事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

【余命不当懲戒請求】懲戒請求者への請求額・和解額は高額か?:佐々木・北・小倉弁護士の主張の是非

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懲戒請求者に対して懲戒請求そのものが不法行為であるとして訴訟を提起したのが東京弁護士会では佐々木・北弁護士の2人、及び小倉弁護士、神奈川県弁護士会の神原弁護士です。

彼らは懲戒請求者1人あたり30万円以上の請求額を予定しており、和解金額も5万円以上を提示しています。これが過大な要求であり、それこそ弁護士の品位を失うべき非行ではないか?と言われています。

今回は請求額ついて各所の見解を紹介しつつ、「殺到型不法行為」(命名は風の精ルーラ氏)の場合の損害賠償額について考えていきます。

なお、この点を考えるにあたっては懲戒請求があった場合の弁護士会の手続の流れや弁護士にかかる負担を理解しなければ始まらないので、先にこちらを見ておくことをお勧めします。

佐々木・北・小倉弁護士の損害賠償の対象

本件では「大量の」懲戒請求がなされたことが注目されています。

しかし、各弁護士は共同不法行為として訴訟提起することは考えていません。

したがって、損害賠償の対象はあくまで1件1件の不当懲戒請求書が送られた事で発生した事務負担や精神的苦痛となるハズです。「大量」となったのは結果論でしかなく、1件1件の懲戒請求者は他の懲戒請求者と歩調を合わせることを考えていたという情報は今のところ無いですし、実態として歩調を合わせたものではなさそうであることが弁護士の発信からうかがえます。

そういうわけですから、弁護士は損害額についても1件の懲戒請求によってどのような負担が発生したのかという点を考えていることになります。

なお、共同不法行為の法的構成を被告側=懲戒請求者側が抗弁として主張できるか、裁判所が職権でそのような構成を取るのか、訴訟指揮するのかは議論がありますので、可能であればこの点も後日検討したいと思います。

損害額についての考え方

懲戒請求の損害額は慰謝料が認定されてきたということと、懲戒請求の数が増える毎に損害額はどのように算定されると考えるべきなのかを整理します。

1:実損と慰謝料

東京地方裁判所 平成28年(ワ)第1665号 損害賠償請求事件 平成28年11月15日の判示では、精神的苦痛に加えて、不当な懲戒請求に対応するためにとられた時間負担を慰謝料として損害額を算出して損害を認定しました。本件でも精神的苦痛と時間負担による慰謝料という請求がなされる可能性があります。 

上記判例では事件処理の過程の行為が「地上げ屋である」「詐欺・横領である」という主張が懲戒請求者から行われました。また、懲戒請求にかかった時間負担は概ね12時間でした。

認定された賠償額は140万円。このうちの多くは慰謝料であると思われます。

 

ちなみに、「第二弾」の懲戒請求も着々となされているようです。懲戒事由は「懲戒請求者に対して訴訟予告ないし訴訟提起をしたこと自体が弁護士の品位を失する非行である」とするものです。

「第一弾」のときには聞かなかった時間負担が第二弾では発生しているようです。

おそらく第二弾では「それなりの根拠」があるような体裁だったために反論をしっかりとしないといけなかったのではないでしょうか?

2:懲戒請求の数と損害額の算定方法

本件では被害法益は弁護士一人の精神であり、1件の懲戒請求による損害と960件の懲戒請求による損害は単純に数に比例して損害が発生すると考えてしまってよいのでしょうか?

※ここでは960件の懲戒請求について同時に訴訟開始して同時に審理し、1つの社会的事実として把握した場合の一応の思考を記載してみます。

懲戒請求の数毎に新たに損害が発生するという立場

このような場合とパラレルに考えるのは無理がありますが、一定の考慮は必要でしょう。たしかに、2人目以降の損害が全く0になるというのもおかしな話です。

ただ、懲戒事由が被るものについては全く別個のものと捉えるのはなんだかおかしいという感覚は多くの人が持つのではないでしょうか?

懲戒請求における懲戒事由毎に新たに損害が発生するという見解

この見解が妥当ではないかと思います。

ただ、ここで論じているのは『「新たに」損害が発生すると考えるべきなのはどういう場合か』であり、同じ懲戒事由のものが2つ以上存在する場合に全く0になるというのはやはりおかしい話です。

懲戒請求の事由どころか文面まで一緒であるというのなら、実質的に一つの懲戒請求書と扱うことができます。こういう場合は単純比例は不適切でしょう。

3:私見、懲戒事由毎に損害は新たに発生するが、同種の懲戒事由の場合は2つ目以降の損害は漸減すると考えるべき

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※懲戒請求による弁護士の精神的ダメージのイメージグラフ

懲戒請求1件目の損害が1.0だとして、同じ内容の懲戒請求が960件なされた場合の損害が960だと言うのは素朴な感覚からしても違和感があります。

1件目の懲戒請求に対しては0から答弁書を書かなければならないし、事案の把握をして反論を考える負担がかかります。しかし、同じ内容の懲戒請求に対しては同じ反論や反証をすれば良いのだから、後の懲戒請求による弁護士の作業負担は必然的に減ります。

世間からの評価も、1度だけの場合と960件起こされているという場合とで違いはありますが、単に「懲戒請求を受けている」という事実は件数とは無関係に評価されるので、社会的信用が単純比例で減少するとは考えられず、精神的損害が単純比例するというのは実態にそぐわない。

懲戒請求手続に付される事での登録替え、登録取消し、転職の制限も、1件の場合と960件の場合とで全く変わらない。

よって、960件からの懲戒請求の損害が960だというのは成り立たない。 

この場合、2人目以降の損害は漸減し、損害は極限値0に無限に近づく(収束する)という計算方法を採れば良いのではないでしょうか? 

ただ、この見解だと、以下の問題があります。

  1. 懲戒事由が同種であるというのはどのような基準で判断するのか
  2. 「1人が複数件の請求」の事案なら良いが、「複数人が1件の請求」の場合には、自らが関知しない別の者の懲戒請求の有無によって損害額が減ったり増えたりするため不自然
  3. 裁判が個別に訴えられた場合には裁判所が「大量事案」と認識できない可能性がある
  4. 「他にも他人から同種の懲戒請求がある」という被告側の主張がまるで損害額減額のための抗弁のように機能する可能性はあるのか?
    ※共同不法行為を被告が抗弁として主張することが可能か?という話とは異なる。

問題点2,3からは「その懲戒請求が何度目か」を知ることができないと事実上使えない手法ということになると言えます。これに対する再反論もできそうですが、苦しいものになりそうです。

余命「大量」不当懲戒請求事案と類似の過去の裁判例

類似の事案から結論の妥当性を探り、ヒントを得ることは重要です。

これをしないで感覚的に良い・悪いを論じる人が多いですが、何らの物差しが無い状態での論述は説得力がありません。

1人が大量に懲戒請求を繰り返した事案

東京地裁 平成25年(ワ)第29832号 損害賠償請求事件 平成26年7月9日

この事案は1人の者が、平成25年9月16日付けから同年10月26日付けまでの合計37次(原告に対するものは34件)138件に及ぶ懲戒請求書を提出し、その他にもファックス送信を弁護士に対して執拗に行うなどの不法行為について精神的苦痛の慰謝料が請求された事案です。

懲戒請求の内容は次のようなものです。

本件懲戒請求は,原告のC及びDに対する送付文書中の文言等が被告の名誉又は信用を毀損すること,原告がCに対しBの株式を放棄するよう脅したこと成年後見人である原告にはBを解散し清算する権限がないにもかかわらず,原告が本件成年後見業務に及んでいること,本件成年後見業務は,成年後見制度を悪用して会社を乗っ取るものであり,原告が嘘を述べていること,被告,C及びDが,原告により,連日「生殺しの生き地獄」に置かれていることなどを申し立てるものである。

原告が認識する被告が懲戒理由として主張する事由も,そのほとんどが,原告について「成年後見制度を悪用して,Bを乗っ取ろうとしている」旨の内容だったものです。

損害額はその他の不法行為も含めて精神的苦痛に対する慰謝料として100万円が認定されました。これをどう考えるか。

34件の同種の懲戒請求+その他の不法行為があって100万円の認容ということは、懲戒請求のみの損害は多く見積もっても50万円でしょう。そして、懲戒請求の数毎に損害が新たに発生するという見解の場合は、これを34で割るということになり、1件あたり1万4000円程度の損害ということになります。

対して、懲戒事由毎に損害が新たに発生するという見解の場合は件数では割らないので、1事由あたりの損害は高くなることになります。 

再掲東京地裁平成28年(ワ)第1665号 平成28年11月15日 

1人の者からの懲戒請求が3回あり、事件処理の過程の行為が「地上げ屋である」「詐欺・横領である」という主張が懲戒請求者から行われました。また、懲戒請求のための弁護士の時間負担は概ね12時間でした。この訴訟の前にも懲戒請求138件がなされて100万円の損害が認定された事案、懲戒請求5件がなされて196万円余の損害が認定された事案がありました。

本件訴訟における賠償額は140万円と認定されました。

やはり、こうしてみると1人が複数回の懲戒請求を起こした場合(弁護士1人が原告で被告も1人)には、単純に懲戒請求の件数毎に損害が新たに発生するとは考えられていないようです。

多数のメディアが1人に不法行為をした事案:三浦和義氏の複数メディアに対する損害賠償請求額

こちらは懲戒請求ではなく民事訴訟ですが、「原告が1人で被告が多数」という状況は大量懲戒請求事案と同じです。三浦和義氏とは、いわゆる「ロス疑惑」事件において犯人ではないかとマスメディアに報じられた方で、報道が名誉毀損による不法行為であるとして本人訴訟で多数のメディアに不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を提起した方です。

