事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

認定放送持株会社フジHDと認定基幹放送事業者の東北新社メディアサービスの外資規制違反の取消し規定の違い

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東北新社メディアサービスとフジHDの外資規制違反問題でいくつか記事を書いてきましたが、大枠では外していないものの事案の説明としては正確性を若干欠いたものが含まれていたので以下で再度、端的にまとめました。

認定放送持株会社と認定基幹放送事業者:フジHDと東北新社の事案の違い|Nathan(ねーさん)|note

ここでは改めて事案の整理をします。

結論:認定時に違反状態だったか否か、法律の規定が異なる

最初に結論からです

  1. 事実関係:認定時に外資規制違反状態だったか否か
  2. 法律関係:認定放送持株会社と認定基幹放送事業者は法律の規定が異なる

これが東北新社メディアサービスとフジ・メディア・ホールディングスの外資規制違反事案の違いです。

取消しを受けた東北新社メディアサービスは【認定基幹放送事業者】。

フジ・メディア・ホールディングスは【認定放送持株会社】です。

参考1:株式会社東北新社メディアサービス 会社概要

参考2:総務省 電波利用ホームページ|その他|認定放送持株会社

認定基幹放送事業者の東北新社メディアサービスの外資規制違反の取消し

令和3年3月26日
株式会社東北新社メディアサービスの放送法第93条第1項の認定(BS第125号)の取消し

行政処分の内容及び理由
 平成29年1月24日に株式会社東北新社が放送法(昭和25年法律第132号)第93条第1項の規定により受けた認定(認定の番号 BS第125号)については、同年10月13日に株式会社東北新社メディアサービスが同法第98条第2項の規定により認可を受けて認定基幹放送事業者の地位を承継しているところ、令和3年3月9日に株式会社東北新社から総務省に提出された株式分布状況表に記載された同社の議決権の総数に対する外国人等の議決権の割合を総務省において精査したところ、同社は認定の申請時及び認定時において、基幹放送を行おうとする者の認定の欠格事由である認定当時の同法第93条第1項第6号ニ(現第7号ニ)の規定(外国人等が議決権の五分の一以上を占めるもの)に該当していたことが確認されたため、当該認定を取り消す。

株式会社東北新社メディアサービス(東北新社の100%子会社)の事案は、平成29年1月24日に東北新社が認定基幹放送事業者の認定を申請・認定された際に外資規制違反だったことが取消事由とされているのが分かります。

認定基幹放送事業者の取消しの根拠規定は放送法103条1項です。
(今回もこれが根拠のはず)

放送法
(認定の取消し等)
第百三条 総務大臣は、認定基幹放送事業者が第九十三条第一項第七号(トを除く。)に掲げる要件に該当しないこととなつたとき、又は認定基幹放送事業者が行う地上基幹放送の業務に用いられる基幹放送局の免許がその効力を失つたときは、その認定を取り消さなければならない。
2 前項の規定にかかわらず、総務大臣は、認定基幹放送事業者が第九十三条第一項第七号ホに該当することとなつた場合において、同号ホに該当することとなつた状況その他の事情を勘案して必要があると認めるときは、当該認定基幹放送事業者の認定の有効期間の残存期間内に限り、期間を定めてその認定を取り消さないことができる。

2項でモラトリアム規定がありますが、これは既に認定を受けている者がその有効期間内に違反状態発生した場合の話であり、認定前の事情については適用されません。
※最初から欠格事由なら取消しではなく「無効」ではないか、という気もするが…

なお、電波法でも「無線局の免許」の取消し規定がありますが、こちらに関しては現時点では情報がありませんので参考までに掲載しておきます。

電波法

(無線局の免許の取消し等)
第七十五条 総務大臣は、免許人が第五条第一項、第二項及び第四項の規定により免許を受けることができない者となつたとき、又は地上基幹放送の業務を行う認定基幹放送事業者の認定がその効力を失つたときは、当該免許を受けることができない者となつた免許人の免許又は当該地上基幹放送の業務に用いられる無線局の免許を取り消さなければならない。
2 前項の規定にかかわらず、総務大臣は、免許人が第五条第四項(第三号に該当する場合に限る。)の規定により免許を受けることができない者となつた場合において、同項第三号に該当することとなつた状況その他の事情を勘案して必要があると認めるときは、当該免許人の免許の有効期間の残存期間内に限り、期間を定めてその免許を取り消さないことができる。

