事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

小西ひろゆき読み間違い指摘への訴訟予告は脅迫罪のおそれ

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小西ひろゆき議員が過去の国会での名前読み間違いをツイッターで指摘されたことに対して訴訟予告をしましたが、これは脅迫罪になるおそれがあります。

小西ひろゆき議員、国会での読み間違いを指摘され「法的措置検討」

小西議員が名前を読み間違えた事は動画も残っているので事実です。

詳細は以下。

小西議員は発信者情報開示請求で拒否される

批判したツイートの主は匿名アカウントなので住所等は小西議員にとって知ることができない状態です。その状況では訴訟提起できません。裁判を行うためには被告の特定が必要だからです。

匿名アカウントの情報を知るためには、最初にツイッター社に対して「任意開示」を求めることが考えられますが、任意開示に応じる例は多くないのが現状です。

そこで、プロバイダ責任制限法(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律)第4条に基づき「発信者情報開示請求」を行うことが必要です。

ツイッター社としては開示拒否をすることになるでしょうが、この請求が認められるための要件は以下です。

(発信者情報の開示請求等)
第四条 特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は、次の各号のいずれにも該当するときに限り、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者(以下「開示関係役務提供者」という。)に対し、当該開示関係役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報(氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるものをいう。以下同じ。)の開示を請求することができる。
一 侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき。
二 当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき

国会での名前読み間違えを取り上げたことによって新たに権利侵害が起こる?

「正当な理由」は匿名だと訴訟提起できないからあるとして、「侵害情報の流通によって」「権利侵害が明らか」というのは当てはまらないのではないでしょうか。

小西議員の発言は国会の質疑という極めて公的な場においてなされたものであり、さらに誰でも無料で閲覧可能なインターネット中継のアーカイブで残っているのです(議事録では漢字表記になっているために名前の読み間違いが発生しているかは分からない)。

名前を読み間違えた事実の摘示が社会的評価を低下させたか」もかなり怪しいです。

なお、小西側は「事実の改変」があるというロジックを主張しています。

が、国会議事録を見れば分かりますが「事実を改変」 という判断を裁判所がするとは到底思えません。中核的な部分は「名前を間違えた」の部分であって、訴訟で問題となる「事実」はその部分であり、枝葉末節は捨象されるからです。下記記事で紹介している判例を参照。

「質疑の経緯が改変された」という意味だとしても(『小西ひろゆき「ええっ!憲法を学ぶ学生なら誰でも知ってますよ!」』、という部分は本来の発言には存在しない)、それが社会的評価を低下させることになるとは言えないでしょう。

よって、「事実を改変」は小西側の勝手な解釈であり、一般通常人から見てそう判断されるとは言えないでしょう。

訴訟になっても無理筋

仮に小西vsツイ主の訴訟になったとしても小西側が勝つことは(被告側のミスが無い限り)100%有りえません。

真実性、公共利害性、公益性要件をみたす事は明らかで、違法性阻却されるからです。

元ツイート主の「実はそんな学者いなくて、恐らく高橋和之さんの間違いという。これ以上恥ずかしい話ってこの世にあるだろうか。国会だぞ。」という部分も、論評の範囲内でしょう。

なので、小西議員は訴訟提起(発信者情報開示請求も)しない可能性が高いでしょう。100%敗けるからです。そして、訴訟提起したならば、訴訟提起自体が不法行為として違法と主張され、そう判断される可能性もあると思います。

訴訟予告をしておいて訴訟しないのは脅迫罪なのか?

小西議員自身は「しかるべき措置を取る」(ツイートママ)と言っており、文言上、必ずしも訴訟提起という手段を執る訳ではない表現になってはいますが、一連のツイートを見れば訴訟予告をしているとしか解されません。

ここで、一部で「訴訟予告をしておいて訴訟しないのは脅迫罪」という言説がありますが、これは間違った見解です。なぜなら単に訴訟提起をすることやその予告をすることは権利行使だからです。また、上記見解では事情が変わって訴訟しないという選択をとったことが違法になるという事になるのでありえないからです。

「真実権利を行使する意思がなく、相手を畏怖させる目的であるときは脅迫に当たる」とする判例として大審院大正3年12月1日刑録20・2303が挙げられますが*1、単に権利行使する意思が無い=訴訟する気が無いというだけで脅迫罪になるかはかなり疑問です。

訴訟予告で脅迫罪が成立するには畏怖目的が認定されないといけないと思われます。

大審院の判例では権利行使意思の欠缺の事実があることがただちに畏怖目的と認定できたケースだったために上記のような判示になった、という見方をするのが日下氏の論文の立場であり、議論があります。
(大審院の事案では行使意思は在るとされた)

告訴の意思表示は脅迫か。大審院大正 3 年 12 月 1 日判決の検討 日下 和人

小西ひろゆき議員に権利行使の意思の欠缺・畏怖目的はあったのか?

結論から言うと、小西ひろゆき議員には権利行使の意思はそもそも無くて、畏怖目的があると言えると思います。(ツイートを削除させたかった)

なぜなら、以下のような意味不明なツイートをしているからです。

小西ひろゆき議員「法的措置を取る」読み間違えを揶揄され⇒ツッコみ所満載

上の記事でも指摘しましたが、通常、このような場合には顧問弁護士の実名を表記して行うものなのにそれをしておらず、さらには相手方に対してツイートが届くようになっていない(@が入っていない単なる独り言)というお粗末なものになっているのです。

権利行使を前提にしているのであればまず行わない行動です。

そして、顧問弁護士の指導を受けているならば、こんなミスは起こりえないハズです。

そもそも以下のツイートも、まともな弁護士であれば到底言わないような支離滅裂な事を言っているので、「顧問弁護士」なる者が存在して本当にこのようなアドバイスをしていたと理解するのは通常は不可能です。

存在しない顧問弁護士を持ち出すのは畏怖目的

これを「弁護士の助言」とは到底考えられないというのは弁護士も指摘しています。

仮に顧問契約を締結している弁護士が居る場合、その弁護士から小西議員が名誉毀損で訴えられる可能性はあります。小西議員のツイートに表れるような支離滅裂な事を本当に言っていたら懲戒請求ものでしょう。「先にブロックした発言も違法」とか、ちゃんちゃらおかしいです。

「権利行使の意思がなくて畏怖目的が認定できる」、とも言えるでしょうし、「顧問弁護士の助言など存在しないのにそれを理由づけとして提示しているので畏怖目的が認定できる」とも言えると思います。

ただ、告訴・告発したとして検察がこれを起訴するかというと…事案としては軽微ですが、法解釈が絡むのでどうなるか、よくわかりません。

まとめ:小西ひろゆき議員には脅迫罪のおそれ

小西ひろゆき議員が訴訟提起(或いは発信者情報開示請求)をしなくとも、その事実のみをもって脅迫罪となることはありません。

しかし、小西議員の言動を見ていると「権利行使の意思の欠缺+畏怖目的」が認定されるおそれがあると言えるでしょう。

以上

*1:刑法各論 第六版 西田典之など