三浦和義氏が勝ち取った損害賠償額の合計は1億数千万円以上とも言われています。

しかし、三浦氏の場合は各事案によって損害の内容が異なる場合が多いと思われます。

三浦氏の提起した訴訟で私が確認できたのは以下です。

  1. 東京地方裁判所 平成4年(ワ)第1718号 損害賠償請求事件 平成5年5月25日⇒刑事被告人の容姿について表現した記事がプライバシー権侵害にあたるとされた事例:金一〇〇万円認容
  2. 東京地方裁判所 平成元年(ワ)第4925号 損害賠償請求事件 平成3年1月29日⇒保険金殺人の被疑者が取調べに対して弱気になっている旨の新聞記事が名誉毀損に当たるとして慰謝料請求が認められた事例:金一〇〇万円認容
  3. 東京地方裁判所 平成元年(ワ)第4775号 損害賠償等請求事件 平成2年12月20日⇒殺人罪で強制捜査下にある者につき、別の殺人を図っていたとの見出しを付したスポーツ新聞の記事が名誉毀損に当たるとして、慰謝料請求が認容された事例:金一〇〇万円認容
  4. 東京地方裁判所 平成元年(ワ)第13692号 損害賠償請求事件 平成2年3月26日⇒係属中の刑事事件に関する週刊誌上の論述が公正な論評に当たらず、被告人に対する不法行為となるとされた事例:金一〇〇万円認容
  5. 東京地方裁判所 昭和61年(ワ)第13561号 損害賠償等請求事件 平成2年3月14日⇒無修正の全裸写真の写真報道誌への掲載が人格的利益の侵害として、雑誌発行元・編集人・発行人に不法行為責任が認められた事例:金一〇〇万円認容

不思議なことに、不法行為の内容が各事案で全く異なるにも関わらず、損害額が全部100万円だということに気づきます。これはどう理解すれば良いでしょうか?確かに事業者に対する名誉毀損は100万円が上限とされていた時代もあり、それに合わせていたと理解することもできますが、全事案でぴったり同じ金額というのはやはりおかしいです。

これらは全ていわゆる「ロス疑惑」事件報道に関するものです。裁判所も全て東京地裁です。ということは、裁判所は「ロス疑惑」にまつわる名誉毀損の不法行為訴訟を社会的事実として1つのものを原因とする名誉毀損と捉えていたと言えないでしょうか?

三浦氏がロス疑惑に関して提訴した事件で、1つの事件で認容される金額を単純に訴訟提起した数だけを合計すると、非常に高額の賠償金額になるということを懸念したために、1件あたりの損害額を平準化したのではないでしょうか?

つまり、既に他の事案と共通する部分については三浦氏が受けた損害は評価されており、改めて損害を填補する必要はないと考えられていたのではないでしょうか?

例えば保守速報の事案では200万円が認定されました。

近年は名誉毀損・侮辱による損害賠償額が高騰しているという傾向があるとはいえ、保守速報の場合は一般人に対する「悪口」程度のものであり(人種差別的文言が賠償額の算定で考慮されたとはいえ)、事業者たる三浦氏の場合には犯罪者とされたり全裸写真まで掲載されているにもかかわらずそれよりも低額な金額であるということからは、上記のような平準化を行っているのではないかと疑問に思います。

仮にそうだとして、本件の場合にも同様の処理はするのでしょうか?

今回は1つのブログによる呼びかけがきっかけで懲戒請求が大量になったという事案ですが、懲戒請求の内容が同じものと、そうでないものが混在している例があります。三浦氏のケースとの平仄では、そのような懲戒請求も社会的事実として1つの現象から発生したと考えるということになるはずです。

もしもそう考えないとしても、実質的に同じ懲戒事由を主張していると思われる場合には、損害は全く別個のものとは考えられないのではないでしょうか?

三浦氏の事例は後述する争点である賠償額が過大になる、抑止効果が無い、という問題を捉える上で参考になると言えるでしょう。

懲戒請求者1人に対する請求額・和解額について

佐々木・北弁護士は過去の懲戒請求者に対する不法行為訴訟の事例から、比較的低額である60万円(弁護士1人に対して30万円)を請求しているとしています。

また、和解額も5万円から10万円を提示しています。

何等の面識のない一般人からの懲戒請求に対する不法行為訴訟

上記ブログで紹介されている東京地判平成22年9月8日は、何ら面識のない一般人から懲戒請求を受けたが、インターネット上の新聞記事が添付されたり、記事に手書きで悪口が書いてあったという事案です。こちらは単発の懲戒請求です。

「悪口」があったというのが余命大量懲戒請求事案とは異なりますが、認容された賠償額は150万円です。保守速報の200万円に近い金額であり、三浦氏の金額よりも高い水準です。

悪口があるという部分が賠償額の算定に寄与したとすれば、その分を差し引いた賠償額は100万円を下回るのではないかと思います。

一応、余命大量事案で訴訟を起こした弁護士は全員この金額を下回っています。

その他、懲戒請求に対する不法行為訴訟

広島高等裁判所 平成20年(ネ)第454号、平成20年(ネ)第505号 損害賠償請求控訴,同附帯控訴事件 平成21年7月2日 

こちらは橋下弁護士のTV番組での懲戒請求呼びかけ行為によって約600件の懲戒請求が為されたことが問題となりました。最高裁では賠償を認めてませんが、高裁では懲戒請求にかかる精神的損害として80万円の損害賠償額が認定されました。ちなみに広島地裁では200万円でした。

私見:弁護士会のマッチポンプではないか?

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過去記事でも乗せたこの図ですが、上記の裁判例は全てレッドゾーンにある「それなりの根拠のある懲戒請求」でした。だからこそ弁護士会としては懲戒請求として扱わざるを得ず、弁護士としても反論のために時間を割いて対応する必要があったので損害額が高くなったのだと言えます。

しかし、余命大量懲戒事案では、弁護士法58条の「その事由の説明を添えて」をみたしていないとみられるものや「主張自体失当」であるなどの「それなりの根拠すら無い」低レベルの「懲戒請求書と題する書面」が送られてきた事案です。いわば怪文書に過ぎないものを、わざわざ弁護士会が「懲戒請求があった」として扱い、弁護士に負担を負わせています。

これは濫用的懲戒請求を防止するために弁護士会が綱紀委員会を設けている趣旨に反する制度運用です。民事裁判では請求の特定がされないまま被告に訴状の副本を送達して手続を進めたような在り得ない状況であり、刑事裁判では犯罪行為の特定がなされないまま検察官が告発を受理して起訴したような在り得ない状況です。

そうした運用によって弁護士に生じた負担を損害賠償として見積もってい良いのでしょうか?猪野弁護士が指摘するように、全く反論などしなくても弁護士会は懲戒委員会にはかけないでしょう。

認容されるべき具体的な数字の言及は差し控えますが、訴訟提起を予定している弁護士らが主張する数十万円以上の請求金額は、高すぎるように思います。請求金額に連動して決められる和解金額も、高過ぎるということになります。

いずれの立場においても発生する不都合

960人からの請求(件ではない)の損害額の算定の考え方には、大きく分けて1人からの損害を単純合計する見解と(個別にみる見解)、弁護士が受けた損害を960人から受けた損害として見積もる見解(総体としてみる見解)があります。

過去に例のない事案のため、弁護士の間でも見解は分かれていますが、これらのいずれの立場をとっても不都合が生じます。

懲戒請求者全員の合計額が5億円を超え過大となることについて

単純に1人上がりの請求額を懲戒請求をした960人全員に対して要求すると、佐々木・北弁護士の場合、5億7600万円にも上ります。

同じく余命信者960人から懲戒請求を受けながら訴訟は提起しない猪野弁護士は、佐々木・北弁護士の主張する損害額は死亡慰謝料で10~15人に匹敵する額と言っています。

一般的な感覚としても、このような損害があったとは考えられません。

各懲戒請求者の負担が軽くなり将来の不法行為の抑止が働かなくなる懸念 

 

 

現在の不法行為損害賠償の考え方は「損害の填補」による被害者救済ですから、不法行為者への懲罰という観点は入ってません。

ただ、将来の不法行為の抑止という観点は、行為態様の悪質さを考慮している中で読み込まれていると言うことも可能ですから、この観点からの損害額の増加が考えられるかということも被害弁護士からは期待されています。

その他、損害額に影響する論点

後日別稿を書くかもしれない疑問点を軽く記述します。

判決確定後などに従前のものと同じ懲戒事由で懲戒請求された場合

これは別個の損害が発生したとしてよいのではないでしょうか。

いつの時点からそのように考えるのか?基準はどうするのか?という問題が発生しますが、それは訴訟提起の場合は口頭弁論終結時や訴訟提起以後などを基準時点にすればよろしい。

訴訟提起していなければ(或いは訴訟提起したかは無関係に考えるのであれば)、「相当期間」経過後とすれば良い。

ただ、これも「1人が複数回の懲戒請求をした」場合には妥当するかもしれませんが、「多数人が1回の懲戒請求をした」場合には、何らの意思連絡をしていない他人の懲戒請求のタイミングによって自己の懲戒請求による損害額が決定されるという話になってしまうのではないかという疑問があります。

共同不法行為は成立するか

 

共同不法行為とすると、960人からの懲戒請求は総体として扱われ『960人からの大量の不当な懲戒請求によって弁護士に精神的苦痛を与えた』ということが損害賠償の範囲となります。

その金銭的評価がどうなるかはともかく、認定された損害額を960人が連帯して賠償する義務を負うということになります。

これは弁護士にとっては「旨味」がないことになる可能性がありますので、弁護士からは共同不法行為の主張はなされないでしょう。

しかし、裁判所が訴訟指揮で共同不法行為の構成にさせるのか、職権で共同不法行為の構成を認定するということは在り得るのかということは問題になるかもしれません。

訴訟法上の論点について

審理の方法や訴訟指揮はどのようにするべきでしょうか?

