明確な知見として確立してはいないようです。ただ、法的にどのように判断されるかは別問題です。
感染性が無いとするなら、何をしようが感染はしないので不能犯になります。普段の手指にも雑菌がいろいろついていますが、感染性があるとは言わないでしょう。
以下は感染性があると認められる仮定で記述します。
何の行為が問題か:因果関係はあるのか?
因果関係の問題が絡みますが行為をいくつか想定してみます。
- 飲食店に行った行為
- 手すりなどを不必要な程度にワザと触って病原体を残そうとする行為
- 誰かの体を不必要な程度にワザと触って病原体を残そうとする行為
以下は私の見立て。
1番はそれだけで誰かにコロナウイルスをうつすという実行行為にはならない(たとえ空気感染するものであっても、誰かとおなじ空間に居るだけで犯罪になるとするのはおかしい)
2番は実行行為となるか微妙。何かを触るという行為を凡そ処罰対象にすると何もできないということになるが、敢えて不必要に触る行為は捕捉されても良いように思える。ただし、対象が特定されていないので感染者が出た場合に因果関係も満たすとされるのはよほどのことが無い限り無理では?
3番は実行行為性を満たし、対象は特定されているので感染が確認されれば因果関係も満たす。(追記:感染が確認されなくとも暴行罪の可能性)。
結局、男性の行動の詳細が分かっていないため、現時点では傷害罪になるかは不明であり、無症状病原体保有者に感染性があるとされるかどうかも不明であるため、おそらく成立しないと思われます。
感染状態を告げる行為は業務妨害罪や軽犯罪法違反になるのか?
「病気をうつす行為」があったと仮定してそれに焦点を当てて検討してきましたが、それ以外にもこの男性の行動には問題があります。
“自宅待機無視”の感染男性「ウイルスばらまいてやる」 飲食店2軒訪れ「感染してる」と話し騒ぎに - FNN.jpプライムオンライン
また市の関係者によりますと、男性はタクシーで自宅を出て飲食店を2軒訪れ、そのうちの1軒で「新型コロナウイルスに感染している」などと話し、防護服を着た警察官が駆けつける騒ぎになりました。
威力・虚偽の風説の流布・偽計、のいずれにも該当しないので刑法上の業務妨害罪には該当しません。
追記:フィリピンパブの様子からは「威力」が認定される可能性はある。
そこで、軽犯罪法1条31号「他人の業務に対して悪戯などでこれを妨害した者」に当たるかどうかですが、「悪戯」の意味内容や解釈の方向性については【松山大学論集 第 24巻 第 3 号 抜 刷2012 年 8 月 発行 刑法上の業務妨害罪と軽犯罪法上の業務妨害の罪との関係 今村暢好】を参照してください。
刑法上の業務妨害罪の補充規定であるという理解から解釈が限定されています。
この論文にある事例で近いのは、「B博物館等の主催に係るモナ・リザ画展示中,同画に向けて赤色塗料を噴出させて,被告人の周囲に居た一〇名程度の者の観覧を二,三秒間妨害しひいては展示の業務の円滑な運営を妨げた」というものでしょうか。
さて、「新型コロナウイルスに感染している」と話した態様はどうだったでしょうか?
カウンターで店主に対して打ち明けるようにして話したのか?
友人との会話で「いやー!実は俺、新型コロナウイルスに感染してんだよねー!」などとワザと周囲に聞こえるように叫ぶように言ったのか?
前者であれば軽犯罪法不適用の方向、後者であれば適用の方向の事情だと思います。
よって、現段階では判断不可能、ということになります。
まとめ:男性の行動の態様の詳細によるが基本は犯罪成立は難しいか
- 感染症法上の罰則規定は適用されない
- 傷害罪になるかは詳しい事情が不明だがおそらく成立しないと思われる
- 各種業務妨害罪にはあたらない
- 軽犯罪法上の「悪戯」に該当する可能性があるが、男性の行為態様による
犯罪でなくとも迷惑行為であることには間違いないです。
また、民事上の不法行為として店側から訴えられる可能性もあります。
これがインフルエンザでも同じだと思って行動するべきなんだと思います。
以上:はてなブックマークをお願いします。