
普段のファクトチェック記事もこれくらいの熱量で書いて欲しい。
- JFC『Meta「ファクトチェッカーは政治的に偏り過ぎ」のデータ不存在』
- 『バイアスは何をどのようにチェックするかの選択に現れた』が無視されている
- 国際ファクトチェック機関の元ディレクター「保守派の誤情報拡散が多いから偏りは当然」
- 実際の情報の真偽ではなく、情報の品質の代替としてドメインレベルの品質評価を使用した論文
- 「保守派」が「信頼の無いドメイン」をシェアするのが多くなるのはある意味当然では?
- 信頼ある社会的影響力の大きい所が誤った事実や誤認識を誘導する情報を拡散していたら?
- ファクトチェック対象のトピック選択と、チェック対象の範囲・文言選択におけるバイアス
JFC『Meta「ファクトチェッカーは政治的に偏り過ぎ」のデータ不存在』
Metaが「ファクトチェックを廃止する」と報じられました。大きな方針転換があったのは事実ですが、実際に何が変わるのか。「ファクトチェック」だけでなく、より大きな「コンテンツ調整」での変化と今後について、過去10年間の議論も踏まえて解説します。https://t.co/Pkd3uwSJ7D
— 日本ファクトチェックセンター(JFC) (@fact_check_jp) 2025年1月12日
日本ファクトチェックセンター(JFC)編集長の古田大輔氏が、JFCのnoteページ上でMetaの第三者ファクトチェック廃止の声明に関連して解説記事を書いています。
この中で以下の指摘がありました。
そもそも、第三者ファクトチェックプログラムは、Metaの意向で政治家の発言は検証対象から外している。ザッカーバーグCEOは「政治的に偏り過ぎている」と批判したが、その言葉を支えるデータが存在しない。Metaは8年分の詳細なデータを内部で持っているはずだが、提供を求めるファクトチェック団体や学者の声に応じていない。
これは声明のとある要素と対応していない考え方です。
『バイアスは何をどのようにチェックするかの選択に現れた』が無視されている
That’s not the way things played out, especially in the United States. Experts, like everyone else, have their own biases and perspectives. This showed up in the choices some made about what to fact check and how. Over time we ended up with too much content being fact checked that people would understand to be legitimate political speech and debate. Our system then attached real consequences in the form of intrusive labels and reduced distribution. A program intended to inform too often became a tool to censor.
特にアメリカでは、そのような展開にはなりませんでした。専門家も他の人と同じように、それぞれのバイアスや観点を持っています。それが、何をどのようにファクトチェックするかという選択に現れました。そうしているうちに、人々が正当な政治的言論や討論だと理解するような内容が、ファクトチェックされすぎてしまいました。そして私たちのシステムは、押しつけがましいラベル貼りや表示数の減少という形で、現実の結果を突きつけてきました。情報を提供することを目的としたプログラムが、検閲の道具になることがあまりにも多くなってしまいました。
Metaの声明では、『バイアスは何をどのようにファクトチェックするかの選択に現れた』とありました。古田大輔氏の記事では、この点が無視されており、そこと対応しない言説に終始しているように映ります。ファクトチェック対象外の事象はデータ外だから意味が無いですから。
日本でいえば、JFC自身が、新聞やテレビ等のマスメディアの言説はファクトチェックの対象外としており、報道倫理とBPOなどの第三者審査機関があるから必要性が低いとしていることから、「選択のバイアス」が存在していることは大前提になっています。
もちろん、私も当初は「役割分担」の問題だとしていましたが*1*2、それでは説明がつかない不可解な事象が数多く発生していたので、やはり選択のバイアスの存在による不都合もまた存在しているとしないとおかしいと思います。
この点の認識のスポイルは、Metaの方針転換を報じた日本メディアの多数のWEB記事にみられたものでした。*3
国際ファクトチェック機関の元ディレクター「保守派の誤情報拡散が多いから偏りは当然」