今回は共同不法行為が主張されておらず、各人から別個に損害を受けたという法律構成ですから、弁護士としてはそれぞれ別事件として処理することも考えられます。

そうすると、裁判所としては処分権主義の要請があるので、1件1件の個別事案として見るのではないか?という懸念があります(多分それは無いだろうと思いますが)。

仮に弁護士が事件としては同一のものとした場合、被告らの出廷する期日は分けるのでしょうか?

それとも三浦氏の事案のように、別個の事案として960件を処理するとしつつ、損害額の評価において他の訴訟の損害評価を考慮して平準化する対応をするのか?

弁護士からの見立ては以下

 

 

 

まとめ:いずれかに決めるならば

大量懲戒事案の損害額の認定方法においては、懲戒請求者1人による1件の懲戒請求の損害額を個別に把握して認定するのか、それとも事案を総体として捉えて損害額を「現実の損害の填補」に見合うように認定するのか。それとも私見のような手法を取るのか。それとも三浦和義氏の事例にみる東京地裁のような処理をするのか。

損害額の考え方についての私見において示したような方法論は、実体法上も訴訟法上も問題が多く、現実的には採り得ない可能性が大きいです。

三浦氏の事例における裁判所の処理の仮説が当たっているとすればそれによることになるのでしょうが、そうでない場合には個別にみるか総体でみるかの2択になります。

いずれの見解が世の中のためになる、或いは「公平」な事案処理になるでしょうか?

総体として捉えるとすると、安易な懲戒請求の抑止にはなりません。懲戒請求者は「ムーブメント」があれば小さな負担ででいくらでも弁護士に攻撃できます。人数が多ければ多いほど、気に入らない者を安価に叩けるということになります。

他方、個別に把握すると弁護士が金銭的利益を過大に受けます。ただ、この場合はタダで利益を得るのではなく、訴訟を提起するという時間的金銭的負担を負って(金銭負担は一時的と言えるが、時間負担は絶対にある)得た利益であると言えるので、一応の正当性は肯定できます。そして、安易な懲戒請求の抑止にもなります。

したがって、損害額については個別に把握するべき、ということになるでしょう。

ただし、個別に把握するのですから「懲戒請求が大量」であることが損害額の根拠にはなりません。あくまで1件1件の「ダメージ」によって判断されるべきです。
(弁護士の各種対応も「大量だから」という理由を持ち出すのはよろしくないということになります。この点は別稿を書く予定です。)

そうすると、本件は「損害額の計算方法」の問題は争点ではなく、単に1件1件の損害額がどうなのか?という問題に帰着するのではないかと思います。 

以上

米朝会談の合意文書(全文)と会談後のトランプ大統領記者会見の発言

米朝会談の合意文書とその後のトランプ大統領の記者会見の発言について聞き取りをしました。やっつけなので間違いが多々あるかもしれません。

トランプ大統領の記者会見は動画の44分くらいから。52分くらいまでは演説。

元動画は限定公開だったので、そうではない動画URLに差し替えました。こちらは最初から記者会見です。

それ以降に記者との質疑応答です。

米朝会談の合意文書

 

米朝合意文書

 

 

 

米朝合意文書

 

  1. The United States and the DPRK commit to establish new U.S.-DPRK relations in accordance with the desire of the peoples of the two countries for peace and prosperity.
  2. The United States and the DPRK will join their efforts to build a lasting and stable peace regime on the Korean Peninsula.
  3. Reaffirming the April 27. 2018 Panmunjom Declaretion, the DPRK commits work toward complete denuclearization of the Korean Peninsula.
  4. The United States and the DPRK commit to recovering POW/MIA remains, including the immediate repatriation of those already indentified.

自前の日本語訳は以下

  1. 米国と北朝鮮は、両国民の平和と繁栄の願いに応えるために、新しい米朝関係を樹立することを約束する。
  2. 米国と朝鮮民主主義人民共和国は、朝鮮半島における持続可能で安定した平和体制を構築するため努力する。
  3. 朝鮮半島の完全非核化に向けて、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)は2018年4月27日ののパンムンジョン宣言を再確認した。
  4. 米国と北朝鮮は、すでに確認されている者の即時送還を含む、戦時捕虜、戦時行方不明者の祖国復帰を約束している。
    ※これを「遺骨返還」と訳すのは現実的とはいえ、文章の精神に鑑みれば誤りだし無礼、侮辱、冒涜に当たると思いました。表現を変更しました。

これといって進展がないですが、青山繁晴さんの指摘を踏まえるべきでしょう。

簡単には絶望しないようにしましょうね。
合意文書と、水面下協議、実務協議、首脳会談それぞれの交渉の中身は、また違います。そもそもアメリカにだけに期待するのなら、わたしたち独立国としての日本の姿勢としては、それは違います。

現に、合意内容の後の文章が重要です。

and for the opening up new future,President Trump and Chairman Kim Jong Un commit to implement the stipulations in this joint statement fully and expeditiously.

新しい未来のために、トランプ大統領と金正恩議長は、共同声明の中の当該規定を完全かつ迅速に履行することを合意する。

The United States and the DPRK commit to hold follwow-on negotiations, led the U.S. Secretary of State, Mike Pompeo, and a relevant high-level DPRK official, at the earliest possible date implement the outcomes of the U.S.-DPRK summit.

米国と北朝鮮は今後も協議を行い、マイク・ポンペオ米国務長官と対応するレベルの北朝鮮高官によって、可能な限り早期に米朝会談での共同声明を履行することを合意する。

 

ポンぺオと同レベルの北朝鮮高官との協議が首脳会談となるということですね。

CIVD (Complete Irreversable Verifiable Denuclearization)=完全かつ不可逆的で検証可能な非核化が盛り込まれていないという批判はありますが、これは今後の協議で詰めていくのでしょう。

記者会見でも質疑応答で拉致問題について言及しています。

米朝会談後のトランプ大統領記者会見

Well thank you very much everybody we appreciate it we're getting ready to go back had a tremendous 24 hours we've had a tremendous three months actually because this has been going on for quite a while that was a tape we gave to chairman Kim and his people his representatives and it captures a lot captures what could be done that's a great a great place has a potential to be an incredible place between South Korea if you think about it and China that's a tremendous potential and and I think he understands that and hi wants to do what's right.

Ii's my honoer today to address the people of the world following this very historic summit with chairman Kim Jongwan of North Korea spent very intensive hours together.

And I think most of you have gotten the signed document or you will very shortly.

It's comprehensive it's gonna happen I stand before you as an emissary of the American people to deliver a message of hope and vision and a message of peace let me begin by thanking our incredible hosts in Singapore, especially Prime Minister Lee friend of mine this is a country of profound grace and beauty and we send our warmest wishes to every citizen of Singapore's to really made this visit so important and so pleasant despite all of the work at all of the long hours

I also want to thank president Moon of South Korea he's working hard in fact I'll be speaking to him right after we're finished.

Prime Minister Abe of Japan friend of mine just left our country and he wants what's right for Japan and for the world a good man

And a very special person President Xi of China who has really closed up that border maybe a little bit less so over the last couple of months but that's okay but he really has and he's a terrific person and a friend of mine and a really a great leader of his people 

I want to thank them for their efforts to help us get to this very historic day.

Most importantly I want to thank chairman Kim for taking the first bold step toward a bright new future for his people our unprecedented meeting the first between an American president and a leader of North Korea proves that real change is indeed possible.

My meeting with chairman Kim was honest direct and productive we got to know each other well in a very confined period of time under very strong strong circumstance.

We're prepared to start a new history and were ready to write a new chapter between our nations.

Nearly  70 years ago think of that 70 years ago an extremely bloody conflict ravaged the Korean Peninsula countless people died in the conflict including tens of thousands of brave Americans.

Yet while the armistice was agreed to the war never ended to this day never ended but now we can all have hope that it will soon end and it will it will soon end the past does not have to difine the future.

Yesterday's conflict does not have to be tomorrow's war and as history has proven over and over again.

Adversaries can indeed become friends. We can honor the sacrifice ot our forefathers by replacing the horrors of battle with the blessings of peace, and that's what we're doing and that's what we have done.

There is no limit to what North Korea can achieve when it gives up its its nuclear weapons and embraces commerce and engagement with the rest of the world that really wants to engage chairman Kim has before him an opportunity like no other to be remembered as the leader who usherd in a glorious new era of security and prosperity for his people.

Chairman Kim and I just signed a joint statement in which he reaffirmed his unwavering commitment to complete denuclearization of the Korean Peninsula.

We also agreed to vigorous negotiations to implement the agreement as soon as possible and he wants to do that. This isn't the past this isn't another administration that never got it started and therefore never got it done.

Chairman Kim has told me that North Korea is already destroying a major missile engine testing site that's not in your signed document. We agreed to that after the agreement was signed. That's a big thing for the missiles that they were testing the site is going to be destroyed very soon.

※合意文書を調印した後に金正恩から「北朝鮮は既に主要なミサイルエンジン実験場の破壊に取り掛かっている」と口頭で伝えられたとのこと。

Today is the beginning of an arduous process our eyes are wide open but peace is always worth the effort especially in this case they should have been done years ago, they should have been resolved a long time ago, but we're resolving it now.

