事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

【百田尚樹】日本国紀の副読本の内容:「隠しテーマ」より重要なもの

 

「日本国紀」の副読本 学校が教えない日本史 (産経セレクト S 13)が発売されました。

百田尚樹著の日本国紀の執筆に至った経緯や構成の意図を解説しながら、昨今の歴史学界・歴史教育の実態について警鐘を鳴らす本と言えます。

日本国紀の「隠しテーマ」についても明言されています。

しかし、それよりも大切なことがここには書かれていると思うのです。

日本国紀の副読本の内容

上記記事でも指摘していましたが、副読本を読むと以下の目的があったと思います。

  1. 日本通史をとにかく読ませる
  2. 日本が好きになる通史本を読ませたい
  3. 隠しテーマを伝える
  4. 歴史学界・歴史教科書の問題点を浮き彫りにする

副読本は、これらのうち4番目に力点を置いた書籍だと思います。

日本国紀の執筆構成

歴史本というと、具体的な記述がとかく焦点があてられ議論されます。

しかし、日本国紀の「価値」はそういうものにとどまりません。

歴史本というものの全体の構成について、重要な指摘があります。

それは百田尚樹という一人の視点で貫かれた通史本であるということです。

これは当たり前かといえば、そうではありません。

実は『一人の歴史学者が書いた日本通史の歴史本』は存在しません。

学者が書くと10人20人の手によって作られる。バラバラに書かれるから一貫したものが作られない、という旨の指摘が副読本で為されています。

『一つの視点に貫かれて解釈されたまとまった通史本でなければ、「私たちの歴史」という物語を紡ぐことはできない』

このような問題意識が日本国紀執筆の根底にあったことが明かされています。

だからこそ作家の百田氏が書くべきだと考えたという有本氏の言があります。

一つの視点に貫かれた「物語」

「10人20人の手によって作られる」

これは法学に例えるならば、民法の総則・物権・債権・担保物権・親族・相続が別の者によって書かれてるということでしょう。体系的な理解など遠い話になります。

これに対しては「この話は憲法・刑法・民法・民刑訴訟法・会社法・行政法を一人の人間が書くという類のもの。そういうわけにはいかないだろう。だから歴史本も複数の学者による分担とならざるを得ない」という指摘があり得ます。

しかし、実は法学の領域であっても、民法と民事訴訟法とで一貫した体系による理解が必要であるにもかかわらず、学者が専門領域を別にしているため、民事紛争についての体系的な理解を伝えることができる学者は限られている、という問題があります。

広く見渡した視点で書かれた書籍や言論は希少であり、且つ、そのようなものが必要である場面は確実に存在します。

日本国紀は、そのような領域を埋めるものなのでしょう。

歴史学界・歴史教科書への問題提起

副読本では、歴史教育に関する問題点をより詳細に記述しています。

歴史学界隈がなぜか朝鮮関係については「配慮」しているという周辺事情から、具体的に山川出版の教科書や学び舎の歴史本を実際に図示し、その記述の妥当性・正当性を批評しているものもあります。

例えば、学び舎の「朝鮮人戦時徴用」の記述では『自由意志での個別渡航、国家総動員法に基づく「募集」「官斡旋」「徴用」』をまったく区別せず、一緒くたにして十万人以上の朝鮮人が強制動員された旨の記述が紹介されています。

国家総動員法に基づく「徴用」は敗戦の約1年前の1944年9月に行われたに過ぎないのであって、その総数はかなり限られます。にもかかわらず、すべてを同視するのは「水増し」以外の何物でもありません。

権威のある書籍においても、このような記述が散見されるのです。

記載された評価に疑義がある歴史教科書

私自身も歴史教科書の記述に疑問がある場面は多数あります。

たとえば平成29年3月7日検定の山川出版「詳説日本史B」について。

関東大震災の朝鮮人不法殺害についての記述

①「日本人の植民地支配に対する抵抗運動への恐怖心と、民族的な差別意識があったとみられる」

震災時のものは疑問がありますが、震災前後には社会主義者らと連帯した朝鮮人らによるテロが実際に発生していました。これは「植民地支配に対する抵抗運動」などというものではありません。

また、「民族的な差別意識」も、なぜそのように断定できるのか、納得のいく説明をしている記述に触れたことがありません。なんでも「差別意識」を原因にしようとする思考放棄を学者らが無批判に追認しています。

それは震災前の義和団事件等のテロの存在を無視していることが原因と思われます(もちろんその事実から震災時の正当防衛でない不法殺害を正当化することはできないが)。

②「市民・警察・軍がともに例外的とは言い切れない規模で武力や暴力を行使した」

警察と軍による殺害は例外的と評価する以外にはあり得ません。

報告書(1923 関東大震災第2編) : 防災情報のページ - 内閣府

こちらの報告書で殺傷事件について説明されています。 

基本的に軍と警察は朝鮮人を保護する目的で一時収監していました。

その中で混乱が起きたために鎮静化した結果、殺傷に至ったに留まります。

このような記述もまた「一緒くたにする」ものであり恣意的なものでしょう。 

隠しテーマより重要なもの

これは私は重要だとは思いません。

日韓関係を今後どうしていくべきかを示唆することが隠しテーマの一つとして挙げられていますが、それはもう、分かりきったことでしょう。 

実際にも副読本ではそんなに紙面を割いているわけではありません。

それよりも重要な「歴史界隈の諸問題」

これが副読本を読むことで把握できるというのが、本書の価値だと思います。

有本氏が本書で「私たち民衆の反乱だ」と言っているように、オーソライズされた権威側から押し付けられる自虐的な歴史を跳ね除けようとする動きの一環として捉えるべきでしょう。

以上