事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

松本総務大臣「室崎教授から『道路事情は知らなかった』」⇒立憲民主党が緊急消防援助隊に関する杉尾秀哉質疑で触れず【能登半島地震】

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松本総務大臣「室崎教授から『道路事情は知らなかった』とお話」

令和6年1月24日 参議院予算委員会

松本総務大臣 今お名前があがりました室崎先生からは、新聞紙面紙上で小出しというお話もございましたので、私共としては専門家のご指摘はお聞きして受け止める姿勢を持たなければいけないと思って消防庁の方からお話をさせていただいて事実関係をご説明させていただきましたところ、発災当初から十分な規模の部隊が出動していた事は理解した、被災地に現に到着できた部隊数を見て、小出しと発言したが、道路などの事情もある事は承知していなかった、との話をいただいており、当社からの出動についてはご理解をいただいたかと思っております。

令和6年1月24日の参議院予算委員会における立憲民主党の杉尾秀哉議員の質疑。

能登半島地震に関し、神戸大学名誉教授の室崎益輝氏が、緊急消防援助隊の出動が小出しになっており「初動に人災」などと主張している内容が1月14日の朝日新聞に掲載された点について杉尾議員が政府に問いました。

松本剛明総務大臣からは「消防庁から説明したところ、室崎教授から『道路事情は知らなかった』」という旨の発言があったとする答弁がありました。

これはいったい、どういうことでしょうか?

「初動に人災」室崎益輝名誉教授の朝日新聞記事では地理的要因に言及

避難所への水や食べ物、物資の搬入が遅れたのは、半島で道路が寸断されるなどした地理的要因もありますが、被災地で起きていることを把握するシステムが機能しなかったことも要因です。それがトップの判断を誤らせています。

杉尾議員の質疑のベースはこの記事ですが、当該朝日新聞記事では当時の道路事情についても言及しているのが分かります。

それと消防の出動人数の関係について関連付けて考えることができていなかったとでもいうのでしょうか?非常に不思議な展開だと思います。

彼の論文等を見ると、災害発生直後の状況ではなく復興期の研究に関するものばかりであり、災害発生初期の状況に関しては「専門外」であるという指摘が各所からありましたが、専門内外を抜きにして判断に必要となる情報すら彼には不足していたことが明らかになりました。

本件に関しては他にも自衛隊に関して「戦力の逐次投入」だのと事実認識がおかしい揶揄が各所から出ていましたが、能登半島の地形や本震災の特徴、当時の状況について整理すれば部隊派遣等については適切だったと理解できます。

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そして、立憲民主党の動きもいかがわしいものがありました。

自衛隊派遣に関する杉尾秀哉質疑を立憲民主党が松本大臣答弁に触れず

当日の杉尾議員の質疑については立憲民主党の国会情報+災害対策のアカウントにて編集動画がSNSにUPされていますが、松本大臣の当該答弁やそれに関連する質疑はUPされていません。都合が悪いから載せられなかったのでしょう。

また、この日の杉尾議員の質疑の前提となる認識には致命的に間違っている点があり、東日本大震災時(民主党政権時)の自衛隊の初期準備体制(初期に実際に投入されたわけではない)である数万人について、この数を派遣することを政治決断しろ、というものがありました。

この点は杉尾議員質疑に対する木原防衛大臣の答弁でも、実際に投入された部隊人数と準備体制の人数はベースが異なるものであり、今回の準備体制にある人数は震災2日目に1万人、現在は1万4千人であると整理されました。

総理の能登視察の際に同行した同党の近藤和也議員の爪の垢を煎じて飲むべし。

総理視察に野党議員が同行するのは異例の事。それだけお互いの信頼と敬意があったんだと思われます。こうした活動を共有していくのが本来の在り方だと思う。

「阪神淡路大震災時の神戸での経験は役に立たなかった」とする経験者

渡邊智明さんの報告で、さらに驚いた言葉がありました。

「阪神・淡路大震災での経験は役に立たなかった」

彼は、阪神・淡路大震災の当時は、神戸市の災害対策本部で広報を担当した経験を持っています。いったいどういうことなのでしょうか。

神戸は150万人が暮らす都市です。一方で珠洲市は、人口だと約1.2万人余り。神戸市の1/100です。

29年前の神戸だと避難者数は最大で約24万人。被害が大きかった東灘区や長田区などでは、一つの小学校に3千人以上の避難者が押し寄せているので、救援物資を配るのにも大変でした。なので、効率的な避難所運営をするのが至上命題だったそうです。

ところが、珠洲では90カ所ほどの避難所がありますが、小規模だと10人以下のところもあります。近所同士のつながりが深く、地域の方だけで集まった小規模な避難所のほうが、むしろ安心できるという話です。

阪神・淡路のときのように、避難所をできるだけ集約し、全て役所で取り仕切ったほうが安心で効率的だという考え方が、ここでは妥当ではありません

珠洲市役所は神戸と比べると職員数も少なく、渡邊さんが派遣された時点では、マスコミ対応をする職員すらいなかったそうです。

なので、物資集約拠点の体育館には十分に飲料水があるのに、報道機関にうまく説明できていなかったのが、大量の水が届く原因になりました。

しかも、珠洲市役所自体が4階建ての小さな建物で、大きな会議室がありません。職員らが一堂に会して情報共有をする場所を確保することも難しかったのも、その理由です。

渡邊さんが「役に立たなかった」と、語気を強めてでも言いたかったのは、神戸市のやり方を押し付けず、被災者に寄り添い、被災地の本当のニーズを汲み取って支援活動を行うべきだということだろうと理解しました。

だからこそ神戸市は、広報業務を担う職員の派遣など、これまでになかった形の支援も行っています。

今回の能登半島地震や、過去の震災時にも多方面で「阪神淡路大震災時の教訓が生かされなかった」という言説が出てきます。今回の杉尾議員の質疑でもこのフレーズが利用されていました。

しかし、神戸市の震災対応の経験者からは、状況によってはそのまま妥当しない教訓がある、ということの重要な指摘がありました。

こうした具体的な検討は傾聴に値すると思いますし、それを受けて政府行政や民間が改善していけばいいと思います。

以上