Chairman Kim has the chance to seze an incredible future for his people anyone can make war but only the most courageous can make peace the current stateof affairs cannot endure forever the people of Korea north and south are profoundly talented industrious and gifted these are truly gifted people. They share the same heritage language customs culture and destiny but to realize their amazing destiny to reunite their national family the Menace of nuclear weapons will now be removed in the meantime the sanctions will remain in effect.

We dream of a future where all Koreans can live together in harmony where famillies are reunited and hopes reborn and where the light of peace chases away the darkness of war this bright future is winning with it and this is what's happening it is right there it's within our reach

it's going to be there it's going to happen people thought this could never take place it is now taking place. It's a very great day it's a very great moment in the history of the world.And chairman Kim he's on his way back to North Korea and I know for a fact as soon as he arrives he's going to start a process that's gonna make a lot of people very happy and very safe so it's an honore to be with everybody today the media is a big gathereing of media I will say makes me feel very uncomfortable (笑い声) but it what it is people undrestand that this is something very important to all of us including yourselves and your family so thank you very much for being here.

 

we'll take some questions 

拉致問題についての質疑応答

拉致問題についての質疑について。動画の1時間2分7分50秒あたりからの質問です。

和訳はかなり意訳してるし間違ってるかもしれません。

拉致問題についての質問

What part did Japan play and did the abduction you should come up. also the fate of the Christians and this question is when will you be doing an interview with Japanese TV fifty thousand American troops are in Japan.

※質問がマジで意味不なんですが、なんとなく拉致問題について聞いたと思ってればいい気がします。

トランプの回答

Fifty thousand great troops that's true yeah it did abduction absolutely as Prime Minister Abe's one of his certainly other than the whole the nuking subject certainly his I would say his main point and I brought it up absolutely and they're gonna be working on that it will be. We didn't put it down in the document. But it will be worked on.

50万人のアメリカ兵が居る。その通り。拉致問題は間違いなく安倍総理にとって、核兵器問題以外の、彼にとって…私が言いたいのは、彼の主な関心事だということだ。そして私は間違いなく拉致問題を取り上げ、彼らは実行のために取り組むつもりだ。我々はそれは文書に書かなかった。しかし、うまくいくでしょう。

※この間に何か質問があった?

Christians yes we are brought it up very strongly you know Franklin Graham spent spent and spends a tremendous amaount of time in North Korea. He's got it very close to his heart it did come up and things still be happening.

クリスチャン、そう、我々はこれを強調しますが、ご存じの通り、フランクリン・グラハムは北朝鮮において凄まじく長い時間を過ごしました。彼はそれをすぐにでも思い出します。そうした出来事は過去のものでありますが、今現在も起こっています。

※この返答は前提知識がないとよくわからないかも、フランクリン・グラハムはこの人(@Franklin_Graham)ですが、北朝鮮で何をしたかが情報が見つからない。

 

こちらによると、かれこれ10回以上も北朝鮮に極秘訪問をしているとのこと。

「大量破壊兵器を使って敵を殲滅しようではないか」と言ったことがあるみたいですが、そういう人物をトランプがこの場面で持ち出したのがどういう意味を持つのかよくわからないですね。

以上

【余命大量不当懲戒請求】弁護士懲戒請求の手続と弁護士自治2

余命大量不当懲戒請求と弁護士自治

弁護士の懲戒請求制度はどのようにあるべきなのか?前回に引き続きこの点を考えていきます。

特に、懲戒請求書が送られてきた場面の処理をどうすればいいのかについて検討していきます。

前提知識として、こちらの記事を読んで懲戒請求の手続を知っておくと理解が進むと思います。

また、各弁護士に対する懲戒請求内容や弁護士の主張する請求額や対応も若干異なっているので事案の全体像を把握するためにこちらを読んでおくとよいでしょう。

懲戒請求書の記載が「懲戒請求があった」とみなせない場合

「懲戒請求書と題する書面」が弁護士会に届いたら綱紀委員会の調査をしなければならないのでしょうか?私は、そうは思いません。

弁護士法58条の解釈から

弁護士法58条では「懲戒請求があった場合には」綱紀委員会の調査に付さなければならないことになっています。しかし、今回は弁護士会に所属する弁護士全員の懲戒請求はそうせずに手続を走らせていません。にもかかわらず、弁護士個人に対する懲戒請求はそのまま手続を走らせています。

「必ず綱紀委員会の調査をしなければならない」

というのは、今回のような事案では妥当しないのではないでしょうか?

弁護士法

第五十八条 何人も、弁護士又は弁護士法人について懲戒の事由があると思料するときは、その事由の説明を添えて、その弁護士又は弁護士法人の所属弁護士会にこれを懲戒することを求めることができる。
2 弁護士会は、所属の弁護士又は弁護士法人について、懲戒の事由があると思料するとき又は前項の請求があつたときは、懲戒の手続に付し、綱紀委員会に事案の調査をさせなければならない。
以下略

その事由の説明を添えて」という要件があると読めます。

余命大量不当懲戒請求佐々木弁護士

佐々木弁護士への懲戒請求書の一例

こんな単なるツイートの文を貼りつけただけの「懲戒請求書」は、「その事由の説明」を添えた事にはならないでしょう。

つまり、このような書面はたとえ懲戒請求書の体裁であったとしても、弁護士法58条1項の要件をみたさず、「懲戒請求があった」とは認められないと考えることができます。

そして、綱紀委員会の調査に付さなければならないのは「懲戒請求があったとき」ですから、このような懲戒請求書と題する書面が届いても、綱紀委員会の調査に付することは法的に求められていないハズです。

現行の弁護士会の手続では、全て懲戒請求書の写しを弁護士に渡して手続を走らせていますが、これはおかしいでしょう。

綱紀委員会の濫訴防止の機能と存在意義から

条文解釈という形式上の問題は以上として、では、実質的にどう考えればいいか。

確かに、最高裁平成23年判決裁判官須藤正彦の補足意見ではこのように言及されています。

『肝腎なことは,懲戒請求が広く認められるのは,弁護士に「品位を失うべき非行」等の懲戒事由がある場合に,弁護士会により懲戒権限が,いわば「疎にして漏らす」ことなく行使されるようにするためであるということである』

しかし、これは懲戒請求権が「何人」にも認められている事を説明したものであり、懲戒請求書と題する書面がいいかげんな場合にも全て綱紀委員会の調査に付するべきということにはなりません。

むしろ、以下の言及が重要です。

前掲最高裁平成23年判決裁判官須藤正彦の補足意見

弁護士自治やその中核的内容ともいうべき自律的懲戒制度も,国家権力や多数勢力の不当な圧力を排して被疑者,被告人についての自由な弁護活動を弁護人に保障することに重大な意義がある。それなのに,多数の懲戒請求でそれが脅威にさらされてしまうのであっては,自律的懲戒制度の正しい目的が失われてしまうことにもなりかねない。

前掲最高裁平成23年判決裁判官竹内行夫の補足意見

弁護士法においては,懲戒請求権の濫用により惹起される不利益や弊害を防ぐことを目的として,懲戒委員会の審査に先立っての綱紀委員会による調査を前置する制度が設けられているのである。 

弁護士会は濫訴防止の要請があるから綱紀委員会が存在するのであれば、綱紀委員会の調査として弁護士に弁明をさせる前に、綱紀委員会が懲戒請求としてふさわしいかの判断をすることは妨げられていないということになります。いや、妨げられていないどころか、前捌きをするべきであるとさえ言えます。

綱紀委員会という機関が行うのが適切ではないというのであれば、常議委員会があるのですから、そこが判断すれば良い。懲戒請求以外のルートとして弁護士会が「懲戒事由があると思料するとき」というものがありますが、これを判断するのが常議委員会であるという解釈があり((弁護士自治の研究、現実にもそのような運用がなされているはずです。

現行の弁護士会の手続でこのような判断がなされていなかったのは、通常の懲戒請求書は懲戒の事由としていろんな事実の説明や証拠も添えてあり、いちいち「懲戒請求として扱うのが適切か?」を判断する必要がなかったからであると思われます。

 

余命大量不当懲戒請求北周士弁護士

北周士弁護士に対する懲戒請求書の一例

自律的懲戒制度を担う弁護士会が、わざわざ弁護士の手間になるような制度設計をしている。その結果生じた負担を「損害」であると主張するのは、マッチポンプと呼んでいいでしょう。弁護士は弁護士会に請求しても良いと思われます。 

弁護士会が独自に懲戒の事由があると思料する(考える)ときに、まさかこの画像のようないいかげんな根拠で綱紀委員会の調査に付することはないでしょう。「それなりの根拠」をもって行うはずです。

そうである以上、懲戒請求書が送付された場合にも、「それなりの根拠」があるかどうかを判断するべきなのは当然ではないでしょうか?