今回、これまで自ら称賛してきたプログラムを「政治的に偏っている」と突然こき下ろした形だが、どのように偏っているかMetaは根拠を示していない。IFCNのディレクターだったAlexios Mantzarlis氏は「マーク・ザッカーバーグのファクトチェックに関する声明をファクトチェックする」という記事で、データに基づいてこの点に反論している。
古田氏の記事では国際ファクトチェック機関の元ディレクターの反論記事が紹介されていましたが、そちらでは冒頭から「ザッカーバーグはメタが商品化した低品質でスパム的なクリックベイトには言及せず」と書き、「それで90万ドルの腕時計に変えた」と無関係な事に言及しているなど、著者の見解が随所に書き込まれ、これ自体が一定の方向性を持った記事でした。
(それ自体は何ら問題が無いが、「ファクトチェックする」と宣言していてこれは…)
Let’s fact-check Mark Zuckerberg’s fact-checking announcement
— Nathan(ねーさん) (@Nathankirinoha) 2025年1月15日
国際ファクトチェック機関の元編集者の記事だが、「ザッカーバーグはメタが商品化した低品質でスパム的なクリックベイトには言及せず」「それで90万ドルの腕時計に変えた」と無関係な事を書いててお察しhttps://t.co/Oj3WDlOEuY
そして、この記事中では論文を紹介し、「保守派の方がリベラルよりも誤情報を拡散するのだからファクトチェック対象に政治的偏りがあるのは当然だ」とも言っています。
この論理展開それ自体へのツッコミは後述しますが、では、その論文は、どのように政治的偏りと誤情報の傾向を判定しているのでしょうか?
実際の情報の真偽ではなく、情報の品質の代替としてドメインレベルの品質評価を使用した論文
この論文の背景説明では【ジャーナリストやファクトチェッカーが低品質の「フェイクニュース」サイトとみなしたウェブサイトへのリンク】が、保守派に多いということが先行研究によって示されています。
が、そもそもそのジャーナリストやファクトチェッカーがサイトを判定した時点で偏っていたら意味が無いわけです。そこで、この論文自体は、専門家やファクトチェッカーの偏りの可能性を考慮して、一般ユーザーによる評価をして、それでも同様の結果がでた、とする内容です。
ただし、個々の投稿に含まれる実際の情報を調べるのではなく、情報の品質の代替としてドメインレベルの品質評価を使用するという一般的な方法に従っています。
この評価方法だと、KYサンゴの朝日新聞記事や吉田清治の慰安婦問題捏造記事(当時はWEB記事なんて無かったが)をシェアしていても、【信頼あるドメインのシェア】として扱われることになります。直近だと毎日新聞が「能登ウヨ」を「被災者を叩く者(所在は問わない)」という意味で用いた記事がありましたが、実際には能登の現地に住む被災者が、SNS上で異論を唱える者に反論した際に「能登ウヨ」というレッテル貼りをされていたのであり、その用語法が改変されていました。これも毎日新聞のドメインから発せられているので、「信頼あるニュースサイトのドメインのシェア」となると…思われ…ます。
「保守派」が「信頼の無いドメイン」をシェアするのが多くなるのはある意味当然では?
アメリカのSNSの事情は措いて、日本のネット上の状況から考えると、いわゆる保守系がシェアする情報には、「信頼性の低いニュースサイトのドメイン」のリンクが多いというのは、当たり前ではないでしょうか?と思うところがあります。
なぜなら、ネット上のサイトというのは、マスメディア情報とは別の個人のサイトやブログが発端だったからです(それらが「ニュースサイト」と研究で扱われるかは知りませんが)。SNSで大拡散されているのはマスメディアの情報を無断転載した上で付け足しをするまとめサイトなので、そういうサイトは内容がいわゆる保守派向けであるため、保守派がシェアしがちです。
他方で、いわゆる「リベラル側」というのは、大手マスメディアやその傘下のドメインの情報を拡散しがちで、いわゆる左派系まとめサイトというのは極めて少数で、そういう傾向のブロガーや動画チャンネルも少数派です。ここに位置するとみられる界隈は、そもそも党派性の権化である「しんぶん赤旗」もシェアされている事が多いです(それ自体は何ら問題ではない。むしろ赤旗は事実関係に関しては情熱があり誤りがあれば謝罪もする)。
少し前なら、BuzzFeedJapanやハフポストの記事がTwitter上のトレンドブーストの恩恵を受けていたので(イーロン買収後、キュレーションチーム解散によりBuzzFeedJapan・ハフポスト共に大幅に拡散が減った)、そういうメディアの拡散が多かったと言えます。これらも「比較的高品質なドメイン」なんでしょう。実際、発せられる情報を総合して見ればその信頼性の平均値は、いわゆるまとめサイトよりははるかにマシだと私も考えています。
前掲論文で言われているような「低品質なドメイン」のシェアが少ないのは、リベラル側であることそれ自体から来てるといえるのではないでしょうか?