認定放送持株会社のフジ・メディア・ホールディングスの外資規制違反

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フジ・メディア・ホールディングスHPより

「認定の取消しは法律上行えない」とする武田総務大臣の説明が取り沙汰されていますが、認定放送持株会社たるフジHDの場合、一応、法律上はそうなると言えます。

フジHDの場合、認定放送持株会社に認定された時点では外資規制違反は存在せず、2012年4月から2014年9月末までの間の話でした。

株式会社フジ・メディア・ホールディングス 当社の過年度における議決権の取り扱いに関する過誤について 2021 年 4 月 5 日

認定放送持株会社の認定の取消しの根拠規定は放送法166条1項です。

(認定の取消し)
第百六十六条 総務大臣は、認定放送持株会社が次の各号のいずれかに該当するときは、その認定を取り消さなければならない。
一 第百五十九条第二項第五号イからヌまで(ヘを除く。)のいずれかに該当するに至つたとき。

以下省略

武田大臣は「違反の事実をもって直ちに免許(※注:「認定」の意)が無効になるものでなく、取消という行政処分をする必要があり、取り消し処分を行う時点で取り消し事由が存在することが必要だ」とする1981年の内閣法制局が示した放送法の解釈を説明していました。

  1. 認定基幹放送事業者の取消し規定「要件に該当しないこととなつたとき」
  2. 認定放送持株会社の認定の取消し規定「該当するとき」

前者は文言上、その状態に達した場合にはそれ以降の状態の解消をもってしても取消し事由となるというもので、ただしモラトリアム規定があるために総務大臣の裁量で取り消さないことができる、という理解になります。

後者は文言上は、まさにその状態に在る場合のものになります。また、認定放送持株会社の場合、いわゆるモラトリアム規定がありません。これだけではないと思いますが、その他放送法の構造や関連制度を考えて、それ以降の状態の解消をもって取消し処分はできない、という解釈・運用が監督官庁によって為されているということです。

この解釈・運用が果たして望ましいのか否か、という点は措いておきますが。

認定放送持株会社は更新が無い:連結子会社の放送局の更新時期跨ぎ

認定放送持株会社は認定基幹放送事業者と違って「更新」の規定がありません。

以下は認定基幹放送事業者に関する規定です。

放送法
(認定の更新)
第九十六条 第九十三条第一項の認定は、五年ごと(地上基幹放送の業務の認定にあつては、電波法の規定による当該地上基幹放送の業務に用いられる基幹放送局の免許の有効期間と同一の期間ごと)にその更新を受けなければ、その効力を失う。

モラトリアム規定で「当該認定基幹放送事業者の認定の有効期間の残存期間内に限り」とあったのは「更新」があるからです。

地上基幹放送に限っては電波法上の免許と同一の有効期間とされており、フジテレビジョンは関係しますが、東北新社メディアサービスは「衛星基幹放送事業者」なのでこの点は無関係と思われます。

フジHDが違法状態だった2012年2月から2014年9月の間に株式会社フジテレビジョンは更新をしています(総務省|平成25年基幹放送局の再免許等の実施)。

ただ、持株会社の外資規制違反の違法が子会社の更新に影響を与える(or子会社の更新によって影響を受ける)ような規定は見当たらないため、取消しをしない判断において、その事情は勘案されていないかのようです。

連結子会社であるフジテレビジョンの更新期間を跨いで持株会社のフジHDが外資規制違反だったということが何か実際上の不都合を生じるのか?という点はヨクワカラナイのですが、何も問題ないのでしょうか?

追記:届出義務違反について

なお、放送法160条2号では159条3項5号の「その他総務省令(放送法施行規則)で定める事項」の届出義務があり、施行規則188条1号の「申請対象会社及びその子会社その他の関係会社の概要に関する事項」として別表第60号を見ると「欠格事由の有無」が記述され、この届出義務違反には罰則が設けられていますが、本件ではスルーされたようです。

(届出)
第百六十条 認定放送持株会社は、次の各号のいずれかに該当するときは、総務省令で定めるところにより、遅滞なく、その旨を総務大臣に届け出なければならない。

省略
二 前条第三項第二号から第五号までに掲げる事項に変更があつたとき。

第百九十二条 次の各号のいずれかに該当する者は、二十万円以下の過料に処する。
一 省略 第百六十条の規定による届出をせず、又は虚偽の届出をした者

名義書き換えによる外資規制の実質骨抜き化

本件は、「総務省の対応が(東北新社と比して)不公平な問題」「総務省が監督官庁として機能してない」とする問題として論じる者が多いですが、そもそも放送法116条で外資規制が実質骨抜き化されていることやモラトリアム規定を問題視する視点もあり得るはずです。

この場合は立法論、つまりは国会の問題ですし、内閣立法も考えれば政権与党の問題でもあるわけですが、なぜかこの点を突いて政権を責める野党も存在していないのが非常に不思議で仕方がありません。

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