民事訴訟や告訴・告発の場合と比べてみても、弁護士会の対応は異常です。

訴訟の場合の扱い

通常の訴訟の場合や告訴・告発の場合とパラレルに考えてみましょう。

綱紀委員会が弁護士に聞き取りをせずに、懲戒請求書に不備があるとして弾くことには一般的な合理性が認められるということがわかると思います。

民事訴訟の場合:「請求の趣旨及び原因の記載」が必要

民事訴訟法

第百三十三条 訴えの提起は、訴状を裁判所に提出してしなければならない。
2 訴状には、次に掲げる事項を記載しなければならない。
一 当事者及び法定代理人
二 請求の趣旨及び原因

(裁判長の訴状審査権)
第百三十七条 訴状が第百三十三条第二項の規定に違反する場合には、裁判長は、相当の期間を定め、その期間内に不備を補正すべきことを命じなければならない。ー中略ー
2 前項の場合において、原告が不備を補正しないときは、裁判長は、命令で、訴状を却下しなければならない。

以下略

民事訴訟規則

第五十三条 訴状には、請求の趣旨及び請求の原因(請求を特定するのに必要な事実をいう。)を記載するほか、請求を理由づける事実を具体的に記載し、かつ、立証を要する事由ごとに、当該事実に関連する事実で重要なもの及び証拠を記載しなければならない。

以下略

原告から裁判所に訴状が送られると、裁判所の事件係の裁判所書記官が訴状の形式面の不備や誤りが無いかをチェックします。もし見つかったら原告に対して任意に補正・追完を求めます。通常であればここで拒否をするということはないようです。訴状が受け付けられて事件番号が振られると、どの裁判官(裁判体)が担当するかが決められます。

担当裁判部は、訴状審査を行います。実務上はここで不備があったり不明確な記載があると、任意の訴状の補正の促しがなされます。弁護士が訴訟代理人の場合はこの対応が通例のようです。そうでない場合には、訴状の補正命令が行われ、補正されない場合は訴状却下の命令がなされます。

請求の趣旨とは、デフォルメして言えば原告が求める判決の内容、形式の表示のことです(典型的には被告に対して何をしてもらいたいのか)、請求の原因とは、原告の権利主張を基礎づける事実のことです。当然、附属書類として証拠を添付しなければなりません。

要するに、裁判が行われるまでに原告はどんな事実をどういう証拠によって証明し、何をしたいのかを明示する必要があるということです。それができなければ裁判の手続は走らせず、被告に負担はかからないということです。

弁護士会の懲戒請求の場合、懲戒請求者が原告、対象弁護士が被告と考えることができます。

刑事告訴・告発の場合:「行為の特定」等が必要

告発状の例

ネット上にUPされた告発状の一例:奥田隆幸(たかゆき。) @takayuki_okuda氏

まず、検察官が起訴するときは、「罪となるべき事実」の特定が必要です。それは基本的には「何時、何処で、誰が、何を、何故に、如何にして」の内容によって特定されます。 

特に重要なのが「犯罪行為として何をやったのか?」という「犯罪行為の特定」です。例えば「人を殺した」がそれにあたります。この場合、刑法199条に該当することが示されます。そのためにナイフを用いたのかなどの手段・方法は別の話です。

これと同様に、告発状にも「告発事実」として具体的な犯罪行為の特定やその行為と罪となる法律と条文名が対応していないといけません。告訴と告発は捜査機関である検察や警察等に対して行われます。

余命、日本再生大和会の告発状の返戻

余命グループ(日本再生大和会)による大量告発状送付の返戻書の一例

このように、罪名として記載されているものが指す事実が何なのか、犯罪事実としてどのような行為があったのかが書かれなければ、告発状は返戻されます。当然、被告人と告訴・告発人に指摘される者には何等の負担もかかりません。

弁護士会に対する不当懲戒請求も、どのような行為が懲戒事由なのかが不明なものがあるため、このようにして返戻すれば良かったのです。

それをやっていないのは弁護士会の制度の不備であり、「請求が特定されているか」の判断の懈怠でしょう。

懲戒請求が主張自体失当な場合

上記の私の観点とは異なり、「主張自体失当」となる場合には綱紀委員会の調査を走らせず、懲戒請求書を弾く運用が弁護士から主張されています。

主張自体失当とはどういう場合か

 

ただし、現行の弁護士会の運用は異なります。  

 

東京弁護士会は何をやってるんでしょうか?バカですよね。

結局、綱紀委員会で審査したところで「懲戒事由なし」の判断が下されるものを、わざわざ会員たる弁護士の手を煩わせているのは愚かの極みです。弁護士会は弁護士を守る仕事をしていないということになりますね。

何度も言いますが、弁護士法は懲戒請求を何人にも認めていますが、どんな書類も「懲戒請求」と書かれていれば懲戒請求として扱うべきという要請はありません。あると思っているとしたら勘違いも甚だしいです。

高島章弁護士の見解

魚拓:http://archive.is/EdtrM

「主張自体失当」の懲戒請求は「不当懲戒」ではありますが「不法行為 損害賠償」を構成する「違法懲戒」と言えるかどうかは、議論の余地があります。例えば、「民事訴訟を提起したが請求が棄却された」という事例は世の中にいくらでもあります。それは、結論だけを見れば「不当提訴」ではありますが「違法提訴」とは言えません。それと同じことです。

「不当懲戒だが違法懲戒ではない」

このカテゴリが存在するという認識は重要だと思います。

余命不当懲戒請求は主張自体失当か

960件の懲戒請求書は様々あると思われるので、懲戒事由としてどのようなものが述べられているのか、その全ては知りません。しかし、画像に示したような単なるツイートをコピペしたものは別として、概ね「朝鮮学校への補助金停止をした通達を非難し、補助金支給を求める弁護士会声明に加担したこと」が懲戒事由となっていると言えます。

これは主張自体失当でしょうか?

朝鮮学校への補助金は、公の支配に属さない者に公金支出をすることを禁じている憲法89条違反のおそれがあります。そのような行為を行うよう意見表明をしたことは、表現の自由があるので違法ではありません。

しかし『憲法違反のおそれが強い朝鮮学校への補助金支給について、制度変更を求めるということではなく現行の制度のまま求める行為』が弁護士としてどうなのだろう?と思う一般人の意見は、違法だとは思えません。

もちろん、佐々木・北・小倉弁護士は弁護士会の声明とは無関係なので、彼らに対する限度で不当懲戒請求ですが。

民事訴訟の提起が違法になる場合

懲戒請求が違法になるのは、①懲戒請求が事実上又は法律上の根拠を欠く場合に、②請求者がそのことを知りながら又は通常人であれば普通の注意を払う事によりそのことを知り得たのに敢えて懲戒を請求するなど懲戒請求が弁護士懲戒制度の趣旨目的に照らし相当性を欠くと認められるとき、です。

これは、通常の民事訴訟の場合にも似たような基準で違法となります。

最高裁判所第3小法廷 昭和60年(オ)第122号 損害賠償請求事件 昭和63年1月26日

民事訴訟を提起した者が敗訴の確定判決を受けた場合において、右訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは、当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係(以下「権利等」という。)が事実的、法律的根拠を欠くものであるうえ、提訴者が、そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知りえたといえるのにあえて訴えを提起したなど、訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるものと解するのが相当である。

民事訴訟の場合には「著しく相当性を欠く」という判示に対し、懲戒請求の場合には「相当性を欠く」とあるため、懲戒請求の方が不法行為の成立する余地が大きいと考えられています。*1

このような判示の違いが民事訴訟と懲戒請求をパラレルに考えることに影響するのかはわかりませんが、民事訴訟も「有効ではない訴え提起」と「有効だが違法な訴え提起」というカテゴリーが存在することに鑑みれば、「「それなりの根拠」すらない懲戒請求書と題する書面を弾く「有効ではない懲戒請求」と「有効だが違法な懲戒請求」のカテゴリーは想定されていると考えられます。

小括

弁護士に対する懲戒請求の判断枠組み

  1. 「それなりの根拠」が無いものは弁護士会が前捌きをし、懲戒請求書を返戻する。綱紀委員会の調査に付さない決定をする。(有効ではない懲戒請求)
  2. 「それなりの根拠」がある場合には綱紀委員会の調査を行うが、その過程で相当性を欠くと認められる場合には懲戒請求は不法行為となる
    (有効だが違法な懲戒請求)
  3. 事実上又は法律上の根拠がある場合には有効かつ適法な懲戒請求として扱う
  4. これらは弁護士法58条の解釈と弁護士会が濫訴防止のために綱紀委員会を設けた趣旨から導かれる

弁護士会においては、このような判断枠組みを持つべきではないでしょうか?

なお、この処理枠組みの中では高島弁護士の言う「不当懲戒だが違法懲戒ではない場合」というのは、オレンジのゾーンとグリーンのゾーンの両方にあることになります。

展望:「殺到型」大量懲戒請求をどう処理するべきか 

高島弁護士のフェイスブックに、今回の事案の争点のほとんどが網羅的に書かれています。今後はここで論点とされたものについても言及していきます。

特に、懲戒請求者に対する不法行為訴訟を提起した弁護士の請求額と和解金額が妥当かどうかについては弁護士の間でも議論が分かれていますので、今後の記事ではそれらを整理していきたいと思います。

以上 

*1:潮見佳男『不法行為法1』(信山社,2009年)193頁以下。

黒岩たかひろ衆議院議員が新潟県知事選投票当日に「電話かけ」は公職選挙法129条違反?

黒岩たかひろの投票当日の電話かけ公職選挙法違反疑惑

プルルルル、プルルルル

国民「はい、◎◎です。」

K「お忙しいところ失礼いたします。私、「投票率を向上させる市民の会」のKと申します。」

国民「はいぃ…(なにそれ?)」

K「本日は〇〇県知事選の投票日ですが、投票はお済でしょうか?」

国民「いえ、まだですぅ(そういえばTVでIさん、だっけ?女性の候補がいたような。あとは知らないわ)」

K「そうですか!投票のご予定はおありでしょうか?」

国民「いいえーあまり考えてなかったですねぇ。まぁ、私1人が投票しても結果に影響ないでしょうからねぇ(なんの電話なんだろう?)」

K「そう思われるのももっともだと思います。そこで、私どもがお伝えしているのは、投票率が上がることで、市民の皆様の意見が政治に反映されやすくなる、ということなんです」

国民「…(最近トークバラエティとかで聞く意識高い系かな?)」

K「◎◎さまのお住まいの地域ですと、投票所は△△にございますので、是非とも足を運んでいただければと思います」

国民「そうなんですか、はい、わかりました(さっさと切りたい。でも、投票所ってそんなところにあったんだ、知らなかった、選挙の紙が郵便受けにあったけど中身見てないし)」

K「お忙しいところありがとうございましたー。」

ガチャン

国民「ホントに何の電話だったんだろう?そういえば投票日って今日だったのか。私は今65歳だけど、この歳まであんまり政治には興味ないから投票したりしなかったりしてたなぁ。ちょっとどんな候補がいるかTVでやってないかしら?」

 

15分後

 

国民「なんか女性の候補者Iさんとおじさんが一騎打ちっぽい雰囲気。おじさんは政府側の固い役職を経験してたみたいだけど、女性候補のIさんは県民と一緒の場面が多くてなんかいい感じっぽいから、この人に投票しようかな。朝日新聞の記事をみても、なんか良さそうだし」

************************************

以上は架空の物語です。

これが公職選挙法で禁止されている投票日当日の「選挙運動」に該当するでしょうか?