なので、この分析手法でこのような結果が出たとしても、果たしてそれは意味のある分析なのだろうか?という視点を頭の片隅に持っておく必要があるのではないでしょうか?
なお、この評価方法だとリンクの無い投稿は対象外なので、ソース無く確信的に嘘を付いているアカウントは捕捉されないということになります。
信頼ある社会的影響力の大きい所が誤った事実や誤認識を誘導する情報を拡散していたら?
さて、ここまでの話を踏まえて「保守派の方がリベラルよりも「信頼性の低いサイトの記事」を拡散するのだからファクトチェック対象に政治的偏りがあるのは当然だ」というのは、妥当なんでしょうか?
というのは、「信頼性の高いドメイン」から発せられた誤った事実や誤認識を誘導する記事の場合は、社会的影響力もまた桁違いであり、世の中全体を誤った方向性に導くおそれが強い、という一般的な事実を、どう考えているんでしょうか?
JFCは、Twitter速報というデマサイトの瑣末な話題を追いかけてファクトチェック記事を乱発していましたが、そのファクトチェック記事事体が相手の論を改変し、第三者にとっても妥当性の無い理解に陥らせるものになってる例も見られました。
他方で、共同通信がしでかしたような、上川陽子氏の「うまずして」発言を女性の出産の意味に改変して報じて後に訂正した記事や、生稲晃子氏が2022年の終戦の日に靖国神社に参拝したと報じたが見間違いの誤りだった記事は、どうでしょうか?特に、後者は外交問題にまで発展しかねないものです。
政治的に中立な話題としては、中京テレビが「オーガニック給食」特集で「便秘アトピー改善」などと医療効果を謳う記述があり、SNS上で大量の指摘が為されてコミュニティノートが付与された末に投稿がサイレント削除、記事修正されたケースがあります。
社会的な影響力・関心事の大きさからすれば、本来はチェックされるべき事象なのに無視されている、ということが、あまりにも多い。
ファクトチェック対象のトピック選択と、チェック対象の範囲・文言選択におけるバイアス
本稿の主要な関心事である『バイアスは何をどのようにファクトチェックするかの選択に現れた』について、これまで「何を」を論じてきました。
が、「どのように」については、JFCの前掲Twitter速報の例もありますが、別の実際の事例を提示します。
JFCが「LGBT差別禁止法はG7だけというのはミスリード」とする記事が炎上した事があります。それは、チェック対象の文言の意味を記事中でスライドさせたか、他人の投稿での意味として合成して発言の正誤をチェックしたからです。
具体的には【片山さつき議員の発言対象の意味をスライドさせたか、或いは高鳥修一氏のツイートと合成】し、片山議員のツイートの「日本だけないというのは誤り」の対象を「LGBT差別禁止法があるのはG7でカナダだけ」という事項について語っているものとして扱うという、事実と異なる理解をベースにしてファクトチェック結果を判定した、というものになります。詳しくは上掲記事で整理しています。
アメリカのファクトチェック団体のチェック記事をつぶさに観察・分析したわけではありませんが、日本においてはリアルタイムで目の前に広がる現実に相当する認識がMetaのTOPから発せられたことは、違和感がないということが言えます。
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*1:https://x.com/Nathankirinoha/status/1575339474837377024
*2:https://x.com/Nathankirinoha/status/1575339371258970114
*3:朝日新聞はWEB記事と紙面とでだいぶ情報に違いがあり、紙面では重要要素に触れていた