愛知県の芸術祭である「あいちトリエンナーレ」について、文化庁が国際芸術祭への補助金不交付の方針であると、関係者に対する取材でNHKが報じました。
ただ、相変わらず妙な印象操作がなされているので事実を把握しましょう。
- 文化庁が国際芸術祭への補助金不交付の方針⇒正式決定はまだ
- 補助金交付の採択と交付決定は別⇒菅官房長官の「政治的圧力」にはならない
- 愛知県美術館の使用許可条件の審査が為されていなかった
- 追記:NHKの報道する不交付の理由は正しいのか?
- まとめ:「憲法21条の表現の自由・検閲」という「から騒ぎ」
文化庁が国際芸術祭への補助金不交付の方針⇒正式決定はまだ
愛知 国際芸術祭への補助金 不交付の方針 文化庁 | NHKニュース:魚拓
慰安婦を象徴する少女像などの展示をめぐって脅迫めいた電話などが相次ぎ一部の展示が中止された愛知県の国際芸術祭について、文化庁は、事前の申請内容が不十分だったとして、予定していたおよそ7800万円の補助金を交付しない方針を固めたことが、関係者への取材で分かりました。
まずこれは正式決定ではないということです。
本来であれば事業者である愛知県から事業評価報告書を受け取り、審査してから補助金を交付するかどうかを決定することになるからです。
補助金交付の採択と交付決定は別⇒菅官房長官の「政治的圧力」にはならない
愛知県を事業者とする、国際現代美術展への補助金交付ですが、「採択」はされているものの、「交付決定」の判断は為されていません。
トリエンナーレが実施された後に愛知県が報告書を文化庁に退出して内容を審査して改めて交付決定をするかどうかを判断するという手続になっているからです。
したがって、「菅官房長官が政治的圧力をかけた」などという論は無理矢理にも程がある話です。菅官房長官は手続上、当然のことを話したに過ぎません。
愛知県美術館の使用許可条件の審査が為されていなかった
では、現段階で文化庁の人間が不交付の判断をするべき事情はあるのか?
私は十分にあると思います。
9月17日に行われた第2回検証委員会の資料では、表現の不自由展が置かれていた愛知県美術館においては作品展示の許可条件があるにもかかわらず、今回の許可はトリエンナーレ全体に出されており、 作品のチェックがなされていなかったという事が明らかになりました。
(ただ、検証委員会3回では日本の国公立の美術館長は芸術の専門家というよりも自治体施設の管理能力が優先されて人材配置されているという指摘があり、相互連関する問題かもしれない)
その他、ガバナンスの問題が指摘されていますが、それは日本全国のどの芸術祭においても共通する課題であるとされていますから、そういったものは文化庁もあまり問題視していないでしょう。
津田芸術監督が自己のジャーナリストとしての興味関心を優先して作品を展示させるよう動いていたということも検証委員会の中で指摘されており、そういった状況を野放しにしていたことも影響したでしょう。
追記:NHKの報道する不交付の理由は正しいのか?
愛知 国際芸術祭への補助金 不交付の方針 文化庁 | NHKニュース:魚拓
しかし一連の事態を受けて改めて検討を行い、愛知県からの申請は、少女像などの具体的な展示内容の説明がなく不十分だったとして、補助金を交付しない方針を固めたことが、関係者への取材で分かりました。
このような理由は成り立つのでしょうか?
日本博を契機とする文化資源コンテンツ創成事業(文化資源活用推進事業)の募集 | 文化庁
【募集案内】を見てみると申請の様式がありますが、この中で具体的な展示内容の説明をすることが予定されているとは思えません。
ましてや、申請締切りは3月末時点であり、作品選定の時期はそれよりも後なのですから、時系列としておかしい。不可能なことを要求していると言えます。
繰り返しますがNHKの報道は「関係者が方針を固めたと言った」です。
7800万円全額の不交付という内容は誤りであるか、不交付の理由づけ部分だけが誤りで、正式決定では異なる理由づけとなる可能性は高いと思います。
あいちトリエンナーレへの補助金を交付せず 文化庁発表(朝日新聞デジタル) - Yahoo!ニュース
県の検証委のまとめでは、県は5月には特別な警備体制が必要と認識していた。文化庁は、運営に不可欠な事実を伝えないまま申請したことは不適当だとして、補助金適正化法に基づいて不交付を決めた。申請では不自由展の内訳が明示されておらず、全額を対象としたとみられる。
なお、朝日新聞でも時系列がおかしなことになっています。
追記:山田太郎議員のブログで文化庁の経緯説明資料がUPされており、「応募申請」の提出期限は3月だが、その後、4月に採択され、愛知県の「補助金申請」は5月に行われたとあり、時系列としては問題が無いようです。
まとめ:「憲法21条の表現の自由・検閲」という「から騒ぎ」
愛知 国際芸術祭への補助金 不交付の方針 文化庁 | NHKニュース:魚拓
政治家の発言が相次ぎ、憲法が保障する表現の自由をめぐって議論が起きました。
議論なんていう格好の良い言葉を使っていいものではないです。
単に勘違いが横行しただけです。
行為主体は愛知県(実行委員会は実質的に愛知県)であり、法的主体の自律的判断が尊重されるべきであって、どの作品を展示するかは愛知県の裁量の範囲内である。個人vs公的機関の場面で問題となる「憲法上の表現の自由」の話ではなく、「政府言論」の話なので「広義の検閲」ですらない。芸術監督も公的機関側であり、不自由展とは契約関係に過ぎない。
このことはこのブログでも何度も書いてきましたし、吉村知事・三谷英弘議員・北村弁護士なども指摘していました。
さらにはトリエンナーレ検証委員会の委員である憲法学の曽我部教授も検証委員会の場で憲法上の表現の自由がストレートに問題になる場面ではないということをきっぱりと指摘しています。
津田大介芸術監督の責任追及がメインになっている感がありますが、大村知事も7800万円の「損害」を愛知県に与えた加害者として検証対象になるべきでしょうが、大村知事自身がオブザーバーとして会議の場にも出席しているお手盛り検証委員会には期待できそうにありません。
以上