ということが黒岩たかひろ衆議院議員の行為を考える上で重要です。

黒岩たかひろ衆議院議員のツイート

魚拓:http://archive.is/LtmQM

「本日は新潟県知事選投票日」

「投票箱の閉まる最後の最後まで電話かけをいたしました」

少し知識のある方は、これは公職選挙法上で禁止されている投票日当日の「選挙運動」に該当し、違法な行為なのでは?と考える人も出てくるのではないかと思います。

でも、本当にそうでしょうか?

公職選挙法上の「選挙運動」の定義

総務省によると、判例・実例によれば、選挙運動とは、「特定の選挙について、特定の候補者の当選を目的として、投票を得又は得させるために直接又は間接に必要かつ有利な行為」とされています。

また、各選挙区の選挙管理委員会においてQAが掲載されています。

例えば電話に関して言及している四万十市のHPはこちらです。魚拓:http://archive.is/TqhUP

仮に、単に投票率の向上を呼び掛けるだけであれば、「選挙運動」にはあたりません。しかし、Q5に注意です。

投票日当日の投票率向上の呼びかけや啓発は、選挙管理委員会で行いますので、候補者等が行うことはありません。

これを特定の候補者の支持をしている人等がすると選挙違反のおそれがあります

「特定の候補者の支持をしている人」であることが電話口での名乗りで判断できるかを基準にするのか、それとも客観的にそういう者であれば「支持をしている人」とするのか。そうだとしても違反になるのかどうか。

この判断は検察判断でしょうね。通報は警察が受け取りますが、警察はこのような法的にグレーな事案を判断できません。

黒岩たかひろ衆議院議員の「電話かけ」の内容は?

黒岩議員がどのような内容の電話かけをしたのかは現時点で定かではありませんが、理論上は様々なものが考えられます。

冒頭の寸劇で示したような、単なる投票行動の呼びかけであれば、どうでしょうか?

しかし、そうすると、そもそも何の得があって投票行動の呼びかけをするのでしょうか?

新潟県の人口分布

新潟県はごらんの通り、高齢者の割合が全国平均よりも高い地域です。

高齢者の状況

そして、おそらく18~20代前半の学生は東京の大学に行っており、住民票の異動をしてなくて新潟県の選挙権は持っていても、実際には投票行動をしない者が多いと思われます。

では、高齢者が多いことがどう影響するのでしょうか?

電話と高齢者

上念さんによると、電話による世論調査をすると、電話に出るのは多くは高齢者であって、単なる高齢者ホイホイになるという指摘がなされています。

高齢者とメディア利用率、投票行動の関係は?

不破雷蔵さんの記事によれば、高齢者であればあるほど、マスメディアの利用時間は多いということがわかります。

そして、高齢者であるほど政権側ではない勢力への投票行動が高いということがわかります。

f:id:Nathannate:20180611121512j:plain

地方選挙の一例として仙台市長選挙や名護市長選挙の世代別投票行動の図

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黒岩たかひろの「電話かけ」は公職選挙法違反か?

仮に、黒岩議員が上記のような効果を意図して投票行動を促していたとしても、公職選挙法違反で罪に問うのは厳しいのではないでしょうか?

ただ、そうであっても少なくともこのような行為は外形的に国民からの反感を買うと思われるので、これを公言するのはあまり良い行いとは言えないでしょう。

そして、黒岩氏が実際に電話した内容は、投票呼びかけに留まらない可能性もあり、この事実によっては公職選挙法違反かどうかが決まるので、検察・警察の捜査が行われるのか注意していきたいと思います。

※追記:黒岩たかひろ議員は問題のツイートを削除しました

公職選挙法違反ではないと確信していたのであれば、弁明すればいいものを、ツイートを削除するという対応を取ったということは…

新潟県警察ホームページ - ご意見・ご要望【選挙違反に関する情報提供のお願い】

以上 

【2018新潟県知事選】花角英世、池田千賀子らに対するデマ情報等のまとめ

池田千賀子(池田ちかこ)花角英世(はなずみ英世)
2018年新潟県知事選の候補者である花角英世(はなずみ英世)、池田千賀子(池田ちかこ)らに対するデマが多く流れました。また、デマ以外にも問題視された行為についてまとめます。

公職選挙法では投票日当日の選挙運動は違法となりますが、この記事は特定の候補者の応援をするものではなく、各候補者に対する情報の検証を行うだけなので問題はありません。

花角英世候補に対するデマ

かなり悪質なデマがありました。言葉の用法の問題(定義の問題でもある)と事実関係の問題があります。

落下傘候補・森友関係者という印象操作とデマ

「落下傘候補」という言葉は「地元出身ではない・地元に根差さない候補」「地縁や血縁の無い候補」という用法で使われてきました。花角氏は新潟県生まれで高校まで県内の高校に通い、大学や入省後は関係が離れたかもしれませんが、2013年には新潟県副知事に就任しています。

落下傘候補という形容は「生涯のうち大学入学後、就職して相当期間地元に居なかった者」を指して言うような用語法ではなかったのは明らかです。

「池田氏のようにずっと地元に根差している者と比べれば縁が薄い」と評価するのならばわかりますが、落下傘候補という言葉の定義が固まったものではないことをいいことに印象操作をするのは何でもかんでも「ヘイトの問題」と主張する輩と同じ思考形態ですね。

「大阪航空局長をしていたから」森友学園と関係があるという言説も、時系列的に無理があります。

詳しくは上記の以下略ちゃん(@ikaryakuchan)の記事をどうぞ。

花角氏が「女性知事は不要」と言ったというデマ

ネット上ではなぜか花角氏が「女性の知事は必要ない」と発言したという情報が一時期拡散されましたが、まずはそれはデマです。

  1. 「女性の知事は必要ない」は応援弁士の商工会長が発言
  2. 花角氏は当該発言の趣旨を「女性とか男性とかは関係がない。能力がある人こそ大切だ」とおっしゃったのではないかと解釈。

2番目は横田一氏の取材に基づきます。
魚拓:https://web.archive.org/web/20180610032240/https://hbol.jp/167469

私は、「花角氏本人の発言ではないから問題がない」というのは違うと思います。

応援弁士の発言は本人のものではないにしろ、本人の意見も同様だと思われる可能性はあり、適切に対応するべきだったと思います。特に、動画や記事の切り貼りで報道されるご時世ですから発言の文脈や意図を適切に伝えるべきでしょう。

ただ、「謝罪をするべきだった」というのも違いますね。

魚拓:http://archive.is/7ATA9

『「女性の知事は必要ない」は、それだけでは誤解を与える表現だったが、これは池田ちかこ候補自身が「女性知事を誕生させましょう」と、女性性を利用していることに対するアンチテーゼであったのであり、そのような趣旨で発言していた』と花角氏は説明するべきだったでしょう。
(商工会長が真実としてどのような意図だったかはどうであれ)

もちろん、商工会長の演説は誤解を与え、切り取り報道の危険を花角氏に与えるもので、甚だ不適切であったことは間違いありません。

なお、この一連の話の中では「畠山理仁氏がデマを流した」という言説がネットで騒がれましたが、それこそデマです。畠山氏は最初から商工会長が発言したとツイートしており、上記の動画も畠山氏がUPしたものです。

畠山氏についての誤解の詳細はKSLさんの記事で指摘されています。

選挙にかこつけて悪質なデマを流す輩

新潟県は柏崎刈羽原発が存在しています。なので原発の廃止も争点となっていました。

そのような中で原発や放射能についての非科学的な見解を流す輩が出ており、福島県に対する風評被害をまき散らす形になっていました。

魚拓:http://archive.is/dwIFI

結局このように謝罪しているのであげつらう事はしませんが、これに至るまでの顛末もいろいろと酷かったので、気になる人はKSLさんの記事を見てください。

保育士が園児に池田氏の応援横断幕を書かせた行為について

新潟県柏崎市保育士が池田氏応援の横断幕を園児に書かせる
柏崎市長が職員の不祥事について(おわび)(平成30年6月7日報道発表)|柏崎市にて報道発表をしています。公立の幼稚園なので、地方公務員法違反の行為であると指摘されています。園長も容認していたということです。魚拓:http://archive.is/oWyKB

この記者会見内容についても、柏崎市長が特定候補者の名前を出したかのようにフェイスブック上で投稿する市議がいたため削除するよう申し入れしたという後日談もあります。

ただし、注意したいのは、池田ちかこ氏が何か働きかけをした結果、このような事態になったということは何らの情報もないということです。

勝手に応援された結果について責任を取らなければならないというのは意味不明です。

※当確情報後追記

写真にある園児が描いた応援絵の下部には「自治労新潟県本部保育部会」という文字があるのがわかります。自治労は社民党を支持しているので、社民党候補である池田ちかこ氏との関係性が疑われるのは当然です。

