事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

日米貿易協定:米産トウモロコシの追加輸入に需要はあるのか?

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日本の安倍総理とトランプ大統領が取引をして、アメリカのトウモロコシを大量購入することを決めたようです。この際なので日本のトウモロコシ事情について調べてみました。

日米貿易協定:日本、米産トウモロコシ輸入へ

日本、米産トウモロコシ輸入へ=米中対立の余波-首脳会談(時事通信) - Yahoo!ニュース

日米貿易協定、9月署名へ 両首脳、大枠合意を確認(共同通信) - Yahoo!ニュース

中国との貿易摩擦によって、とうもろこしの輸出が滞っていた分を日本が買い取るという取引が成立したとのこと。その額は数億ドルに上るとされています。

さっそくですが、「日本はATMだ」などと言った論評が観測されています。

では、日本にとってメリットはあるのでしょうか?

とうもろこしの需要:害虫問題による代替飼料等が必要

Trump Says U.S. and Japan Have Reached Trade Deal in Principle - WSJ

The prime minister said Japan’s private sector would buy U.S. corn because of pest issues.

ウォールストリートジャーナルの記事を見ると、安倍総理は【害虫問題】のためにアメリカのとうもろこしを買うのだと言っているようです。 

実は8月に入ってからトウモロコシに被害が出る害虫が発生しているようです。

日本でのツマジロクサヨトウによる被害

世界蔓延の厄介害虫が茨城へ到達、全国拡散か(団藤保晴) - 個人 - Yahoo!ニュース

国内で最初に見つかった鹿児島での発生状況調査によると、トウモロコシ、水稲、サツマイモ、サトウキビなど306ほ場を調べてツマジロクサヨトウを見つけたのは飼料用トウモロコシとスイートコーンの53ほ場でした。その後の各県の発生状況でもトウモロコシだけが狙われているのが不幸中の幸いです。

ピンポイントにツマジロクサヨトウという害虫によってトウモロコシが被害を受けている最中だと言うことです。

なので産業としては代替飼料の購入をする動機があるのですが、既に補助が出ることが決まっています。

日本農業新聞 - ツマジロクサヨトウ 代替飼料購入を支援 農水省が追加対策 1トン当たり5000円補助

農水省は9日、鹿児島などで発生が初確認された飼料作物などの害虫、ツマジロクサヨトウの被害まん延防止の追加対策を明らかにした。生産者集団やJAなどに対し、防除によって不足する飼料の代替分を共同購入する場合、1トン当たり5000円を補助する。

参考:ツマジロクサヨトウに関する情報:農林水産省

おそらくアメリカから追加購入するトウモロコシはこの補助の対象になるでしょう。

日本はとうもろこしの大部分をアメリカから輸入してきた

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https://www.mlit.go.jp/common/000220291.pdf

アメリカのトウモロコシをめぐる事情|農畜産業振興機構

わが国の年間トウモロコシ使用量は約1630万トン(2007~10年度平均)。その大部分をアメリカからの輸入によっている。1630万トンのうち、飼料用が1170万トン、でん粉用途を中心とする飼料用以外が460万トンである。

とうもろこしの用途は飼料用が65%ですが、実は工業用にも使われていて、工業用接着剤、製紙、医療用輸液などの原料として使われるコーンスターチにもなるようです。

日本はアメリカからの輸入が80%を超えていますから、今更「アメリカ依存」と評するのはおかしな話です。

中国はトウモロコシ輸入国としてのプレゼンスを減退する

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https://www.mlit.go.jp/common/000220291.pdf

輸入トウモロコシに依存する日本

もう1つ注目しておきたいのが中国だ。05年には米国に次ぐ4.7%のシェアがあったが漸減し、14年にはついにゼロとなった。中国国内での経済発展による食肉需要増、それに伴う家畜の増加でトウモロコシ需要が増加したことが第一の理由だ。輸出どころか今後は輸入国に転じ、20年には日本の輸入量を超えるとも言われている。

中国産の輸入減少にはもう1つ理由がある。10年に発生した宮崎県の口蹄疫も起因しているのだ。この口蹄疫では約30万頭の牛、豚などが発症・予防のために殺処分された。国の疫学調査でも結局原因は特定されなかったが、牛の敷き料として利用されていた中国産稲ワラが原因と噂され、畜産業界では中国産の稲ワラ、飼料原料などの輸入を一切やめた。

さて、今回、日本がアメリカからとうもろこしを追加輸入するのは中国向けのとうもろこしが余剰になったという事情もあったからでした。

これを日本が輸入することは、中国がとうもろこしの大量生産国であり、米国産の輸入国でもあるということから中国に対して影響を与えるでしょう。

かつての中国はとうもろこしを大量生産した分を輸出していたようですが、今は自国での消費にあてるだけでは足りずアメリカ等から輸入するようになっていました。

「とうもろこしの争奪戦」が起こっている様子が分かります。

対中国としても効果がある安倍トランプのディール

  1. アメリカは中国向けトウモロコシが貿易摩擦で余剰になっている
  2. 日本は害虫問題でトウモロコシの代替飼料が必要
  3. 日本は元々アメリカからの輸入が大半
  4. 日本が世界のトウモロコシ輸入の中でプレゼンスを更に増すことで、トウモロコシを大量に必要とする中国との関係で有利になる

世界のとうもろこし(生産量、消費量、輸出量、輸入量、価格の推移)

2018/19年度の世界のトウモロコシ貿易量は前年度比8.6%増|農畜産業振興機構

実際に日本の産業界がどれほどアメリカのトウモロコシを輸入する需要があるのかは分かりませんが、中国が輸入するはずだったが余剰になってしまった分は、日本のこれまでの輸入分に比べれば随分と小さなものです。

このような国際関係を見ると、今回の日米のディールはWin-Winのような気がします。

追記:日米貿易協定とは無関係、購入が既成事実ではない

中国が輸入しない米のトウモロコシ 日本が買います | NHKニュース

トウモロコシの追加輸入は来月の署名を目指す日米の貿易交渉とは別の扱いで、日本政府としては害虫対策のための民間の措置だとしていますが、トランプ大統領が重視するアメリカの農家対策にもつながる側面があると判断したものと見られます。

日米首脳、通商交渉で原則合意 9月下旬に署名へ - ロイター魚拓

トランプ氏によると、日本は、余剰になっている米国産トウモロコシを購入することに同意したという。安倍首相はトウモロコシ購入の「可能性」に言及し、民間セクターが対応すると述べた。

一方の安倍首相は、トウモロコシの購入が既成事実と受け止められないようにしたい姿勢をうかがわせつつも、害虫によって国内の一部農産品が影響を受けており、特定の農産品を購入する必要性が生じていると指摘。民間セクターによる米国産トウモロコシの早期購入を支援する緊急措置を講じる必要があるとの認識を示した。

*内容を追加しました。

日本政府ーアメリカ政府でのトウモロコシ売買の合意をしたというよりは、日本側においてアメリカのトウモロコシを追加輸入することが促進されるような措置を講ずる約束をした、ということでしょうか。

いずれにしても日本政府が民間に対して購入を強要するということではありません。

また、9月の署名を予定している日米貿易交渉とは別扱いということでした。

追記:農水省に問い合わせをした酪農家の方とメディアが居たのでその内容を以下で紹介しています。ここで論じたことがどれほど整合性があるのか、確認できると思います。

以上