事実を整える

Nathan(ねーさん) ほぼオープンソースをベースに法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

共産党の選挙カーが有料駐車場で無賃駐車疑惑:業務妨害になるのか?

共産党の選挙用自動車が有料駐車場で無賃駐車をしていたのではないかという状況がありました。指摘を受けて、結局は駐車状態を適切にしたようですが。

このようなコインパーキングへの無断駐車は何らかの罪に問えるのでしょうか?

共産党の選挙カーが有料駐車場でロック板の手前に駐車

画像を見ると、確かにロック板が上がっておらず、その手前で停車されています。

駐車スペースには黄色い枠線があり、明らかに車の前方部が枠からはみ出ています。

この手のコインパーキングに駐車する際にはロック板部分を乗り越える必要があるので、その動きをしていないのに適正に駐車したとドライバーが感じたというのは、にわかには考えられません。

共産党はコインパーキングの故意の無賃駐車を否定

選挙運動用自動車の駐車問題についての見解

魚拓:http://archive.is/vLvcg

魚拓:http://archive.is/6R6Jf

共産党の選挙用自動車は故意に駐車されたものなのか?

共産党の見解によれば8日から当該駐車場を利用しているとのことです。

だったらなおさらなぜあのような駐車になったのかが疑問です。

複数回駐車してたなら適切な駐車ではないということは分かり切っていたはずでは?

これまでの領収書も全部あるとも言っていますが(当然だが)、これが事実だとしても問題は当日に運転していた者や同乗者の認識なのであって、これまで払っていたのだから支払を免れる故意が無いのだ、とは言えない気がします。

細かい事実関係はともかく、共産党の見解の言い分は発見者に対して「ツイッターでこの問題を投稿している人は「無賃駐車」「確信犯」と決めつけ、さらに関係のない写真を複数使用して『常習犯』とまで書いています」と逆切れをする展開になっているのは何なんでしょうか?反省してませんねこれは。

コインパーキングへの無断駐車は罪に問えるのか?

「無断駐車」が何らかの罪に問えるのか?警察に刑事事犯として対応してもらえるのか?については、かなり難問があります。

状況によって判断が変わり得る話ではありますが、本件の事案であることを前提に考えてみます。

窃盗罪・詐欺罪・威力業務妨害罪・住居侵入罪や不退去罪は成立しない

分かりきっている人にとっては不要な説明ですが、いろんな人から「これどうなの?」と聞かれたので。厳密性は省いてざっくり成立しない理由を書いていきます。

窃盗罪は他人が占有する「財物」の占有を相手の意思に反して移転することが必要ですが、駐車場は持ち運べないのでここでの「財物」ではないので成立しません。

詐欺罪は相手を欺罔して財物を交付させるという関係にないといけませんが、本件では駐車場利用に際して管理人等を騙した、という事情は無いので成立しません。

威力業務妨害罪は「威力」の意味が「被害者の自由意思を制圧するに足る犯人側の勢力」なので、人に向けられている必要があります。しかし、本件ではそのような事情はないので、成立しません。

住居侵入罪・不退去罪は「住居」もしくは「人の看守する邸宅・建造物・艦船」に侵入した場合なのですが、今回のようなコインパーキングはそのどれにも当たりません。建造物の「囲繞地」も建造物とみられますが、今回のコインパーキングはそれにも当たりませんので同罪は成立しません。

偽計業務妨害罪

偽計業務妨害罪もたぶん無理です。

「偽計」は必ずしも人に向けられたものである必要はなく、判例上は公衆電話にマジックホンを取り付けて電話料課金装置が正常に作動しなくなるような場合にも偽計業務妨害罪の成立を認めています。

ただ、そのような事案は「機械に対して細工」をしています。今回はそうではないことから、「偽計」にはあたらないでしょう。

器物損壊罪

器物損壊罪の「損壊」は、物質的な破壊以外にも「物の本来の効用を失わせる行為」が含まれます。たとえば、飲食店の食器に汚物をぶちまける行為も、精神的にその食器の利用を避けたがるようになるため「損壊」にあたります。(大判明治42年4月16日)

高校の校庭に建築現場の立て看板とある範囲に杭打ちして保健体育の授業その他に支障を生じさせたことが器物損壊にあたるとされたこともあります(最判昭和35年12月27日)

今回の共産党の駐車がどう判断されるかは良くわかりません。ただ、写真を見ると駐車スペース以外の部分は結構広いので、他の利用者の利用を妨げることはなさそうですし、駐車場の料金システムを直接阻害するようなものでもないので、器物損壊罪が成立すると言えるかはかなり怪しいような気がしています。

軽犯罪法1条31号の悪戯などによる妨害

軽犯罪法

一条 左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。
ー省略ー
三十一 他人の業務に対して悪戯などでこれを妨害した者

悪戯など」によって業務妨害をした者は軽犯罪法1条31号にあたります。

「など」とあるのでかなり幅広く、刑法上の業務妨害罪の補充規定であるという見解が有力のようです。

刑法上の業務妨害罪と軽犯罪法上の業務妨害の罪との関係 今村暢好」という文章を見つけたので詳しくはこちらを参照してください。

結局、「悪戯」にあたる基準は分かりませんが、具体的な事例が載っています。

今回の事案も、もしかしたらこれに当たると判断されるかもしれません。

ただ、実際に警察に連絡したら動いてくれるか、検察が受理するかはわかりません。

警察は民事不介入

刑罰法規に当たり得るような行為については警察が動きますが、そうでないなら民事の領域の話なので、警察は「民事不介入」の原則を建前にして動いてくれません。

特に権利関係に争いがあるような場合にはかなり腰が重い対応になります。

参考:GIGAZINEの建造物損壊事件は司法のバグなのか?
参考:GIGAZINEの倉庫破壊事件の続報:持ち去りは器物損壊では 

なので、ネットで「駐車場 無断駐車」などで検索しても、警察は対応してくれないということを前提にしている弁護士の記述がよく見つかります(なんかそっちに誘導してるような気がする)。

民事でやる場合は妨害排除請求をする(つまり訴訟)手段があるのですが、コストが高いだけで損をしがちです。弁護士に聞けばいい解決手段があるのかもしれませんが…

なお、「自力救済の禁止」が法規範ですので、個人がむりやり無断駐車の車両を排除すると逆に加害者になりかねないので注意しましょう。

まとめ

無断駐車って結構めんどくさいんですよね。

今回は「通常のコインパーキング」における刑罰法規への抵触の可能性について検討しましたが、状況が異なれば違う結論になり得ます。

いずれにしても今回の件は駐車場管理人と共産党側とで話し合いがついているようなので、これ以上何か言うつもりはありません。

以上