ただ、繰り返しますが池田氏本人が公選法違反に問われるかどうかは、自治労等の支援組織が保育士に働きかけたということがわかった上で自治労等の支援組織と池田氏との間に共謀があることが必要です。もしくは、池田氏本人が直接保育士に働きかけたという事実が必要です。

池田ちかこ公選法違反疑惑保育士幼稚園児

たとえばこの写真をもって「池田氏が子供に公選法違反をさせた」と言う人が居ますが、かなり慎重に検討しなければそのように言うことは控えるべきです。

池田氏が「さぁ、子どもたちも一緒に!」などと呼びかけをしていたならともかく、子供を連れてきた親が自発的に行ったという場合には池田氏の公選法違反の行為そのものがなかったことになりますし、「みなさんプラカードを揚げましょう」と言ったとしても子供に向けられた言辞かどうかというと、少なくとも故意が否定されるでしょう。 

 

ただでさえ、不当な懲戒請求が横行した後ですから、この件についても通報するのであれば明確な根拠をもって行うべきですね。

池田千賀子候補に対するデマ

池田氏に対するデマも発生していました。 

「池田候補の下半身ネタを文春が報じる」は虚偽情報か

ハーバービジネスオンラインでは「選挙期間中に報道しなければ意味がない」「文春が今週になっても該当記事を掲載しなかった」から虚偽情報であると断じています。しかし、よくもまぁこのような浅い状況証拠だけで虚偽情報と断定するなぁと思います。

もちろん、現時点でこの情報は信憑性が極めて低いものであることは間違いありません。しかし、この記事の不思議なところは、週刊文春に対しては取材した痕跡がないということと、上記の状況証拠以外に認定する材料がないこと。他の媒体の情報を虚偽と認定するなら、もっと詳細を詰めて論じないと危険だと思いますね。 

「池田ちかこは一貫して拉致問題は無いと主張していた」はデマか

前提として、社民党自体が「拉致問題は創作されたものである」という立場を採っていた時期があるということです。そのため、池田氏もそのような立場だったはずだ、という憶測がなされていました。しかし

  1. KSL-Live!が噂の元となるツイートは誤解を生むと指摘
  2. 月刊社会民主1997年7月号には池田ちかこ氏の記事は存在しないことが判明
    国立国会図書館の保存データ(←リンク)で確認可能。1997~2002年の月刊社会民主には池田ちかこ氏の記事はなし。
  3. 噂の源となるツイートをした者はツイートを削除して誤解の無いよう再投稿
  4. 蓮池透氏が当該事実を否定する動画をUP
  5. それを池田ちかこ氏を応援するアカウントがUP(←リンク)
  6. 池田ちかこ氏本人のアカウントが、応援アカウントの上記ツイートをリツイート
  7. 別の時と媒体で池田氏の同様の主張を指摘する言論や証拠は現時点で不存在
  8. KSLの指摘後に噂を追認する画像が流通したが拡散者が謝罪、ツイート削除

一つだけ気になるのは、何故か池田氏本人のアカウントのツイートでしっかりと説明していないということですね。なぜ本人アカウントで明確に否定しないのでしょうか?

現時点で否定されているのは『月刊社会民主1997年7月号で池田氏がそのような発言をしていた』ということに過ぎませんから、別の時と場所でそのような発言をしていた可能性は理論上は残っているわけです。しかし、そのような主張をする者は居ません。

そして、「同様の発言が別のところであった」と主張する者に立証責任があり、現時点では信憑性が極めて低いウワサに過ぎないと言えます。「発言がなかったこと」の証明を求めるのは悪魔の証明なので、現時点ではデマと言ってしまってよいでしょう。

「拉致は無い」のデマ画像の発生源はどこか?

「拉致問題は創作された事件」という捏造

「拉致問題は創作だと言った」という情報の発生源である元ツイートについてはKSLさんが指摘しましたが、KSLの指摘後もなお池田氏が「拉致は無いと主張している」という画像が出回りました。

これは松林利一氏という者のFacebookで投稿されたものが発端のようです。

松林利一による池田氏「拉致は創作」デマ

コメント欄の反応から、こちらの投稿が初出だということがわかります。

ツイッター上ではこれ以降、上記画像が出回ることになります。

投稿時間は6月4日の23時04分です。KSL-Live!がデマの検証記事を書いた後であり、その後も訂正がないため擁護のしようがありません。

また、「偏向報道から国民を守る会」のクレジットがついていますが、これは会の意思とは無関係に松林氏個人が独断で作成したものです。現に、偏向報道から国民を守る会のHP上には存在しない画像が松林氏によって多数つくられています。松林氏は度々上記のような体裁の画像を作成して投稿しているため、他の者が作成した可能性は非常に低いです。

松林氏は「偏向報道から国民を守る会」の管理者であるため、これが会の公式見解であると考える者は多いでしょう。

偏向報道から国民を守る会の管理者

会の名前を使って信憑性を高めようとしていたのか知りませんが、迷惑極まりない行為ですね。

「池田候補の『応援のために』ニュース23膳場貴子が街宣に駆け付けた」はデマか

きっかけは社民党新潟県連代表の小山芳元県議のツイートですが、表現が「応援のために」という意味に捉えかねないものであったという事をKSLさんが検証しています。

実際は単なる取材に過ぎない(小山氏の言うことが本当であれば、取材にかこつけて応援の言辞を送ったことになる)が、ネット上ではこのツイートを元に「応援のために駆け付けた」という認識を持つ者もいます。信憑性の低い危険な断定なので気を付けるべきでしょう。 

ただ、これを捏造とまで言い切ってしまっていいかというと、逃げ道はあるので危険だと思います。

まとめ:外野による泥仕合

ここで取り上げた事案は、花角英世氏や池田千賀子氏らが関与したものではないものがほとんどという事がわかります。外野がかってに騒いでデマを生成・拡散することは、候補者にとって迷惑ですし、新潟県の評判にも響きます。

応援者や情報拡散をする者は、一度冷静になって情報を検証するべきでしょう。

ただ、今回は松林氏を除いて、誤った情報を拡散した者が謝罪をしっかりとしており、一定の希望を見出せるものとなっていると思います。

以上

【余命大量不当懲戒請求】弁護士への懲戒請求の手続と弁護士自治1

余命大量不当懲戒請求弁護士自治

余命ブログに乗せられた一般人が無実の弁護士に対して不当な懲戒請求を行い、結果として大量の懲戒請求事案として発展しました。

では弁護士の懲戒請求の手続はどのように進行するのでしょうか?

弁護士の自律的懲戒制度はなぜ認められているのでしょうか?

この記事では手続の概要と具体的な負担、弁護士自治について整理します。

これは、弁護士に生じた損害、つまり弁護士が懲戒請求者に請求している賠償額が妥当かどうかを考えるにあたっても重要です。 佐々木・北弁護士の事案については、弁護士1人に対する損害を単純に960人に請求すると2億5000万円を超えます。

予め言っておきますが、 懲戒請求者を「悪意の塊」のように表現する方も見られますが、それは一部に留まるでしょう。大半の方の性格は懲戒請求をくらった当事者の弁護士の方が言っている通りなんだろうと思います。

事案の全体像・総論にあたる記事はこちら。本記事は各論の一部です。

弁護士に対する懲戒請求の手続の流れ

弁護士の懲戒請求の手続の流れ

出典: 日弁連HP

弁護士法

第五十八条 何人も、弁護士又は弁護士法人について懲戒の事由があると思料するときは、その事由の説明を添えて、その弁護士又は弁護士法人の所属弁護士会にこれを懲戒することを求めることができる。
2 弁護士会は、所属の弁護士又は弁護士法人について、懲戒の事由があると思料するとき又は前項の請求があつたときは、懲戒の手続に付し、綱紀委員会に事案の調査をさせなければならない。
以下略

懲戒審査が行われるまでの流れは以下のようになります。  

  1. 誰かが懲戒請求を各弁護士会=単位弁護士会に対して申出る、或いは弁護士会が懲戒事由があると思料する
  2. 単位弁護士会の綱紀委員会が調査を開始する
  3. 単位弁護士会の綱紀委員会が懲戒審査に付するかを判断する

まずはここまででひとくくり。単位弁護士会の綱紀委員会で却下された場合、今度は日弁連の組織で懲戒審査に付するべきかを判断させることができます。

  1. 懲戒請求者が異議申立をする
  2. 日弁連の綱紀委員会が懲戒審査に付するべきかを判断する
  3. 2で却下・棄却された場合、懲戒請求者が綱紀審査の申出をする
  4. 日弁連の綱紀審査会が懲戒審査に付するべきかを判断する

マクロのレベルではこのような手続きの流れになります。

特に日弁連の綱紀「審査会」は、日弁連内部に組織されていますが、構成員は法曹ではない者が担当しています。

では、弁護士個人にかかる具体的な負担はどのようなものでしょうか? 

