事実を整える

Nathan(ねーさん) ほぼオープンソースをベースに法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

品川区主催の田嶋陽子講演会中止理由と表現の自由、キャンセルカルチャー:男女共同参画推進フォーラム2023

また「表現の自由ガー・言論の自由ガー」が繰り返されるのか

男女共同参画推進フォーラム2023田嶋陽子講演会中止

男女共同参画推進フォーラム2023の中止に関する新聞報道を受けて|品川区

品川区総合区民会館にて11月11日に開催予定だった「男女共同参画推進フォーラム2023」が諸事情により中止された件で、11月8日付東京新聞の報道を受けて品川区が同日改めて区の考えを公表しました。

本件については品川区人権啓発課に電話で開催の形態や経緯を伺ったのでそれも加味して表現の自由との関係での注意点を論じます。

品川区が主催:憲法上の表現の自由・言論の自由の問題ではない

最重要な事実関係として、男女共同参画推進フォーラム2023とその唯一の講演である田嶋陽子講演会は、品川区が主催、主体的に運営するものでした。
※品川区男女共同参画センター(人権啓発課男女共同参画担当)

民間が主催し公的施設を借りるという形態ではありません。

よって、中止判断は憲法上の表現の自由・言論の自由の問題ではありません

市民に表現の場を提供して実質的な伝達手段を確保させる、という公的機関の役割が問題となる事案ではなく、公的機関が自身の権限内でメッセージを発する場だからです。

実質的にも、当該フォーラムは企画運営委員会を民間から募集していましたが、放任していたわけではなく、企画会議では品川区人権啓発課と企画運営委員が協議をしていたとしています。

そして、「人権尊重都市品川宣言30周年」の節目にあたるイベントとして2023年度のテーマ「共育~全ての人が活躍し、自分らしく生きられる明日に向けて~共に育とう」を決め、それに沿うような講師の人選をしたという経緯があります。
※なお、2022年のテーマはワークライフバランスに関するものであり、年度によって異なる

つまり、田嶋氏が自分で講演のテーマを決めていたわけではなく、あくまで企画運営委員会がテーマに沿う内容の講演を依頼したということです。

したがって「田嶋氏が要求していた表現の場が奪われた」ということではありません。

「あいちトリエンナーレ2019」の「表現の不自由展」中止との類似点

こうした実施形態は、「あいちトリエンナーレ2019」の「表現の不自由展」と類似している点があります。

このときも、実行委員会会長たる愛知県の大村知事による一時的な中止判断が「表現の自由の許されざる侵害だ」などと騒がれましたが、愛知県の検証委員会で憲法学の曽我部教授が「理念としての表現の自由」は関係するが、憲法上の権利の話としては「基本的に表現の自由がダイレクトに問題となる事案ではない」と、法的関係を整理して報告がまとめられました。

上掲の経緯からは、今回の方がさらに田嶋氏側の自律性を保護するべき要請が弱いと言えます。

キャンセルカルチャーか?中止理由と経緯:中止までに否定的意見は1件

本件は「キャンセルカルチャーだ!」という怒りがSNSで飛び交っていました。

しかし、そもそも、キャンセルカルチャーとは?なんなんでしょうか?

上掲記事ではアメリカで発生したキャンセルカルチャーの用語法と、日本国内に伝播した際の用語法にずれがあり、意味がインフレ化してしまっていることを書きました。

が、巷でいわゆるキャンセルカルチャーと言われている用語法は、「大衆が大量に抗議をしたり、否定的な評価をネット等で拡散させた結果」、何等かを撤回等させる、追い込ませる運動、という意味であると認識している者が多いです。

では、今回はどうでしょうか?

品川区人権啓発課は、9月24日の田嶋氏出演のテレビ番組(そこまで言って委員会!NP)での発言後、中止決定をした9月29日までに、外部から否定的な意見を受けたのは【1件】だったと回答しました。

その内容は「ああいった発言をする者を登壇させることはいかがなものか、といったニュアンスだったようで、「講演をやめろ」や「フォーラムを中止しろ」というものに渡るものではありませんでした。

中止は、あくまで行政側が自律的に判断したものであり、外部から要請されたり世論の空気におもねって、という関係ではありませんでした。

したがって、本件はキャンセルカルチャーの事案と呼ぶのは不適切でしょう。

人権啓発課は、田嶋氏の思想や発言を否定する意図はないが、区が主催するフォーラム・講演のテーマ・趣旨との関係で、誤解・混乱を避けるため、中止を判断したとその理由を説明しています。

講演する人間の過去の発言と講演内容は必ずしもリンクしないがどうか?と問いましたが、講演会の趣旨に反する内容を話される危険の蓋然性がある、という説明ではありませんでした。

田嶋陽子の「そこまで言って委員会NP」での発言『魚の形態が変わってくる・IAEA関係者は顔色悪かった』

田嶋陽子さんの講演を品川区が中止決める 原発処理水巡る発言を受けて「混乱を避けるため」 有志が撤回要請:東京新聞 TOKYO Web

「そこまで言って委員会NP」(読売テレビ、関西地区などで放送)に出演した際、処理水の海洋放出について「魚の形態が変わってくるんじゃないのか」などと発言。調査のために来日した国際原子力機関(IAEA)の関係者についても「来た人だって顔色悪かったじゃん」「全然元気なくて、こんなになってた」などと話し、手を胸の前で垂らす幽霊のようなしぐさをした。

田嶋陽子氏の「そこまで言って委員会NP」での発言は、東京電力福島第1原発の処理水放出を巡り『魚の形態が変わってくる・来た人(IAEA関係者)は顔色悪かった』というものでした。

このような言動は以下の問題があります。

  • 福島沖の海産物に対する誤解を助長し、風評被害を招く/風評加害行為
  • 特定人の容姿への揶揄があり、誹謗中傷

そのため、品川区が主体となって主催する講演の趣旨との関係で、誤解や混乱を避けるために中止を判断したというのは、理解できるものだといえます。

行政が主体として特定のテーマが決められた中で、その意に沿う(と期待された)論者に講演をさせる、という関係のものですから、そこでの講演内容は客観的に「行政のメッセージ」と理解される、乃至はそのように理解される危険が生じてしまいます。

さらに、登壇者の過去の発言についても、それを許容する態度と誤解されるおそれも出てきます。もちろん、この場合、登壇者の過去の発言についてまで「行政のメッセージ」と解することは客観的にはできません。ただ、そのような誤解を惹起する危険があるという予測は正当だろうと思われます。

なお、本件については品川区議会の決算特別委員会2日目(10月3日)に質疑され、中止判断の理由も答弁されているようですが、品川区の議会HPでは未だ議事録がUPされていません。また、動画も最新の委員会・本会議のものしか掲載しない方針であるとして、当日の動画は見ることができなくなっています。

11月8日の東京新聞以降、中止判断を非難する話題が広がっているので、今後何らかの動きがあれば追加で論じたいと思います。

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