事実を整える

Nathan(ねーさん) ほぼオープンソースをベースに法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

「11歳100ミリシーベルト被曝の疑い 福島第一事故」の報道状況

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11歳100ミリシーベルト被曝の疑い福島原発事故で」という報道について。

私が放医研に確認した結果を記事化しましたが、この件がどのように報道されて、どのように受け止められているのかをまとめます。

「11歳100ミリシーベルト被曝の疑い」の初出は東京新聞

東京新聞:11歳少女、100ミリシーベルト被ばく 福島事故直後 放医研で報告:社会(TOKYO Web)魚拓はこちら

1月21日の6時57分に配信されています。紙面でも編集者の意見付きで掲載。

これを共同通信の47Newsが8時00分に配信しています。

地方紙は調べてませんが、その後NHKも20時04分に追随します。

福島の女児 甲状腺に放射線100ミリシーベルト被ばくか | NHKニュース魚拓

11歳100ミリシーベルト被曝の疑い 福島第一事故で:朝日新聞デジタル魚拓。朝日新聞のWEB版は21日の22時02分に配信されていますが、紙媒体では22日の朝刊で同じ内容のものが掲載されています。

yahooニュースやMSNニュースなどで広く拡散されたのは朝日新聞のWEB版です。

東京新聞の記事本文は必要な情報が揃っている

  1. 5万~7万cpmという数値が徳島大学のチームによって把握
  2. しかし、検出機器は本来使用されるべきものではないGM型だったため不正確
  3. その数値をベクレルに試算
  4. ベクレルに試算された数値をさらにミリシーベルトに試算
  5. 「100ミリシーベルト」は最大に見積もった極大値で科学的根拠は無い
  6. 「100ミリシーベルト」は等価線量であり実効線量ではない
  7. 「政府機関等が隠蔽」という評価は成り立たない。

私が放医研に確認した事実は上記1~6で、7がそれらから考えられる結論です。

東京新聞の記事は、上記の5以外の1~6の事実が分かるようになっています。

情報源は情報公開請求で入手したメモや関連文書、放医研です。

これ以降の報道媒体で、追加的な情報があるのはNHKです。

NHKは佐瀬教授や誉田教授、福島県、国にも取材

NHKの記事は情報源に対する取材の数という点では最も行動量のあるものです。

佐瀬教授誉田教授放医研、福島県、国に対して取材した内容をもまとめています。

ただし、21日の時点では国に取材した結果までの記述であり、後に佐瀬教授や誉田教授に対する取材結果や追加情報を追記しています。それにより全体としては放医研よりは佐瀬教授らの認識ベースで書かれていると言えます。

遅くとも22日中には等価線量と実効線量との関係が分かるように追記されています。

GMサーベイメーターやNaIサーベイメーターについては名前が出ていませんが「測定に適した機器が使われていなかった」という点でカバーしていると考えたのでしょう。

ところで、放医研の「100ミリシーベルトは仮試算であり最大に見積もった値」という情報は今のところどの報道にも現れていないのですが、放医研の側が伝えるべき情報について段々と整理がついてきたために私が聴いたタイミングで仰ってくださった、という可能性があると思います。或いはこれは「放医研の認識」に過ぎないので「事実」としては扱うことを躊躇した可能性もあるのではないかと思います。

NHKは福島県が「11万4000人を対象にしたスクリーニング結果の中で、今回のような数値を出した者は居ない」としたことを記事に載せています。

私は、東京新聞やNHKの記事それ自体は非難されるべきものではないと思います。取材担当者の仕事をリスペクトしたいと思います。

東京新聞の「デスクメモ」には底意がある

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東京新聞1月21日特報面

今回、明らかになった「一〇〇ミリシーベルトの女の子」。彼女を不確かな推計結果とみるか、氷山の一角とみるか。事の重大さを考えれば、後者とみて対応すべきではなかったか。

「氷山の一角」というのは事実として存在しているような場合に使う言葉でしょう。

上述のように100ミリシーベルトという値は検出値ではなく推計値です。

しかも、①厳密ではない検査機器での検出値を元に②2度、推計を挟んで、さらに③極大値をとったものが100ミリシーベルトという値です。

このような数字に対して「事が重大だ」と捉えることは一般的に理解不能です。

NHKによれば『誉田教授は「事故直後は混乱していたが、関係者が女の子の測定結果を受け止めていれば子どもたちにより丁寧なフォローができたかもしれない」』ということですが、女の子目線で考えた見解としてはそうなるでしょう。その後彼女に深刻な健康問題が生じたというなら少し話は変わりますが、そうではないでしょう。

科学的・統計的な視点で見れば、福島県が大規模なスクリーニングをした結果からは無視できる話であったということが示されています。

東京新聞の記事本文にある内容を正確に理解したのなら、どうしてデスクメモのような主張が出てくるのか?底意があると思わざるを得ません。

読者がデスクメモの見解に引きずられて記事本文を理解するのが狙いなのでしょう。

内容を薄めて「がんのリスク」を強調した朝日新聞の記事

さて、私が書いた記事では朝日新聞を主に名指ししています。

朝日の記事日を跨いだ後発のものであるにもかかわらず東京新聞やNHKの記事で書かれていた重要な内容が削られています

記事の構成も、事実経過を記述する前に「甲状腺に100ミリシーベルト被曝すると、がんのリスクが増える」『これまで国は「100ミリシーベルト以上被曝した子どもは確認していない」としてきた。』という文が先に来ており、強調されています。

一般の読者は「等価線量」と「実効線量」の存在は分かりませんから、『甲状腺に100ミリシーベルト被曝の疑い」という表現だけで、正確な理解ができるとはまったく期待できません。

私も「何かがおかしいのでは?」と思って調べた結果、等価線量を指しているということに気付いたのですから。

SNSでは「隠蔽」という評価も

プロフィールにそれなりの立場が書かれている者が「隠蔽」と評価する例があります。

魚拓:http://archive.is/PrXJW http://archive.is/YB4Wf

魚拓:http://archive.is/VSa4P http://archive.is/j97o8

魚拓:http://archive.is/ELHFG http://archive.is/9XHo0

それなりの立場がある者ですらこうなのですから、一般人が一読したらどのような評価になるのか、という懸念を持つのは、何ら不思議なことでは無いでしょう。

まとめ:地方紙が報じ、全国紙が乗っかって拡散する構図

今回の報道状況は、東京新聞という地方紙が情報公開請求までして整理した情報について、朝日新聞という全国紙が内容を薄めて拡散していたということです(その間、NHKのように追加取材した所もあるにもかかわらず)。

このような報道のされ方は他にもあり、沖縄県の政治問題についてはよくこのような状況がみられます

こういう報道状況では初出の記事内容よりも後発の大手紙の紙面から生じる認識が世の中に広がります。その記事内の記述に嘘がなくとも、読者の受け取る認識が好ましくないものになる危険性が高い報道は数多くあります。

特に福島第一原発事故関連の報道では、このような報道が繰り返されてきました。

福島の風評被害を継続させかねない構図には注意しなければならないと思います。

以上