弁護士にかかる事務負担や精神的苦痛等

抽象的、類型的な負担については最高裁判例の補足意見で言及されています。

最高裁の裁判官が指摘する懲戒請求における弁護士の負担 

最高裁判所第3小法廷 平成17年(受)第2126号 損害賠償請求事件 平成19年4月24日における裁判官田原睦夫の補足意見、最高裁判所第2小法廷 平成21年(受)第1905号、平成21年(受)第1906号 損害賠償請求事件 平成23年7月15日における須藤裁判官の補足意見をまとめると以下です

  1. 綱紀委員会の調査に対する反論や反証にエネルギーを割かれる
  2. 根拠のない懲戒請求でも懲戒請求された事実が外部に知られたら誤解を解くエネルギーが投じざるを得ない
    ※事実上,懲戒請求がなされたということが第三者に知られるだけで,対象弁護士自身の社会的名誉や業務上の信用の低下を生じさせるおそれを生じさせ得る
  3. 綱紀委員会の調査に付されると弁護士は手続終了まで他の弁護士会への登録替えや登録取消しの請求ができない
  4. その結果、他の地方での弁護士業務、他の領域での弁護士業務ができなくなる
  5. 公務員への転職もできなくなる

上記1の負担については今回の懲戒請求を受けた弁護士が具体的に言及しています。

懲戒請求を受けた弁護士による具体的な負担の紹介 

 

  • 960件の懲戒請求書を一つ一つ読んで内容を確認する
  • ファイリング・保管
  • 答弁書の作成・提出

ざっくりまとめるとこのような負担でしょうか。

これに対しては、同じく大量の懲戒請求を受けた弁護士からは疑問視されています。

 

要するに、佐々木・北弁護士らの場合は、弁護士会が不要な作業を増やしたために弁護士個人が負担を強いられていると言えるのではないでしょうか?

弁護士会によるマッチポンプであると評価することもできると思います。

過去の判例にみる具体的負担

東京地方裁判所平成28年(ワ)第1665号 損害賠償請求事件 平成28年11月15日は、とても面白い記載があります。

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東京地方裁判所 平成28年(ワ)第1665号

この事案では、懲戒請求が3次にわたって行われました(図中の第〇次申立というのがそれ)。判示から伺えるのは、懲戒請求1,2は一連のものとされ、懲戒請求3には時間的な隔たりがあるとして別項で検討されているということです。また、この事件では懲戒請求以外には紛議調停申立も不法行為を構成するとされましたが、判示の仕方からみて、損害額の大半を占めるのは懲戒請求の方です。

認定された損害額は、140万円。

単純に時間で割ることはできませんが、このような時間負担の割合の事案でこの損害額というのは一定の参考になるでしょう。

3件で多く見積もって20時間の事務負担で140万円に対して、960件とはいえ同じ内容の懲戒請求にかかる事務負担で2億5000万円の損害と評価してよいのでしょうか?請求額や和解額の妥当性については、同種の懲戒請求を受けた裁判例などの紹介も含めて別記事を書く予定です。

 追記:請求額、和解額の妥当性について

弁護士自治について

 

弁護士には弁護士自治が認められています。

他の士業との違い

他の「士業」は監督庁が存在してその監督に服しています。そうすることで、その資格の社会的信頼の維持や資格者の技能・能力を一定のレベルに保っています。

弁護士だけは異なり、自分たちで弁護士資格の信頼性を保つよう自律的に行動しなければなりません。そのために弁護士会は強制加入となっており(弁護士法8条、9条)、弁護士の監督は弁護士会が行うこと(31条)、懲戒処分も弁護士会が行うことになっています(56条)。

なぜ弁護士自治が認められているのか

江戸時代までは訴訟代理は認められていませんでした。

明治時代にはじめて訴訟代理人として「代言人」=現在の弁護士が始まりました。

しかし、当初は担当裁判官の監督に服し、後に検事の監督、検事正の監督に服するようになっており、不当な業務停止や除名の懲戒処分を受けることが多々ありました。

昭和に入って司法大臣の監督に服するように弁護士法が改正されましたが、今日にいう弁護士自治は実現されていませんでした。

不当な懲戒事例は以下です。

  1. 「長ったらしい御談義は聞かずとも宜し」と検事に対して発言した弁護士が除名
  2. 被告人女性が陳述中、法廷詰の巡査が体に手をかけて姿勢を正そうとしたので弁護士が「訴訟法上、被告人は法廷で身体拘束を受けないことになっており、今の巡査の挙動は不穏当である」と言い、裁判官が「身体拘束ではない」と言うと弁護士が「野蛮の法廷なり」と発言。これに対して官吏侮辱罪にあたるとして弁護士が禁錮刑と罰金刑を受けた
  3. 「本件は無罪なること疑うべからず若し有罪とならば太陽は西より出でん」と発言した弁護士が官吏侮辱罪で禁錮刑と罰金刑、業務停止3か月の処分を受けた

訴訟で意見を争う相手方等から懲戒処分を受けるという立場では、弁護士は萎縮してしまい依頼者の権利を十分に守ることができません。その結果、潜在的な依頼者である国民全体の利益が害される事になっていたと言えます。

こうした弊害をなくすために戦前からの弁護士会による自治の要求があり、その後、戦後のGHQの方針、衆議院法制局の主張等があいまって、現在の弁護士自治の形が出来上がりました。

今日の自律的懲戒制度が設けられたのは、このような歴史的背景、反省から弁護士自治と社会正義の実現のために設けられた弁護士自治制度の要請なのです。そして、弁護士が自分たちで懲戒手続を行うことは国民から負託されたものでもあります。

懲戒請求の扱い

弁護士法の規定を再掲します。

弁護士法

第五十八条 何人も、弁護士又は弁護士法人について懲戒の事由があると思料するときは、その事由の説明を添えて、その弁護士又は弁護士法人の所属弁護士会にこれを懲戒することを求めることができる。
2 弁護士会は、所属の弁護士又は弁護士法人について、懲戒の事由があると思料するとき又は前項の請求があつたときは、懲戒の手続に付し、綱紀委員会に事案の調査をさせなければならない。
以下略

要するに懲戒手続が進行するルートは2つあります。

  1. 誰かからの懲戒請求があった場合
  2. 弁護士会が懲戒の事由があると思料する場合

今回は1番の場合であるとされています。

綱紀委員会の役割・機能

先に説明したように、懲戒委員会の前に綱紀委員会の調査があります。

これは、懲戒請求の濫用による弊害を防止するために行われているとされます。

前掲最高裁平成19年判決裁判官田原睦夫の補足意見

弁護士法の定める弁護士懲戒制度は,弁護士自治を支える重要な機能を有しているのであって,その懲戒権は,適宜に適正な行使が求められるのであり,その行使の懈怠は,弁護士活動に対する国民の信頼を損ないかねず,他方,その濫用は,弁護士に求められている社会正義の実現を図る活動を抑圧することとなり,弁護士会による自縄自縛的な事態を招きかねないのである。

 

前掲最高裁平成23年判決裁判官須藤正彦の補足意見

弁護士自治やその中核的内容ともいうべき自律的懲戒制度も,国家権力や多数勢力の不当な圧力を排して被疑者,被告人についての自由な弁護活動を弁護人に保障することに重大な意義がある。それなのに,多数の懲戒請求でそれが脅威にさらされてしまうのであっては,自律的懲戒制度の正しい目的が失われてしまうことにもなりかねない

なお、弁護士会への懲戒請求権や異議申立権の性質について種々の解釈がありえますが、最高裁は個人の利益保護のためのものではないとしています。

最高裁判所第2小法廷 昭和49年(行ツ)第52号 日本弁護士連合会懲戒委員会の棄却決定及び同決定に対する異議申立に対する却下決定に対する取消請求事件 昭和49年11月8日

弁護士の懲戒制度は、弁護士会又は日本弁護士連合会(以下日弁連という。)の自主的な判断に基づいて、弁護士の網紀、信用、品位等の保持をはかることを目的とするものであるが、弁護士法五八条所定の懲戒請求権及び同法六一条所定の異議申立権は、懲戒制度の右目的の適正な達成という公益的見地から特に認められたものであり、懲戒請求者個人の利益保護のためのものではない

そのため、懲戒請求者が懲戒の取下げをしても、手続は止まらず進行することの根拠として言われることもあります。

小括

  1. 弁護士自治は人権擁護と社会正義の実現のために認められた
  2. 自律的懲戒制度は弁護士自治の根幹を占める
  3. 綱紀委員会は懲戒請求の濫訴の防止のために存在する機関
  4. 懲戒請求権や異議申立権は個人の利益保護のためのものではない

この項の内容は、法曹の倫理[第2.1版]森際康友 編 名古屋大学出版会を参考にしました。 

展望:綱紀委員会のスクリーニングは機能していると言えるのか?

余命大量不当懲戒請求と弁護士自治

佐々木弁護士への懲戒請求書の一例

図のような内容の書面。はっきり言って「怪文書」です。

佐々木弁護士への懲戒請求書の全てがこのようなものではありませんが、こうしたものまで一律に「懲戒請求があった」として扱い、弁護士に対して負担を強いている。

これは弁護士会の落ち度ではないでしょうか?

このような手続は、綱紀委員会が濫訴防止機能を持つとされたことに反しています。

 

「懲戒請求があれば必ず綱紀委員会の調査に付すと弁護士法で決められているから仕方ないではないか」

 

という意見がありますが、本当にそうでしょうか?

今回の大量不当懲戒請求事案では、弁護士会に所属する弁護士全員の懲戒請求と、弁護士個人の懲戒請求の2種類があります。しかし、前者については異例の対応ということで、通常の綱紀委員会の調査を走らせていません。ということは、今回のような事案の場合は、弁護士法によって強制されているということではないと解釈できる対応をしているということです。

また、札幌弁護士会は弁護士個人の懲戒請求については併合処理がなされており、反論のための答弁書も1通で済んでいます。大量のファイルを逐一弁護士に確認させている対応が弁護士会として正しいのか、検証が必要です。

次回の記事において、綱紀委員会の手続がいかにおかしいか、解釈の仕方や事案の処理としてどのようなものが望ましいのかについて述べていきます。

以上

※追記:綱紀委員会の手続の評価について